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「急性大動脈解離」とは?原因・症状・治療法についても解説!【医師監修】

 更新日:2023/06/30
「急性大動脈解離」とは?原因・症状・治療法についても解説!【医師監修】

急性大動脈解離は、大動脈の内膜に亀裂が入り、裂けた部分に血液が入り大動脈に平行して血管が剥がれ二構造になってしまう救急疾患で、多くは高血圧によって大動脈の壁が劣化することで発生します。降圧薬の投与と外科手術を行って裂け目を覆います。

急性大動脈解離について、症状、検査・診断、治療法を解説します。

甲斐沼 孟

監修医師
甲斐沼 孟(上場企業産業医)

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大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。

急性大動脈解離とは

急性大動脈解離とは、どのような病気ですか?

    大動脈の壁は内膜、中膜、外膜の三層構造となっており、厚さは約2mm程度です。急性大動脈解離とは、大動脈の壁の血液が流れる側である内膜に突然亀裂が入り、裂けてしまい(解離)、そこから血管壁の中に血液が流れ込み、本来の血液の流れとは別の流れ道ができて大動脈の壁が二腔構造になる病気です。

    大動脈壁が薄くなることで外膜が避けると破裂を起こし、高確率で死に至ります。また、裂ける部位によっては枝分かれしている血管が閉塞や狭窄を起こして、心筋梗塞や脳梗塞、下肢虚血など、さまざまな合併症を起こす危険な病気です。

    大動脈の壁に血液が流れ込む内膜の傷をエントリー、血液が流れ込むことで形成される大動脈壁内のスペースを偽腔、本来血液が流れている大動脈内腔を真腔と呼びます。内腔に傷ができる原因ははっきりとは分かっていませんが、高血圧や大動脈壁の脆弱さ、動脈硬化などがさまざまに絡み合って突然発症すると考えられています。

    大動脈は、上行大動脈、弓部大動脈、下行大動脈 の3種に分類され、上行大動脈は直径約3cmで心臓を出てすぐ上(頭側)に向かう血管です。弓部大動脈は上行大動脈が弓状に孤を描いてUターンし下行する弓状の部分で、下行する大動脈のうち横隔膜から上を下行大動脈、横隔膜から下を腹部大動脈と言います。

    また、上行大動脈や弓部大動脈、下行大動脈を総称して胸部大動脈と呼び、ほとんどの大動脈解離はこの部分で発生します。

    大動脈はいろいろな臓器に血液を送るために、さまざまな場所に枝分かれしています。そうした分岐部に解離が及ぶことで、偽腔が分岐した血管を塞ぎ、その先の臓器に血液が流れにくくなったり、大動脈の血流も偽腔の拡大により低下したりします。

    大動脈解離は、解離が起こった部位によって、スタンフォードA型とスタンフォードB型に分類されます。

    スタンフォード分類は、予後と治療方針の決定に役立つ分類で、A型は上行大動脈に解離があるタイプ、B型は上行大動脈に解離がないタイプで、A型のほとんどが緊急手術を要し、予後も不良です。

    また、大動脈解離は病期によって、急性期、亜急性期、慢性期の3種に分類され、急性期=発症後2週間以内の大動脈解離を急性大動脈解離と呼びます。

    大動脈解離は近年増加しつつあり、予後が不良のため注目されています。突然発症し、放置すれば発症後の48時間以内に50%、1週間以内だと70%、2週間以内だと80%の高確率で死亡すると言われています。

    大動脈解離は女性より男性で3倍多く見られ、黒人、特にアフリカ系アメリカ人に多く、アジア人にはあまり見られません。また、発症者の約4分の3が40~70歳です。また、大動脈解離の発症は、夏場より冬場に多い傾向があり、夜よりも日中、特に午前6時から12時くらいの時間帯に発症が多いとされています。

急性大動脈解離の症状

急性大動脈解離 胸の痛み

急性大動脈解離の症状はどのようなものですか?

    大動脈解離の症状の一番の特徴は、突然、胸や背中に激痛が走ることで、解離が進行するに伴い痛みが胸から腹、脚など体のいろいろな所に移動します。

    また、大動脈からはさまざまな臓器を栄養する動脈が枝分かれしているため、大動脈が裂けるとその枝の血流が落ちてしまい、多様な症状を示すこともあります。それぞれの枝が栄養する臓器が血液不足に陥り、虚血症状が発生します。急性大動脈解離の主な病態は、解離によって起こる大動脈の拡張、大動脈の破裂、偽腔の圧迫による血流障害です。

    大動脈の拡張では、大動脈弁閉鎖不全症、瘤圧迫症状(嗄声、嚥下障害)、瘤形成が出現し、大動脈の破裂では、心臓の入った袋の中に出血し心臓が動けなくなる心タンポナーデ、血胸など、偽腔の圧迫による血流障害では、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞、脳虚血、腎不全、腸管虚血、脊髄虚血、上肢虚血、下肢虚血などが出現します。

    また、スタンフォードA型では、心嚢内への破裂、心筋梗塞、心不全、出血、大動脈弁閉鎖不全症など急死に至る合併症を生じやすく、速やかな外科的治療が必要です。緊急手術までの間に突然死することもあるために、予断を許さない状態になります。

    また、スタンフォードB型では、臓器障害や破裂などの合併症の発生時に緊急手術が必要ですが、まずは血圧を下げて、解離や合併症の進展が起こらないようにケアするために、集中治療管理が行われます。集中治療管理では、48時間の絶対安静と約1週間のベッドでの安静が必要です。その後は、内服薬による血圧の調整を行いながら、徐々に日常生活への復帰を試みます。

急性大動脈解離の原因

急性大動脈解離 高血圧

急性大動脈解離の原因はどのようなものですか?

