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男女産み分けが約80%の確率で可能に? 新技術の論文発表【医師による海外医学論文解説】

 公開日:2023/05/13

アメリカの総合医療大学、ワイルコーネル・メディスンの研究グループは、サイズの異なる粒子を重量によって分離させる方法を用いた、新しい精子選択法により、約80%の確率で、希望した性別の胚を得られたと発表しました。この研究結果は、2023年3月22日に「PLOS ONE」に掲載されました。こちらの研究報告について前田医師に伺いました。


前田 裕斗

監修医師
前田 裕斗(医師)

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東京大学医学部医学科卒業。その後、川崎市立川崎病院臨床研修医、神戸市立医療センター中央市民病院産婦人科、国立成育医療研究センター産科フェローを経て、2021年より東京医科歯科大学医学部国際健康推進医学分野進学。日本産科婦人科学会産婦人科専門医。

研究グループが発表した内容とは?

ワイルコーネル・メディスンの研究グループが発表した内容について教えてください。

前田 裕斗 医師前田先生

今回紹介する研究は、ワイルコーネル・メディスンのグループが実施したものです。この研究は学術誌のPLOS ONEに2023年3月22日に掲載されています。研究グループは、発表された論文の冒頭部分で、従来実施されてきた精子選択方法の利点と限界点に言及し、サイズの異なる粒子を重さで分離する方法を用いた新しい精子選択法を提案しました。研究の対象になったのは、体外で顕微鏡を用いて1つの精子を卵子に受精させる顕微授精(以下ICSIと表記)着床前診断を受ける1317組のカップルです。このうち子どもの性別について希望のあった105組に対して、新しい精子選別法を行い、希望した性別を得られるとされた精子を用いてICSIを行っています。子どもの性別に希望があった105組のカップルのうち、59組が女性の子供を、46組が男性の子供を希望しました。女の子を望む59組は、73回のICSIを受け、受精率は77.3%でした。また、検査した胚の79.1%は女性で、着床率は79.3%、臨床妊娠率は62.1%であり、先天性形態異常のない女の子を16人出産したということです。また、男の子を希望する46組は50回のISCIを受け、受精率は75.4%、男性胚の割合は79.6%、着床率は90.5%、臨床妊娠率は66.7%で、13人の男の子が生まれたということです。結果をまとめると、男女それぞれ約80%の割合で希望する性別の胚が得られ、受精率・着床率・妊娠率などは性別を希望しなかったグループと変わりなく、3歳時点でも特に子供の発達に異常はないという結果でした。

発表内容への受け止めは?

ワイルコーネル・メディスンの研究グループが発表した論文で、男女それぞれ約80%の割合で希望する性別の胚が得られたという結果が示されましたが、この結果に対する受け止めを教えてください。

前田 裕斗 医師前田先生

まず、論文を通して読み、かなりきちんとした研究だなという印象を受けました。これまで産み分けの方法については様々な研究報告がありましたが、いずれも再現性や信頼性に乏しいものでした。今回の研究は精子、受精卵での性別割合、胚移植の成功率や生児獲得率、さらには3歳時点での発達までフォローするなど質の高いものとなっています。今後同じ方法で多施設での追試験を行い、技術として確立されれば一般に利用可能なものとなっていくでしょう。一方でこの技術だけを利用した場合、約80%の性別的中率ということになるため、完全に希望した性別を得られるわけではありません。その点が新たな倫理的・社会的問題を引き起こす可能性はあるでしょう。

男女産み分けについて留意すべき点は?

ワイルコーネル・メディスンの研究グループは論文の結論部分で、「倫理的な問題はあるものの、不妊治療中のカップルに限らず、子孫の性別の希望を表明することは人気があります。私たちの性選択法は、追加の異数性胚の比率を増加させることはないため、安全性が高く、効率的で、安価で、倫理的に好ましい方法である」と今回の成果を評価していますが、そもそも男女産み分けを考えるにあたって留意すべき点を教えてください。

前田 裕斗 医師前田先生

前提として、生まれた技術を誰かが使うことは制限できません。その技術についてどう考えるかは人次第であるからです。ある医療機関や国が技術の利用を制限しても、利用したい人は医療機関、果ては国を変えても利用するでしょう。そもそも男女産み分けという点に焦点が当たっていますが、男性に起こりやすい病気を持っていて、高度生殖医療を利用できない国や、社会的地位にいる人にとっては今回の技術は大変ありがたいものとなります。少し話が逸れましたが、個人的には男女産み分けそのものがどうかというよりも、この技術が実際に利用可能となったときに、利用するカップルが、家族や医療提供者を含めてその利用についてきちんと議論することが重要だと考えます。この技術だけでは20%違う性別が生まれてくる可能性があり、実際希望しない性別の子どもが生まれてきた場合どうするのか? 研究では3歳時点での発達に問題がある場合を認めなかったが、実際に自分の子どもが何かの病気に罹患した際に技術を利用したことに納得していられるのか? 様々な可能性について考えた上で技術を利用してもらう。そして、そのために医療提供者は情報提供や、考える場の提供を欠かさないように心がけることが重要でしょう。

まとめ

アメリカの総合医療大学、ワイルコーネル・メディスンの研究グループは、サイズの異なる粒子を重量によって分離させる方法を用いた、新しい精子選択法により、約80%の確率で、希望した性別の胚を得られたと発表しました。生まれる子どもの性別を気にするカップルは少なくないため、興味深い研究と言えそうです。

原著論文はこちら
https://pmc.carenet.com/?pmid=36947521

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