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「人間ドック」は何が分かる?健康診断との違いや当日・前日の注意点を医師が解説!

 公開日:2023/09/15
「人間ドック」は何が分かる?健康診断との違いや当日・前日の注意点を医師が解説!

人間ドックでは何がわかる?Medical DOC監修医が健康診断との違いや人間ドックで発見できる病気、検査前日と当日の注意点などを詳しく解説します。

石川 秀雄

監修医師
石川 秀雄(医師)

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南大阪随一の規模を誇る回復期リハビリテーション病院において病院長を務め、また喀血・肺循環センターも運営している。同センターは、喀血に対するカテーテル治療である気管支動脈塞栓術BAEのハイボリュームセンターであり、Radiologyを筆頭に一流ジャーナルに多数査読英語論文を投稿し続ける喀血治療の専門家である。

人間ドックとは?

人間ドックとは、船舶の建造や修理をおこなうドックに例えた、検査項目の豊富な包括的な健康チェックを指します。日本固有の表現です。健康保険による保険診療の対象ではなく自己負担での検査になります。日帰りのものから1泊するものまでさまざまです。健康保険による診療は病気の診断・治療が目的であるのに対し、人間ドックは予防医学的な意義をもつ検査セットで、生活習慣病の発見や癌の早期発見などを目指します。

人間ドックとはどんな検査?

一般的には医師の診察に加え、血圧測定、体重や身長の測定、血液検査、尿検査、胸部レントゲン、心電図、腹部エコー、頸動脈エコー、心エコー、肺機能検査、ABI検査(動脈硬化や下肢動脈の狭窄を調べる検査)、眼底検査などが含まれますが、施設やプランによって変わります。血液検査は、検診などにより多項目にわたっておこなわれます。たとえば保険診療ではその病気を疑わないと実施できない各種腫瘍マーカー(癌があるときに上昇する血液検査項目)を人間ドックでは複数実施することがあります。オプションとして、胃カメラや大腸カメラ(上下部消化管検査)や脳ドック(頭部MRI,MRA)、肺ドック(胸部CT)、乳がん検診(マンモグラフィーや乳腺エコー)、子宮がん検診、PET検査(全身の癌の発見をめざす画像診断検査法)などが選択できる場合があります。

<おおまかな検査の流れ>
事前に問診票に記入し、受付後に上記各種検査を回ることになります。締めくくりに医師の診察があり、当日に結果の出る項目についての説明があることが多いです。後日すべての結果を含んだ最終的な報告書が郵送されます。異常が疑われる項目があった場合、病院・診療所などの医療機関の受診を薦められます。その診断結果を、診察した医師から人間ドック実施施設に報告してもらい、人間ドック施設もその情報を把握するように努めます。異常値が指摘された場合の二次検診を、その一部を自施設で実施する人間ドック施設もあります。

人間ドックで体の何がわかる?

<心電図検査でわかること>
狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患(心臓を栄養する3本の冠動脈の動脈硬化による狭窄や閉塞による疾患)、心房細動や心室性期外収縮などの不整脈、肥大型心筋症・拡張型心筋症などの心臓の筋肉の病気などがわかります。また、運動負荷心電図は自転車エルゴメーターなどをこぎながら心電図変化を見る検査で、狭心症の診断が主な目的です。

人間ドックの費用や助成金・保険適用は?

保険診療ではなく自由診療(自己負担による診療)ですが、企業や自治体などから一部あるいは全額の費用補助・助成金がある場合があります。また医療費控除の対象になる場合があり、確定申告のために領収書を保存しておきましょう。

人間ドックと健康診断の違いは?

人間ドックはこれまで述べてきたように、広範囲な詳しい検査が基本です。一方で、健康診断は企業や学校に法的に義務づけられている職員や学童・学生に対する検査で、簡単な血液検査、胸部レントゲン、年齢によって心電図などが実施されます。実施項目も決められており、基本的内容に絞られています。人間ドックはいわば個人個人のオーダーメイド検査パックのイメージ、健康診断は集団を対象としたスクリーニング検査、というイメージです。

人間ドック前日や当日の注意点

<前日に控えた方がいいこと>
暴飲暴食は血液検査結果の一部に影響を与えるので控えましょう。血糖や脂質、肝機能などに影響する可能性があります。
ただし、注意点があります。人間ドック前だけ食事を節制する方がおられますが、日常の異常を検出するのが人間ドックの目的ですので、これは検査の感度を下げてしまうことになり、本末転倒です。いつもどおりを心がけましょう。
内視鏡検査をされる場合には、胃カメラの場合前日9時頃からの絶食、大腸カメラの場合前日の食事制限(消化の良いもの)がある場合があります。胃カメラは、当日に胃内に食物が残っていることを防ぐため、大腸カメラは大腸内に便が残らないようにすることが目的です。十分な検査ができないと意味が半減しますので、しっかり注意書きを読んでそれに従ってください。

