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「甲状腺がん」が進行すると現れる症状・原因はご存知ですか?医師が監修!

 更新日:2023/03/27
「甲状腺がん」が進行すると現れる症状・原因はご存知ですか?医師が監修!

甲状腺がんは、比較的女性に多いといわれる病気です。

国立がん研究センターによると、2019年に日本全国で甲状腺がんと診断されたのは18,780人でした。そのうち男性4,888人で女性13,892人です。女性が男性の約2.8倍となっています。

甲状腺がんは、他のがんより予後のよいがんです。今回は甲状腺がんの症状・治療法・予後について詳しくご紹介いたします。

甲斐沼 孟

監修医師
甲斐沼 孟(上場企業産業医)

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大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。

甲状腺がんの症状と原因

男性医師と患者

甲状腺がんはどんな病気ですか。

甲状腺がんとは、甲状腺の一部にできた悪性腫瘍です。甲状腺は、甲状軟骨(のどぼとけ)のすぐ下にある気管の前にあり、気管を覆うように位置しています。
左右ほぼ対称で、蝶が羽を広げたような形をしているのが特徴です。ヨードを取り込んで基礎代謝を上げたり、脳・骨の成長を助けて、脂質・糖の代謝を行う働きの甲状腺ホルモンを分泌します。
甲状腺がんは、組織の状態により6つに分類されます。

  • 乳頭がん:全体の約90%を占める甲状腺分化がん。リンパ節転移が多くみられるが、進行速度は遅く、予後はよいとされている。
  • 濾胞(ろほう)がん:全体の約5%の甲状腺分化がんで、遠隔転移しやすい。遠隔転移をしない場合の予後は他と比べてよい。
  • 低分化がん:全体の1%未満の甲状腺分化がんで、遠隔転移しやすい。
  • 髄様(ずいよう)がん:全体の約1〜2%で、進行が速い。リンパ節・遠隔転移あり。
  • 未分化がん:全体の約1〜2%。進行が速く、周囲の臓器への浸潤・遠隔転移しやすい。悪性度が高い。高齢者に多い。
  • 悪性リンパ種:全体の約1〜5%。高齢者に多い。橋本病などが背景にある場合が多い。

甲状腺がんの初期症状を教えてください。

甲状腺がんは初期症状がほとんどありません。健康診断や別の疾患で診察を受けた際に偶然発見されることが多いです。
前頸部(甲状腺)・側頚部(リンパ節)にできたしこりで気づくこともあります。

進行するとどんな症状が出ますか。

甲状腺がんが進行し、周囲の反回神経・気管・咽喉頭部にがんが浸潤してくると、嗄声(声のかすれ)・咳が起こり始めます。そして、さらに進行すると呼吸困難になります。
また、がんが食道に浸潤した場合の症状は、喉の違和感(特に嚥下時)を感じ、飲み込みにくさ・誤嚥などの嚥下障害です。まれに、痛み・血痰などの症状が出てくることもあります。

甲状腺がんの原因は何ですか。

多くの甲状腺がんの原因は、明確にはわかっていません。しかし、髄様がんは遺伝性(家族性)と証明されています。髄様がんでは、血液検査でRET遺伝子を調べて診断することもあります。
また、乳頭がんも一部は遺伝による発症です。こうした遺伝性のがんは、比較的若い人に発症するという特徴を持っていますので、家族の中に甲状腺がんを発症したことがある場合は注意が必要です。
また、小児期の放射線被曝も原因の1つと考えられています。

甲状腺がんの検査方法と治療法

点滴

甲状腺がんではどんな検査をしますか。

検査は、がんであるかないか・どの種類のがんなのか・転移があるのかなどを診断するために行います。
まず触診で、甲状腺・頚部リンパ節にしこりがないかを確かめます。超音波検査は、甲状腺の大きさ・内部の様子・リンパ節の腫れの様子などを見る検査です。特に乳頭がんでは、特徴のある超音波所見であることが多いので、診断の1つの手段となります。
他には、甲状腺のしこりの細胞を穿刺して吸い取り診断する細胞診、局所麻酔をかけてしこりの一部を切り取り調べる病理組織生検などがあります。
血液検査で甲状腺がんを調べる項目は、甲状腺ホルモン(Free-T4 Free-T3)・甲状腺刺激ホルモン(TSH)・甲状腺自己抗体・サイグロブリン・カルシトニン・CEAなどです。
甲状腺がんと診断されてから行う検査としては、頸部CT・MRI・肺CT・シンチグラフィー・内視鏡検査・遺伝子検査などがあります。

