がん治療の1つ「分子標的療法」で起きる”4つの副作用”とは?受診の目安も医師が解説!

分子標的療法の副作用と初期対応とは?メディカルドック監修医が、皮膚症状や下痢、高血圧などの特徴と、悪化を防ぐための受診目安を詳しく解説します。
※この記事はメディカルドックにて『がん治療の1つ「分子標的療法」とは?「化学療法」との違いも医師が解説!』と題して公開した記事を再編集して配信している記事となります。

監修医師:
横田 小百合(医師)
都内の大学病院・がんセンターにてがん治療と緩和ケア診療に従事。現在はがん専門病院にて緩和ケア診療を行っている。
保有資格:医師、がん治療認定医、総合内科専門医、日本緩和医療学会認定医
目次 -INDEX-
「分子標的療法」とは?
分子標的療法は、がん細胞や疾患を引き起こす細胞の異常分子構造をターゲットにする治療法です。がん細胞表面の異常な受容体、細胞内の異常活性化した増殖シグナルなど、標的とする分子が明確であるというのが特徴です。
「分子標的療法」と「化学療法」の違いは?
従来の細胞障害性抗がん剤(いわゆる化学療法)は、がん細胞だけでなく正常な細胞の分裂も妨げるため、吐き気、脱毛、骨髄抑制など重い副作用が出やすいという問題がありました。これに対し、分子標的療法は、がん細胞が持つ異常のある部分(ターゲット分子)だけを選んで攻撃します。このような部分が分子標的療法と化学療法との違いです。
分子標的療法は治療効果を高めつつ副作用を抑えた「より安全で効果的ながん治療」といえますが、標的とするターゲット分子に異常がある患者のみが対象になるという点でも化学療法とは異なります。
分子標的療法の副作用
皮膚障害
● 代表薬剤
EGFR阻害薬:ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、オシメルチニブ
VEGF阻害薬/VEGFR阻害薬:スニチニブ、ソラフェニブ
● 特徴
EGFR阻害薬でざ瘡様皮疹(ニキビに似た湿疹)
VEGF/VEGFR 阻害薬で手足症候群(手掌/足裏の発赤・腫脹・痛み)
● 初期対応
保湿剤の継続使用
沢山歩くなどの刺激・摩擦・日光曝露を避ける
早期もしくは予防的な外用ステロイドや抗菌薬の使用
● 受診の目安
広範囲の皮疹、強い疼痛、化膿 → 皮膚科または主治医
症状が強い場合は薬剤調整(減量、中断)が必要となるため早めに相談する
下痢
● 代表薬剤
EGFR阻害薬(アファチニブ、オシメルチニブ)
多くのチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)
mTOR阻害薬(エベロリムス、パゾパニブ)
● 特徴
早期(1〜2週間)から起こりやすい
● 初期対応
経口補水液などで水分・電解質補給
ロペラミドなどの止瀉剤の早期使用
● 受診の目安
止瀉剤を使っても1日4回以上の下痢が数日持続していて尿回数が極端に減ったとき
脱水症状があるのに飲水が難しいとき
高血圧
● 代表薬剤
VEGF/VEGFR阻害薬:ベバシズマブ、レンバチニブ、アキシチニブ、スニチニブなど
● 特徴
VEGF阻害により血管内皮機能が変化し、治療開始数日-2週間以内の早期から高血圧が出現する
● 初期対応
家庭血圧測定を習慣化し、必要な内服は欠かさず行う
必要に応じて降圧薬調整
● 受診の目安
自覚症状は出にくいため、血圧の値に注意して主治医に報告する
薬剤性肺障害
● 代表薬剤
EGFR阻害薬:ゲフィチニブ、エルロチニブ、オシメルチニブ
mTOR阻害薬:エベロリムス
● 特徴
空咳、息切れ、発熱、労作時の呼吸困難
特に EGFR阻害薬では日本人における発症率が比較的高い
● 初期対応
休息して症状観察していても改善しないようなら主治医へ電話するなど早めに相談
発症のタイミングは早期も遅発もあるため、薬剤使用期間は全期間注意が必要
● 受診の目安
咳・息切れが持続するときは主治医に伝える
呼吸苦が急速に悪化するようなら 緊急受診(入院加療が必要になることがある)
「分子標的療法」についてよくある質問
ここまで分子標的療法を紹介しました。ここでは「分子標的療法」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。
分子標的療法はどんな人に効果的なのでしょうか?
横田 小百合 医師
分子標的療法は「ターゲットとなる遺伝子異常や異常分子構造を持つ患者」に有効です。事前にがん検体の遺伝子検査で治療適応の有無を確認します。
分子標的療法のデメリットについて教えてください。
横田 小百合 医師
分子標的療法は、治療目標とするがんの組織内にターゲット遺伝子異常がなければ効果は期待できない治療です。追加の検査費用や検査受診の負担があります。また、化学療法に比べれば少ないですが副作用があります。皮膚症状、下痢、高血圧、注入時反応など特有の副作用が出てきます。ご自身の分子標的療法で出やすい副作用を知っておくと、早期対処がしやすく、症状の悪化も予防しやすいでしょう。
まとめ
分子標的療法は「がんの異常分子構造をターゲット」にする治療です。事前の検査により、患者ごとに最適な薬を選択できる点がメリットです。
特有の副作用や費用の課題はありますが、分子標的療法のおかげで、従来治療では治療が難しかった症例にも比較的副作用の少ない選択肢を提供することができるようになっています。従来治療に加えてさらに治療の選択肢を増やすことで、QOL改善や生存期間延長に役立っている治療といえます。
一方、希望する全員が受けられる治療ではないですし、治療方針は病期やがん種により異なります。新薬でもあるため、従来治療にくらべて治療の流れや順序はさらに複雑化しています。分子標的療法も活用してより適切ながん治療が続けられるように、治療医とよく相談していきましょう。
「分子標的療法」と関連する病気
「分子標的療法」と関連する症状
参考文献
- NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology(NSCLC, Breast Cancer, Management of Toxicities)
- ESMO Clinical Practice Guidelines – Management of toxicities from targeted therapies
- 国立がん研究センター(NCC)「薬物療法(分子標的治療)」