山本先生
中咽頭がんが発覚したときの状況を教えていただけますか?
ワッキーさん
背伸びをしながら首を触ったときに、首の左側にしこりができているのに気づいて「あれ? こんなのなかったよなぁ」と思いながら、近くの耳鼻咽喉科に行ったんです。すると病院の先生から「うちではわからないから」と、大学病院を紹介されました。その病院でしこりから組織を取って検査し、1週間ほど経って、先生から「がんです」と言われました。
山本先生
しこりは硬かったですか?
ワッキーさん
いえ、硬くはなかったです。痛みもなくて……。最初は1個でしたが、それが1週間くらいすると2個になっていました。
山本先生
がんを宣告されたときの心境はいかがでしたか?
ワッキーさん
信じられなかったです。「がん」というワードがあまりに強すぎて、一瞬で心臓がバクバクしました。僕はたばこも吸わないし、お酒もほとんど飲まないし、運動も適度にしている「THE健康体」みたいな人間だと思っていましたから。自分の中では、あまりにかけ離れてすぎていたんで、何回も聞き直してしまいました。
山本先生
その時はまだ頸部にがんがあることしか分かっていなかったんですよね?
ワッキーさん
はい。「原発」はまだわからない状態でした。「原発」について、読者の方にわかりやすく説明しないといけませんね。がんに本店と支店があるとしたら、僕の場合は、最初に支店を見つけたんですよ。そこで「本店がどこなんだ?」と探すわけです。本店が胃に見つかれば胃がんですし、肺に見つかれば、肺がんになるわけです。先生、こんな説明で良いでしょうか?
山本先生
はい、素晴らしいです(笑)。がんだと知った時、ご家族の反応はいかがでしたか?
ワッキーさん
実は1カ月くらいは言えなかったんです。仕事のことがあったので、マネージャーにだけは伝えたんですが、それ以外の人には、妻にも子どもにも親にも言えませんでした。でも、何回も病院に行くので、ごまかしきれなくなって、妻に言ったんです。すると、妻は取り乱すこともなく、「そうなんだ」と言うだけでした。どっしりしていてくれたのは、すごくありがたかったです。
山本先生
素敵な奥さんですね。
ワッキーさん
心強かったです。先生、そもそも僕がかかった中咽頭がんとは、どんな病気なんでしょうか?
山本先生
中咽頭というのは口を開けた一番奥の場所のことで、そこに発生するがんのことを言います。耳鼻科で扱うがんの約10%を占めていて、男性に多い病気です。その比率は女性の約3〜5倍にのぼります。咽頭がんは増加傾向にあり、以前から喫煙や飲酒との関連が深いと考えられていますが、近年は、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染と関連があると言われています。
ワッキーさん
僕は発覚当時、喉に痛みは全くなかったんですが、自覚症状がでないことも多いのでしょうか?
山本先生
咽頭がん、は表面ではなく奥の方にがんのかたまりができることがあり、そのようなケースではパッと見ただけではわかりにくく、症状も自覚しにくいです。特に初期段階では違和感がある程度で、進行するとともに痛みや出血、頸部の腫れなどにより発覚することが多いですね。
ワッキーさん
僕のケースとは逆に、転移せずに原発だけが大きくなっていくケースもあるんですか?
山本先生
もちろん、あります。通常は、喉に症状が出て、その後に頸部に症状が現れることが多いです。ワッキーさんはどのようにして原発が見つかったんですか?
ワッキーさん
僕の場合は、何回検査しても原発が見つからなかったんです。セカンドオピニオンでがん専門病院にも行きましたが、それでも見つからなくて……。しばらく原発不明のがんでした。そこでまずは頚部にできた2つのがんを取り除こうという流れで進んでいたのですが、主治医の先生が、最後の最後に「もう1回だけ触らせて」と言って、僕の喉の奥をグリグリと触るんですよ。そして奥の方の肉を切り取って組織を調べたところ、中咽頭がんだとわかりました。