「大腸がん」を悪化させる体内物質を特定 京都大学らの研究グループ
京都大学らの研究グループは、「大腸がんを悪化させている体内物質を動物実験で突き止めた」と発表しました。この内容について中路医師に伺いました。
監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
研究グループが発表した内容とは?
今回、京都大学らの研究グループが発表した内容について教えてください。
中路先生
今回紹介するのは、京都大学らの研究グループが実施した研究で、学術誌「Nature Communications」に掲載されています。研究グループは、大腸がんを取り巻く組織にTHBS1(トロンボスポンジン1)というタンパク質が多いことに着目しました。THBS1は悪性度の高い大腸がんのうち、がん細胞以外の間質に多く含まれる物質です。
遺伝子操作によってTHBS1を分泌しないようにしたマウスの大腸に大腸がんの細胞を移植した結果、免疫細胞が活性化して転移が抑制され、生存期間が延びました。また、この遺伝子操作したマウスに正常なマウスの骨髄細胞を移植したところ、THBS1が分泌されるようになり、再びがんの転移がみられるようになりました。
THBS1を作るのは骨髄でできる免疫細胞の一種で、大腸がんを取り巻く組織から出る「ケモカイン」という物質に反応して集まってくることがわかっていますが、今回の研究ではがんを攻撃せず、逆に保護する動きをすることも明らかになりました。ケモカインの働きを抑える化合物を大腸がんのマウスに投与するとTHBS1が減り、がんの転移は大幅に抑えられました。
大腸がんとは?
今回の研究対象となった大腸がんについて教えてください。
中路先生
大腸がんは大腸に発生するがんで、良性のポリープががん化して発生するものと、正常な粘膜から直接発生するものに分類されます。日本人はS状結腸と直腸にがんができやすいと言われています。大腸の粘膜に発生した大腸がんは大腸の壁に深く侵入し、やがて大腸の壁の外まで広がり腹腔内に散らばります。さらに、リンパ節転移をしたり、血液の流れに乗って肝臓や肺などの臓器に遠隔転移したりします。
大腸がんの症状について、早期では自覚症状はほとんどありません。また、進行すると血便や下血、腸閉塞、腹痛、嘔吐などの症状が起こります。⼤腸がんは男性で11⼈に1⼈、⼥性で13⼈に1⼈が⼀⽣のうちに⼀度はかかると言われています。
今回の発表内容への受け止めは?
京都大学らの研究グループの発表に対する受け止めを教えてください。
中路先生
大腸がんの発生や進展に影響を与える物質の研究は以前よりおこなわれています。代表的な物質としては「プロスタグランジン(PG)」が挙げられ、アスピリンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の服用によってプロスタグランジンの合成を阻害することで、大腸がんのリスクを減少できることが明らかになっています。しかし、非ステロイド性抗炎症薬には消化性潰瘍や心血管障害などの副作用があるので、服用は慎重にならざるを得ません。そのため現在、新たな大腸がんの発生・進展に関わる物質の発見が望まれています。
今回、京都大学らの研究チームが基礎研究で発見した大腸がんを悪化させる物質も、この新たな大腸がんの進展に関わる物質です。今後、人への応用で大腸がんの発生・進展を安全に阻止する薬剤の開発につながることを期待します。
まとめ
京都大学らの研究グループが、大腸がんを悪化させている体内物質を動物実験で突き止めたことが今回のニュースで明らかになりました。この物質の働きを抑える薬を開発すれば、大腸がんの新たな治療法になることが期待されるだけに、今後の研究にも期待が集まりそうです。