「肩甲骨が痛む」原因はご存知ですか?医師が徹底解説!
肩甲骨が痛い時、身体はどんなサインを発しているのでしょうか?Medical DOC監修医が考えられる病気や何科へ受診すべきか・対処法などを解説します。気になる症状は迷わず病院を受診してください。
監修医師:
中川 龍太郎(医師)
「肩甲骨の痛み」症状で考えられる病気と対処法
肩甲骨付近の痛みを自覚する経験は、誰もが少なからずあると思います。症状の原因はたくさんありますが、肩の関節だけが原因というわけではなく、心臓や肺、胆嚢、膵臓の病気が関連していることがあり、注意が必要です。どんな場合に病院受診を行う必要があるのか解説していきます。
肩甲骨の痛み症状で考えられる原因と治し方
肩甲骨のあたり(特に肩関節側)に痛みを自覚する場合、肩関節周囲炎の可能性があります。これは俗に言う「五十肩」のことを指します。その名称通り、中年以降、特に50歳代に多くみられ、髪を結ぶ・服を着る動作や就寝中の寝返りで肩甲骨〜肩関節に痛みを自覚する病気です。肩関節を構成する骨、軟骨、靭帯や腱が老化して、肩関節周辺の組織に炎症が起こることが原因とされています。症状が出現した場合は安静が重要ですが、なかなか良くならないからと長期間安静にしていると、肩関節の可動域が損なわれる可能性があり、適切なタイミングでのリハビリテーションも必要です。
痛みを感じられた際は、整形外科を受診するようにしましょう。レントゲン検査や身体診察によって、痛み止めなどの内服薬のみで治療するか、肩関節への注射も行うか、といった治療方針が決定されます。緊急性はありませんので、日中に受診してください。
突然肩甲骨が痛む症状で考えられる原因と治し方
突然肩甲骨のあたりや、主に背中部分に激痛が走った場合、急性大動脈解離の可能性が考えられます。症状の特徴は、これまで経験したことがないような鋭く引き裂かれるような痛みを突然に自覚することです。他には胸部前面の痛みや腹痛として自覚する場合や、失神(意識を失うこと)、脳虚血の症状(麻痺や意識障害など)を伴うこともあります。後に詳しく説明しますが、大動脈解離に至る原因は様々あります。主な原因は、加齢減少や長期間の高血圧が負荷になって、大動脈に慢性的に動脈硬化が引き起こされることです。
主な診療科は心臓血管外科や循環器内科です。この病気は非常に緊急性が高く、発症した場合は時間との戦いになります。背中や胸・腹部に経験したことがないような激しい痛みを自覚した際は、自分で医療機関を探すのではなく、迷わず救急要請をしてください。
肩甲骨の痛みがあり息苦しい症状で考えられる原因と治し方
肩甲骨の痛みに加えて、呼吸が苦しい症状が出現した場合、胸膜炎の可能性があります。症状としては胸の痛みが典型的ですが、咳や発熱、呼吸困難を伴うこともあります。胸膜炎は、肺を覆う胸膜という部分に炎症が起こる病気です。原因としては感染症や悪性腫瘍によるがん性胸膜炎、血管炎や膠原病といった自己免疫疾患などが挙げられます。すぐに症状を改善させることは難しく、専門の医療機関での精密検査が必要です。
主な診療科は呼吸器内科です。胸膜炎では、胸膜の炎症から胸水という水が肺に溜まってしまうことが多いため、その水を採取して呼吸困難を緩和しつつ、原因を調査することがあります。少しの息苦しさであれば緊急性はありませんが、発熱が持続し呼吸困難に陥った場合は緊急性の高い状態です。すぐに医療機関を受診しましょう。
寝違えたように肩甲骨が痛む症状で考えられる原因と治し方
寝違えたような肩甲骨や背中の痛みがみられた場合、急性膵炎という病気が疑われます。特にお酒を多く飲んだ翌日にこれらを自覚した際は、アルコール性急性膵炎が疑われます。他には強烈な腹痛や吐き気、嘔吐を伴う場合もあります。急性膵炎は、膵臓という消化に重要な臓器に、突然起こる炎症を指します。軽症から重症まで程度は様々ですが、基本的には入院で治療を行う重篤な疾患になります。
主な診療科は消化器内科です。緊急性の高い疾患ですので、できるだけ早く受診しましょう。歩行や咳をするだけお腹や背中に激痛が響くようであれば、非常に危険な状態です。迷わず救急要請をしてください。
左側の肩甲骨が痛む症状で考えられる原因と治し方
急に左側の背中や肩甲骨付近が痛む場合、急性心筋梗塞の可能性が考えられます。急性心筋梗塞とは、生活習慣病などによって動脈硬化が進んだ結果、心臓を栄養するために重要な冠動脈という細い血管が狭くなる・詰まってしまう病気のことです。血流の落ちた心臓の筋肉は動きが悪くなり、壊死してしまいます。症状は、左から中央にかけての胸の痛み、胸が締め付けられる感覚や息苦しい感覚が多いです。加えて背中や肩甲骨が痛くなるケース、左顎が痛くなるケースもあり、非常に多彩です。急性心筋梗塞は放置していると心停止につながってしまう、非常に危険な病気です。一刻を争うため、上記の症状を自覚した際は、すぐに救急要請する必要があります。
