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健康体でも侮れない 体育会系芸人ワッキーも味わった「中咽頭がん」の恐怖 健康体でも侮れない 体育会系芸人ワッキーも味わった「中咽頭がん」の恐怖

2020年6月、お笑いコンビ「ペナルティ」のワッキーさん(49)に転機が訪れました。中咽頭がんが発覚したのです。ギャグやモノマネで、お茶の間に笑いを届けてきたワッキーさんは、実はお笑い界随一のスポーツマンで、生活習慣も健全そのものだったと言います。そんなワッキーさんを襲った中咽頭がんとは一体どんな病なのか? そして後遺症と戦ういま、ワッキーさんがお茶の間に伝えたいこととは?

ワッキーさん
インタビューワッキー(お笑い芸人)
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1972年生まれ。北海道出身。吉本興業所属のお笑い芸人。1994年に高校・大学の先輩であるヒデとお笑いコンビ「ペナルティ」を結成。濃いキャラクターやギャグで人気を博す。またお笑い界随一のスポーツマンで、サッカーは名門・市立船橋高校で全国高校サッカー選手権に出場したほどの実力をもつ。
山本一博
監修医師山本一博(耳鼻咽喉科専門医)
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北里大学医学部卒業。大学病院や地域の中核病院で経験を積み2008年に東京都町田市にて「山本耳鼻咽喉科」を開院。「患者さまが笑顔で帰っていただける診療」をモットーに医療を実践中。日本耳鼻咽喉科学会認定耳鼻咽喉科専門医。
chapter01 自覚症状がない? ワッキーが中咽頭がんを見つけたとき chapter01 自覚症状がない? ワッキーが中咽頭がんを見つけたとき

山本先生山本先生

中咽頭がんが発覚したときの状況を教えていただけますか?

ワッキーさんワッキーさん

背伸びをしながら首を触ったときに、首の左側にしこりができているのに気づいて「あれ? こんなのなかったよなぁ」と思いながら、近くの耳鼻咽喉科に行ったんです。すると病院の先生から「うちではわからないから」と、大学病院を紹介されました。その病院でしこりから組織を取って検査し、1週間ほど経って、先生から「がんです」と言われました。

山本先生山本先生

しこりは硬かったですか?

ワッキーさんワッキーさん

いえ、硬くはなかったです。痛みもなくて……。最初は1個でしたが、それが1週間くらいすると2個になっていました。

山本先生山本先生

がんを宣告されたときの心境はいかがでしたか?

ワッキーさんワッキーさん

信じられなかったです。「がん」というワードがあまりに強すぎて、一瞬で心臓がバクバクしました。僕はたばこも吸わないし、お酒もほとんど飲まないし、運動も適度にしている「THE健康体」みたいな人間だと思っていましたから。自分の中では、あまりにかけ離れてすぎていたんで、何回も聞き直してしまいました。

山本先生山本先生

その時はまだ頸部にがんがあることしか分かっていなかったんですよね?

ワッキーさんワッキーさん

はい。「原発」はまだわからない状態でした。「原発」について、読者の方にわかりやすく説明しないといけませんね。がんに本店と支店があるとしたら、僕の場合は、最初に支店を見つけたんですよ。そこで「本店がどこなんだ?」と探すわけです。本店が胃に見つかれば胃がんですし、肺に見つかれば、肺がんになるわけです。先生、こんな説明で良いでしょうか?

山本先生山本先生

はい、素晴らしいです(笑)。がんだと知った時、ご家族の反応はいかがでしたか?

ワッキーさんワッキーさん

実は1カ月くらいは言えなかったんです。仕事のことがあったので、マネージャーにだけは伝えたんですが、それ以外の人には、妻にも子どもにも親にも言えませんでした。でも、何回も病院に行くので、ごまかしきれなくなって、妻に言ったんです。すると、妻は取り乱すこともなく、「そうなんだ」と言うだけでした。どっしりしていてくれたのは、すごくありがたかったです。

山本先生山本先生

素敵な奥さんですね。

ワッキーさんワッキーさん

心強かったです。先生、そもそも僕がかかった中咽頭がんとは、どんな病気なんでしょうか?

山本先生山本先生

中咽頭というのは口を開けた一番奥の場所のことで、そこに発生するがんのことを言います。耳鼻科で扱うがんの約10%を占めていて、男性に多い病気です。その比率は女性の約3〜5倍にのぼります。咽頭がんは増加傾向にあり、以前から喫煙や飲酒との関連が深いと考えられていますが、近年は、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染と関連があると言われています。

ワッキーさんワッキーさん

僕は発覚当時、喉に痛みは全くなかったんですが、自覚症状がでないことも多いのでしょうか?

山本先生山本先生

咽頭がん、は表面ではなく奥の方にがんのかたまりができることがあり、そのようなケースではパッと見ただけではわかりにくく、症状も自覚しにくいです。特に初期段階では違和感がある程度で、進行するとともに痛みや出血、頸部の腫れなどにより発覚することが多いですね。

ワッキーさんワッキーさん

僕のケースとは逆に、転移せずに原発だけが大きくなっていくケースもあるんですか?

