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「アルコール性肝障害」を発症すると現れる症状・飲酒以外の原因はご存知ですか?

 公開日:2023/03/01
「アルコール性肝障害」を発症すると現れる症状・飲酒以外の原因はご存知ですか?

飲酒は大人の中でも人気な嗜好の1つで、イベントだけでなく日頃からアルコールを摂取している人も大勢いるでしょう。

アルコールは適度な摂取量であれば、そこまで大きな健康被害はありません。しかし毎日過剰に摂取していると、体へのダメージが大きいことをご存じでしょうか。

特に肝臓はアルコールの影響を受けやすく、体の異変に気付かず飲酒を繰り返していると最悪命を落としてしまう可能性があります。

本記事では、アルコール性肝障害に関する病態・症状・原因・治療法などについて解説します。日頃から過剰に飲酒を繰り返している人は、最後まで目を通してみてください。

郷 正憲

監修医師
郷 正憲(徳島赤十字病院)

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徳島赤十字病院勤務。著書は「看護師と研修医のための全身管理の本」。日本麻酔科学会専門医、日本救急医学会ICLSコースディレクター、JB-POT。

アルコール性肝障害の症状と原因

二日酔いの男性

アルコール性肝障害とはどのような病気でしょうか?

アルコール性肝障害とは、5年以上の長期にわたる過度の飲酒が肝障害の主な要因となっている病気です。
アルコール性肝障害は飲酒量が多く、飲酒期間が長いほど発症しやすくなります。アルコール性肝障害の特徴はB型肝炎やC型肝炎と異なり、自分自身の意思で予防できるという点です。
しかし事実として予防できない人が多いため、アルコール性肝障害を発症している割合は増加しています。
アルコール性肝障害には病型が複数あり、アルコール性脂肪肝・アルコール性肝繊維症・アルコール性肝炎・アルコール性肝硬変などがあります。
肝臓への脂肪蓄積はアルコールに対する初期反応です。常習飲酒家の約90%に脂肪肝を認め、その内約10〜20%の人はアルコール性肝炎へ移行します。
重症アルコール肝炎の場合禁酒しても肝腫大が持続し、多くの合併症を併発するだけでなく、発症後1ヶ月以内で死亡するというデータがあります。
生存率は1998-2002年で33.6%・2003年で67%と改善傾向ではありますが、消化管出血と感染症の合併症が死亡率増加に関与しており、早期発見や早期治療が重要です。

具体的な症状を教えてください。

アルコールを常習している人は、ほとんど必然的にアルコール性脂肪肝を発症します。その症状は倦怠感・疲れやすい・食欲不振・嘔気・右肋骨下の痛みなどがあります。
ただし症状があることはで、腹部超音波検査で発見されることが多いです。
アルコール性肝障害の程度でとどまっていれば断酒で改善が見られますが、肝硬変まで至ってしまうと改善しない場合もありますから、アルコールによる肝障害を指摘された場合はすぐに断酒をするように心がけましょう。
アルコール性肝障害は症状を自覚しにくく、飲酒を続けてしまうと今度はアルコール性肝炎を発症するリスクが高くなります。
アルコール性肝炎では腹痛・発熱・黄疸などの症状がみられ、死亡する危険性もあります。
アルコール性肝炎の診断がついた人のほとんどは断酒ができないほどのアルコール依存症になっている状態が多いです。
アルコール性肝炎が運よく改善しても、また飲酒を再開してしまうと今度はアルコール性肝障害の最終段階であるアルコール性肝硬変へ移行してしまいます。
日本酒約7合を毎日10年以上飲酒し続けた場合は約20%、20年以上飲酒した場合約50%の人が発症するといわれています。アルコール性肝硬変の重大な症状は腹水・黄疸・吐血などです。
肝硬変は治らないというわけではなく、アルコールが原因であれば禁酒すれば症状の改善が期待できます。
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれているので、自覚症状があった時点で既に発見が遅く治療が困難な状態なので、早期発見が何よりも大切です。
飲酒を常習的に行っている人は定期的に血液検査や超音波検査を受けるようにしてください。

見た目では痩せていても重症化の可能性があるのですね。

脂肪肝は肥満の人だけでなく、見た目が痩せている人でも重症化している可能性があります。脂肪肝の発症要因の1つがBMI高値です。
BMI>30の人の約80%は脂肪肝を発症しているといわれていますが、BMI<25で約10%以上の人が肥満ではない状態でも、脂肪肝が確認されています。
若い頃痩せ型で体重が5〜10kg増加しても肥満でない場合や、以前にスポーツをしていてやめた後に筋肉量の減少脂肪の増加で体重や体型にあまり変化がない場合もあります。
肝臓は沈黙の臓器と呼ばれているため、自分は痩せているから大丈夫と安心するのは危険です。痩せ型でも飲酒を常習的にしていれば肝障害を発症している可能性はあるので、定期的に血液検査を行って肝障害の早期発見につなげられるようにしましょう。

飲酒以外に原因はありますか?

