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「ALS(筋萎縮性側索硬化症)の初期症状」はご存知ですか?医師が徹底解説!

 公開日:2025/02/25
「ALS(筋萎縮性側索硬化症)の初期症状」はご存知ですか?医師が徹底解説!

ALS(筋萎縮性側索硬化症)の前兆となる初期症状とは?Medical DOC監修医がALS(筋萎縮性側索硬化症)の前兆となる初期症状・代表的な症状・原因・セルフチェック法・検査法や治療法などを解説します。気になる症状がある場合は迷わず病院を受診してください。

神宮 隆臣

監修医師
神宮 隆臣(医師)

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熊本大学医学部卒業。熊本赤十字病院脳神経内科医員、熊本大学病院脳神経内科特任助教などを歴任後、2023年より済生会熊本病院脳神経内科医長。脳卒中診療を中心とした神経救急疾患をメインに診療。脳神経内科疾患の正しい理解を広げるべく活動中。診療科目は脳神経内科、整形外科、一般内科。日本内科学会認定内科医、日本神経学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本脳血管内治療学会専門医、臨床研修指導医の資格を有す

「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」とは?

身体を動かすための運動ニューロンという神経系が、少しずつ壊れてしまう病気です。
運動ニューロンが壊れてしまうと、脳の指令が筋肉に伝わらず、手足・のど・舌・呼吸に必要な筋肉が動かなくなってしまいます。ALS(筋萎縮性側索硬化症)になると、さまざまな筋肉が動かなくなりますが、その一方で以下の症状は現れにくいといわれています。

・眼球運動障害

眼の動きに必要な筋肉は低下しにくいため、目の動きで自分の意思を伝えることができます。

・膀胱直腸障害

排泄に必要な膀胱や直腸の筋肉は低下しないといわれています。

・感覚障害

ALSでは一般的に四肢の触覚、温覚、痛覚といった感覚は保たれるとされています。そのため、手足のしびれや麻痺感を伴うことは少ないといわれています。一方で、視覚、聴覚、臭覚、味覚などの感覚機能も影響を受けにくいとされています。

・床ずれ(褥瘡)

寝たきりになっても、床ずれ(褥瘡)は発生しにくいといわれています。

ALSの発症頻度は低く、1年間で新たにALSにかかる人は人口10万人当たり平均2.2人といわれています。
また、発症者の男女比を比較すると、男性が女性に比べて多く発症しています。

ALSの進行は比較的速く、2~5年程度で、死亡もしくは人工呼吸器が必要になるとされています。しかし、実際は10年以上に渡って、人工呼吸器を装着せずに生存する方もいます。
このように、症状の進行や余命には、大きな個人差があるといえます。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)の前兆となる初期症状

ALSの前兆として、以下のような症状がみられる場合があります。

ALSは、大きく「古典型ALS」と「球麻痺型ALS」に分類され、それぞれ下記のような特徴があります。

・古典型ALS:手足の筋力低下、筋肉が細くなる
・球麻痺型ALS:飲み込みや話しにくさ

このように、ALSの型によって、初期症状は異なります。

手の力が入りにくい

手の力が入りにくくなり、腕を動かすことや細かい指の動きが難しくなります。主な症状としては、お箸が持ちにくい、物を持てないなどが挙げられます。肩周辺の筋肉が弱くなると、肩が上がりにくくなり、肩こりに似た症状が現れる場合もあります。この段階で、日常的な動作に不便を感じ始めます。

足の力が入りにくくなる

最初に足の力が入りにくくなり、歩くことが難しくなりまることもあります。最初は、歩く速度が遅くなる、足がつまずきやすくなる、階段の上り下りが難しくなるなどの症状がみられます。
これらの症状が現れると、つまづくなどして、転倒する危険性が高くなります。

筋肉が細くなる

手や足の筋肉がいつの間にか瘦せる場合があります。初期には、手の親指周りの筋肉がよく萎縮します。手の親指付近の筋肉が痩せてきて左右が気になる場合もあります。
全身の筋肉が痩せるため、体重もいつの間にか減ってきます。そのため、体重が減ったことで気づく場合もあります。また、筋肉のぴくつきもみられます。下肢の動かしにくさを補うための歩き方をしたり、筋肉がけいれんしたりすることによって、腰痛などの痛みを感じることもごくまれにあります。[香木7]

食事がしにくくなる

特に球麻痺型ALSの初期症状としてよく見られます。いつもより食事の時に飲み込みが行いにくくなったり、食事中にむせたりすることが多くなります。この段階になると、食事を楽しむことが難しくなり、食べることに対しても不安が出てくるため、受診のきっかけになる場合もあります。

話しにくくなる

球麻痺型ALSになると、舌やのどの筋肉の力が弱まるため、呂律が回りにくくなり、話しにくくなるなどの症状が現れます。
また、話をしても、発音が正確にできにくくなる場合もあります。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)の代表的な症状