<当日に控えた方がいいこと>
朝食は絶食であることが多いです。ただし水分は取るように努めてください。とくに夏場の人間ドックでは脱水にならないように水分をしっかり取ってください。水分は血液検査にも影響しませんし、胃カメラや大腸カメラでは内視鏡によって胃や腸内の水分を吸引できます。

<飲み物やアルコールの注意点>
上記のように当日は絶食で脱水になりやすく、意識的に水分をとっていただくのが好ましいですが、牛乳は胃内で胃液の酸によって固まりますので避けてください。野菜ジュースなど残渣物の原因になるものも避けて、基本的に水分は水かお茶にしてください。心不全や透析中の方で、水分制限を指示されている場合はそれに従ってください。
また前日の飲酒については、深酒でなければいつも通り飲まれても特に問題はありません。

人間ドックの結果の見方と再検査が必要な主な数値・診断結果

ここまでは人間ドックについて基本的なことを紹介しました。
再検査・精密検査を受診した方が良い結果がいくつかあります。
以下のような診断結果の場合にはすぐに病院に受診しましょう。

人間ドックの主な検査と基準値・診断結果の見方

ここでは代表的な項目について人間ドック学会の基準をもとに、説明させていただきます。人間ドック学会の基準は、病院や診療所での診療で使用している基準より厳しめに設定されていますが、これは予防医学的な観点から早期に異常を発見しようという意図によるものです。

AST(GOT)とALT(GPT)

基準範囲 要注意 異常
AST(U/l) 30以下 31~50 51以上
ALT(U/l) 30以下 31~50 51以上

ASTは筋肉(骨格筋、心筋)と肝臓、ALTは肝臓と関係しています。このためASTだけ高く、ALTが高くない場合には筋肉や心筋の病気(筋炎、急性心筋梗塞など)の可能性がありますが、筋トレの翌日にも上昇することがあります。
ALTの上昇は、急性肝炎・慢性肝炎・脂肪肝などが考えられます。かつて、脂肪肝は比較的危険性の少ない肝障害と考えられていた時代がありますが、近年NASH(非アルコール性脂肪肝)というタイプの脂肪肝が注目されており、肝硬変を経て肝がんに至る場合があり、ALTが30以上であれば、専門医を早めに受診するようにと推奨されています。

γGTP

基準範囲 要注意 異常
50以下(U/I) 51~100 101以上

胆管の異常や飲酒と関連の深い項目です。アルコール性肝障害、胆管がん、胆管結石、薬剤性肝障害の一部などで上昇します。

血清クレアチニン(sCr)

基準範囲 要注意 異常
男性 1.00以下(mg/dl) 1.01-1.29 1.30以上
女性 0.70以下(mg/dl) 0.71-0.99 1.00以上

腎機能を反映します。筋肉量が少ない女性や高齢者などでは腎機能が悪くても一見正常を呈する場合があります。

HDLコレステロール

基準範囲 要注意 異常
40以上 35~39 34以下(mg/dl)

いわゆる善玉コレステロールで、動脈硬化を抑制するコレステロールです。低いと、LDLが高くなくても動脈硬化を起こす場合があります。

LDLコレステロール

基準範囲 要注意 異常
60~119 120~179 180以上
59以下(mg/dl)

いわゆる悪玉コレステロールで、高いと動脈硬化性疾患を増加させます。心筋梗塞や狭心症、脳梗塞などです。食事由来のLDLコレステロールは意外に少なく、体内でたくさん合成してしまう体質だと高くなります。家族性高脂血症などがその最たるもので、30歳代で急性心筋梗塞を発症する場合があります。

中性脂肪

基準範囲 要注意 異常
30~149 150~499 500以上
29以下(mg/dl)

脂質異常の中では、LDLやHDLに比べると、動脈硬化への影響について議論の余地があるとされています。食後や過剰な飲酒でも上昇します。

HbA1c

基準範囲 要注意 異常
5.5以下(%) 5.6-6.4 6.5以上

ヘモグロビンエーワンシーと読みます。血糖の過去二ヶ月間の平均値をおおよそ反映するとされています。糖尿病患者の血糖コントロールの指標として、また糖尿病の診断にも用いられます。

白血球(WBC)

