「若年性大腸がん」が50歳未満で増加中、4つの初期症状と検査方法を医師が解説
日本人に最も多いがんである「大腸がん」。日本における死亡者数は半世紀でおよそ6倍となり、年々数が増え続けています。これまで増加の理由の1つとして高齢者の増加が挙げられてきましたが、最近は50歳未満の若年性大腸がんが増えていると指摘されています。この状況について甲斐沼医師に伺いました。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
若年性大腸がんの初期症状は?
若年性大腸がんの初期症状について教えてください。
甲斐沼先生
患者数増加が指摘されている若年性大腸がんですが、アメリカのワシントン大学セントルイス校の研究グループが、若年性大腸がんに特徴的な初期症状を調べています。研究グループは若年性大腸がん患者5075人と、対照グループに選んだ2万2378人のデータを用いて、自覚症状の有無と発症リスクの関係を解析しました。
その結果、若年性大腸がんと診断される2年~3カ月前までによく起きた症状は、腹痛(11.6%)、直腸出血/下血(7.2%)でした。これは少量の出血が持続している状態で、最初は便の表面に血がついている程度でした。また、症状と発症リスクの関連では、直腸出血が5.13倍、体内での慢性的な出血で生じる鉄欠乏性貧血が2.07倍、下痢が1.43倍、腹痛が1.34倍でした。さらに、この4つの症状が重なるほど若年性大腸がんと診断されるリスクが高く、1つの場合は1.97倍ですが、3つ以上の場合約7倍に跳ね上がることも示されています。
大腸がんの検査方法は?
大腸がんの検査方法について教えてください。
甲斐沼先生
日本では既に、2日分の便を採取して便に混じった血液を検出する「便潜血検査」が40歳から推奨されています。がんやポリープなどの大腸疾患があると大腸内に出血することがあるため、その血液を検出する検査です。検診の間隔は毎年定期的に受診することが推奨されています。
精密検査をする場合の第一選択は、「全大腸内視鏡検査」です。検診で「異常あり」という結果が出た場合は、便潜血検査の再検査はおこなわず、全大腸内視鏡検査を受ける必要があります。全大腸内視鏡検査は、下剤で大腸を空にした後に内視鏡を肛門から挿入し、直腸から盲腸までの大腸の全部位を観察して、がんやポリープなどの病変の有無を確認する検査です。必要に応じて組織を採取して、悪性かどうかを診断します。全大腸内視鏡検査は、がんやポリープに対する診断精度が非常に高い検査です。そのほかの精密検査としては、大腸X線検査や大腸CT検査があります。
若年性大腸がんの増加状況についての受け止めは?
若年性大腸がんが増加している状況についての受け止めを教えてください。
甲斐沼先生
近年において、50歳未満で発症する若年性大腸がんが世界的に増えている傾向が見受けられます。主に、肥満と高脂肪食の過剰摂取による影響や、抗菌薬の過剰投与による腸内細菌叢の変化などが原因と推測されています。
若年性大腸がんの増加率が顕著であるアメリカでは現在、大腸内視鏡検診の推奨年齢を従来の50歳から5歳引き下げて45歳とする動きが加速しています。我が国では既に40歳からの便潜血検査が推奨されており、検査自体は自宅などで便を採取するだけの簡便な検査なので、必ず定期的に実施することが重要なポイントとなります。特に、月経など持続的な出血の理由がない男性や閉経後の女性において、直腸出血や体内での慢性的な出血で生じる鉄欠乏性貧血、下痢、腹痛を含む4つの症状がある場合は、積極的に消化器内科や大腸消化管外来などの専門医療機関を受診して相談しましょう。
まとめ
50歳未満の若年性大腸がんが増えていると指摘されていますが、症状と発症リスクの関連では、直腸出血が5.13倍、体内での慢性的な出血で生じる鉄欠乏性貧血は2.07倍、下痢が1.43倍、腹痛は1.34倍でした。さらに、この4つの症状が重なるほど若年性大腸がんと診断されるリスクが高く、1つの場合は1.97倍ですが、3つ以上の場合は約7倍に跳ね上がることがわかっています。こうした兆候を感じたら、便潜血検査の結果とあわせてかかりつけ医に相談してもいいかもしれません。