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がん治療の1つ「分子標的療法」とは?「化学療法」との違いも医師が解説!

 公開日:2025/12/27
がん治療の1つ「分子標的療法」とは?「化学療法」との違いも医師が解説!

分子標的療法とは?Medical DOC監修医が分子標的療法の費用や分子標的療法で治療をする病気・目的や化学療法との違い・治療の流れなどを解説します

横田 小百合

監修医師
横田 小百合(医師)

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旭川医科大学医学部卒業。
都内の大学病院・がんセンターにてがん治療と緩和ケア診療に従事。現在はがん専門病院にて緩和ケア診療を行っている。
保有資格:医師、がん治療認定医、総合内科専門医、日本緩和医療学会認定医

「分子標的療法」とは?

分子標的療法は、がん細胞や疾患を引き起こす細胞の異常分子構造をターゲットにする治療法です。がん細胞表面の異常な受容体、細胞内の異常活性化した増殖シグナルなど、標的とする分子が明確であるというのが特徴です。

「分子標的療法」と「化学療法」の違いは?

従来の細胞障害性抗がん剤(いわゆる化学療法)は、がん細胞だけでなく正常な細胞の分裂も妨げるため、吐き気、脱毛、骨髄抑制など重い副作用が出やすいという問題がありました。これに対し、分子標的療法は、がん細胞が持つ異常のある部分(ターゲット分子)だけを選んで攻撃します。このような部分が分子標的療法と化学療法との違いです。
分子標的療法は治療効果を高めつつ副作用を抑えた「より安全で効果的ながん治療」といえますが、標的とするターゲット分子に異常がある患者のみが対象になるという点でも化学療法とは異なります。

分子標的療法の費用

保険適用の場合

分子標的薬は価格が高いことが多いですが、疾患や適応条件を満たす場合は保険診療の対象になります。負担割合は自費診療だった場合の1〜3割で年齢や所得により異なります。高額療養費制度の併用も可能です。

自費診療の場合

保険収載されていない新規薬剤を自己輸入したり、適応外使用する場合は全額自己負担になります。ひと月の薬剤費だけで数十万〜数百万円になることも少なくありません。一方、治験に参加する際の薬剤の費用負担は、研究機関などが負担するためかかりません。
治験等を行う高度医療機関以外で、適応外使用を行う医療機関はまずありません。「保険適応でない分子標的療法」は詐欺医療の可能性があることに注意しましょう。

分子標的療法で治療をする病気にはどのようなものがあるか

分子標的療法は、特定の分子異常と治療効果が直接結びつく疾患で用いられます。代表的なのはがんですが、他の疾患でも行われることがあります。

乳がん・胃がん(HER2陽性)

特徴:乳がん・胃がんのうち、HER2タンパクの過剰発現タイプが分子標的療法の適応。
担当科:乳腺外科、消化器内科、腫瘍内科

肺がん(EGFR遺伝子変異ありタイプ、ALK融合遺伝子変異ありタイプ)

特徴:肺がんは遺伝子変異や融合遺伝子の有無で治療方針が決まるため、診断後は全例に遺伝子変異の検索をする。EGFR遺伝子変異ありタイプ、ALK融合遺伝子変異ありタイプが分子標的療法の適応。
担当科:呼吸器内科、腫瘍内科

大腸がん(RAS野生型タイプ)

特徴:RAS野生型の場合にEGFR抗体が有効で分子標的療法の適応。野生型というのはRAS遺伝子に変異がないことを指す。
担当科:消化器内科、腫瘍内科

リンパ腫(CD20陽性タイプ)

特徴:B細胞の表面に存在するCD20を標的にした抗体薬がある。腫瘍の本体にCD20が多く発現しているときに分子標的療法の適応。
担当科:血液内科

腎細胞がん

特徴:分子標的薬である血管新生抑制薬(VEGF経路)およびmTOR阻害薬が、投薬によるがん治療の中心となる。
担当科:泌尿器科、腫瘍内科

分子標的療法を行う目的

分子標的療法は、がん細胞や疾患を引き起こす細胞の異常分子構造をターゲットにして、がんを小さくしたり病気の勢いを弱めたりすることを目的に行います。がん治療における分子標的療法は、通常のがん化学療法の効果を強めるように併用することが多いです。非がん治療で用いられるときには、既存治療よりも高い治療効果をもたらすことが期待されます。

分子標的療法の流れ

診察・検査

病歴聴取、身体診察、画像検査(CT、必要に応じてMRI・PETなど)、血液検査などの一般的な診察が通常行われます。その後、分子標的療法の適応がどうか調べるための検体が採取され、病理検査や遺伝子異常の有無を調べる検査を行います。この検体採取は、手術の検体を用いることもあれば、生検のために日帰りや数日入院で行われることもあります。

治療計画

がんの全身の拡がりの有無や症状から病期を決定して治療方針が決まります。外科治療を優先して行う場合もあれば、生検などで検体を採取して病理検査や遺伝子異常の有無を調べてから治療計画を立てるべきがんもあります。そのため基本的には治療医の勧めをよく聞いて、納得できればその通りに治療を進めていくのが普通です。治療方針に疑問や不安がある場合には主治医によく質問をしましょう。いくら説明をうけても方針に不安が残るようであれば、治療を始める前に他院でのセカンドオピニオンを考慮しましょう。

治療をどのように行うか

外科治療を行うかどうか、化学療法を行うか、分子標的療法を行うか、放射線治療を行うか、これらをいつどのようにどう組み合わせて行うかは、ガイドライン上の推奨と本人の希望により決まります。
分子標的薬や化学療法による治療を行うことが決まったら、その治療について、スケジュールや予想される副作用などの説明がされます。場合によっては副作用を軽減させたりするための処置や投薬が先に始まることもあります。
内服や点滴で投与します。自分の受ける分子標的療法についての説明や治療スケジュールをよく聞いておきましょう。内服薬であっても慎重に経過をみるために初回投与を入院で行うこともあります。