基準範囲 要注意 異常
3.1~8.4 8.5~9.9 10.0以上
3.0以下(103/μl)

白血球が多い場合は細菌感染症の場合が多いですが、白血病などもあり得ます。少ない場合は骨髄異形成症候群や薬剤性などが考えられ、感染症を起こしやすくなります。

Hb

基準範囲 要注意 異常
男性 血色素 13.1-16.3 12.1-13.0
16.4-18.0
12.0以下(g/dl)
18.1以上
女性 血色素 12.1-14.5 11.1-12.0
14.6-16.0
11.0以下(g/dl)
16.1以上

赤血球不足(貧血)の指標としてもっともよく使われる項目です。赤血球の中の血色素量です。貧血で一番多いのは鉄欠乏性貧血で、慢性的な消化管出血や不正性器出血などによる失血が原因であることがあります。この場合、貧血の治療以上に、胃や大腸に癌がないかなどの精査も重要になります。鉄欠乏性貧血以外にも多くの種類の貧血があります。

血小板(Plt)

基準範囲 要注意 異常
14.5~32.9 10.0~14.4
33.0~39.9
9.9以下(103/μl)
40.0以上

止血に関連した血球です。低い場合は紫斑病も考えられ、出血しやすくなります。肝硬変でも低下します。

尿酸(UA)

基準範囲 要注意 異常
2.1-7.0 7.1-8.9 2.0以下(mg/dl)
9.0以上

低い場合はあまり問題になりませんが、高いと痛風や尿路結石を発症する場合があります。無症状でも9以上であれば治療対象となる場合があります。

CRP

基準範囲 要注意 異常
0.30以下(mg/dl) 0.31-0.99 1.00以上

炎症反応の指標です。感染症や関節リウマチなどで上昇します。

人間ドックの主な検査の再検査基準と内容

<どのような検査を行うのか>
血液検査、尿検査、胸部レントゲン、心電図、腹部エコー、頸動脈エコー、心エコー、肺機能検査、ABI検査(動脈硬化や下肢動脈の狭窄を調べる検査)などが含まれますが、施設やプランによって変わります。

<検査費用>
費用に関しては施設とプランによって幅がありますが、数万円単位が一般的です。

<どこで再検査・精密検査を依頼するのか>
人間ドック実施施設で実施できる場合と、病院や診療所などに依頼する場合とがあります。総合病院に付帯された人間ドックであれば、院内で二次検査をすることが多い傾向にありますが、他施設に依頼する場合も丁寧な依頼状をもらえるのが通例です。他施設への依頼の場合でも、精査した医師から人間ドック施設への報告が求められることが多いです。

<再検査・精密検査の緊急度、どれくらいの期間内に受けるべきか>
内容によって一概に言えませんが、手遅れにならないようにできるだけ1-2か月以内に受診されるのが望ましいでしょう。

<再検査結果に応じた治療内容>
異常項目によってさまざまです。

「人間ドック」でわかる病気・疾患

ここではMedical DOC監修医が、「人間ドック」に関する症状が特徴の病気を紹介します。
どのような症状なのか、他に身体部位に症状が現れる場合があるのか、など病気について気になる事項を解説します。

糖尿病

血糖値やHbA1cが高く、糖尿病または境界型糖尿病と診断されれば、食餌療法も含めた治療が必要です。基本的には病院でもクリニックでも良いでしょう。内科で診察可能ですが、糖尿病内科であればなおいいでしょう。近年多くの有用な薬剤が開発されています。

高血圧

高血圧と診断されたら、自覚症状がなくても内科を受診すべきです。無症状でも脳出血や脳梗塞あるいは狭心症を起こす場合があり、サイレントキラー(沈黙の殺人者)とも言われています。減塩や有酸素運動などで経過を見る場合もあれば、降圧薬を服用することが必要な場合もあります。降圧薬は、30年くらい前から有効な薬剤が実用化され、その後もたくさんの薬剤が開発され、非常に充実したラインナップとなっており病態に応じて選択されます。内科または循環器内科で相談するのが良いでしょう。

高脂血症

高脂血症は狭心症・心筋梗塞や脳梗塞などの原因になります。治療はスタチンと呼ばれる薬剤が極めて有効で、通常1日1錠服用すればしっかりコントロールできますので、薬物療法だけでなく食事や運動などの生活習慣改善が必要な糖尿病に比べると治療しやすいと言えるでしょう。

肺がん

胸部レントゲンや肺ドック(肺CT)で見つかります。肺がんは症状がでたら手遅れであることが多く、病巣が小さく転移がないうちに発見して外科手術ができるように肺ドック(肺CT)を受けることが理想的です。異常陰影を指摘されたら必ず呼吸器内科を受診すべきです。

