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「乳がん」じゃないのに胸のしこりが… 乳腺炎・乳腺症の違いや対処法を医師が解説!

 公開日:2025/06/02

乳房にしこりや痛みを感じると「もしかして乳がん?」と不安になる人も多いのではないでしょうか。しかし実際には、乳がんではない良性の変化によって起こるケースもあるようです。今回は、乳がんと間違えやすい「乳腺炎」「乳腺症」について、「登戸ブレストケアクリニック」の土屋聖子先生に解説していただきました。

土屋 聖子

監修医師
土屋 聖子(登戸ブレストケアクリニック)

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琉球大学医学部医学科卒業。その後、聖マリアンナ医科大学乳腺・内分泌外科、那覇西クリニック乳腺科、HAKUブレストケアクリニックなどで乳腺診療の経験を積む。2024年、神奈川県川崎市に「登戸ブレストケアクリニック」を開院。医学博士。⽇本外科学会外科専⾨医、⽇本乳癌学会乳腺専⾨医、検診マンモグラフィ読影認定医、乳がん検診超音波実施・判定医。

乳腺炎とは

乳腺炎とは

編集部編集部

まず、乳腺炎について教えてください。

土屋 聖子先生土屋先生

乳腺炎は、乳腺に炎症が起こる病気で、授乳中に多くみられますが、授乳とは無関係に発症することもあります。授乳期には母乳のうっ滞や乳頭の小さな傷から細菌が侵入することが原因となるケースが多い傾向にあります。授乳をしていない人の場合は、乳頭から細菌が入って炎症を起こすことがほとんどです。

編集部編集部

どのような症状が表れるのですか?

土屋 聖子先生土屋先生

乳房の痛みや腫れ、しこりや熱感、赤みなどが典型的です。症状が進むと、発熱や寒気、倦怠感などの全身症状が出ることもあります。軽度であっても、症状に気づいたら早めに受診することが大切です。

編集部編集部

乳腺炎の原因はなんですか?

土屋 聖子先生土屋先生

母乳が乳腺にたまって炎症を起こす「うっ滞性乳腺炎」と、細菌が乳腺に入り込んで感染する「化膿性乳腺炎」があります。また、これらが重なり、母乳のうっ滞に細菌感染が伴って発症する場合もあります。

編集部編集部

乳腺炎の治療はどのようにおこなうのでしょうか?

土屋 聖子先生土屋先生

うっ滞が原因の場合は、搾乳や授乳を続けることで改善を図ります。痛みや熱がある場合は、抗生剤や解熱鎮痛薬を併用することもあります。化膿性乳腺炎の場合は抗生剤による治療が中心になりますが、重症例で膿がたまると切開排膿も検討されます。

乳腺症とは

乳腺症とは

編集部編集部

一方で、乳腺症とは?

土屋 聖子先生土屋先生

乳腺症は、女性ホルモンの影響で乳腺に生理的な変化が出た状態で、基本的には病気ではありません。月経周期や加齢、体調などによって乳房の状態が変化し、それが症状として表れることを指します。

編集部編集部

どのような症状が出るのでしょうか?

土屋 聖子先生土屋先生

しこりのような硬さを感じたり、乳房にハリや痛みを伴ったりすることがあります。乳頭から分泌物が出ることもありますが、通常は透明や乳白色です。これらの症状が月経周期にあわせて変化することも特徴の1つです。

編集部編集部

乳腺症の診断や検査について教えてください。

土屋 聖子先生土屋先生

マンモグラフィ検査や乳腺超音波検査で診断しますが、がんとの鑑別が難しいケースでは、造影MRI検査や針生検などの病理検査を追加することもあります。病気ではないとはいえ、検査で正しく判断することが重要です。

編集部編集部

「治療が必要ない」というのは本当ですか?

土屋 聖子先生土屋先生

基本的には治療を必要としない良性の変化です。痛みが強い場合には鎮痛薬や漢方薬を処方することもありますが、「カフェインや脂肪の摂取を控える」「十分に睡眠を取る」「ストレスを減らす」などの生活習慣の見直しが効果的なことも多く、薬を使わず自然に治まるケースが大半です。

気になるしこり…どう向き合えばいい?

気になるしこり…どう向き合えばいい?

編集部編集部

しこりがあったら、乳がんとどう見分ければいいですか?

土屋 聖子先生土屋先生

しこりの感触だけでは、良性か悪性かを判断するのは非常に難しいと思います。乳腺症や炎症によるしこりもありますが、乳がんの可能性を否定できないことも多いため、大丈夫と自己判断せずに専門機関を受診して検査を受けてください。

編集部編集部

乳腺症があると乳がんを見つけにくくなるのでしょうか?

土屋 聖子先生土屋先生

乳腺症の状態によってはその可能性もあります。乳腺症の人が乳がんになりやすいということはありませんが、乳がんと似たような画像所見を示したり、乳がんがあっても乳腺症によって見えづらくなったりすることがあるので注意が必要です。

編集部編集部

不安な症状がある場合、どうしたらいいですか?

土屋 聖子先生土屋先生

痛み自体は良性の変化であることも多く、過度に心配することはありませんが、しこりがあった場合は検査をおすすめします。しこりを触れるような症状があって不安がある場合は、自己判断せず専門医を受診することが大切です。乳がんではないとわかれば安心できますし、万が一乳がんであった場合でも早期に治療できる可能性があります。ただし、乳がんは症状がないことも多いため、不安な症状がなくても定期的に検診を受けることが大事です。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

土屋 聖子先生土屋先生

乳がんは日本人女性が最も多くかかるがんで、9人に1人が乳がんになるとと言われています。しかし、乳がんは早期に発見して治療すれば、克服することができる病気です。初期には自覚症状がないことが多いため、早期発見・早期治療のためには定期的な検診がとても大切です。働き盛りや家庭を支える年代の女性は、自分のことを後回しにしがちですが、自分自身の健康を守ることは、大切な人たちを守ることにもつながります。ぜひ、検診を受ける機会を作っていただけたらと思います。

編集部まとめ

乳腺炎や乳腺症は、どちらも乳がんとは異なる良性の疾患です。しかし、症状は似ているため、自己判断せず医療機関を受診することが安心につながります。特に乳腺症は乳がんの発見を妨げることもあるため、定期的な画像検査が重要です。気になる症状があれば、早めの相談を心がけましょう。

医院情報

登戸ブレストケアクリニック

登戸ブレストケアクリニック
所在地 〒214-0014 神奈川県川崎市多摩区登戸2552番地 ロワゾーブルー1階
アクセス JR・小田急線「登戸駅」 徒歩3分
診療科目 乳腺外科

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