ビタミンDサプリメント摂取でがん死亡率12%減少 東京慈恵会医科大学ら
東京慈恵会医科大学らの研究グループは、「ビタミンDのサプリメントを毎日摂取することで、がん死亡率が12%減少した」という研究結果を明らかにしました。今回は、この内容について郷医師に伺いました。
監修医師:
郷 正憲(徳島赤十字病院)
目次 -INDEX-
研究グループが発表した内容とは?
今回、東京慈恵会医科大学らの研究グループが発表した研究内容について教えてください。
郷先生
今回紹介するのは、東京慈恵会医科大学がドイツ・アメリカ・フィンランド・オーストラリア・ニュージーランドなどの研究機関とおこなった国際共同研究についてです。研究グループは、ビタミンDの補給が、がん死亡率やがん患者の予後に及ぼす影響を調査しました。無作為化プラセボ対照試験および個々の患者データの系統的レビューとメタ分析を実施することで研究がおこなわれました。
その結果、1日1回ビタミンDを投与した10試験では、偽薬を投与したプラセボ群とビタミンD群を比べると、がん死亡率が12%低下しました。また、70歳以上の場合に限定すると、ビタミンDを連日投与することで死亡率は17%低下する結果となっています。さらに、がん診断前にビタミンD療法を開始していた人の死亡率は13%低下していました。ビタミンDを摂取するペースで検討すると、連日内服することは有効でしたが、月1回に大量に内服する場合は効果がみられなかったとのことです。
研究グループの東京慈恵会医科大学の浦島充佳教授は、「このような研究を国際共同研究として実施し、得たことに誇りと喜びを感じます。しかし、現段階ではビタミンDサプリメントの摂取が有意にがんの死亡を抑制すると言い切ることはできません。そのため、ビタミンDサプリメント投与の有効性と安全性を1つの臨床試験で明らかにするべく、2022年1月より第2弾となる試験を開始しました」とコメントしています。
発表への受け止めは?
東京慈恵会医科大学らの研究グループによって、「ビタミンDサプリメントの連日摂取でがんの死亡率が低下する」というデータが示されましたが、この発表への受け止めを教えてください。
郷先生
ビタミンDは、カルシウム代謝に関わるビタミンです。通常、食物から吸収できるのは非活性化ビタミンDで、日光によって活性型ビタミンDとなり、カルシウムの吸収促進をしたり、ホルモンバランスを整えたりすることで血液中のカルシウム濃度を調節します。カルシウムは骨の材料以外にも、心臓の動きを調節したり、血液凝固機能の調節をしたりするといった、生体内で様々な作用をしています。
今回の研究ではビタミンDの投与のみで予後をみていますが、このようにカルシウム濃度を確認することで何らかの有意差が認められるかもしれません。もしそこに変わりがないのであれば、ビタミンDによる何らかの良い効果があるということが推定できるかもしれません。今後の研究が楽しみです。
臨床応用への期待感は?
東京慈恵会医科大学らの研究グループが発表した今回の研究を実際に臨床応用することへの期待感を教えてください。
郷先生
前述のように今回の研究ではビタミンDを投与したということと、予後についての関連のみに触れているため、どのような機序で予後に関わったのかが分かっていません。もしかしたらカルシウムの値が高めになることが関係していたのかもしれませんし、ほかの作用が関与しているのかもしれませんので、どのように予後に関与しているのかが気になります。また、作用機序がわからないということはただ単に予後が伸びるというだけではなく、種々の病気の治療に役立つかもしれないという可能性を秘めていると言えます。現在は予後だけにしかフォーカスが当たっていませんが、解析をするだけでも非常に興味深い研究結果と言えるでしょう。
まとめ
東京慈恵会医科大学らの研究グループは、「ビタミンDサプリメントを毎日摂取することで、がん死亡率が12%減少した」と発表したことが今回のニュースでわかりました。世界では毎年2000万人近くががんを発症し、およそ1000万人が亡くなっているとされているので、がんの死亡率を下げることにつながる可能性がある今回の研究は注目を集めそうです。