【闘病】死んだら障がいのある子は… 絶望で最期のノートを綴った母。『髄膜腫』12時間の手術

脳を覆う膜から発生する腫瘍である髄膜腫(ずいまくしゅ)と診断され、カテーテル検査や開頭手術を経験した由紀子さん(仮称)。髄膜腫は脳腫瘍の中で多くの罹患者がいる疾患であり、9割が良性腫瘍とされています。しかし彼女のケースでは、長年の経過観察の末に腫瘍が肥大してさまざまな症状が表れ、日常生活を送ることも難しい状況にありました。髄膜腫とはどのような疾患なのか、またどのような症状が出やすく、検査・治療はどのように行うのかなど、由紀子さんに聞きました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2025年11月取材。

体験者プロフィール:
由紀子さん(仮称)
人生で一番つらい検査・手術であることは間違いなかった

編集部
由紀子さんの疾患が判明した経緯について教えてください。
由紀子さん
バスガイドの仕事をしていた2017年のことです。バス会社の車庫まで自転車通勤していた際、転倒して頭を強打しました。帰宅途中に頭が痛くなり夜間診療で診てもらい、次の日も痛みが治まりませんでした。念のため、総合病院の脳神経外科でMRIを撮ったところ、偶然気になる腫瘍が見つかり、「髄膜腫」と告げられたんです。
編集部
診断名を伝えられた際、医師からはどのような説明がありましたか?
由紀子さん
当時の主治医からは「腫瘍自体小さいので、しばらくは経過観察でよいのでは?」と言われました。「万が一腫瘍が肥大したり、頭痛が続いたりするようなら手術を勧めることがあるかもしれない」とも伝えられていましたが、「経過観察で大丈夫」と言われて安心していたため、それほど気にしていなかったと記憶しています。
編集部
そこからなぜ、手術に至るほどの状況に変わってしまったのでしょうか?
由紀子さん
2025年5月のMRIで腫瘍が5cmほどに肥大していることが判明したからです。しかも腫瘍のある場所が左前頭葉だったため、「このままでは脳が圧迫され、麻痺や記憶障害、言語障害、認知機能低下が起き、運動機能にも影響する可能性が高い」と手術を勧められました。「なぜだろう?」といろいろ考えたものの、答えは出ず、医師からも「原因は分からない」と言われました。障がいを持つ子の母親でもあるため、「自分に何かあったときに家族はどうなるんだろう?」など、先々のことが一気に脳裏によぎり、強い不安に襲われました。
編集部
検査や治療は、どのように進んだのでしょうか?
由紀子さん
すぐに大学病院の脳神経外科に、紹介状を持って受診しました。6月23日から2泊3日で検査入院し、CT、MRIのほか、血管造影検査(血管に造影剤を注入してX線撮影する検査)としてカテーテルを鼠径部(そけいぶ)から入れ、脳の血流を食い止める検査を行いました。その後、血管塞栓術(血流を遮断する治療法)を行い、4日後には12時間に及ぶ髄膜腫摘出手術を受けました。
さまざまな手術を経験してきましたが、この時の手術と検査は人生で一番つらいものでしたね。中でも検査入院で行われた塞栓術は相当こたえ、頭が破裂しそうな感覚になりました。
死を覚悟した私を支えてくれたもの

