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特集「脳梗塞」 高齢者に限らない脳のリスクとは? 大橋未歩アナウンサーが振り返る「若年性脳梗塞」 フリーアナウンサー 大橋 未歩さん 特集「脳梗塞」 高齢者に限らない脳のリスクとは? 大橋未歩アナウンサーが振り返る「若年性脳梗塞」 フリーアナウンサー 大橋 未歩さん

高齢者がなる病気」というイメージがつきまとう「脳梗塞」。けれど、若くても、健康診断で異常が見当たらなくても、発症する場合があることを知っていましたか? テレビ東京の人気アナウンサーとして活躍していた大橋未歩さんが倒れたのは34歳のとき。「体力には自信があった」はずの大橋さんの経験談を通して、脳梗塞の原因から予防まで、元脳外科医で現在は品川ストリングスクリニック院長の山王直子先生と対談していただきました。

大橋 未歩さん

インタビュアー
大橋 未歩(フリーアナウンサー)

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1978年兵庫県生まれ。上智大学卒業、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士取得。2002年テレビ東京入社、3大会の夏季五輪キャスターを務める。2013年に脳梗塞を発症し、休職。療養期間を経て同年9月に復帰する。2017年テレビ東京退社。2018年3月よりフリーとして活動を開始。同年8月パラ卓球のアンバサダーに就任。2019年より「東京2020パラリンピックの成功とバリアフリー推進に向けた懇談会」メンバー、パラ応援大使に就任。現在はMXテレビ『5時に夢中!』ニッポン放送『大橋未歩金曜ブラボー』スカパー『アスリートプライド』に出演中。
山王 直子先生

監修医師
山王 直子(品川ストリングスクリニック院長)

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医学博士。脳神経外科専門医、日本頭痛学会専門医、健康スポーツ医。横浜市立大学医学部卒業後、研修を経て米国メイヨークリニックに留学。脳下垂体の研究にて博士号を取得。1997年より日本医科大学脳神経外科講師。1999年、日本医科大学多摩永山病院勤務。2002年、同脳神経外科部長。自覚症状がないままに病が進行している人を数多く診てきた経験から、予防医学を前面に行うべく2004年4月に品川駅前に内科・脳神経外科山王クリニックを開設。2021年5月に品川ストリングスクリニックに名称変更。わかりやすく親しみのある人柄でメディアでも活躍中。
chapter01 脳梗塞とはどんな病気? chapter01 脳梗塞とはどんな病気?

大橋 未歩さん大橋さん

脳梗塞の一般的な症状を教えてください。

山王先生山王 直子先生

脳のどの部分が詰まるかによって異なりますが、いちばん多いのは運動麻痺です。中でも、たとえば右脳が詰まれば左半身に運動麻痺の症状が起こる「片麻痺」が有名です。このとき感覚障害も同時に起きますので、左手に触れても何も感じなくなります。大橋さんは34歳のときに脳梗塞を経験していますが、どのような症状が出ましたか?

大橋 未歩さん大橋さん

まったく同じ症状です。夜、洗顔中に右手が左手に触れたのですが、左手の感覚がなくてまるでマネキンに触っているようでした。とくに気にも留めず洗顔を終えたのですが、左手で取ったはずのクリームの容器を落としてしまい、散乱したクリームを拾おうとした瞬間に倒れてしまったんです。

山王先生山王 直子先生

典型的な脳梗塞の症状ですね。ほかにも、脳梗塞には言語障害意識障害といった症状もありますが。

大橋 未歩さん大橋さん

両方とも当てはまります。家族がすぐに来て救急車を呼んでくれたのですが、私は「大丈夫」と言おうとしても「らいじょうぶ」、「保険証」と言おうとしても「ほけんひょう」になってしまいました。そのあとの意識は断片的で、よく思い出せません。

山王先生山王 直子先生

大橋さんは脳内の言語中枢の中でも、言葉を発する部分の血管が詰まったのでしょう。あとはものが二重に見えるとか、お顔の麻痺が出ることもよくあります。

大橋 未歩さん大橋さん

私の顔も左半分が垂れ下がっていたそうで、家族は相当驚いたようです。ものが二重に見えていたかどうかは覚えていません。その後15分ぐらいで麻痺が消失し、意識も鮮明になってきたのですが、MRIを受けた結果、脳梗塞が4か所見つかりました。幸いリハビリも不要でした。いまは後遺症もありません。