主な診療科は循環器内科です。心筋梗塞の原因となった、詰まっている冠動脈を見つけ出し治療するため、緊急でカテーテル検査・治療が行われることが多いです。
右側の肩甲骨が痛む症状で考えられる原因と治し方
右側の肩甲骨が痛む場合、急性胆嚢炎の可能性が考えられます。急性胆嚢炎は、消化に重要な胆汁を貯蔵する臓器である胆嚢に炎症が起きた状態で、発熱やお腹の右側の痛みが典型的な症状ですが、少し離れて右側の肩甲骨付近に痛みが出現することがあります。後に詳しく説明しますが、多くは胆石という胆嚢内に出来上がった石が詰まることで引き起こされ、胆嚢の血行障害や細菌、寄生虫などの感染、アレルギーなどでも引き起こされます。
受診すべき科は消化器内科です。基本的には抗菌薬の投与で治療されますが、胆嚢穿孔(穴が空くこと)や胆嚢周囲膿瘍(胆嚢の周りに最近の塊が作られること)がみられた場合は、手術などの外科的治療も検討されます。痛みが強い場合や、発熱から寒気や体が震える場合は、緊急性の高い状態ですのですぐに医療機関を受診しましょう。
すぐに病院へ行くべき「肩甲骨の痛み」に関する症状
ここまでは症状が起きたときの原因と対処法を紹介しました。
応急処置をして症状が落ち着いても放置してはいけない症状がいくつかあります。
以下のような症状がみられる際にはすぐに病院に受診しましょう。
発熱も伴っている場合は、救急科へ
肩甲骨や背中の痛みに伴って、発熱もきたしている場合は救急外来を受診しましょう。
化膿性脊椎炎という病気の可能性があります。脊椎というのは本来無菌の空間なのですが、身体の別の部位で感染症がある状態や、糖尿病やガンの治療中など感染症に弱い状態では、脊椎に感染症が起こる場合があります。頻度は多くありませんが、治療が遅れると神経障害を引き起こすこともある重篤な疾患です。
受診すべき科は整形外科です。緊急性の高い疾患なので、即日入院治療になることがほとんどで、場合によっては手術も検討されます。受診する際は、他に患っている病気や、飲んでいるお薬を正しく伝えられるようにしましょう。
受診・予防の目安となる「肩甲骨の痛み」のセルフチェック法
- ・肩甲骨の痛み以外に息苦しい症状がある場合
- ・肩甲骨の痛み以外に発熱がある場合
- ・肩甲骨の痛み以外に麻痺や失神がある場合
「肩甲骨の痛み」症状が特徴的な病気・疾患
ここではMedical DOC監修医が、「肩甲骨の痛み」に関する症状が特徴の病気を紹介します。
どのような症状なのか、他に身体部位に症状が現れる場合があるのか、など病気について気になる事項を解説します。
頚椎椎間板ヘルニア
頚椎(首の骨)には脊髄という中心神経の通り道があります。また頚椎同士の間には、椎間板というクッションの役割を果たす組織があり、首の動きに対して柔軟に対応できるようになっています。頸椎椎間板ヘルニアとは、主に老化現象によって椎間板の機能が弱くなり、椎間板が脊髄の通り道(脊柱管)にとびでてしまい、神経組織を圧迫してしまう病気です。初期は後頚部や肩の痛み・だるさ・凝りなどですが、神経への圧迫が長期間続くと、徐々に手のしびれ・痛みや筋力低下などにつながり、重症になると排尿障害(尿のコントロールができない)なども出現します。
受診すべき科は脳神経外科か整形外科です。身体診察で詳しい症状の位置を確認し、MRIなどの画像検査を使って診断を行います。症状が軽度であればリハビリテーションなどの保存的治療で対応できますが、痺れや筋力低下などかなり症状が強い場合は手術も検討されます。片方の手の筋力が急激に低下する、痺れが強いという場合は、一度上記診療科を受診しましょう。
胆石
胆石とは、胆汁を貯蔵する臓器である胆嚢の中に発生した石のことで、これ自体が病気という訳ではありません。脂っこい食事をした際に胆汁が必要になるため、胆嚢から胆汁と一緒に胆石が出ていきますが、小さい胆石であれば特に問題にはなりません。しかし胆石のサイズが大きくなると、胆汁と一緒に出るときに胆嚢の出口に嵌まり込んでしまうことがあります。これを胆石発作と言い、右側腹部や右側の肩甲骨に痛みで出る場合があります。さらに発熱も出現すると、細菌感染を起こした急性胆嚢炎という状態が考えられます。
受診すべき科は消化器内科です。胆石のみであれば石を溶かすための内服薬を服用するか、体外から衝撃波で砕く治療などがあります。もし胆嚢炎まで至っていれば抗菌薬の投与で治療されます。また何度も胆石発作を繰り返す方は予防的に胆嚢を摘出する手術なども検討されます。右側のお腹や背中、肩のあたりが繰り返し痛くなる方は、一度受診を検討しましょう。
圧迫骨折
