目次 -INDEX-

  1. Medical DOCTOP
  2. NEWS
  3. 【新発見】脳卒中による認知機能低下は血糖値が高いほど起こりやすい

【新発見】脳卒中による認知機能低下は血糖値が高いほど起こりやすい

 公開日:2023/06/09
脳卒中後の認知機能 高血糖で低下加速

アメリカのミシガン大学の研究グループは、「脳卒中になった時点で認知症を発症していなかった約1000人を解析した結果、脳卒中後の認知機能低下は血糖値が高い者ほど速く進行することが明らかになった」と発表しました。この内容について甲斐沼医師に伺いました。

甲斐沼 孟

監修医師
甲斐沼 孟(上場企業産業医)

プロフィールをもっと見る
大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。

研究グループが発表した内容とは?

今回、アメリカのミシガン大学の研究グループが発表した研究内容について教えてください。

甲斐沼孟医師甲斐沼先生

今回取り上げるのは、アメリカのミシガン大学の研究グループが発表した研究で、脳卒中になった人の認知機能を低下させる要因についての解析がおこなわれました。研究結果は「JAMA Network Open」に掲載されています。

研究グループは、4件の研究の追跡期間中に脳卒中を新たに発症し、その時点で認知症を発症していなかった18歳以上の982人を対象にしました。脳卒中を発症したときの年齢中央値は74.6歳で、脳卒中発症後の追跡期間中央値は4.7年でした。主要評価項目は包括的認知機能の変化とされ、副次評価項目は実行機能および記憶機能の変化でした。認知機能スコアは平均が50、標準偏差が10の正規分布に近似するように標準化した偏差値で評価しています。

解析の結果、脳卒中後の血糖の累積平均値が高いほど、認知機能の低下が加速することが示されました。また、脳卒中の発症から12年の時点で、累積平均血糖値が最も高いグループの認知機能スコアは42.9ポイントだったのに対して、累積平均血糖値が最も低いグループの認知機能スコアは45.7ポイントで、2.8ポイント差が開きました。なお、脳卒中になった後の累積平均血糖値と実行機能および記憶機能に関連は認められませんでした。さらに別の解析をおこなったところ、脳卒中になった後の累積平均血糖値の上昇に伴う認知機能低下の加速が認められたとのことです。

研究グループは「脳卒中後の認知機能を維持する上で、血糖値が治療標的となることが示唆された」とコメントしています。

脳卒中とは?

今回の研究で取り上げられた脳卒中について教えてください。

甲斐沼孟医師甲斐沼先生

脳の血管が詰まることで脳に血液が届かなくなり、脳の神経細胞が障害されるのが脳卒中です。脳卒中は、脳の血管が詰まる「脳梗塞」、脳の血管が破れる「脳出血」、動脈瘤が破れる「くも膜下出血」、一時的に脳の血管が詰まる「一過性脳虚血発作」の4つに分類されます。厚生労働省の2017年患者調査によると、脳卒中の患者数は111.5万人で、高齢になるほど患者数が多い傾向にあります。

脳梗塞や脳出血になると、意識がなくなる、半身麻痺、言語障害、さらには認知機能低下などの症状が表れます。一方、くも膜下出血では麻痺は少なく、激しい頭痛や意識障害が突然起こります。

初期に適切な治療を開始することが重要で、脳梗塞の場合は症状が出てから4時間半以内であれば血栓を溶かす治療薬を使うことができ、完治する可能性が高くなります。入院日数は長期化することが多く、2017年患者調査によると平均入院日数は78.2日となっています。

発表内容への受け止めは?

アメリカのミシガン大学の研究グループによる発表内容への受け止めについて教えてください。

甲斐沼孟医師甲斐沼先生

高血圧や高血糖、LDLコレステロール高値は脳卒中の発症危険因子であり、脳卒中未発症の成人において認知機能低下に関連することが示されていましたが、脳卒中発症後のサバイバーにおいては、必ずしもそうでない可能性が示されました。今回の研究によれば、脳卒中後の認知機能低下は血糖値が高い人ほど速く進行する一方で、収縮期血圧(SBP)およびLDL-C値との関連性は乏しかったことが判明しました。

脳卒中後の高血糖状態は、脳微小血管損傷、酸化ストレス、炎症、神経変性を通じて認知機能低下を加速させることが示されたことから、脳卒中後の認知機能を維持する上で血糖値が治療標的となることが示唆され、これらの観点が臨床的に応用されることが期待されます。

まとめ

アメリカのミシガン大学の研究グループは、「脳卒中になった時点で認知症を発症していなかった約1000人を解析した結果、脳卒中後の認知機能低下は血糖値が高い者ほど速く進行することが明らかになった」と発表したことが今回のニュースでわかりました。脳卒中と認知症は日本でもよく知られているため、今回のニュースは注目を集めそうです。

この記事の監修医師