山王先生山王 直子先生

一般的に脳梗塞は発症後4.5時間以内に詰まった血管が再開通しないと、後遺症が残ってしまいます。主な後遺症には運動障害や感覚障害、失語症のほか、思考や判断力が低下したり記憶障害を起こす高次機能障害などがあります。後遺症を防ぐためには、発症から3か月間のいちばんつらい時期にリハビリをすることが肝心ですので、それをしないで済んだのはよかったです。

大橋 未歩さん大橋さん

はい。ただ、当時は「どうしてこんなことになってしまったんだろう」と幾度も考えました。まだ34歳でしたし、健康診断でも何も引っかかったことがなかったので……。私の場合は「内頚動脈解離」といって、右側にある太い血管の内膜に亀裂が入り、血栓ができたことが脳梗塞を発症した原因でした。

山王先生山王 直子先生

動脈は「内膜」「中膜」「外膜」の三層構造になっていて、内膜になんらかの亀裂が入ってそこに血液が入り込むと、血栓ができて内腔が狭くなってしまうんです。ただ、一般的に内頚動脈狭窄は動脈硬化によって起こります。大橋さんは健康診断で問題がなかったということですので、内頚動脈解離を起こしたのは不慮の事故のようなものでしょうね。

大橋 未歩さん大橋さん

動脈硬化は、内頚動脈解離に限らず、脳梗塞全体を発症させる主な原因といえますか?

山王先生山王 直子先生

はい。高血圧や糖尿病、高コレステロール血症などのいわゆる「生活習慣病」によって血管が傷むと動脈硬化を引き起こし、そこから脳梗塞を発症します。それが、脳梗塞は高齢の方に多い病気といわれるゆえんです。

大橋 未歩さん大橋さん

脳梗塞になる原因は生活習慣のほかにもありますか?

山王先生山王 直子先生

脳梗塞の原因は動脈硬化以外にも脳動脈解離や先天的な疾患で脳の血管が細くなる「もやもや病」などさまざまですが、一番多い原因の動脈硬化は生活習慣で予防できるので、気をつけたいですね。

大橋 未歩さん大橋さん

過去の私自身がまさにそうでしたが、「自分は若いから脳梗塞の心配はない」とは言い切れないものですね。

chapter02 ただの頭痛と思っていませんか?脳梗塞の前兆について chapter02 ただの頭痛と思っていませんか?脳梗塞の前兆について

大橋 未歩さん大橋さん

では、脳梗塞の前兆について教えてください。

山王先生山王 直子先生

若い方に注意していただきたいのは頭痛ですね。当院でも、片頭痛を訴える若い女性が少なくありません。そこでMRIを撮ると「隠れ脳梗塞」を疑うケースが多いんです。

大橋 未歩さん大橋さん

じつは私も頭痛持ちです!

山王先生山王 直子先生

そうでしたか。お忙しい仕事ですから、多少の不調があっても頑張りすぎてしまったのではありませんか?

大橋 未歩さん大橋さん

いま思えば、自分の体力を過信していたところはありました。食事も睡眠も不規則でしたが、どこか気力でカバーできると思っていたんです。先生、頭痛以外に気をつけるべき症状はありますか?

山王先生山王 直子先生

一過性脳虚血発作(TIA)」という発作もあるので、こちらも注意が必要です。

大橋 未歩さん大橋さん

脳梗塞の前触れ」と言われているものですね。

山王先生山王 直子先生

はい。脳への血流が一時的に悪くなり、片方の手足のしびれや麻痺、言語障害などが起きるものです。多くは数十分ほどで良くなるのでそのまま放置されがちですが、TIAを起こすと20%の方が90日以内に脳梗塞を起こすリスクがあると言われています。

大橋 未歩さん大橋さん

脳梗塞もTIAも「FAST」という概念が大事だと聞きました。FASTについて先生からご解説いただけますか?

