「脳出血の退院後の生活」はどのようなことに注意するべき?医師が徹底解説!

脳出血の退院後の生活はどのようなことに注意するべき?Medical DOC監修医が脳出血の後遺症・入院期間や費用・治療期間や費用・リハビリ法・介護法などを解説します。

監修医師:
佐々木 弘光(医師)
目次 -INDEX-
「脳出血」とは?
脳出血とは、脳血管が何らかの原因で破れて出血し、脳細胞を破壊する病気のことです。一般的に脳梗塞、脳(内)出血、くも膜下出血の3つを総称して脳卒中と呼ばれるため、脳出血も脳卒中の1つに分類されます。そして脳出血はある日突然発症し、運動麻痺や感覚障害などの後遺症を残すため、なんとか一命をとりとめたとしてもその後の患者さんの人生を大きく変化させてしまいます。ここでは脳出血を発症した患者さんの後遺症との向き合い方、退院後の生活などについて解説していきます。
脳出血の退院後の生活はどのようなことに注意するべき?
私生活への復帰
脳出血後のリハビリを乗り越え、無事に退院できたとしてもすぐに安心ということではありません。なぜなら退院後は、ある程度自分のことをしなければならないため、患者さんにとって入院生活以上に過酷な環境となります。そして入院前は当たり前にできていたことに時間がかかったり、できなくなっていたりします。さらに麻痺していない側の筋肉に負担がかかりやすくなったり、入院中に筋力が衰えたりした結果、すぐに疲れやすくなるということがあります。従って、自動車や自転車などの運転についてはさらに難しく、思わぬ事故を起こして致命的な状態になりかねないので、退院直後の運転は控えるようにしましょう。まずは、最低でも退院後1~2か月は自宅生活で身体を慣らせていき、負荷のかかる運動や自動車・自転車の運転、仕事の復帰などは主治医の先生とよく相談して決めることが大切です。また飲酒も判断を鈍らせたり、麻痺になっている手足の筋力をさらに低下させたりして怪我をする危険性が高くなるので、退院して1-2ヶ月程度は飲酒を控え、主治医と相談して再開できるか判断するようにしましょう。そして脳出血は血圧のコントロールが悪いと再発する危険性があるため、内科治療の継続も非常に重要です。忘れずにかかりつけ医を通院するようにしましょう。
リハビリの継続と精神面でのサポート
退院後も意識的に通院や在宅でのリハビリテーションを続けることは非常に重要です。なぜなら急性期や回復期よりも、維持期はリハビリテーション不足になりやすく、そのままにしていると次第に麻痺した手足の筋肉が固まり、つっぱったりこわばったりしてしまう「痙縮」という状態になることがあるからです。すでに生じてしまった痙縮はリハビリテーションのみでは改善しにくくなるため、まずは予防が肝心です。もし痙縮になってしまった場合は、ボトックス注射といって筋肉を緩めるような注射を外来で行ったり、より重度では家族の介護負担の軽減も視野に、痙縮を緩める薬液が入ったポンプ(ITBポンプといいます)を体内に埋め込む手術を検討したりする場合もあります。しかしそういった事態に陥らないためにも、まずは退院後も欠かさずにホームエクササイズや通院リハビリを続けましょう。また精神面でもストレスがかかり、脳卒中後にうつ病を発症する患者さんが全体の33%程度あるとの報告もあります。従って、家族の精神的なサポートや必要時は精神科による治療の相談なども重要です。
脳出血の後遺症
四肢の運動麻痺
手足の麻痺が残ると、立てない・歩けない、手の作業ができない、食事や排せつがしにくい等、日常生活に様々な支障がでます。そして脳は基本的に体の反対の動きや感覚を司っています。つまり右側の脳に出血が生じると、左の手足や顔面の麻痺、感覚を感じにくくなるといった具合です。従って、脳出血の麻痺の特徴は左右どちらか半身のみに出現します。
手足のしびれ
手足や顔面のしびれ、感覚低下といった症状が残る方もいます。これらは感覚障害といいますが、残念ながらリハビリで回復させることは難しいです。従って、しびれや痛みが強い場合は内服を試すこともありますし、感覚が低下している場合は、例えば火傷をしても気付きにくいといった問題もありますから、日常生活でも注意する必要があります。
呂律困難、嚥下障害
