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「ALS(筋萎縮性側索硬化症)になりやすい人」の特徴はご存知ですか?医師が解説!

 更新日:2025/02/21
「ALS(筋萎縮性側索硬化症)になりやすい人」の特徴はご存知ですか?医師が解説!

ALS(筋萎縮性側索硬化症)になりやすい人の特徴とは?Medical DOC監修医がALS(筋萎縮性側索硬化症)になりやすい人の特徴・代表的な症状・原因・セルフチェック法・検査法や治療法などを解説します。気になる症状がある場合は迷わず病院を受診してください。

神宮 隆臣

監修医師
神宮 隆臣(医師)

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熊本大学医学部卒業。熊本赤十字病院脳神経内科医員、熊本大学病院脳神経内科特任助教などを歴任後、2023年より済生会熊本病院脳神経内科医長。脳卒中診療を中心とした神経救急疾患をメインに診療。脳神経内科疾患の正しい理解を広げるべく活動中。診療科目は脳神経内科、整形外科、一般内科。日本内科学会認定内科医、日本神経学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本脳血管内治療学会専門医、臨床研修指導医の資格を有す

「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」とは?

ALSは筋萎縮性側索硬化症の略称です。ALSでは、運動ニューロンが障害されることで、全身の筋力が弱っていく進行性の疾患です。筋萎縮性側索硬化症という名前は、脊髄の中の側索を運動神経が通っており、ALSでは側索が萎縮することで名づけられました。症状が進行すると、手足が動かなくなり、寝たきりになります。また、飲み込みや呼吸の筋力も衰えるため注意が必要です。根本的な原因ははっきりとは解明されていません。そのため、根本的な治療法もない疾患です。近年、原因に関して迫るような研究もありますし、治療法の選択肢も増えてきました。しかし、残念ながら確実に進行し、致死的経過をたどる神経難病です。
今回はそんなALSのお話です。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)になりやすい人の特徴

先ほども述べたように、ALSのはっきりとした原因は分かっていません。しかし、これまでの研究で発症には、遺伝的要因と環境的要因が関わっていることがわかりました。そのうちいくつかを抜き出して紹介します。

家族歴・遺伝子

ALSの5~10%は家族性のALSといわれます。家族の中にALSを発症するかたが多い場合は家族性ALSの可能性があります。 また、孤発性といわれる家族歴のないALSの中にも遺伝子異常で発症するものも報告されています。家族性のALSは多くはありませんが、海外の報告では、ALSを発症した近親者が居る場合はALSを発症しやすくなることも分かっています。血縁者にALSを発症した方がいる場合には注意が必要です。

男性

日本での報告では、男性のほうが女性に比べて1.5倍程度発症しやすいことが分かりました。海外の報告においてもばらつきはありますが、いずれも男性がALSを発症しやすいとされています。男性はより注意する必要があります。

年齢(70代)

ALSは若年者では稀ですが、40代から徐々に発症率が上昇します。加齢とともに上昇し、70代がピークとなります。逆に80代以降は低下します。そのため、70代に近い方は特に注意する必要があります。

喫煙

遺伝に関連のない孤発性ALSの発症に関わる因子として確立しているものが喫煙です。現在進行形で喫煙している方は喫煙したことがない方と比較して、1.7倍程度発症しやすいという研究もあります。 禁煙した人のほうが、現在も喫煙している人と比べてALSが発症しにくい可能性も分かっています。ALSのみならず心身の健康のためにも喫煙している方は、禁煙しましょう。

頭部への外傷歴

かつてのアメリカ人の名野球選手であるルー・ゲーリックは35歳でALSを発症しました。そのため、ルー・ゲーリック病の別名もあるくらいです。調査すると、アメリカンフットボールなどの頭部外傷を繰り返し起こす職業スポーツ選手などの発症率が高いことから、頭部への繰り返す外傷も発症に関わっていることがわかりました。頭部外傷とALSの発症は関連がないとの報告もありますが、コンタクトスポーツを行う場合はヘッドギアを着けるなど十分に予防を行いましょう。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)の代表的な症状

ALSは初期症状として大きく分けて手足の筋力がはじめに弱くなるパターンと飲み込みや喋りなど口やのどの症状から始まるパターンに分けられます。以下に代表的な症状を示しますが、初期にすべて現れるわけではないことに注意が必要です。気になる症状があれば、脳神経内科を受診しましょう。

手や足の力が入らない

ALSでは腕や足に力が入らなくなります。古くは片側の腕から始まるとされていましたが、片側の足から始まる例が知られるようになりました。いずれも片側から始まることが多いとされています。 腕の症状であれば、「手に力が入らず、ものが持てない」、「肩が上がらない」などの症状が代表的です。足であれば、「膝の力が抜ける」、「階段が登れない」などが挙げられます。個々人によって力が入らない症状は様々ですので、気になる症状があれば、受診しましょう。