胃がん・大腸がん

胃透視や内視鏡で胃がん・大腸がんが見つかったら、まずは消化器内科の受診となります。早期であれば内視鏡で根治が可能な場合があります。また外科手術も体に優しい腹腔鏡手術が定着しています。

膵がん

超音波検査またはCTで見つかりますが、早期発見が難しい癌です。生検も困難です。まずは消化器内科の受診になります。

腎がん

超音波検査やCTで比較的容易に診断がつきます。腎臓は左右に二つあるため全摘術が比較的安全に実施できるのが他の臓器と違う特徴です。ただし長期的に見ると片腎状態だと腎機能が低下してくることもよくあります。泌尿器科の受診になります。

前立腺がん

超音波検査も有用ですが、PSAという腫瘍マーカーの感度が他の腫瘍マーカーに比べて高いのも特徴です。泌尿器科の受診になります。

胆嚢がん

超音波検査で比較的容易に診断できます。生検は困難です。まずは消化器内科の受診になります。

膀胱がん

超音波で見つかりやすい癌です。泌尿器科を受診します。

「人間ドック」で引っかかる主な理由は?

血液検査や尿検査が異常値である場合、胸部レントゲンやCTなどの画像診断で異常な陰影が見つかる、血圧が高い、内視鏡検査で異常が見つかることなどが、人間ドックで引っかかる主な理由です。

脳梗塞の前兆の可能性があるような症状(手足の麻痺や痺れ、呂律が回らないなど)には注意が必要です。

「人間ドック」についてよくある質問

ここまで症状の特徴や対処法などを紹介しました。ここでは「人間ドック」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

人間ドックは何歳頃から受けた方がいいですか?

石川 秀雄石川 秀雄 医師

できたら40歳になったら少なくとも2年に一回は受けることをオススメします。50歳になったら毎年受診すべきでしょう。

人間ドックと脳ドック・健康診断の違いは何ですか?

石川 秀雄石川 秀雄 医師

人間ドックはたくさんの検査項目を含んだ徹底的な体全体の健康チェックであり、脳ドックは体全体ではなく脳に絞った検査です。一方、健康診断は企業や学校に義務づけられているような項目を絞った集団検診に代表されるものです。

人間ドックの所要時間を教えてください。

石川 秀雄石川 秀雄 医師

短いものなら数時間から半日、長いものは一泊二日が多いです。

人間ドックの結果はいつ分かりますか?

石川 秀雄石川 秀雄 医師

当日分かるものは当日の医師診察で説明され、時間がかかるものは2週間以内くらいに郵送されます。

まとめ 「人間ドック」で生活習慣病とがんを早期発見!

以上、人間ドックの概要について述べさせていただきました。
日頃、診療所や病院などの医療機関にかかっている方は、いつも診てもらっているから大丈夫、と考えて安心されているかもしれません。しかし、生活習慣病に対する日常診療の範囲では、必ずしも上記のような予防医学的な検査はできません。健康保険は、あくまで病気の診断と治療を対象としたもので、人間ドックのような予防医学的な検査を実施することはできません。
「病気が見つかったら怖いから人間ドックを受けない」という方が時々おられますが、病気が手遅れになってから見つかる方がはるかに怖いという当たり前のことにどうか気づいていただきたいと思います。
さらに、「いつ死んでも構わないから検査をしない」という方もおられますが、想像されているようにぽっくり亡くなるとは必ずしも限りません。脳梗塞を発症して半身麻痺になったり、癌の大変な闘病生活で辛い思いをされる可能性も十分にあります。このような一種の思考停止により人間ドックの受診を避けることは、得策ではありません。ご自身のみならずご家族をも経済的にも精神的にも苦しめることになるかもしれません。
ご自身の健康な生活のためにも、ご家族の幸せのためにも、正しい理性的判断をされ、人間ドックを積極的に受診して生活習慣病や癌を早期発見する努力をすることを強くおすすめいたします。そのことは国民医療費を下げることにも貢献できるかもしれません。人間ドックはみんなが幸せになるための大切な自助努力です。

「人間ドック」でわかる主な病気

「人間ドック」から医師が考えられる病気は28個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

循環器系の病気

消化器系の病気

泌尿器科の病気

脳神経系の病気

人間ドックで異常を指摘された場合、これだけの疾患の発見につながる可能性があります。まだこれでも一部分に過ぎません。早期発見、早期治療のため人間ドックを受けてみてください。

この記事の監修医師