山本先生山本先生

もちろん、あります。通常は、喉に症状が出て、その後に頸部に症状が現れることが多いです。ワッキーさんはどのようにして原発が見つかったんですか?

ワッキーさんワッキーさん

僕の場合は、何回検査しても原発が見つからなかったんです。セカンドオピニオンでがん専門病院にも行きましたが、それでも見つからなくて……。しばらく原発不明のがんでした。そこでまずは頚部にできた2つのがんを取り除こうという流れで進んでいたのですが、主治医の先生が、最後の最後に「もう1回だけ触らせて」と言って、僕の喉の奥をグリグリと触るんですよ。そして奥の方の肉を切り取って組織を調べたところ、中咽頭がんだとわかりました。

chapter02 コロナ禍でさらに大変になった? 中咽頭がんの治療と闘病生活 chapter02 コロナ禍でさらに大変になった? 中咽頭がんの治療と闘病生活

山本先生山本先生

診断後、どのような治療を受けられましたか?

ワッキーさんワッキーさん

僕の場合は、いわゆる化学放射線療法で、放射線と抗がん剤を併用してがんをやっつけるという治療で、入院期間は2カ月でした。中咽頭がんには、ほかにどんな治療方法があるのでしょうか?

山本先生山本先生

早期のがんであれば放射線療法や化学放射線療法で対処するケースが多いです。がんが進行していれば、外科手術という選択肢が加わります。がんの部位や、大きさ、転移しているかなどで取るべき治療方法は変わりますが、患者さんの年齢や体調、お仕事などの生活背景、飲み込むことや発声などの、術後の機能温存も考えながら最良の方法を決めていくことになります。 放射線治療や抗がん剤治療の副作用はいかがでしたか?

ワッキーさんワッキーさん

放射線治療を始めて10日間くらいしたら、徐々に味覚がなくなっていきました。あとは、抗がん剤の副作用で、喉の痛みや吐き気と戦っていました。

山本先生山本先生

入院中は、コロナ禍ということもあって、大変だったでしょう?

ワッキーさんワッキーさん

これまで長く入院した経験がなかったので、不安はありました。ドラマや映画で入院しているシーンがあると、必ず家族や友達がお見舞いに来るじゃないですか。でも、コロナ禍でしたので、そんな場面はなくて……。人に会えないのはキツかったですね。ただ、看護師さんや先生がいてくれたし、スマホで家族とテレビ電話ができたので、ひとりで寂しい思いをしたという感じではなかったです。僕よりも、看護師さんや先生など、ケアをしてくれる方々が、毎回防護服を脱いだり、マスクを変えたりして大変そうでした。

山本先生山本先生

ちょうどその頃は、新型コロナウイルスが猛威を振るっていた時期ですので、余計に大変だったでしょうね。実は私の妻が同じ時期に入院していまして、やはり面会ができなくて、オンラインで対面していました。でも、オンラインでは感じ取れないこともあるので、すごく不安な気持ちに駆られたことを覚えています。

ワッキーさんワッキーさん

入院している本人よりも家族の方が、会いに行けない不安やストレスがあるのかもしれませんね。

chapter03 後遺症にどう対処? リハビリ生活から復帰までの道のり chapter03 後遺症にどう対処? リハビリ生活から復帰までの道のり

山本先生山本先生

退院してしばらく経ちますが、後遺症はいかがですか?

ワッキーさんワッキーさん

2カ月の治療を終えた頃には、完全に味が分からなくなり、唾液も全く出なくなり、喉がめちゃめちゃ痛いという3つの苦しみを味わいました。退院後は、喉が痛くて全く食べられなかったので、あらかじめ空けておいた「胃ろう」から、体に栄養を摂り入れていました。家族みんなで「いただきます」と言って、僕だけは胃ろうから栄養を摂っていました笑。

山本先生山本先生

胃ろうによる栄養摂取はどのくらい続きましたか?

ワッキーさんワッキーさん

退院してから1カ月弱です。少しでも食べながら、胃ろうの割合を減らしていって、最終的に胃ろうを取りました。だから、後遺症として今も残っているのは味覚の問題と唾液の問題ですね。

山本先生山本先生

退院してからどれくらい経ちますか?

ワッキーさんワッキーさん

1年3カ月ほど経ちました(2020年8月に退院)。でも、いまでも唾液は以前の3割くらいしか出ないし、味覚は5割くらいしか戻っていません。こうして喋っていてもすぐ喉が渇いちゃうし、大好きだったものを食べても、「うーん、美味いかなぁ?」と感じる程度なんです。いまはそれが当たり前だと考えるように切り替えてやっていますけどね。このように後遺症に悩む人は多いんですか?

山本先生山本先生

放射線療法の場合、初期は喉の痛み、その後は喉の渇き、そして味覚障害という3つが主な後遺症です。個人差があるので、一概には言えませんが、年単位でだんだん回復していくと思います。放射線によって、唾液を作る唾液腺が影響を受けますので、唾液の量はどうしても少なくなってしまうんですよね。

ワッキーさんワッキーさん

では、リハビリは、どんなことをしたらいいんしょうか?

