「消化器がん」の再発死亡リスク、ビタミンDサプリメント摂取で73%減少
東京慈恵会医科大学の研究グループは、「ビタミンDサプリメントを摂取することで、消化器がん患者の再発死亡リスクが7割以上低下した」との結果を報告しました。この内容について郷医師に伺いました。
監修医師:
郷 正憲(徳島赤十字病院)
研究グループが発表した内容とは?
今回、東京慈恵会医科大学の研究グループが発表した内容について教えてください。
郷先生
今回紹介するのは、東京慈恵会医科大学の研究グループが実施したものです。研究グループは、「ビタミンDが抗p53抗体の抗腫瘍免疫応答を活性化させ、がんの再発や死亡リスクが低減する」という仮説を立てて検証しました。
がん抑制遺伝子p53は、がん抑制遺伝子群を活性化して細胞分裂抑制や細胞死などを誘導するp53蛋白をつくる働きがあります。研究グループは、ビタミンD摂取群241例、プラセボ群151例を対象に、抗p53抗体を測定しました。抗p53抗体の検出の有無で5年無再発生存率を比較したところ、陽性例はビタミンD群が77.2%だったのに対して、プラセボ群は60.0%、陰性例ではビタミンD群が75.9%に対してプラセボ群では72.5%と、有意差はありませんでした。一方で、抗p53抗体陽性かつp53過剰発現群の再発リスクはほかの群に比べて約3.5倍と高い数値となりました。
次に、再発リスクが約3.5倍高くなった集団に限定して解析したところ、5年無再発生存率はプラセボ群の30.6%に対してビタミンD群では80.9%と有意に高くなり、再発死亡リスクは73%低くなりました。
今回の結果について、研究グループは「特に消化器がんの再発リスクが高いと考えられる患者集団において、ビタミンDサプリメントの投与によって再発死亡リスク低減の可能性が示唆された」と結論づけています。
今回の発表内容への受け止めは?
東京慈恵会医科大学の研究グループが発表した内容への受け止めを教えてください。
郷先生
がんの再発予防は非常に難しい問題で、現在では抗がん剤の使用がゴールドスタンダードとなっています。しかし、副作用や費用的な問題もありますし、がんによって抗がん剤の種類も違うため複雑です。
その一方、今回の研究結果は進行がんの全体を対象にしており、ビタミンDサプリメントという安価なもので進行がんの再発を抑えることができたというのは非常に驚くべき結果でした。結果としても有効性がかなり高く、安全性も高そうです。今後、がんの種類や進行度によって適応があるのか、どれぐらいの量が必要になるのかということが調査されると思われます。
ビタミンDが不足?
ビタミンDについては、東京慈恵医科大学の研究グループが「都内の成人男女98%がビタミンD不足だった」という調査結果を発表しています。こちらの結果についても教えてください。
郷先生
ビタミンDについて、東京慈恵会医科大学の研究グループは、2019年4月~2020年3月に都内で健康診断を受けた18~91歳の男女5518人を対象に調査をおこないました。その結果、血中のビタミンD濃度について、全体の98%が専門学会の定めた基準濃度を下回っていたことが明らかになりました。特に20代などの若年層で、よりビタミンDが不足する傾向がみられたとのことです。
まとめ
東京慈恵会医科大学の研究グループは、「ビタミンDサプリメントを摂取することで、消化器がん患者の再発死亡リスクが7割以上低下した」との結果を報告しました。研究グループは現在、追加の研究を実施しているということで、続報も注目を集めそうです。