2型糖尿病で内視鏡後大腸がんリスクが44%増加
デンマークの研究者らは、2型糖尿病の患者は初回検査後の内視鏡後大腸がん発生リスクが2型糖尿病でない人に比べて44%高かったと発表しました。このニュースについて前田医師に伺います。
監修医師:
前田 孝文(医師)
目次 -INDEX-
今回の発表の内容とは?
今回、デンマークの研究者らによっておこなわれた発表の内容について教えてください。
前田先生
今回の解析は、デンマークで1995~2015年に大腸内視鏡検査を受けた2型糖尿病患者2万9031例と2型糖尿病の患者ではない33万3232例が対象におこなわれたものになります。大腸がんが検出されなかった大腸内視鏡検査実施の6~36カ月後に診断された大腸がんを内視鏡後大腸がんとして調査しました。その結果、初回の大腸内視鏡検査後6~36カ月における内視鏡後大腸がんの発生は、2型糖尿病でない人で1658例、2型糖尿病患者で250例だったということです。また、解析の結果、同期間における内視鏡後大腸がんの累積発生率は、2型糖尿病ではない人は0.36%でしたが、2型糖尿病患者では0.64%でした。
加えて、性別、検査時年齢、検査実施年、併存疾患を調整後の非糖尿病者に対する2型糖尿病患者における内視鏡後大腸がん発生のハザード比は、初回の大腸内視鏡検査後で1.44、初回検査後6カ月以降におこなわれた2回目の検査後で1.18となったということです。また、大腸がん全体における、大腸内視鏡後3年以内の内視鏡後大腸がんの発生率は、2型糖尿病患者で7.9%、2型糖尿病でない人で7.4%という結果が出ました。
内視鏡後大腸がんとは?
今回の調査対象になった内視鏡後大腸がんとは、どのような病気なのでしょうか?
前田先生
内視鏡後大腸がんはPCCRC(Post-colonoscopy colorectal cancer)とも呼ばれていて、大腸がんが検出されなかった大腸内視鏡検査後に発生した大腸がんのことです。
日本消化器内視鏡学会の「大腸内視鏡スクリーニングとサーベイランスガイドライン」に記載されている内視鏡後大腸がんの要因としては、「適切な大腸内視鏡検査での見逃し病変」、「不適切な大腸内視鏡検査での見逃し病変」、「検出されたが切除されなかった病変」、「不完全切除病変」、「新規発生がん(大腸内視鏡検査から4年以上経過していることが条件)」という5つが挙げられています。
発表された内容への評価は?
今回発表された研究結果について、どう評価したらいいのか教えてください。
前田先生
2型糖尿病のあるなしに関わらず、大腸内視鏡検査後から3年以内に大腸がんが発生する危険性は1%以下と非常に低いことがわかりました。
これは内視鏡検査を受けることで、大腸がんへ進展する可能性がある良性の病変を適切に切除することができるからと考えられます。大腸がんによる死亡を減らすためには、大腸内視鏡検査を受けることが有用であることは以前から知られており、そのことが今回の検査結果でも裏付けられました。
また、2型糖尿病の人の方が内視鏡後大腸がんが多い理由は、いくつか考えられます。1つは糖尿病であることで下剤による腸内洗浄をしても腸が綺麗にならないため、がん(または、将来がんになる病変)を見落とす可能性が高くなることです。ほかの理由としては、2型糖尿病のために高血糖状態が続くと、血糖を下げるホルモンのインスリンが多く分泌されることが挙げられます。インスリンは良性の病変ががんへ進展することに寄与するため、2型糖尿病の人は良性の病変がより早くがんになる可能性が考えられます。
したがって、2型糖尿病の人はそうでない人よりもマメに検査を受けて、がんに至る前の病変を事前に治療することが重要です。
まとめ
デンマークの研究者らの発表により、2型糖尿病でない人と2型糖尿病の患者では、初回検査後の内視鏡後大腸がんの発生リスクが44%高かったことが明らかになりました。日本での2型糖尿病は予備軍の人も加えると1000万人以上と推定される国民病とも言われており、今回の発表にも注目が集まりそうです。