「減煙はかえって認知症リスクを上昇させる、禁煙でリスク低下」韓国研究グループ発表
韓国のソウル国立大学の研究グループは、喫煙強度の変化と認知症リスクの関連を評価する研究を実施した結果、「喫煙を2年間維持したグループと比べて、禁煙したグループの認知症リスクは有意に低下した」と学術誌に報告しました。このニュースについて甲斐沼医師に伺いました。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
研究グループが発表した内容とは?
韓国のソウル国立大学の研究グループが発表した内容について教えてください。
甲斐沼先生
今回紹介するのは、学術誌「JAMA Network Open」に報告された研究の内容です。ソウル国立大学の研究グループは、禁煙や減煙などの喫煙強度の変化と認知症リスクの関連についての研究を実施しました。
対象となったのは2009年と2011年に健康診断を受け、2009年に40歳以上だった78万9532人の喫煙者です。対象者は「禁煙グループ」、1日の喫煙本数が50%以上減少した「減煙Ⅰグループ」、1日の喫煙本数が20~50%減少した「減煙Ⅱグループ」、1日の喫煙本数が20%未満で増減した「維持グループ」、1日の喫煙本数が20%以上増加した「増煙グループ」の5グループに分けられました。2018年12月31日までの追跡期間中に認知症を発症したのは1万1912例で、内訳はアルツハイマー病が8800例、脳血管性認知症が1889例でした。
解析の結果、認知症リスクは維持グループに対して禁煙グループで8%低くなりました。一方で、維持グループに対して増煙グループでは認知症リスクが12%高くなったほか、減煙Ⅰグループでもリスクは25%高くなるという結果が出ました。なお、減煙Ⅱグループでは有意差は認められなかったとのことです。
今回の結果から、研究グループは「予想に反して、増煙グループよりも1日の喫煙本数を50%以上削減した減煙Ⅰグループの方が認知症リスクが高かったことから、認知症の疾病負担の軽減には禁煙が重要である」と結論付けています。
日本における認知症の現状は?
日本における認知症の現状について教えてください。
甲斐沼先生
認知症は加齢に伴って発症しやすくなり、日本における65歳以上の認知症患者の数は2020年現在で約600万人と推計されています。2025年には高齢者の5人に1人にあたる約700万人が認知症になると予測されています。
認知症には脳神経が変性して脳の一部が萎縮していく過程で起きる「アルツハイマー型認知症」、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害による「血管性認知症」、幻視がみられたり、歩幅が小刻みになって転びやすくなったりする「レビー小体型認知症」、スムーズに言葉が出てこない、言い間違いが多い、感情の抑制が効かなくなる、社会のルールを守れなくなるといった症状が現れる「前頭側頭型認知症」など、複数のタイプが存在します。
今回の研究内容への受け止めは?
韓国のソウル国立大学の研究グループが発表した内容への受け止めを教えてください。
甲斐沼先生
過去の研究では、禁煙による認知症リスクの低下が示されていましたが、喫煙の強度変化と認知症のリスク関連については明らかにされていませんでした。今回、韓国のソウル国立大学の研究グループは、減煙や禁煙を含む喫煙強度の変化と認知症リスクの関連を評価する後ろ向きのコホート研究を実施しました。
維持グループと比べて禁煙グループや減煙グループでは併存疾患を有する者が多く、sick quitter phenomenon(禁煙の効果に影響を及ぼす現象)の影響が否定できません。減煙グループはニコチン濃度を維持するために煙を深く吸い込むことによって、認知機能の保護作用がニコチン成分によって阻害された可能性も想定されます。
減煙効果そのものは完全禁煙と違って直接的な認知症リスクの低減につながりませんでしたが、減煙行為は禁煙に向けた重要な第一歩になるとも推察できます。
まとめ
韓国のソウル国立大学の研究グループが、喫煙強度の変化と認知症リスクの関連を評価する研究を実施した結果、「喫煙を2年間維持したグループと比べて、禁煙したグループの認知症リスクは有意に低下した」と学術誌に報告したことが今回のニュースでわかりました。禁煙に向けた取り組みを促進するために、こうした研究結果は参考になりそうです。