「放射線治療」は高額?「自己負担額」と治療費用の目安を解説【医師監修】

本記事では、放射線治療における健康保険の適用状況や、その対象となる治療方法、そして患者さんが直面する可能性のある自己負担額や支援制度を詳しく解説します。がん治療のなかでも放射線治療は重要な位置を占め、治療方法も多岐にわたります。ここでは、一般的な外部放射線照射から内部放射線照射、さらには一部先進医療となる粒子線治療まで、保険適用の範囲や条件、経済的負担の軽減策について整理し、患者さんやご家族が安心して治療に臨むための情報を解説します。

監修医師:
木村 香菜(医師)
目次 -INDEX-
放射線治療は原則健康保険で行われる
日本の公的医療保険制度では、放射線治療はがん治療の標準的な方法の一つとして位置づけられており、基本的に健康保険が適用されます。実際、粒子線治療を除くほとんどの放射線治療は健康保険で受けることができ、患者さんの自己負担額は3割以下に抑えられます。公的保険が適用されることで、患者さんは高額な治療費の全額を支払う必要がなくなり、多くの場合負担を軽減できます。
さらに、医療費が高額になった場合には高額療養費制度によって1ヶ月あたりの自己負担に上限が設けられています。万が一、費用が高額になってしまったとしても安心です。
健康保険が使える放射線治療の種類
健康保険が使える放射線治療の種類には外部放射線照射と内部放射線照射があります。
外部放射線照射
外部放射線照射とは、直線加速器(リニアック)などの装置を用いて身体の外から腫瘍に放射線を照射する方法です。がん治療では一般的に採用されており、多くの医療機関で行われています。外部照射のなかでも保険適用される主な治療法には以下があります。
3次元放射線治療(3D-CRT)
腫瘍の形状に合わせて放射線を三次元的に調整し、正常組織への影響を抑えた照射法です。コンピュータ上で腫瘍の位置や形を把握し、多方向から照射することで腫瘍に集中して放射線を当てます。標準的な高エネルギーX線治療として広く使われており、健康保険が適用される治療法です。
強度変調放射線治療(IMRT)
D-CRTをさらに発展させ、ビームの形状だけでなく強度も細かく調整して照射する方法です。腫瘍に合わせて放射線の分布を最適化できるため、副作用軽減に有用で、現在は標準治療として確立されており保険適用されています。
定位放射線治療
先述したようなピンポイント照射で、少数回(場合によっては1回)で高線量を腫瘍に集中させる方法です。この治療もX線を用いる限りは公的保険の範囲内であり、適応症例であれば保険診療として受けられます。
内部放射線照射
内部照射(小線源治療)とは、放射性同位元素を封入した小さな線源(針やカプセルなど)を体内の患部近くに挿入し、内部から放射線を照射する治療法です。代表的な例として前立腺がんの密封小線源療法や子宮頸がんの腔内照射などがあります。この方法では腫瘍に直接放射線を当てられるため、周囲組織への影響をさらに抑えられます。これら小線源治療も健康保険の適用対象です。
健康保険の適用外となる放射線治療の種類
公的保険が利かない放射線治療として代表的なのが粒子線治療と呼ばれるものです。粒子線治療には陽子線治療と重粒子線治療(炭素イオン線治療)があり、これらはX線とは異なる粒子を用いる放射線治療法です。
陽子線治療は水素原子核の陽子を、重粒子線治療は炭素の原子核など重い粒子を加速して患部に当てる治療です。粒子線は体内でエネルギーを集中して放出する特性があり、腫瘍にピンポイントで高い線量を与えつつ正常組織への影響を最小限にできる利点があります。副作用を抑えて高い効果が期待できる一方、装置が巨大かつ高価で限られた施設でしか行えない高度先進医療です。
このため、陽子線・重粒子線治療は長らく公的医療保険の適用外(自由診療)とされ、治療費は全額自己負担でした。ただし近年、治療成績の蓄積により有効性が認められ、一定の症例に限っては保険収載(保険適用)されるようになってきています。
例えば小児がんや骨・軟部腫瘍などは以前から重粒子線・陽子線の保険適用疾患となっており、2024年の診療報酬改定では早期肺がん(Ⅰ〜ⅡA期)も新たに陽子線治療の保険適用対象に加わりました。このように、公的保険で粒子線治療を受けられる疾患は徐々に拡大しています。
しかしながら、依然として陽子線・重粒子線治療の多くは保険適用外です。保険適用の対象とならない疾患に対して粒子線治療を希望する場合、先進医療または自由診療として治療を受けることになります。
放射線治療に必要な自己負担額の目安と上限