顔面の麻痺や飲み込みに関わる部位が障害されたことで、しゃべりにくさや嚥下障害が残る可能性もあります。特に嚥下障害では、うまく食べ物が喉を通っていかずに、窒息・誤嚥(食べ物が気管に入ること)を合併する危険性があります。そして気管に食べ物が入ると誤嚥性肺炎という感染症に陥る場合があり、重症化すると命の危険もあるので注意が必要です。
呂律困難、嚥下障害
顔面の麻痺や飲み込みに関わる部位が障害されたことで、しゃべりにくさや嚥下障害が残る可能性もあります。特に嚥下障害では、うまく食べ物が喉を通っていかずに、窒息・誤嚥(食べ物が気管に入ること)を合併する危険性があります。そして気管に食べ物が入ると誤嚥性肺炎という感染症に陥る場合があり、重症化すると命の危険もあるので注意が必要です。
言語障害、高次脳機能障害
右利きの人の9割は左側の脳に言語機能が集中していると言われています。従って、左側の側頭葉や前頭葉とよばれる部位に出血を来した場合は、失語症という言葉の症状(言語障害)を呈する場合があります。大まかにいうと、言葉を理解できてもうまく返したり発言したりすることができなくなる運動性失語症と、言葉が理解できずに意思疎通ができなくなる感覚性失語症というタイプがあります。また頭頂葉と呼ばれる複数の情報を統合・処理する部分が障害されると、言語障害を含む、高次脳機能障害という後遺症を引き起こすこともあります。空間認識や言語理解ができず、例えば片側の空間を無視してしまう、言葉がうまく理解できない・話せない、書字や計算がうまくできない、といった症状が後遺症となります。また精神症状や認知症につながる場合もあります。
後遺症:平衡感覚の障害
特に小脳と呼ばれる場所に出血した場合は、平衡感覚の障害が後遺症となります。具体的にはバランスをとってうまく手足を動かせない四肢の失調やバランスをとれずに、座ったまま・立ったままの姿勢を維持することができなくなる体幹の失調、という症状があります。
後遺症:視野障害
後頭葉と呼ばれる箇所は視覚に関わり、損傷すると部分的に視野が欠けてしまいます。特に同名半盲(どうめいはんもう)といって両目とも、障害を受けた側と反対の視野が半分欠けてしまうという症状が一般的です。視野障害を回復させることは難しいですが、その症状を理解して日常生活に順応させていくことは可能です。
脳出血の入院期間や費用
入院期間
脳出血の危険な状態が落ち着くまで平均2週間程度はかかります。また手術の有無によってもその期間は変わります。そして入院中は後遺症に対するリハビリテーションも重要です。これは「リハビリテーション科」という診療科が担当し、医師や看護師のほかに理学療法士、作業療法士、言語療法士と呼ばれるリハビリに特化した役職の人も所属しています。入院期間中、初期は治療のウェイトが高いのですが、徐々にリハビリのウェイトが大きくなっていくイメージです。またリハビリに特化した「回復期リハビリテーション病院」という病院もあります。これは中等度以上の後遺症の患者さんが、直接自宅に退院することが難しい場合に、さらに集中的なリハビリをするための病院です。そして回復期リハビリに移行した方がいいかどうかは急性期の入院中に判断され、必要な場合は治療を行った病院から回復期リハビリテーション病院へ入院のまま移動する「転院」という手続きを行います。この手続きは、病院の医療ソーシャルワーカーという職種の人が中心となって、医師や他の医療スタッフ、患者さん家族などと相談しながら行っていきます。そして回復期リハビリテーションでの入院期間は、脳出血を含む脳血管障害では150日~上限180日までの入院期間とされています。その後、退院できれば維持期という段階に入ります。しかし自宅での介護負担が大きく、自立不能な病状の場合は、引き続き医療介護設備の整った療養型の病院に長期入院が必要となる場合もあります。従って、軽症の脳出血では1~2週間程度、中等症以上で3~4週間の急性期治療と回復期リハビリも合わせると2~3か月~半年程度、重症ではリハビリや療養期間も合わせて半年以上の長期入院を要する場合もあります。
入院費用
厚生労働省が報告している医療給付実態調査では、令和3年度の「脳血管疾患」の1件当たりの診療費は入院で平均約87万円程度、入院外で15000-16000円程度とあります。しかし手術を行ったのか、集中治療を行ったのかによっても費用は異なってきます。また回復期リハビリを行う場合は月あたり平均10万円前後の費用がかかってきます。高額療養費制度や自身が後期高齢者なのかによっても多少の違いはありますので、あくまで参考として下さい。