編集部
摘出手術を経験して、自身の生活や心境にどのような変化がありましたか?
由紀子さん
今まで死を意識したことはありませんでしたが、万が一に備えて家族宛に銀行の暗証番号や携帯のパスワード、もし記憶がなくなってしまった場合に連絡してほしい人たちの名簿などを記した「もしものノート」を作るようになりました。
術後は、腫瘍の影響で以前に比べて光や刺激に対して過敏になり、目がチカチカして立っていられず、人混みがつらくてショッピングモールや家電量販店などにも行けなくなりました。
編集部
バスガイドの仕事は、変わらずに続けているのでしょうか?
由紀子さん
バスガイドはしばらくお休みして、代わりに介護職員として週3日勤務しています。私自身、体調が優れた日も多いわけではないので、身体的な負担を考慮して、介護度の高い人の介護はほかの人に任せています。
編集部
髄膜腫についての知識や情報は、どのように集めましたか?
由紀子さん
私と同じ症状の人が少なかったため、髄膜腫を経験した人のブログを探して参考にしたほか、数人の脳動脈瘤の闘病記事からも学ばせてもらいました。また、杉咲花さん(女優)が記憶障害の脳外科医師を演じたドラマ「アンメット ある脳外科医の日記」も勉強になりました。
編集部
闘病生活中、印象に残っている出来事があれば教えてください。
由紀子さん
手術入院した病院で出会った薬学生が毎日のように病室に足を運んでくれ、痛みと孤独に押しつぶされそうになっていた私を笑顔で励ましてくれたことが今でも心に残っています。「1~10で表すなら、今日の痛みはいくつですか?」と常に細かく私の体調を記録してくれたことを思い出すだけで、今も涙があふれてきます。ほかにも、家族や友人たちからの励ましのメッセージをもらったことも忘れられません。あとは、私と同じ髄膜腫で、つらい手術を乗り越えられたSUPER EIGHTの安田章大さんのエピソードにも励まされ、回復に至るまでの経緯が書かれた記事を食い入るように読みました。
編集部
現在の体調はいかがでしょうか?
由紀子さん
退院後はロキソプロフェン(痛み止め)、レバミピド(胃粘膜保護薬)を服薬しました。ペランパネル(抗てんかん薬)は、2025年9月中旬まで服用していました。現在は、開頭手術のストレスで抜けた髪の毛にステロイド外用薬を塗布しながら過ごしています。手術から間もないため、頭の傷と抜け毛、白髪隠しのためのターバンは欠かせません。髄膜腫によって生じていた光過敏やめまい、頭痛などはたまに見られますが、回復に向かっています。
10月にMRIを撮ったところ、主治医から「順調に脳が回復しているから、2026年1月にもう一度MRIを撮って、元の状態にしっかり戻っていたら大丈夫でしょう」と言われ、安心しています。
編集部
髄膜腫について、詳しく知らない人に伝えたいことはありますか?
由紀子さん
術後も髪の毛が抜けてしまったり、光がまぶしくサングラスをかけて過ごしたりする必要があり、日常的にめまいや吐き気などが起きています。頭の中の腫瘍を取り除いたら終わりではなく、手術が成功しても後遺症に苦しむ患者さんがいることを知ってほしいですね。また、健康診断を年に一度受診するのはもちろんのこと、金銭的な面で難しいかもしれませんが、できれば脳ドックも受けてみてください。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
由紀子さん
若いころは「若いから大丈夫」「健康だから大丈夫」と思いがちですが、日々の食生活や生活スタイル、睡眠不足などの不摂生は年齢を重ねたときに大きな影響を与えます。仕事やプライベートで無理をせず、睡眠時間は十分に取らないといけません。バランスの良い食事を心掛け、適度な運動を行い、ストレスや疲れをためないようにしましょう。「今が健康だからよい」と思うのではなく、将来に備えてください。そして最後に、的確な連携により心のケアをしてくれた医療従事者に、心からの感謝の気持ちを伝えたいと思います。
編集後記
髄膜腫はほとんどが良性ですが、発生場所や肥大化によって麻痺や視野障害、言語障害などさまざまな問題が生じる疾患です。由紀子さんの体験からも分かるように、大掛かりな手術を乗り越えた後も、後遺症や体の変化と向き合う日々が続きます。定期的な人間ドックや脳ドックを受診し、早期発見・早期対処に努めましょう。
本稿には特定の医薬品、医療機器についての記述がありますが、情報提供のみを目的としたものであり、医療上の助言や販売促進などを目的とするものではありません。
なお、メディカルドックでは病気の認知拡大や定期検診の重要性を伝えるため、闘病者の方の声を募集しております。皆さまからのご応募お待ちしております。

記事監修医師:
村上 友太(医師)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。