    急性大動脈解離症の原因は、動脈硬化や糖尿病、高血圧、喫煙、高脂血症、ストレス、睡眠時無呼吸症候群、マルファン(Marfan)症候群をはじめとした先天的な遺伝性疾患などが考えられており、特に高血圧は重要な危険因子となっています。

    マルファン症候群は、遺伝子の異常が原因で組織と組織を繋ぐ結合組織が弱くなり、全身で細胞の弾力性が弱くなる病気です。血管壁を弱体化させて解離などを引き起こしたり、心臓弁に支障を起こしたりします。その他、遺伝性の危険因子として嚢胞性中膜壊死などもあります。

    また、まれに大動脈造影検査や血管造影検査などのため、カテーテルの挿入時や心臓や血管の外科手術中に偶発的に発生することもあります。

急性大動脈解離の検査・診断

急性大動脈解離の検査と診断はどのようにしますか?

    急性大動脈解離の検査は、まずX線検査を行うことです。症状がみられる人の90%において、大動脈の拡張が確認されます。しかし、大動脈の拡張は他の病気で起こることもあります。そのため、急性大動脈解離の診断のためには最も強力で重要な検査であるCT検査を行います。特に造影剤を使用したCT検査は有効で、大動脈解離の状況全てが把握できます。

    昨今のCT検査の精度はとても高く、小さなエントリーの位置まで診断可能です。この情報を基に治療の方針や術式、手術内容などを決定します。また、経食道心エコー検査やMRアンギオグラフィー検査でも大動脈解離を確実に検出できます。その他、血液検査、心臓超音波検査なども実施します。

急性大動脈解離の治療

急性大動脈解離 手術

急性大動脈解離の治療はどのようなものですか?

    急性大動脈解離の治療は、スタンフォードA型とB型のタイプによって違ってきます。
    上行大動脈に解離があるスタンフォードA型は、急死に至る心タンポナーデ、大動脈弁閉鎖不全症、心筋梗塞、急性心不全などの合併症を生じやすいため、緊急手術が必要です。A型解離に対しては上行大動脈人工血管置換術、または上行大動脈と弓部人工血管置換術を行います。

    一方、上行大動脈に解離がないスタンフォードB型は、大動脈の破裂している場合、または血液が十分に届かず臓器に障害が起こる場合は、胸部下行大動脈人工血管置換術の緊急手術を行います。それ以外の場合はまず血圧を下げ、解離進行や合併症が起こらないよう管理をします。

    どの手術も危険性は10~30%前後であり、現代医学の中でも危険率の高い手術の一つとされていましたが、近年手術手技の改良や人工血管の改良、体外循環法の確立により成功率の向上が報告されています。また、解離による血流障害の合併症に対しては、開窓術などの手術を行います。

    大動脈解離の予後は患者さんに対して慎重な姿勢が必要です。臓器不全や破裂を起こす危険性の高い血管の手術で、一部を人工血管に置き換えても、それ以外の血管の多くは解離したまま残っていますし、解離を起こしやすい体質もそのままです。解離を起こしやすい生活習慣もすぐには変えられません。

    そのため、解離が拡大し破裂しないように、日々の血圧の管理や病院での定期的な経過観察が必須です。急性期を乗り切っても楽観するのは禁物です。また、残存している解離が拡張傾向にある場合には、再発症する前に治療を受けることが大切です。

スタンフォードA型の場合の治療

スタンフォードA型の治療とはどのようなものですか?

    スタンフォードA型の解離に対する手術としては、上行大動脈への人工血管置換術、上行大動脈プラス弓部大動脈への人工置換手術などを、解離し損傷した血管を人工血管に置き換える手術を行います。

スタンフォードB型の場合の治療

スタンフォードB型の治療とはどのようなものですか?

    スタンフォードB型の解離であっても、大動脈が破裂していたり、各臓器に十分な血液が届かなくなっている場合は、腹部大動脈や下行大動脈への人工血管置換術、またはステントグラフト内挿術やハイブリッド治療を行います。

    解離の範囲が限られ、各臓器への血流が維持されている場合は、降圧薬などの薬物治療を行いながら、経過観察を行います。降圧治療は、収縮期血圧100~120mmHg以下に維持することを目標とします。第一選択薬は、血管拡張作用を有して血圧降下薬であるカルシウムブロッカー、あるいは交感神経の働きを抑えるβ遮断薬であり、単独で十分に血圧が下がらない場合は他種類の降圧薬を併用します。

編集部まとめ

急性大動脈解離は突然胸や背中に激痛が走る病気で、放置してしまうと死に至ります。症状が見られた時は躊躇なく救急車を呼びましょう。手術で急性期を乗り切っても解離が進行する場合もあるため、退院後の経過観察と定期的な検査が必須です。生活習慣病、特に高血圧には注意が必要です。

この記事の監修医師