山王先生山王 直子先生

アメリカでは脳梗塞、TIAの代表的な症状を「FAST(ファスト)」と呼び、予防啓発に努めています。「F」は「FACE」の頭文字で、お顔のゆがみ。「A」は「ARM」、腕に力が入らなかったり、物を落としてしまうことです。「S」は「SPEECH」で、うまく喋れないことです。最後の「T」は「TIME」、突然起こるという意味です。TIAの場合はこのFASTが起きてもしばらくすると治ってしまうので、病院に行かないという人がいるんです。でもそれは非常に危険なサインですので、必ず受診していただきたいですね。

大橋 未歩さん大橋さん

私の症状とすべて一致しています。仮にすぐ治まっても、重症化する前に病院に行っていただきたいです! では先生、次に脳梗塞の予防方法を教えて下さい。

chapter03 脳梗塞は予防できるの? chapter03 脳梗塞は予防できるの?

山王先生山王 直子先生

同じ姿勢を長時間続けないことです。同じ姿勢のままですと血流が悪くなり血栓ができやすくなります。さらに水を飲まないと余計に血がどろどろになり、脳梗塞のリスクが高まります。

大橋 未歩さん大橋さん

じつは、私も以前はお水をあまり飲んでいなかったんです。お茶は飲んでいたんですけれど…。

山王先生山王 直子先生

お茶やコーヒーにはカフェインが入っているので、脱水を助長してしまうことがあります。ふだんはお水が望ましいですね。

大橋 未歩さん大橋さん

1日どれぐらいの量を飲めばいいでしょうか。

山王先生山王 直子先生

2リットルぐらいですね。ただ、きちんと食事をとっていれば食事の中に1.5リットルぐらいの水分は含まれています。ただし、とにかくこまめに水分補給をすることが大切です。寝ているとき以外は、「お水を飲まない時間を作らない」よう心がけましょう。

大橋 未歩さん大橋さん

お水以外では何かありますか?

山王先生山王 直子先生

オメガ3系の油が血液をサラサラにしますので、青魚やくるみ、えごま油などもいいでしょう。また、オメガ9系ですがオリーブオイルにも同様の効果があります。

大橋 未歩さん大橋さん

私はお魚よりお肉が好きなので気をつけます。ところで1つ質問なのですが、私は脳梗塞になった原因が結局わからないままなので「自分は血管が弱いのではないか」と不安です。何か手立てはありませんか?

山王先生山王 直子先生

それなら、血管を強くする働きがあるビタミンCがおすすめです。毎日の食生活のなかで自然に取り入れれば十分ですよ。

大橋 未歩さん大橋さん

そうだったんですね! では、血液検査や脳ドックで、事前に予備軍を見つけることはできますか?

山王先生山王 直子先生

最近のMRIはかなり質がよくなっていますので、先ほど言ったような先天的な病気をお持ちの方や頭痛に悩んでいる方、また、ご家族に脳梗塞などの既往がある方がいる場合は、ぜひ検査をおすすめします。そういう心配があることを脳神経外科などでお話いただければ、保険適用も可能です。

大橋 未歩さん大橋さん

私は内頚動脈を広げるためにステントを入れているので、半年に一度頸動脈エコーを受けていますが、これは既往がない方でも受けられますか?

山王先生山王 直子先生

はい。いまはエコーの技術も進んでいますので、心配な方は一緒に検査を受けてみてはいかがでしょうか。それから、いまはMRIにだいたいMRAもついてきます。MRIが脳の断面画像を得る検査なのに対し、MRAは脳血管を立体画像化する検査です。首の血管ぐらいまでは写るので早期発見に役立つでしょう。脳梗塞だけでなく、もやもや病なども発見できます。心臓が悪い方は心エコー検査を受けてみるのもよいでしょう。

大橋 未歩さん大橋さん

私自身のいちばんの反省点は、やっぱり自分の体を過信していたことですね。でも、生まれてからずっと同じ体で過ごすわけですから、消耗していないはずはないと、脳梗塞になって痛感しました。皆さんには「FAST」を合言葉に、ぜひご自身の体をいたわっていただきたいです。山王先生、今日はありがとうございました。

編集部より

34歳という若さで脳梗塞を経験した大橋未歩さん。華やかだけれどハードなアナウンサーという仕事をしているからこそ、「自分の体力を過信していた」という言葉には重みがあります。読者の皆様も、「まだ若いから」と油断せず、カラダが発するサインを見逃さないでください。対談の中で出てきた症状など、1つでも思い当たる節があれば専門医に相談を。

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