手や足の筋肉が痩せる

通常は手足の力が入らない症状に加えて手足の筋肉が痩せてきます。しかしながら、時に力は入るのに筋肉が痩せてきたとの症状で受診する方もいます。また、全身の筋肉が痩せてくると、体重も自然に減ってきます。そのため、体重が減ってきたとのことで気づく方もいます。特に筋肉が痩せてくるときに注目してほしいのは症状のある手の、親指のまわりの筋肉です。手のひらの親指の付け根の筋肉が痩せてきて左右で差がある場合は、病院を受診するようにしましょう。

筋肉がピクつく

筋肉自体が時々ピクつく症状は運動神経が傷ついて、脱落するときに特徴的な症状です。専門用語では、線維束性収縮といいます。健康な方も、疲れているときに瞼や顔、手足にでるピクつきもその一種です。ALSでは、自分の意図しないタイミングで、この線維束性収縮が起こります。自覚してない場合もありますが、時に症状に気づいて病院を受診される方もいらっしゃいます。疲れているとき以外にも、筋肉のピクつきがある場合は受診を考えましょう。

ろれつが回らない、喋りにくい

口やのどの症状が主体の球麻痺型ALSの初期に代表的な症状です。この場合は舌やのどの筋肉が障害されることで、ろれつが回らなくなったり、喋りにくくなったりします。特にこの場合の声は鼻にかかるようになります。専門用語で開鼻声といい、特徴的な声になります。この症状が出ている場合は、舌が痩せてきており、さらに、ピクつきもみられることが多いです。このような症状がそろっている場合は速やかに脳神経内科を受診しましょう。

飲み込みにくい

この症状も、球麻痺型ALSの初期に特徴的です。ものを飲み込むためには、舌やのど(咽頭や喉頭)の筋肉がうまく働く必要があります。この部分の筋肉が弱ってしまうため、飲み込む機能が低下して、食事が十分摂れなくなります。また、むせ込むことも多くなり、肺炎などを起こしやすくなってしまいます。飲み込みにくさだけではALSに特徴的な症状とは言えませんが、ほかにも重大な病気が隠れていることもあります。まずは、かかりつけの先生に相談し、耳鼻咽喉科や消化器内科、脳神経内科などを紹介してもらいましょう。もちろん、ろれつが回らないや喋りにくいという症状が一緒にある場合は脳神経内科が望ましいでしょう。

すぐに病院へ行くべき「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」

ここまではALS(筋萎縮性側索硬化症)を紹介してきました。
以下のような症状がみられる際にはすぐに病院に受診しましょう。

ALSの症状に息苦しさがある場合は脳神経内科へ

前述の項でALSの症状についてお話しました。手足に力が入らなかったり、筋肉が痩せてきたり、ピクついたりする症状やろれつが回らない、喋りにくい、飲み込みにくいといった球麻痺型ALSの症状です。それらに加えて、息苦しさや呼吸を苦しそうにしている場合は、呼吸に必要な筋肉も障害されている可能性があります。特に、意識も悪い場合は救急外来を受診しましょう。意識レベルが保たれている場合も、速やかに脳神経内科を受診するようにしましょう。

受診・予防の目安となる「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」のセルフチェック法

  • ・手や足に力が入らない症状がある場合
  • ・筋肉が痩せてきた症状がある場合
  • ・筋肉がピクつく症状がある場合
  • ・ろれつが回らない、喋りにくい症状がある場合
  • ・飲み込みにくい症状がある場合

ALS(筋萎縮性側索硬化症)の主な原因

ALSの発症の正確な原因は分かっていませんが、現段階で分かっていることをいくつか示します。

SOD-1

日本において家族性ALSで最も異常がみられる遺伝子が、SOD-1です。日本では、家族性30%前後でSOD-1に異常を認めると報告されています。このSOD-1は、酸化ストレスを処理する酵素の遺伝子です。酸化ストレスのみならず、細胞内の小胞体ストレスや細胞死にも関連していると考えられています。このような複合的な要因でSOD-1に関連する家族性ALSは発症すると考えられています。
この酸化ストレスは、孤発性ALSの発症にも関連しているといわれます 。

TDP-43

孤発性ALSを発症した方を調べると、特殊な染色で染まる異常な構造が神経細胞内に見つかりました。その正体が、TDP-43というタンパク質でした。機能としては、細胞の維持に重要なRNAに関連することが分かりました。RNAの機能が障害され、孤発性ALSを発症すると考えられていますが、詳細は分かっていません。

グルタミン酸毒性

孤発性ALSを発症する原因の仮説のひとつがグルタミン酸毒性です。グルタミン酸は神経伝達物質のひとつで、過剰になると興奮毒性を引き起こします。最終的に細胞死を誘発します。また、近年の研究では、グルタミン酸が過剰になっている原因として、先行してAMPA受容体が過剰発現したり、易興奮性となったりすることが関わっているとも言われています。これらについてはまだ 、正確には解明されておらず、仮説のひとつにしかすぎません。今後の研究に期待がもたれます。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)の検査法