甲状腺がんの治療方法を教えてください。

甲状腺がんの治療は、手術・放射線療法・薬物療法などです。
手術は、がんの位置・大きさ・浸潤・転移などの状態によって甲状腺片葉切除・甲状腺亜全摘(甲状腺の約2/3以上を切除)・甲状腺全摘を選択し、場合によってはリンパ節郭清も行います。
放射線療法のやり方は、放射線を体の中から照射する内照射(放射性ヨード内用療法)・体の外から照射する外照射の2つあります。放射性ヨード内用療法は、乳頭がん・濾胞がん・低分化がんの治療法です。外照射は主に、未分化がん・悪性リンパ腫の治療方法です。その他には、手術でがんを取りきれない・骨転移などの痛みが強い場合の症状緩和目的で行います。
薬物療法は、主に甲状腺ホルモン療法(TSH抑制療法)・分子標的療法・抗がん剤療法の3つです。甲状腺ホルモン療法は、術後に甲状腺ホルモン剤を投与して甲状腺ホルモン(TSH)の分泌を低下させる療法です。
甲状腺ホルモンは甲状腺がん細胞を増殖させてしまう可能性があります。甲状腺ホルモン(TSH)を抑制することで、乳頭がん・濾胞がんの再発予防になるのです。
分子標的療法は、手術困難・放射性ヨード内用療法の効果が期待できない場合の甲状腺分化がん(乳がん・濾胞がん・低分化がん)・髄様がんに選択される場合があります。抗がん剤療法は、悪性リンパ腫・治療効果の期待できない未分化がんで行うことがあります。
乳頭がん・濾胞がんは、手術の効果が期待できるのであまり行われませんが、放射性ヨード内用療法が効果のない場合に検討される治療法です。

甲状腺がんは治りますか。

完治については甲状腺がんの種類・進行状況・発症年齢によってどうかも変わってきます。乳頭がんはリンパ節転移を起こしやすく、周囲の臓器に浸潤することもありますが、一般的にがんの成長が遅いため治る確率は90%以上と高いです。また、高齢より若い人の方が治りやすいという特徴があります。
濾胞がんは、血行性の遠隔転移がある場合は治りにくいです。遠隔転移のない場合は、手術によって治ることが多いです。髄様がんは、肝臓などに遠隔転移を起こしていたり、縦隔のリンパ節転移を起こしていた場合は、長期間の治療になってしまいます。
未分化がんは、急速に進行し、手術・放射線療法・抗がん剤療法などを組み合わせて治療をしても治る見込みは少ないです。悪性リンパ腫は、急速に進行しますが、抗がん剤療法・放射線療法が効くことも多いです。

甲状腺がんの生存率と予後

花を渡す子供

甲状腺がんの生存率はどれくらいですか。

国立がん研究センターによると、甲状腺がんと診断されてからの5年生存率は、男性約98%・女性約99%です。進行度別での男女計の5年生存率は、限局100%・領域約96%・遠隔47%となっており、転移など悪化がみられると生存率も下がります。
また年齢別でみると、男性の15歳〜74歳の生存率は97〜98%で、75歳を過ぎると87%です。女性ではどの年齢も98〜100%です。このことから、甲状腺がんは他のがんと比べると、生存率が高いとわかるでしょう。

甲状腺がんの予後はどうですか。

甲状腺がんの予後も、がんの種類・進行状況・発症年齢によってそれぞれ異なります。
乳頭がんでは、高齢者と比べて若い人の方が予後良好で、がんの成長も遅いために予後は良好です。リンパ節への転移があるからといって予後が悪いとも限りません。
しかし濾胞がんは、遠隔転移のない場合の予後は良好ですが、肺・骨に遠隔転移を起こした場合、予後はあまりよくありません。髄様がんではリンパ節に多く転移していたり、肝臓への遠隔転移がみられたりすると予後不良といわれています。
悪性リンパ腫は抗がん剤療法・放射線療法が比較的効きますが、未分化がんは非常に予後の悪いがんです。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

甲状腺がんは初期症状がほとんどありません。しかし、進行していくとしこり・喉の違和感・嗄声・飲み込みにくさなどが出てきます。きちんとがんの種類を診断して治療をすると、高齢でも比較的予後のよい病気です。
気になる症状・甲状腺がんに対する不安などがある場合は、専門医を受診するようにしましょう。

編集部まとめ

カンファレンスを行う医者
甲状腺がんについて詳しくご紹介しました。症状から予後までおわかりいただけたでしょうか。

甲状腺がんは、症状が出るまでに時間がかかります。しかし、がんの進行自体がゆっくりなので適切に診断して治療すればがんの種類によっては治る病気でもあります。

甲状腺がんに当てはまるような症状・不安がある場合は、まず専門医に診てもらい、早めに治療を受けるようにしてください。

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