「放射線治療」はどれくらいの「期間」行う?医師が徹底解説!

放射線治療はどれくらいの期間行う?Medical DOC監修医が放射線治療で治せる病気・目的や治療の流れなどを解説します。

監修医師:
木村 香菜(医師)
目次 -INDEX-
「放射線治療」とは?
高エネルギーの放射線を病変に当てる(照射する)ことで、がん細胞を殺す治療法です。
放射線の種類としては、X線や電子線などの光子線、陽子線や炭素線などの重粒子線があります。
放射線治療は、手術と薬物療法と並ぶ3大がん治療法の一つであり重要なものです。
基本的には2Gy(グレイ;放射線が体に与えるエネルギーの量の単位)を1日1回、毎日照射します。がんの種類や治療の目的によって、回数や線量を調整していきます。
今回の記事では、放射線治療ではどれくらいの期間がかかるのか、また治療の流れなどについて解説していきます。
放射線治療はどれくらいの期間行う?
ここでは、放射線治療として一般的な病院で行われている、X線による治療の場合を想定していきます。
放射線治療の期間は、治療対象となるがんや治療の目的よっても異なります。
根治的治療、つまり放射線をメインとしてがんを完全に治すことを目的としている場合には、治療期間がやや長めになることが多いです。そして、通常放射線治療は平日週5回、連続して行われます。土日や休日は基本的にはお休みです。
長期間の放射線治療が行われるがんとしては、前立腺がんに対する根治的治療が挙げられます。放射線を身体の外から当てる外部放射線治療で、特にIMRT(intensity modulated radiation therapy:強度変調放射線治療)では、約8週間行われることが多いです。
IMRTは、がんに対して集中的に放射線を当てる一方で、周囲への正常な組織への線量を減らすことができる方法です。
最近では、一回に当てる放射線の量を増やして回数を減らす方法も広まりつつあります。
また、頭頸部がんに対して根治的放射線治療が行われる場合、平均約7週間行われます。
術後治療の場合には、平均約6週間程度となります。
一方、骨転移などによる痛みなどの症状を和らげるための緩和治療の場合、2週間程度行われることが多いです。しかし、1回のみ照射する単回照射も選択されるケースもあります。
放射線治療の回数はどれくらい行う?
放射線治療は、その対象となるがんや疾患によっても回数は異なります。
先ほど説明したように、前立腺がんに対するIMRTは、37-39回照射が多く用いられています。一方、回数を5回や7回程度に減らした方法も、施設のマンパワーなどに合わせて行われています。
頭頸部がんに対しては、根治的な治療の場合35回程度照射が行われます。術後の場合には30回程度が一般的です。
乳房温存術後の全乳房照射では、1回の放射線線量を約2.7Gyに増加させ、16回照射をする寡分割照射も用いられています。乳房全切除後には25回程度の照射が行われます。
脳転移や骨転移に対しては、10回照射が標準的です。一方、骨折や脊髄圧迫症状を伴わず、痛みのみが症状となる骨転移に対しては、8Gyの1回照射で痛みの緩和が期待できます。そのため、患者さんの症状などに応じては、1回で放射線治療が終わることもあります。
放射線治療で治せる病気
放射線治療で根治が目指せる病気について解説します。
頭頸部がん
頭頸部がんは、顔や口の中、喉などにできたがんのことです。脳にできたがんは脳腫瘍であるため、頭頸部がんには含めないことが一般的です。
特に、上咽頭がんは、構造の特徴などから手術が難しい場合も多く、放射線治療をメインとした治療が行われます。なお、上咽頭がんは、鼻の奥にあたる喉の部分にできたがんのことです。
放射線治療は、根治治療の場合は1日1回2Gy、70Gy/35回、約7週間のことが多いです。
耳鼻咽喉科や放射線治療科などが治療を行います。
乳がん
乳がんは乳腺組織に発生するがんです。乳管から主にできますが、小葉という部分にできる場合もあります。
放射線治療は、乳がんの手術後に行われることが一般的です。乳がんの再発を予防し、生存率の向上を目的としています。
乳房部分切除術(温存手術)後には、残っている全乳房に対する放射線治療が適応となります。乳房全切除後には、再発リスクが高い(腋窩リンパ節転移が多い、など)場合には放射線治療が行われます。
温存術後には全乳房に16回照射します。腫瘍が元々あった場所にのみ範囲を狭めて4回程度追加される場合もあります。乳房全切除後の場合には、25回照射されることが標準的です。
乳腺外科や放射線治療科が治療を行います。
子宮頸がん
子宮頸がんは、子宮の頸部(入口)にできるがんのことです。ヒトパピローマウイルスの感染がリスク要因とされています。
放射線治療は、遠隔転移していないすべてのステージで根治的な治療法となります。
また、早期の子宮頸がんに対する手術後、再発リスクが高いと判断された症例に対しては、術後照射もしくは術後化学放射線治療(薬物療法と放射線治療を組み合わせる治療)の適応になります。
根治的放射線治療では、体の外から当てる「外部照射」と、体の中から当てる「小線源治療」を組み合わせることがあります。がんのステージによっても異なりますが、外部照射が25〜28回、小線源治療が3〜4回程度行われることが推奨されています。
産婦人科や放射線治療科などが治療を行います。
前立腺がん
前立腺がんは、前立腺に発生するがんのことです。
手術と並んで、放射線治療は選択肢となります。
前立腺がんは、がんの進行度合いや治療前のPSAなどによってリスク分類がされます。中・高リスクの場合には、ホルモン療法と放射線治療を組み合わせることが推奨されています。
IMRTの場合には、放射線治療は約8週間行われることが多いです。