ALSの特徴的な症状を確認することと似ている症状を引き起こす鑑別疾患を除外する必要があります。そのために実施される検査の代表を挙げます。

神経診察

ALSは運動ニューロンが障害される疾患です。運動ニューロンは上位運動ニューロンと下位運動ニューロンがあり、それらの症状を確認することが診断には必須となります。神経診察を行い、脳神経、頚髄、胸髄、腰仙髄の領域にどのような症状がみられるかを確認します。症状が典型的な場合は、診察のみでもほぼ診断することも可能です。
典型的な上位運動ニューロン症状としては、病的反射や萎縮筋の腱反射亢進などです。下位運動ニューロン症状としては、筋萎縮や筋力低下が挙げられますが、線維束性収縮があるかを最も重要視します。

電気生理学的検査

代表的な検査として、針筋電図検査および神経伝導検査はほぼ検査が行われます。
針筋電検査は、症状が運動神経の障害なのか筋肉の障害なのかを明らかにするために行われます。細い針を筋肉に刺して電気的な活動を記録します。運動神経の障害である場合には、急性のものか慢性のものかまで評価を行います。また、神経診察で特徴的な所見がない場合は、針筋電図の検査所見が代用できる場合があります。
神経伝導検査は、ALSらしさを検査するというよりは、似たような症状を引き起こす脱髄性ニューロパチーを除外するために行います。
基本的には、脳神経内科のある病院での検査になります。

MRI

ALSでも、頭部MRIのFLAIR画像で錐体路が高信号、SWIで運動野の低信号などの異常が見られます。しかし画像検査を行う主な理由は、鑑別疾患を除外するために行われます。そのため、頭部および脊髄のMRIはほぼ全例で実施されます。
頭部MRIは脳血管障害や前頭側頭型認知症、多発性硬化症などの脱髄性疾患を除外することができます。
脊髄MRIは、多発性硬化症などの脱髄性疾患、脊髄空洞症、脊髄症などを鑑別します。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)の治療法

残念ながらALSには根本的治療法はありません。現在実施されている主な治療法を示します。ALSも現在進行形でいろいろな研究や治験が行われており、治療法が追加になる可能性に注意が必要です。

リルゾール

リルゾールはグルタミン酸の放出を抑制する作用のある薬剤です。内服をすることで、主に人工呼吸器が必要になるまでの期間を延長する可能性があります。残念ながら、筋力低下を抑制する効果は乏しいようです。副作用として、肝障害や間質性肺炎に注意が必要です。

エダラボン

エダラボンは脳梗塞に対して使用されてきた薬剤で、酸化ストレスであるフリーラジカルを消去する作用があります。筋力低下などのALSの機能低下を抑制する作用があります。 もともと点滴製剤のみでしたが、経口薬が登場し、投薬しやすくなりました。

リハビリテーション

リハビリテーションは通常失われた機能を取り戻す意味で用いられます。しかし、ALSなどの進行性の疾患でもリハビリテーションなどの運動療法や言語聴覚療法は極めて重要です。残された機能を少しでも改善したり、維持したりできるようにリハビリテーションを行います。四肢の運動機能のみならず、飲み込みや呼吸機能においてもリハビリテーションは効果を示します。ただし、負荷をかけすぎるとかえってALSが進行することもあります。リハビリテーション翌日に筋肉痛などの症状がある場合は、強度が強すぎるので負荷を調整します。

「ALS(筋萎縮性側索硬化症)になりやすい人」についてよくある質問

ここまでALSになりやすい人などを紹介しました。ここでは「ALSになりやすい人」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

ALSになりやすい人の職業はありますか?

神宮 隆臣神宮 隆臣 医師

コンタクトスポーツの職業選手など頭部外傷を多く受傷する可能性がある方は多いといわれます。しかし、頭部外傷とALSの関連は一定した意見がなく、慎重な判断が必要です。

ALSの予防法について教えてください。

神宮 隆臣神宮 隆臣 医師

残念ながら、ALSの原因は分かっておらず、正確な予防法はありません。発症に関わる因子の中で、性別や年齢はどうしようもありません。現時点でわかっている予防方法としては、喫煙者が禁煙することと、非喫煙者は今後喫煙しないようにすることが挙げられます。

編集部まとめ

ALSは進行性の神経難病のひとつです。いまだに根本的な原因は分かっていません。それでも、原因を解明しようと世界中で研究が行われています。今回の内容が少しでも筋萎縮性側索硬化症の理解に役立てば幸いです。

「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」と関連する病気

「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」と関連する病気は20個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

脳神経内科の病気

  • 慢性炎症性脱髄性多発根神経炎
  • 多巣性運動ニューロパチー
  • 平山病
  • 球脊髄性萎縮症
  • 脊髄性筋萎縮症
  • 亜急性連合性脊髄症
  • 重症筋無力症
  • Lambert-Eaton筋無力症
  • 封入体筋炎
  • 皮膚筋炎

整形外科の病気

ALSに関連する病気は多岐にわたります。多くは脳神経内科の関連の病気のため、脳神経内科の受診をお勧めします。

「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」と関連する症状

「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」と関連している、似ている症状は8個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する症状

  • 手足に力が入らない
  • 筋肉が痩せる
  • 筋肉がピクつく
  • ろれつが回らない
  • 喋りにくい
  • 声が続かない
  • 鼻声になった
  • 飲み込みにくい

初期には上記の症状の一部しか現れません。少しでも気になる症状があれば受診を考えてもよいでしょう。

この記事の監修医師