山本先生山本先生

唾液はとても大事なもので、口内の潤滑油の役割を果たすとともに、口内洗浄・殺菌の役割も担っています。ばい菌が入ってくるのを防いでくれるので、唾液の量が少ないと、虫歯や歯周病、口内炎などの症状が現れてしまいます。また口内に潤いがなくなるので、ワッキーさんのような喋る仕事だとどうしても影響を受けてしまいがちです。なので、うまく付き合いながら、徐々に症状を良くしていくことになると思います。リハビリとしては、うがいをしてばい菌を口内に入らないようにする、歯磨きをして歯を清潔にする、唾液が出るようによく噛んで食べる、マッサージをして唾液腺を刺激するなど、地道な努力が必要になります。 ところで、ワッキーさんはどのようなリハビリをされましたか?

ワッキーさんワッキーさん

よく噛んで、頭で味をイメージしたり、匂いからどうにか味にたどり着くように記憶を頼って「こんな味だったよな」って自分に落とし込みながら食べたりして、食べること自体を楽しくしようと心がけていました。ただね、どうしても早く食べてしまいたくなるんですよ。「どうせ味が分からないなら、エネルギーだけ摂ればいいだろう」って。

山本先生山本先生

イメージすることはすごくいいと思います。実は、嗅覚が低下した場合にも、自分の好きだったにおいを嗅いで想像するというトレーニング方法があるんです。その点では、奥様をはじめご家族の協力もすごく重要だと思います。

ワッキーさんワッキーさん

妻には、子どもを中心に考えてもらいたいから、「俺に偏らなくていいよ」って言っています。「何か食べたいな」と感じたときに、なるべく自分で作るようにしているので、料理のレパートリーは増えたかもしれません。

山本先生山本先生

やはり好きな物を食べるのがいいと思います。

ワッキーさんワッキーさん

もともと好きだったものは、味が分からなくなっても、多少は美味しく感じられるんです。本当の好物って、いつまでたっても好物なんだなと思いますね。

chapter04 ワッキー、専門医とともに考える中咽頭がんの予防策 chapter03 ワッキー、専門医とともに考える中咽頭がんの予防策

山本先生山本先生

再発防止について、何か注意していることはありますか?

ワッキーさんワッキーさん

気を付けていることと言えば、お酒くらいですね。もともとそんなに飲めるタイプではなかったんですけど、がんになってから、お酒が本当に弱くなったんです。 だから、みんなで集まって飲みたいと感じたときに、少しビールを飲む程度にしています。その方が、喉にとってもいいのかなと……。ほかに予防のために、気を付けないといけないことはありますか?

山本先生山本先生

やはりお酒とたばこは、注意したほうがいいと思います。お酒に関しては、飲んで顔がすぐに赤くなるような人は要注意です。たばこは、1日に吸う本数×喫煙年数が600を超えている人はリスクが高いと言われています。またがん検診も重要です。しかし肺がん、胃がん、乳がん、などは市区町村で検診が行われていますが、中咽頭がんの検診システムがないので、「おかしいな」と思ったときはすぐに病院に行くことをオススメします。あとはHPVワクチンですね。男性では咽頭がんや肛門がん、女性では子宮頸がんなどに有効とされるワクチンで、日本では、昨年の12月から男性に対して適用範囲が拡大されました。費用は3回の注射でおよそ5~10万円くらいです。海外のデータを見てみますと、40か国くらいが公費で接種できており、まずはそういった国の人たちから普及が進んでいくのではないかと思います。

ワッキーさんワッキーさん

ワクチンが広まるといいですね。

山本先生山本先生

ワッキーさんは、今回の経験を踏まえて、読者の皆さんにどんなことを伝えたいですか?

ワッキーさんワッキーさん

がんに対する知識を持ちながらも、びくびくしすぎてストレスをためてしまうことがないよう、自由に生活して欲しいなと思います。あと、定期健診はこまめに受けてもらいたいですね。

編集部より

シリアスな雰囲気になってもおかしくないテーマでしたが、場の空気を和ませようと、周囲を気遣うワッキーさんに助けていただき、良い雰囲気で取材ができました。取材中にも喉が渇いて頻繁に水を飲むなど、ワッキーさんの後遺症との戦いは続いていると感じました。いつか、完全にがんを克服し、全開でお笑いをお茶の間に届けてくれることを心待ちにしています。

書き手:瀬川泰祐(せがわたいすけ) 久喜市在住のスポーツライター。株式会社カタル代表取締役。HEROs公式スポーツライター。Yahoo!ニュース個人オーサー。ファルカオフットボールクラブ久喜代表。ライブエンターテイメント業界やWEB業界で数多くのシステムプロジェクトに参画し、サービスをローンチする傍ら、2016年よりスポーツ分野を中心に執筆活動を開始。リアルなビジネス経験と、執筆・編集経験をあわせ持つ強みを活かし、2020年4月にスポーツ・健康・医療に関するコンテンツ制作・コンテンツマーケティングを行う株式会社カタルを創業。取材テーマは「Beyond Sports」。社会との接点からスポーツの価値を探る。 公式サイト:https://segawa.kataru.jp

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