【日本産婦人科学会発表】着床前診断で流産率低下か?
日本産科婦人科学会は9月23日、体外受精した受精卵の染色体を調べて子宮に戻す「着床前診断」の大規模臨床研究で、流産を繰り返していた女性の流産が減ったとする中間結果を発表しました。この発表について浅野先生に伺いました。
監修医師:
浅野 仁覚 医師
目次 -INDEX-
着床前診断とは?
着床前診断について教えてください。
浅野先生
体外受精によってできた受精卵から細胞を一部取り出し、染色体などを調べる検査のことです。異常がない受精卵を選んで子宮に入れることで出産につなげる狙いがあります。一方で、特定の病気や障害のある子どもが生まれないようにすることにつながりかねないとの強い懸念を持たれている検査でもあり、不妊治療として実施するかどうかについては慎重に決定しないといけない検査でもあります。
今回の中間発表の内容は?
今回の日本産科婦人科学会の中間発表の内容について教えてください。
浅野先生
臨床研究は、体外受精が連続2回以上失敗したか、流産を2回以上経験するなどした30~50代の女性4348人を対象に実施されました。体外受精を行い、受精卵の染色体の本数の異常を検査した4348人のうち解析が終わった延べ6821人の分析結果が報告されたのですが、異常のない受精卵が得られ子宮に移植した人の場合、妊娠率は約66.2%、流産率は約9.9%という結果が出ました。体外受精での流産率は20〜30%とされているので、流産率を下げることができる可能性があると考えられています。
今後の課題とは?
着床診断をめぐる今後の課題を教えてください。
浅野先生
着床前診断の今後も課題としては、出生前診断でも議論された「命の選別」に関わる問題が再度問われるように思います。現在の着床前診断では、「成人になる前に日常生活を著しく損なう状態になったり、生存が危うい状況になる疾患」や「カップルが染色体転座や逆位などを有しており流産を繰り返す場合」など、対象が重篤な遺伝性疾患や習慣流産を想定し、あくまでも流産を減らすことに主眼が置かれています。それが、現在行われている出生前診断よりも早い時期にできる受精卵(胎児)のスクリーニングのように捉えられてしまうのではないかという懸念を持っています。「赤ちゃんの状態を知りたい」という患者さん側の権利とどう向き合うかが今後の課題と考えています。
まとめ
今回の中間発表では着床前診断をすることによる流産率の低下が指摘されましたが、着床前診断をめぐっては、命の選別につながる恐れがあるなど倫理的な課題も残されています。日本産科婦人科学会は、検査を受けることで最終的に出産率が上がるかどうかはわからないとしており、今後の研究でどのような結果が示されるのか注目が集まります。