ALSが進行すると、以下のような代表的な症状が複数出現します。

筋力が低下する

よくみられる症状が手足の指先や腕、足の筋力低下です。古くは、片側の腕から筋力の低下が出現するといわれていましたが、最近では、片側の足から始まる場合もあることが分かっています。ただ、どちらも片側から始まることが多いとされています。進行してくると四肢に症状がみられるようになります。
ただ、筋力の低下は人によって程度が異なるため、気になる症状があれば、一度、医療機関を受診しましょう。

筋肉が萎縮する

神経の働きが低下して、筋肉への刺激が受けられなくなるため、筋肉が徐々に痩せ細っていきます。全身の筋力が痩せることで体重も減ってきます。

筋肉のぴくつき

ALSの特徴として、筋肉のぴくつきがみられます。健康な場合でも、疲れている時などは、瞼や顔、手足などに出現するぴくつきと同じようなものです。ただ、ALSの場合は、疲れなどに関連なく、自分の意図しないタイミングで、ぴくつきがみられます。足の筋肉を動かした時に、筋肉が急に収縮し、こむらがえり(足がつる[香木3] こと)を起こすこともあります。

飲み込みがしにくくなる

飲み込みを行うためには、舌やのどの筋肉などがうまく働く必要があります。しかし、ALSの場合は、これらの筋肉も低下するため、食べ物や飲み物を飲み込むのが難しくなります。進行してくると、食事中にむせることが多くなります。食事が原因で誤嚥を起こしやすくなります。そのような症状が強い場合は口から食事や水分を摂ることが難しくなります。致命的になるため、場合によっては安全に栄養摂取や薬剤投与を行うため、経鼻胃管や胃ろうなどの処置を行います。口から食べる楽しみは重要ですので、どこまで治療を行うか、主治医しっかりと相談する必要があります。

息がしづらくなる

舌や口の筋肉が衰えるため、食事中の飲み込みだけでなく、言葉が不明瞭になったり、ろれつが回りにくくなったります。
また、鼻にかかるような声の「開鼻声」や、声がかすれたり、弱々しい声になったりする「声がれ(嗄声)」という特徴的な声がよくみられます。

すぐに病院へ行くべき「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」

ここまではALS(筋萎縮性側索硬化症)を紹介してきました。
以下のような症状がみられる際にはすぐに病院に受診しましょう。

脳神経内科へ

ALSは脳神経内科で確定診断されます。
しかし、初期症状の段階では症状が軽く、典型的な症状が全てそろっていないため、内科、整形外科、耳鼻咽喉科などを受診することがあります。そのあとに、脳神経内科へ再度受診することが多いため、結果として診断までに時間を要してしまう場合もあります。
以下のセルフチェック法で該当する場合は、脳神経内科を一度受診しましょう。

受診・予防の目安となる「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」のセルフチェック法

ALSのセルフチェック法は以下のような方法があります。
・ 手足の力が入りにくい
・ 筋肉が痩せてきた
・ 体重が減ってきた
・ 筋肉がぴくつく
・ 歩いた際につまずきやすくなった
・ 手の細かい動作が難しくなった
・ 飲み込みにくい、むせることが増えた
・ ろれつが回りにくい
・ 呼吸がしにくい
・ 息切れしやすくなった

ALS(筋萎縮性側索硬化症)の主な原因

ALSの原因は、現時点では明らかになっていませんが、以下のような原因が考えられています。

遺伝性

ALS 症例の約 10% は遺伝性といわれています。両親のいずれか、もしくはその兄弟、祖父母などにALSの方がいると注意が必要です。

環境要因

一部の研究では、重金属(鉛や水銀)や農薬、溶剤などをよく取り扱っている場合は、ALSの発症が高くなる可能性が示唆されています。
ただし、一定した見解もなく注意が必要です。

神経の老化

神経細胞の老化がALSの発症に関係している可能性があり、加齢も危険要素の1つと考えられています。
実際、若い世代でALSを発症する場合もありますが、好発年齢は60~70歳代といわれています。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)の検査法

​​ALSを診断する場合は、診察で特徴的な所見が重要になります。ALSらしさを調べる検査とALSと似た病気を除外する検査を組み合わせることになります。
ALSを疑った場合は、主に以下の検査を実施します。

針筋電図

針筋電図は、筋肉に細い針を刺して筋肉の電気的活動を測定する検査です。障害の原因が運動神経なのか筋肉なのかがわかります。診察で特徴をつかめなかった場合には、この検査で異常を見つけることができる場合があります。

神経伝導速度検査(NCS)

神経伝導速度検査(NCS)は、末梢神経を電気的に刺激して、伝わる速度を測定し、末梢神経が正常に機能しているかを確認する検査です。
この検査は、ALSに似た、末梢神経が障害される病気を除外するために行われます。ALSの場合、末梢神経に問題がないため、正常と判定されることが一般的です。

MRI

脳や脊髄のMRIを実施して、筋力低下の原因となる脳梗塞や腫瘍、脊髄症などの他疾患を除外します。ALSではMRIにて錐体路や運動野などに軽微な異常がみつかることがあります。しかし、主たる目的としてはALSに似る他の病気を除外するために重要な検査です。基本的に実施される検査になります。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)の治療法