脳出血のリハビリ法
リハビリの段階と目標
一般的に脳出血の発症直後は筋力が衰えるのを予防するためのリハビリですが、病状が安定した後は日常生活での活動を意識した回復期リハビリに移行します。そのため、まずはどれくらいの麻痺が残ったのか、どのような障害が残ったのかを評価します。そしてもともとの患者さんの生活力や生活環境も重要です。例えば、仕事をしていたのか、どれくらい自分でできていたのか、誰かと同居していたのか、家の環境はどうなっているのか、といった細かなことまで考え、リハビリの目標を設定します。さらに麻痺があるのは利き手なのか、麻痺が残っていない側をうまく使うことはできるか、といった点も重要です。そして完治は難しくても、リハビリで筋力を補ったり、使い方を工夫したりして、自宅退院できるようリハビリを行います。また必要に応じて杖や歩行装具や介護サービスの利用等を考え、退院後の生活サポートを検討します。
手の訓練・歩行訓練
麻痺に対するリハビリはまず、座ることができるのか、車椅子に移ったり立ち上がったりすることができるのか、そして歩行訓練の段階へと移っていきます。手の麻痺では麻痺した側でどれくらいのことができるのかを評価し、麻痺のない側も利用することで回復を目指します。また足の麻痺については、自力歩行が困難な場合に杖やリハビリの早期から下肢装具と呼ばれる補助具を利用して歩行訓練を行うこともあります。その他、平衡感覚が障害されている場合は体に感覚をなじませたり、視覚からの情報をうまく利用してバランスを捉えるための代替手段などを習得させたりして、訓練します。最終的にどれくらい移動力が回復できるか、家でも家族の支えが必要か、トイレに行くくらいなら自力で可能か、家の近所くらいまでなら自力で歩けるか、といったことが重要になります。
嚥下訓練
顔面麻痺や嚥下障害が残ってしまう場合は、水分や食べ物を飲み込む時に窒息・誤嚥(食べ物が気管に入ること)を生じる危険性があります。特に誤嚥性肺炎という感染症を合併すると致命的になることもあるため、嚥下リハビリも非常に重要です。特に中等度~重度の嚥下障害の場合は、入院中に内視鏡や造影剤という薬剤を用いて嚥下機能を評価する検査を行います。そして嚥下のどの部分で障害が起きているのか、詰まった時にむせて自力で食べ物を吐き出すことのできる反射の機能は残っているのか、といったことを細かく評価します。そして嚥下のリハビリでは、最初は食べ物を柔らかくしたり液状にしたりしてスタートし、徐々に固形のものに変化させていきます。また長期のリハビリが必要な場合は、口からの摂取だけでは十分な栄養が得られない可能性もあるため、経鼻胃管(けいびいかん)といって鼻から胃にチューブを入れて栄養剤を注入しながらリハビリを行う場合があります。
失語、高次脳機能障害に対するリハビリ
言葉や複雑な情報処理、空間認識、認知機能をはじめとする高次脳機能障害が残ってしまった場合は複雑です。まず失語症では残された言語機能の評価を行い、運動性失語の場合は言葉を出す発声の訓練や、可能であればジェスチャーなどの非言語によるコミュニケーションの訓練も並行して行い、最終的に実用生活にどれほど適応できるのか検討します。一方で感覚性失語の場合は、そもそもこちらの言っていることが理解できているのか、また自分の意思を言葉にして表出できているのか、といった症状の重さがリハビリを困難にし、回復が難しくなる場合もあります。そして失語症も含めた高次脳機能障害は、まず認知機能のテストや日常生活の自立度(ADLといって、食事や移動、排泄や着衣・入浴といった日常生活で自立するための機能があるのか)を評価します。そして高次脳機能の訓練としては記憶力の訓練や文章、色・形・数字などの視覚や注意を刺激するような物体を用いて作業するようなリハビリ、また実際にスケジュールや手順を組み立てるようなリハビリなど様々な方法があります。しかしやはり重度の高次脳機能障害では完治は難しく、仕事や運転など複雑な判断を要求される動作は困難となる可能性も高いです。そして患者さんの目標となる自立度に応じて、ADL回復のための複合的なリハビリを進め、後遺症を補うやり方を工夫することで、日常生活に順応していくことは可能です。
家族は脳出血患者をどのように介護したらいい?
