監修医師:
渡邊 雄介(医師)
所属
国際医療福祉大学 教授
山王メディカルセンター副院長
東京ボイスセンターセンター長
上咽頭がんの概要
咽頭とは、鼻の奥から食道までつながる、筋肉と粘膜でできた約13cmの管です。高さにより上咽頭、中咽頭、下咽頭の3つの部位に分けられます。
上咽頭がんは、一般的に「のどちんこ」とよばれる口蓋垂(こうがいすい)の後ろの上部にある上咽頭に発生する悪性腫瘍です。咽頭の周囲にはリンパ節が多いため、首のリンパ節に転移しやすい特徴があります。
上咽頭がんは、中国南部や東南アジアに多く、日本では比較的まれながんです。
国立がん研究センターがん情報サービスによると、日本では1年間に約800人が上咽頭がんと診断されており、女性よりも男性に多い傾向があります。
上咽頭がんの症状は鼻や耳にみられることが多く、鼻づまりや耳づまりなどがみられます。そのほか、物が二重に見えたり、見えにくくなったりするなど、脳神経から生じる症状がみられることがあります。
初期では自覚症状がないことが多く、早期発見が難しいがんですが、早期に治療を開始できれば生存率は高くなることが期待できます。
国立がん研究センターがん情報サービスによると、上咽頭がんを含む口腔・咽頭がんの5年相対生存率(2009〜2011年)は63.5%であることが報告されています。
上咽頭がんの発症には、EBウイルス(エプスタイン・バール・ウイルス)とよばれるウイルス、喫煙や過度の飲酒が関係していると考えられています。一般的に、手術ではなく放射線治療や抗がん剤治療が行われます。
上咽頭がんの原因
上咽頭がんの発生は、EBウイルス(エプスタイン・バール・ウイルス)に感染することが原因のひとつとして考えられています。上咽頭がんになる人の多い地域(中国南部、東南アジアなど)では、多くの場合、EBウイルスへの感染が確認されています。
EBウイルスは、ヘルペスウイルスとよばれる種類のウイルスで、伝染性単核球症や肝炎、脳炎、リンパ腫などさまざまな病気の原因となるウイルスとして知られています。通常は感染しても、無症状か風邪のような症状で終わることが多いです。
日本でも成人の約9割はEBウイルスに感染しているといわれていますが、EBウイルスへの感染に加えて、特定の遺伝子変異が生じることなどにより、上咽頭がんが発生するリスクが高まると考えられています。
上咽頭がんの発生に喫煙や過度の飲酒が関連する場合があることも指摘されています。国立がん研究センターの大規模調査によると、日本人の男性において、喫煙者のグループは非喫煙者のグループと比較して、上咽頭がんになるリスクが約4倍増加したことが明らかになりました。また、日常的に飲酒をしているグループは飲酒をしないグループと比較して、口腔・咽頭がんになるリスクが増加したことも明らかになっています。
そのほかの原因として、中国南部や東南アジアで塩漬けにした魚などの食品が広く食べられていることが、これらの地域で上咽頭がんの発症が多いことと関連していると考えられています。
上咽頭がんの前兆や初期症状について
上咽頭がんは、初期では自覚症状がないことがほとんどです。
上咽頭は首のリンパ節と近いことから首のリンパ節に転移しやすいことが特徴で、上咽頭がんが見つかったときに最も多くみられる症状は、首のしこりです。
また、耳や鼻とも近いことから、上咽頭がんの進行に伴い、耳や鼻の症状があらわれることが多くなります。症状の一例として、耳がつまった感じ、聞こえにくさ、鼻づまり、血の混じった鼻水、鼻血などが挙げられます。
さらにがんが進行して脳神経に影響を与えるようになると、物が二重に見えたり、頭痛や顔面の痛みなどがあらわれたりすることがあります。このような症状が長期間続いており、改善しない場合には、早めに耳鼻咽喉科を受診することをおすすめします。
上咽頭がんの検査・診断
触診や内視鏡による検査で上咽頭がんが疑われる場合は、組織を採取してくわしく調べ、上咽頭がんを診断します。
触診では、首のまわりを触って首のしこりがないかを調べ、リンパ節への転移を確認します。緊張すると首が固くなり、リンパ節の腫れを見つけにくくなるため、首の力を抜いてリラックスするようにしましょう。
内視鏡検査は、鼻から細い内視鏡を入れ、上咽頭を確認します。上咽頭がんを疑うような組織がある場合は採取し、顕微鏡でくわしく観察し、がんかどうかを診断します。
また、がんの深さや広がり、リンパ節や他の臓器への転移などを確認するため、画像検査(CT検査、MRI検査、超音波検査、PET検査)が行われます。
上咽頭がんの治療
上咽頭がんの治療は、がんの進行の程度を示すステージ(病期)やがんの性質、本人の希望や体の状態、年齢などによって判断されます。
上咽頭は、手術が難しい位置にあるため、放射線治療や、抗がん剤を併用する化学放射線療法が中心となります。首のリンパ節に転移がみられる場合も、手術によって切除しても再発する可能性が高いため、放射線治療が優先されます。
ただし、放射線治療後に首のリンパ節にがんが残っている場合には、手術が行われることがあります。
上咽頭がんの放射線治療は、1日1回体の表面から放射線を照射し、週5日、6〜7週間継続することが一般的です。抗がん剤による薬物療法と放射線治療をあわせた化学放射線療法が、より治療効果を高め、治療後の再発リスクも下げることが期待できるとされており、多くの場合で化学放射線療法が実施されます。
上咽頭がんは、放射線治療や抗がん剤による薬物治療で、がんが小さくなったり、消失したりしやすい傾向があるがんです。
上咽頭がんになりやすい人・予防の方法
上咽頭がんはあらゆる年代で発症しますが、女性よりも男性に多い傾向があります。多くの上咽頭がんでは、EBウイルス(エプスタイン・バール・ウイルス)が発生リスクを高める要因として考えられていますが、EBウイルスの感染だけでなく、遺伝子変異などの条件があった場合に上咽頭がんになりやすい可能性が高くなると考えられています。
喫煙や過度の飲酒は、上咽頭がんを含む口腔・咽頭がん、食道がんなどの発症リスクを高めることが明らかになっています。日常的に喫煙や飲酒の習慣がある人は、上咽頭がんになりやすい可能性があるため、予防には禁煙や節度のある飲酒が重要です。
また、上咽頭がんの発生が多い地域で塩漬けにした魚などの食品を広く食べる習慣があることから、塩分の高い漬物や保存食などを食べる習慣がある方も上咽頭がんになりやすい可能性があります。塩分の摂取を控えたバランスのよい食事を心がけるようにしましょう。
参考文献
- 国立がん研究センターがん情報サービス がん種別統計情報 上咽頭がん
- 一般社団法人日本頭頚部癌学会 頭頚部がん Ⅲ.臓器別の診断治療の概要
- 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)全国がん罹患データ(2016年~2020年)
- 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)5年相対生存率(1993年~2011年診断例)
- 日本口腔・咽頭科学会雑誌 日本口腔・咽頭科学会雑誌 上咽頭癌と Epstein‑Barr ウイルス:発癌機構から臨床へ
- 一般社団法人日本感染症学会 伝染性単核球症
- 国立感染症研究所感染症情報センター 伝染性単核症とは
- 国立研究開発法人 国立がん研究センター 喫煙、飲酒と口腔・咽頭がん罹患リスクについて