肝障害は肝臓の機能が障害されている状態をいいますが、アルコール以外にも原因はあります。
肝機能障害の主な原因はアルコールだけでなく、B型・C型肝炎ウイルスによる肝炎・薬剤の服用によって起こる薬物性肝障害・自己免疫の異常で起こる自己免疫性肝障害など様々です。
肝臓の病気はどの原因であっても、病状が慢性的に進行すると最終的に肝硬変から肝不全に行き着きます。
しかし肝硬変になるスピードは病態によって異なり、アルコールが原因で急速に進行する可能性がある場合や、C型肝炎のように20〜30年かかって徐々に肝硬変に向かっていく場合もあります。
劇症肝炎は肝臓が一気に破壊され、1〜2週間で死亡することもありとても危険です。
日頃から飲酒していない人でも肥満の人は肝障害を認めることが多く、高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病を合併している人は、特に肝障害を発症する傾向にあります。

アルコール性肝障害の検査と治療方法

研究する女性

受診するタイミングを教えてください。

肝臓は沈黙の臓器なので、自覚症状が出現した時点で発見が遅い場合が多いです。
倦怠感右肋骨下の痛み黄疸などの症状を自覚した際は肝機能障害の疑いがあるため、早めに医療機関へ受診しましょう。
また、肝障害を早期発見するためには定期的に健康診断や人間ドックなどで、血液検査を行うことが大切です。
血液検査でよく指摘されるのはASTやALTなどの肝機能異常です。血液検査で異常を指摘された場合は、医療機関へ受診し精密検査を受けましょう。
その時点では脂肪肝の状態で発見されることが多いです。脂肪肝であれば約1ヶ月ほど禁酒すれば改善が期待できるので、肝障害はどれだけ早く異常を発見できるかがとても重要です。
自覚症状があるから受診するのではなく、少なくとも年に1回は必ず健康診断を受けて血液に異常がないか調べてください。

どのような検査で診断されますか?

アルコール性肝障害は、以下の3つを評価して診断がつきます。

  • 肝機能異常の評価
  • 飲酒歴の確認
  • アルコール以外の原因による肝障害の除外

診断に必要な検査は主に血液検査です。
脂肪肝や肝炎は血液検査で診断できますが、肝硬変に関しては必要に応じて超音波検査CT検査も行います。
肝障害の診断基準は以下の通りです。

  • 過剰飲酒:1日平均純エタノール60g以上の飲酒
  • 女性やALDH2欠損者は1日40g程度の飲酒でもアルコール性肝障害が起こる
  • 禁酒により血清AST・ALT・γ-GTPが明らかに改善する
  • 肝炎ウイルスマーカー・抗ミトコンドリア抗体・抗核抗体がいずれも陰性である

また肥満者は1日平均純エタノール60gの飲酒に満たない場合でも、アルコール性肝障害を発症する可能性があります。因みに各種アルコール含有量は、以下の通りです。

  • ビール中瓶500ml:20g
  • 日本酒1合180ml:22g
  • 焼酎1合180ml:50g
  • ワイン1杯120ml:12g
  • ウイスキーダブル60ml:20g

断酒以外の治療方法を教えてください。

アルコール性脂肪肝に関しては断酒のみで改善されますが、過栄養を伴う生活習慣病を併発していることが多いので必要に応じて減量・糖質制限・脂質制限などの栄養管理を行います。
アルコール性肝炎を発症している人は、タンパク質やカロリー、他にも様々な栄養素が欠乏している状態なので高タンパク(1.5g/kg/日)高エネルギー食(35kcal/kg/日)を摂取します。またビタミン(ビタミンA・B・D・葉酸)や亜鉛といったミネラルも不足しているので、補充が必要です。
長期間の飲酒でビタミンB1が欠乏すると、多発神経炎やウェルニッケ脳症をきたし、ビタミンB12が欠乏すると大球性貧血や末梢神経炎を発症することがあります。
また、マグネシウムが不足していると振戦・せん妄などの症状が出ることもあるので、必要に応じて適宜補充します。
過剰に飲酒している人はアルコールの利尿作用による脱水や、乳酸の過剰摂取によってアシドーシスという体が酸性に傾く状態になってしまう可能性があるのです。
そのため乳酸を含む食材を不用意に投与すると、乳酸アシドーシスを引き起こしてしまう可能性があるので注意が必要です。
ほか重度のアルコール性肝炎では低脂肪食で改善される、抗酸化剤とステロイドの併用によって生存率が上がったというデータもあります。
肝硬変ではタンパク制限アミノ酸(BCAA)投与を行いますが、難治性の腹水がある場合は腹水穿刺・腹水濾過濃縮再静注法(CART)・腹腔シャントといった治療法を行うこともあります。
ただし、CARTなどは腹水の治療ではなく、腹水に対する対症療法であり、原因を解除する治療ではありません。
基本的には腹水が貯留してしまうと低タンパク血症や易感染性など多くの合併症が起こるため、腹水が貯留するような肝障害に至る前に治療を開始する必要があるといえるでしょう。