放射線治療はその種類や期間によって、かかる費用は異なります。そこで、放射線治療に必要な自己負担額の目安と上限を解説します。
放射線治療の自己負担額
公的医療保険が適用される放射線治療では、患者さんは診療費総額の一部(原則3割)を自己負担します。一般的な現役世代の方は3割負担、高齢者(75歳以上など)や低所得者の方は1割〜2割負担という区分になりますが、ここでは代表的な3割負担の場合で説明します。
放射線治療の費用は治療法や回数によってさまざまですが、放射線治療単体の自己負担額は数十万円規模になることが多いです。ただしこれは治療全体にかかる金額であり、一括で支払うわけではありません。通常、外来通院であれば1回の照射ごとに数万円(3割負担で数千円〜1万円台後半ほど)の費用を都度窓口で支払います。
健康保険の適用となる治療方法なら高額療養費制度が活用できる
放射線治療を含め、公的保険診療の自己負担額には高額療養費制度による月額上限が設定されています。高額療養費制度とは、1ヶ月に支払った保険適用医療費の自己負担額が一定の上限を超えた場合、超過分が後から払い戻される制度です。この制度を利用すれば、たとえ高額な治療費がかかった月でも、患者さんが実際に負担する金額は所得区分ごとに定められた上限額までで済みます。
放射線治療の費用についてよくある質問
ここまで放射線治療でかかる費用について、一般的な内容を解説してきました。ここでは「放射線治療の費用」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
放射線治療の費用が支払えないときはどうすれば?
木村 香菜(医師)
高額療養費制度を利用してもなお医療費の負担が重い場合や、先進医療など保険の利かない治療費を支払うのが難しい場合もあるかもしれません。そのようなときは、決して一人で抱え込まずに早めに医療機関の相談窓口に相談することが重要です。
まず、公的制度で利用できるものがないか確認しましょう。代表的な支援策として次のようなものがあります。
高額療養費貸付制度
高額療養費の支給を受けるまでの間、一時的に医療保険者から無利子で貸付を受けられる制度です。
都道府県や市区町村の医療費助成制度
自治体によっては、特定の疾患や条件に該当する患者さんに対し医療費の助成を行う制度があります。小児がんや難病に対する公費負担医療などが代表例ですが、自治体独自の助成がないかも確認してみましょう。
傷病手当金や障害年金などによる収入補填
会社員で治療のため長期休業した場合、健康保険から傷病手当金が支給されることがあります。また、がん治療で就労不能な状態が長く続く場合、障害年金が受給できることもあります。
生活保護制度
最後の手段としては、生活保護制度の利用も挙げられます。生活保護受給者となれば医療費は医療扶助により公費でまかなわれます。収入や資産が一定以下で、本当に治療費が支払えない場合には、この選択肢も現実的に考えられます。ただし、生活保護を受けるためには厳格な要件を満たす必要がありますので、まずはほかの制度や相談で解決できないか検討してみてください。
放射線治療にかかる期間はどれくらい?
木村 香菜(医師)
がんの治療期間は、がんの種類、腫瘍の大きさや位置、そして治療目的によって大きく変動します。一般的な外照射治療では、月曜日から金曜日の週5回、1日1回の治療が基本となっています。治療全体の期間は、6〜8週間にわたる場合もあれば、単回治療で済む方もいます。また、がんの状態や進行度、さらには個々の患者さんの状況に応じて、治療スケジュールは柔軟に調整されるため、同じがんであっても一人ひとり異なる計画が組まれることがあります。
放射線治療で自己負担した金額は医療費控除の対象になる?
木村 香菜(医師)
はい、放射線治療の自己負担額は医療費控除の対象になります。医療費控除とは、その年(1月〜12月)に支払った医療費の合計が10万円(または所得の5%)を超えた場合に、超えた分を所得から控除できる税制度です。放射線治療に限らず、健康保険適用で支払った自己負担分や保険適用外で全額自己負担した医療費は、条件を満たせば医療費控除として申告できます。
まとめ
放射線治療はがん治療として有用であり、公的医療保険の適用により経済的な負担も軽減されています。一方で、保険適用外の先進医療や高額療養費など、治療に伴う費用の負担方法は異なります。本記事でご紹介した制度や支援策を活用しながら、患者さんご自身やご家族が安心して治療に取り組むための参考情報となれば幸いです。
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