治療中の流れ

内服薬の場合、通常は外来受診や処方で治療が続きます。点滴投与も外来化学療法室というベッドのある病院の処置室で当日点滴して帰宅できるので、必ずしも毎回入院は必要ありません。副作用が出た場合は、処置や投薬で対応します。場合によっては入院での副作用治療が必要になることもあります。
定期的な血液検査・画像検査で効果と安全性を確認しながら行うため、自覚症状がなくても副作用のために投薬中止や減薬を指示されることもあるかもしれません。自覚的な副作用症状や副作用か分からないが身体につらい症状がある場合は治療医に早めに相談しましょう。治療医に話せなかった場合でも外来や外来化学療法室のスタッフに相談しましょう。必要な処置や投薬につながって、症状がひどくなる前に対処できることがあります。

分子標的療法の副作用

皮膚障害

● 代表薬剤
EGFR阻害薬:ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、オシメルチニブ
VEGF阻害薬/VEGFR阻害薬:スニチニブ、ソラフェニブ
● 特徴
EGFR阻害薬でざ瘡様皮疹(ニキビに似た湿疹)
VEGF/VEGFR 阻害薬で手足症候群(手掌/足裏の発赤・腫脹・痛み)
● 初期対応
保湿剤の継続使用
沢山歩くなどの刺激・摩擦・日光曝露を避ける
早期もしくは予防的な外用ステロイドや抗菌薬の使用
● 受診の目安
広範囲の皮疹、強い疼痛、化膿 → 皮膚科または主治医
症状が強い場合は薬剤調整(減量、中断)が必要となるため早めに相談する

下痢

● 代表薬剤
EGFR阻害薬(アファチニブ、オシメルチニブ)
多くのチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)
mTOR阻害薬(エベロリムス、パゾパニブ)
● 特徴
早期(1〜2週間)から起こりやすい
● 初期対応
経口補水液などで水分・電解質補給
ロペラミドなどの止瀉剤の早期使用
● 受診の目安
止瀉剤を使っても1日4回以上の下痢が数日持続していて尿回数が極端に減ったとき
脱水症状があるのに飲水が難しいとき

高血圧

● 代表薬剤
VEGF/VEGFR阻害薬:ベバシズマブ、レンバチニブ、アキシチニブ、スニチニブなど
● 特徴
VEGF阻害により血管内皮機能が変化し、治療開始数日-2週間以内の早期から高血圧が出現する
● 初期対応
家庭血圧測定を習慣化し、必要な内服は欠かさず行う
必要に応じて降圧薬調整
● 受診の目安
自覚症状は出にくいため、血圧の値に注意して主治医に報告する

薬剤性肺障害

● 代表薬剤
EGFR阻害薬:ゲフィチニブ、エルロチニブ、オシメルチニブ
mTOR阻害薬:エベロリムス
● 特徴
空咳、息切れ、発熱、労作時の呼吸困難
特に EGFR阻害薬では日本人における発症率が比較的高い
● 初期対応
休息して症状観察していても改善しないようなら主治医へ電話するなど早めに相談
発症のタイミングは早期も遅発もあるため、薬剤使用期間は全期間注意が必要
● 受診の目安
咳・息切れが持続するときは主治医に伝える
呼吸苦が急速に悪化するようなら 緊急受診(入院加療が必要になることがある)

「分子標的療法」についてよくある質問

ここまで分子標的療法を紹介しました。ここでは「分子標的療法」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

分子標的療法はどんな人に効果的なのでしょうか?

横田 小百合横田 小百合 医師

分子標的療法は「ターゲットとなる遺伝子異常や異常分子構造を持つ患者」に有効です。事前にがん検体の遺伝子検査で治療適応の有無を確認します。

分子標的療法のデメリットについて教えてください。

横田 小百合横田 小百合 医師

分子標的療法は、治療目標とするがんの組織内にターゲット遺伝子異常がなければ効果は期待できない治療です。追加の検査費用や検査受診の負担があります。また、化学療法に比べれば少ないですが副作用があります。皮膚症状、下痢、高血圧、注入時反応など特有の副作用が出てきます。ご自身の分子標的療法で出やすい副作用を知っておくと、早期対処がしやすく、症状の悪化も予防しやすいでしょう。

まとめ

分子標的療法は「がんの異常分子構造をターゲット」にする治療です。事前の検査により、患者ごとに最適な薬を選択できる点がメリットです。
特有の副作用や費用の課題はありますが、分子標的療法のおかげで、従来治療では治療が難しかった症例にも比較的副作用の少ない選択肢を提供することができるようになっています。従来治療に加えてさらに治療の選択肢を増やすことで、QOL改善や生存期間延長に役立っている治療といえます。
一方、希望する全員が受けられる治療ではないですし、治療方針は病期やがん種により異なります。新薬でもあるため、従来治療にくらべて治療の流れや順序はさらに複雑化しています。分子標的療法も活用してより適切ながん治療が続けられるように、治療医とよく相談していきましょう。

「分子標的療法」と関連する病気

「分子標的療法」と関連する病気は18個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

血液がん

がん以外

近年、たくさんの疾患が分子標的薬の治療対象となりつつあります。ご自身が治療対象かどうかは主治医に聞いてみましょう。

「分子標的療法」と関連する症状

「分子標的療法」と関連している、似ている症状は8個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する症状

分子標的薬が始まる前には起こりうる副作用に関する説明がされると思います。確認して、当てはまる症状があった時には主治医に相談しましょう。

参考文献

この記事の監修医師