アルコール依存症の患者さんは専門的な治療が必要なのですね…。

まず大前提としてアルコール依存症を脱するためには断酒しなければなりません。
ですがアルコール依存症の人は、飲酒がコントロールできない状態なので、量や回数を減らそうとすると最初は可能であっても長期間行うのは自力だととても困難です。
飲酒問題を認めないことを克服することが、アルコール依存症の回復への近道です。
飲酒によって起きてしまった問題を家族や周囲の人が尻拭いしてしまうと、本人が問題を認めることを遠ざけてしまう結果になってしまいます。
回復するためには、家族の人が手助けしすぎないことも重要です。また回復に必要なのは、アルコール依存症の専門的な治療を行っている医療機関への受診やAAや断酒会といった、自助グループへの参加が大切です。
自分の意思だけでアルコール依存症を克服するのは、なかなか困難です。まずはアルコール依存症の専門である医療機関を受診し、しっかりと診断や治療を受け、断酒するための方法を専門家と相談することが回復への1番の近道になります。

アルコール性肝障害の予防方法と注意点

止める医者

完治することはありますか?

アルコール性肝障害が完治するかどうかは病態によって異なります。
アルコール性脂肪肝の場合は、3〜4週間ほど禁酒すれば改善します。
アルコール性肝炎も基本的には禁酒によって改善されますが、肝炎が重症化し消化管出血・腎不全・重篤な感染症を合併してしまうと1ヶ月以内に死亡することがあるので、注意が必要です。
肝硬変を発症した場合、症状のない状態で禁酒をすると正常にまでは回復しませんが、病状を抑制することは可能です。
しかし肝硬変になっても飲酒を続け症状が悪化してしまうと、腹水・黄疸・肝性脳症などの肝不全を生じてしまいます。
肝硬変は不治の病といわれてきましたが、血液検査や超音波検査などで早期発見することにより病状を抑えられるようになりました。
ですが肝硬変は完治が難しく、どれだけ早い段階で肝障害を発見できるかがとても重要です。

若い方にも発症する可能性があるのですね。

国内では戦後からアルコール消費量が増え、その影響でアルコール性肝障害を発症する人も増加しました。
実際に男性だと20代がアルコール性肝障害を発症しやすいというデータがあります。
アルコール消費量が増えた背景には、経済の進歩やストレスの増加などが関与しています。
また近年減少傾向ではありますが、未成年での飲酒もアルコール依存を引き起こす要因です。
実際都内でアルコール中毒によって搬送された人の約半数以上が10・20代ということもあり、若年者もアルコール依存やアルコール性肝障害を発症する可能性は十分に考えられます。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

肝臓は沈黙の臓器なので、よほど症状が進行していないと症状が現れない臓器です。
そのため日頃から過剰に飲酒している人は、自覚症状がなくとも定期的に血液検査を受けるようにしてください。
またアルコール性肝障害の発見には血液検査を行いますが、AST・ALT・γ-GTPに注目してください。
特にγ-GTPが高値の場合は、アルコールの飲み過ぎということになるので節酒が大切です。
またASTやALTの上昇も認められた場合は肝炎の疑いがあるので、断酒が必要です。
アルコール性肝炎の場合は、半数以上の人がアルコール依存となっているので自力で何とか解決しようとするのではなく、専門の医療機関へ受診し適切な治療を受けるようにしてください。
アルコール性脂肪肝やアルコール性肝炎であれば禁酒で改善できるだけでなく、アルコール性肝硬変も症状を抑えられます。
肝障害の予防・進行のためには、自分がどれだけ早くアルコール依存と向き合えるかがとても重要です。

編集部まとめ

こちらを見つめる医者
アルコール性肝障害は、症状を自覚しにくく発見時には病状が進行していることが多いです。早期発見のためには、定期的に血液検査を行う必要があります。

また禁酒すると改善が期待できる病態もあるので、自分で禁酒や節酒が難しいようであれば専門の医療機関へ受診し、医師に相談しましょう。

適度な飲酒を心がけて、体へ負担をかけないよう意識しながらお酒を楽しんでください。

この記事の監修医師