泌尿器科や放射線治療科が治療を担当します。
小細胞肺がん
肺がんの中でも小細胞肺がんというタイプのものは、放射線による治療効果が高いとされています。そのため、限局期の場合には、化学放射線療法が標準治療とされています。限局期は、がんが片側の肺と、反対側の縦隔や鎖骨の上あたりのリンパ節までに限られ、胸水や心嚢水がない段階です。
小細胞肺がんの限局期には、1日2回照射を行い、3週間程度の短期間で行われる加速過分割照射法が標準的とされています。この方法は、小細胞肺がんなど増殖が早いがん細胞に対し行われ、腫瘍の再増殖を抑える効果が期待できます。胸部への放射線治療効果が良好な場合には、予防的全脳照射が行われることもあります。
呼吸器内科や放射線治療科が治療を担当します。
放射線治療を行う目的
ここからは、放射線治療を行う目的について解説します。
根治目的
根治とは、がんを完全に治すことを目的としているという意味です。
放射線治療に薬物治療、ホルモン治療を組み合わせる場合もあります。
頭頸部がんや、子宮頸がん、前立腺がん、小細胞肺がん、食道がんなどに対して選択肢となります。
根治治療では、放射線治療の期間は長くなる傾向があります。2ヶ月近くかかる場合もあります。
術後治療
放射線治療は、がんに対する手術の後にも行われる場合があります。手術後の再発予防や生存率向上効果を期待します。乳がんに対する乳房温存術後には放射線治療は基本的にはすべての症例に対して適応となります。その他にも、さまざまな部位において、進行したがんの術後に行われるケースがあります。
術後放射線治療は、1ヶ月強程度かかることが多いです。
術前治療
がんが大きく、手術が難しいと判断される場合、手術の前に放射線治療を行うことがあります。がんの縮小を目指します。食道がんなどで行われるケースがあります。
術前放射線治療は、1ヶ月弱ほどと、根治や術後よりも短い期間となります。
緩和目的
がんが骨や脳などに転移すると、麻痺や痛みなどの症状が現れることがあります。
緩和照射は、放射線治療によって、このような症状をやわらげることを目的とします。
患者さんの症状や全身状態によって、放射線治療の回数が決定されます。短い場合には1回で終了、長くても2週間程度で終わることが多いです。
良性疾患
放射線治療は、がん以外にも用いられています。ケロイドに対する手術後や、甲状腺機能亢進症などによる甲状腺眼症に対するステロイド併用放射線治療があります。血管奇形などにも放射線治療が施行されることがあります。
放射線治療の流れ
放射線治療は以下のように進められます。
診察・検査
がん治療を行っている主科から放射線治療科に依頼があった場合、放射線治療医が患者さんの診察を行います。患者さんのがんの進行度や痛みの程度、全身状態などを総合的に見て、適切な放射線治療を決定していきます。必要な場合には、CTやMRI検査などを追加で行います。
治療計画
診察や検査が終わり、実際に放射線治療を受けることが決まったら、放射線治療計画用CTを撮影します。その後、放射線治療計画装置で、治療を行うべき部位を放射線治療医が決定します。そして、医学物理士などとも協力し、線量やビームの方向なども決めて最適な治療計画を立てていきます。
治療
放射線治療室の専用のベッドに患者さんが横たわり、放射線を照射します。
初回は位置合わせなどのため時間がかかりますが、2回目以降は短時間で終了します。
約10〜30分程度で終了します。
照射中は特に痛みなどはありません。
治療後
放射線治療が終わった後には、主治医や放射線治療医が効果の判定や副作用の有無などについて調べるために経過観察を行います。放射線治療後に、入院が必要となるような副作用が新たに現れることは少ないです。しかし、治療部位によっては放射線肺臓炎などの晩期有害事象が現れることもあります。咳や発熱など、何らかの症状が現れた場合には、主治医もしくは放射線治療医に相談するようにしましょう。
「放射線治療の期間」についてよくある質問
ここまで放射線治療の期間について紹介しました。ここでは「放射線治療の期間」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
放射線治療の平均期間はどれくらいでしょうか?
木村 香菜(医師)
多くのがんでは、1日1回、週5日を基本に、3〜8週間ほどかかることが多いです。ただし、緩和目的では1日で終わることもあります。
放射線治療は毎日通院する必要があるのでしょうか?
木村 香菜(医師)
はい。基本的には平日毎日通っていただく必要があります。放射線治療は連続して行うことで、効果が高くなるとされています。
編集部まとめ
放射線治療の期間や回数は、がんの種類や治療の目的によっても異なります。
きちんと毎日放射線治療を受けることが大切です。不安なことや何らかの症状があり治療の継続が難しい場合には、早めに主治医などに相談しましょう。
「放射線治療」と関連する病気
「放射線治療」と関連する病気は22個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
脳神経内科の病気
呼吸器内科の病気
- 肺がん
- 胸膜中皮腫
脳神経内科の病気
乳腺外科の病気
整形外科の病気
内分泌内科の病気
- 甲状腺眼症
皮膚科の病気
- ケロイド
放射線治療はがんに対して主に行われますが、良性疾患に対しても適応となることがあります。
「放射線治療」と関連する症状
「放射線治療」と関連している、似ている症状は10個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
放射線治療は、治療をする部位によってさまざまな副作用が現れることがあります。主治医や放射線治療医に報告し、適切に対処していくことが大切です。