現在、ALSに対する根治的な治療法はありません。できるだけALSの進行を遅らせるように、現在日本で行われている治療を紹介します。

薬物療法

ALSの治療として、日本では以下の2種類の薬が使用されます。

リルゾール

リルゾールはグルタミン酸の放出を抑える作用があります。グルタミン酸が増えすぎると、神経細胞が障害されるとされます。この神経細胞障害が、ALSの発症に関わっているといわれます。リルゾールを使用することで、人工呼吸器が必要になるまでの期間を延ばす効果が期待されています。筋力低下を抑える効果は明らかになっていません。

エダラボン

エダラボンは酸化ストレスの一種であるフリーラジカルを消去する作用があります。筋力低下などのALSの機能低下を抑えるとされます。点滴のみの薬剤でしたが、ALSに対しては飲み薬も使えるようになりました。

リハビリテーション

ALSのような全身の筋力低下が進行する疾患へのリハビリテーションは、残された能力の維持に重要です。さらに、進行してきた場合に備えて補助具などを使用して残された身体能力で生活の質を最大限維持できるように工夫します。
具体的には、筋力低下を防ぐために、定期的な運動やストレッチ、日常生活動作の工夫の方法などを指導します。また、飲み込みや喋りに関しても言語聴覚士によるリハビリテーションが行われます。注意点としては、筋肉痛が残るような負荷のリハビリテーションになるとALSが進行する可能性があるので注意が必要です。

栄養療法

嚥下障害が進行した場合、食事を摂取するのが難しくなります。栄養が取れないと、栄養状態が悪くなり、体の機能も低下します。前述のリハビリテーションに加えて、食事を柔らかくしたり、栄養補助食品を追加したりして栄養状態を維持するよう工夫します。
しかし、ALSは確実に進行し、口から食事が摂れなくなります。その場合は、栄養を鼻から胃へチューブを入れて栄養剤や薬を投与する「経鼻経管栄養」や胃に直接穴をあけてチューブを入れる「胃ろう」などの方法を行うことがあります。
ただし、口から食事をとることは、単純に栄養のみならず、楽しみの側面もあります。口からご飯が食べられなければ、それ以上の医学的介入を希望されないかたもいらっしゃいます。もしALSと診断された場合には、今後どのような治療を行っていくか主治医としっかり相談しましょう。

「ALS(筋萎縮性側索硬化症)の初期症状」についてよくある質問

ここまでALSの初期症状などを紹介しました。ここでは「ALSの初期症状」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

ALSになりやすい人の特徴を教えてください。

神宮 隆臣神宮 隆臣 医師

ALSの明確な原因はまだ解明されていませんが、一般的には以下のような特徴が指摘されています。
・ 遺伝的要因:家族や親戚にALSの方がいる
・ 年齢:60~70歳代の男性
・ 環境要因:農薬や重金属などをよく取り扱う場合

医師はどのような方法でALSを確かめるのでしょうか?

神宮 隆臣神宮 隆臣 医師

特定の検査で診断できる病気ではなく、以下のようなさまざまな検査を組み合わせて診断されます。
・ 神経学的診察:筋力低下や筋萎縮、腱反射の異常などを評価します。
・ 針筋電図
・ 神経伝導検査
・ MRI検査
・ 血液検査
・ 髄液検査

若年性ALSの初期症状について教えてください。

神宮 隆臣神宮 隆臣 医師

25 歳未満で症状が現れ始めるALSを若年性ALSといいます。一般的な発症のALSに比べて、遺伝的素因による発症が多いといわれています。手足の筋力低下などの症状が多く、球麻痺型は少ないとされます。進行は比較的ゆっくりですが、確実に進行します。治療法も一般のALSと変わりはありません。

編集部まとめ

ALSは稀な病気であり、発症初期には典型的な症状が揃っていないため、正確に診断することが難しい場合があります。
ALSの詳細な評価や治療は脳神経内科が専門となります。
そのため、気になる症状が合った場合は、まずは近くの医療機関を受診しましょう。ALSが疑われるような際には脳神経内科へ紹介されることとなります。のどや口の球症状が強い場合は、脳神経内科を直接受診してもよいでしょう。

「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」と関連する病気

「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」と関連する病気は11個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

脳神経内科の病気

  • 重症筋無力症(MG)
  • 多発性硬化症(MS)
  • 球脊髄性筋萎縮症(SBMA)
  • 慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)
  • 多巣性運動ニューロパチー(MMN)
  • 封入体筋炎

呼吸器内科の病気

循環器内科の病気

整形外科の病気

  • 頸椎症性脊髄症

ALSは他の病気を区別することが難しいだけでなく、時間とともに病気が進行してしまいます。また、合併症を引き起こす危険性もあるため、気になる症状がある場合は、医療機関を受診しましょう。

「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」と関連する症状

「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」と関連している、似ている症状は5個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する症状

  • 筋肉が痩せる
  • 筋肉のぴくつき
  • 話しにくい
  • 息切れしやすい
  • 飲み込みづらい

ALSは、特徴的な症状が現れることが少ないため、これらだけでなく、何かいつもと違う症状を感じた場合は、医療機関に一度相談しましょう。

この記事の監修医師