脊椎圧迫骨折とは何らかの外力がかかることによって、脊椎椎体(背骨を構成する骨、頸部から腰まで連なっている)が圧迫されて変形、骨折する病気のことを指します。脊椎圧迫骨折は、骨が弱くなっているために起こる脆弱性骨折であることが多いです。高齢者に頻繁にみられる骨折で、骨粗鬆症(骨の密度が低下してしまう病気)を同時に起こしていることがほとんどです。
圧迫骨折の原因は、転倒事故だけでなく、ちょっとした尻餅やくしゃみ、体を捻る、といった程度のことでも起こります。治療法は保存的治療と手術治療に分かれます。保存的治療は、外側から骨折部位に合わせてギブスやコルセットを用いて固定する方法です。手術治療は、骨折してしまった椎体に医療用セメントを流し込んで強化する方法や、骨折のせいで神経障害が起こっている場合にそれを解消する手術があります。
受診すべき科は整形外科です。特に高齢の方が、腰が痛くて歩けなくなった場合は、受診を検討してください。
大動脈解離
大動脈解離とは、3層構造になっている大動脈の壁が、何らかの原因で外側一枚の膜を残して裂けてしまう病気のことを指します。外側一枚の膜だけを残して、そこから瘤が出来上がることがあり、これを解離性大動脈瘤と呼びます。動脈硬化や高血圧のほか、生まれつき血管に脆弱性がある人でも起こしやすいことがわかっています。症状としては、突然自覚した胸や背中、腹部に鋭く引き裂かれるような激しい痛み、失神(意識を失うこと)、脳虚血の症状(麻痺や意識障害など)を伴うこともあります。
主な診療科は心臓血管外科や循環器内科です。この病気は非常に緊急性が高く、発症した場合は命に関わる疾患です。背中や胸・腹部に経験したことがないような激しい痛みを自覚した際は、自分で医療機関を探すのではなく、迷わず救急要請をしてください。
「肩甲骨が痛い」ときの正しい対処法は?
痛み止めなどの市販薬を飲むことは問題ありませんが、これまでに経験したことのない激しい痛み、息苦しさや胸の詰まった感じ、発熱や腹痛が伴う場合は、まず救急でもいいので医療機関を受診してください。これらの症状がなく、慢性的に肩甲骨周囲に鈍い痛みやだるさ、凝りを自覚する場合は、肩甲骨周囲の運動が不足し、血流が滞っている可能性があります。ストレッチやトレーニングを検討しましょう。一方でスポーツの接触プレーをきっかけにして肩甲骨や背中の痛みが出た場合は、ヘルニアや骨折の可能性があるため過度な運動は禁物です。安静の上、医療機関を受診するようにしてください。
「肩甲骨の痛み」についてよくある質問
ここまで症状の特徴や対処法などを紹介しました。ここでは「肩甲骨の痛み」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
左側の肩甲骨がズキズキ痛い症状は何科の病院で相談できますか?
中川 龍太郎(医師)
「左側の肩甲骨が痛い」という訴えを聞くと、ほとんどの医師は急性心筋梗塞や急性膵炎、大動脈解離など、命に関わる病気を想定し、それらをまず除外します。除外のために必要な検査がありますので、まずは内科の病院を受診しましょう。
肩甲骨が痛むとき、ストレッチやマッサージをしても良いですか?
中川 龍太郎(医師)
これまでに何度も経験している慢性的な痛みやだるさであれば、ストレッチやマッサージは問題ありません。
肩甲骨の痛みがあり手がしびれるのですが原因は何でしょうか。
中川 龍太郎(医師)
頚椎椎間板ヘルニアなどの神経疾患の可能性があります。整形外科を受診しましょう。
まとめ
肩甲骨の痛みは、「ただの肩こりかな」「肩を痛めただけかな」と誤解されがちですが、重大な病気が隠れていることがあります。見分けるポイントは簡単です。「これまで経験したこたがない」「我慢できないくらい激しい」痛みである場合は、ただの肩こりではない可能性が急上昇しますので、すぐに医師に相談してください。
「肩甲骨の痛み」で考えられる病気と特徴
「肩甲骨の痛み」から医師が考えられる病気は10個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
呼吸器系の病気
肩甲骨付近の症状だとついつい整形外科の病気と考えがちですが、他にも様々な病気の症状で肩甲骨付近の痛みはあります。これまで経験のない痛みである場合は、内科の受診も検討しましょう。
「肩甲骨の痛み」と関連のある症状
「肩甲骨の痛み」と関連している、似ている症状は9個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 左側の肩甲骨が痛い
- 背中の右側が痛む
- 左肩が痛い
- 肩が痛い
- 息を吸うと背中が痛い
- 背中が寝違えたような痛み
- 左顎が痛い
- 右肩が痛い
- 寝違えたように痛い
「肩甲骨付近が痛い」症状のほかにこれらの症状がある場合も、「急性心筋梗塞」「大動脈解離」「胆石発作」「急性膵炎」などの疾患が考えられます。なるべく早く医療機関を受診することを勧めます。