自宅退院までの手続き<
まずは入院中から、退院後の生活でどのようなことが問題になるのか、先生や他の医療スタッフ、医療ソーシャルワーカーとよく相談しておきましょう。また入院中に身体障害者や介護認定の申請手続きを進めるため、主治医の先生と意見書などの書類作成について相談しておきましょう。認定が下りると、等級や要支援・要介護度に応じて、退院後も後遺症に対する介護・福祉サービスの利用や費用助成などが受けられます。尚、詳細な手続きに関しては厚生労働省のホームページやお住まいの市町村自治体などで確認してみましょう。
かかりつけ医との連携や介護福祉サービスの利用など
例えば、移動には車椅子や杖を用いて家族の付き添いが必要なのか、自分で買い物はできるのか、食事やトイレにも介助を要するのか、後遺症によってどのようなことに注意して自宅で介護すればいいのかは様々です。退院前に先生やソーシャルワーカーの人とよく相談しておきましょう。また移動が困難であれば、そもそも通院のハードルが高くなってしまう可能性もあります。従って、かかりつけ医による訪問診療や訪問看護などの医療サービスや通所によるリハビリテーションを活用していくのか、車椅子や電動ベッドなどの福祉用具の貸し出しが必要なのかなども検討する必要があります。これらのことについては、お住まいの市町村の介護保険課や地域包括支援センターといった部署に相談して、介護支援専門の事業所や介護支援専門員(ケアマネージャー)と呼ばれる医療・介護サービスの調整を担当する人を紹介してもらい、連携できるようにしておくことも重要です。尚、入院中であれば病院の医療相談室などを通じて紹介してもらえる場合もあります。また自宅が患者さんにとって不利な環境、例えば、屋内に段差が多かったり、もともと階段を使って2階で生活していたり、といった場合は家屋の改装を行って住環境を整えることも重要です。
「脳出血の退院後の生活」についてよくある質問
ここまで脳出血の退院後の生活などを紹介しました。ここでは「脳出血の退院後の生活」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
脳出血は完治するまでにどれくらいの期間を要するのでしょうか?
佐々木 弘光医師
脳出血の患者さんが退院時に介助の必要がなく、自立している状態(modified Rankin Scaleの0~2レベルといいます。)であった割合は31.6%とされ、直接自宅に退院できた割合は28.2%と報告されています。すなわち約6-7割の人は退院時に何らかの後遺症を残したことが分かります。そして軽症の脳出血では1~2週間程度、中等症以上で3~4週間の急性期治療と回復期リハビリも合わせると2~3か月~半年程度、重症ではリハビリや療養期間も合わせて半年以上の長期入院を要する場合があります。
脳出血の余命について教えてください。
佐々木 弘光医師
脳出血の余命についても研究がいくつかありますが、例えば2008年に報告された秋田県全域を対象とした研究では、50歳の脳出血患者さんの平均余命は男女ともに20~25年程度であったとされ、これは日本人全体の男女の平均寿命よりも10年程度短くなる可能性があると報告されています。しかし発症時の年齢や脳出血の重症度によって状況が大きく異なってきてしまうため、軽症であれば長期生存も可能である一方、脳出血以外(誤嚥性肺炎など)の合併症によって入院中に死亡する場合もありますし、年齢によっては退院後も5~10年程度の余命となる場合も考えられ、一律で余命を想定することは難しいです。
脳出血発症後は疲れやすくなりやすいのでしょうか?
浅野 智子 医師
脳出血の退院後は、後遺症によって入院前は当たり前にできていたことに時間がかかったり、できなくなっていたりします。さらに麻痺していない側の筋肉に負担がかかりやすくなったり、入院中に筋力が衰えたりした結果、すぐに疲れやすくなる、ということもあり得ます。従って、退院後1-2ヶ月程度は自宅生活で徐々に体を慣らしていき、運転や飲酒は控え、再開可能かどうかについても主治医の先生とよく相談して決めることが大切です。
編集部まとめ
脳出血はある日突然発症し、その後の人生を大きく変化させます。しかし発症してしまっても、リハビリや介護サービスを利用したり、再発予防に努めたりすることによって、自宅で生活されている方もたくさんおられます。もしご不安な場合は一度かかりつけ医や脳神経外科・脳神経内科の医師などに相談してみましょう。
「脳出血」と関連する病気
「脳出血」と関連する病気は12個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
内科の病気
- 高血圧症
- 脂質異常症
- 糖尿病
- メタボリックシンドローム
- 肝機能障害
- 腎機能障害
- 睡眠時無呼吸症候群
脳出血の後遺症の程度によって生活支障度は異なりますが、発症後もリハビリや介護サービスを利用したり、再発予防に努めたりして自宅や社会復帰をされている方も多くいます。
「脳出血」と関連する症状
「脳出血」と関連している、似ている症状は11個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
急に発症するのが脳出血(脳卒中)の特徴です。これらの症状が突然現れたらすぐに病院を受診するようにしてください。