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子宮筋腫の原因に!? プラ製品の化学物質で子宮筋腫リスクが上昇か【医師による海外医学論文解説】

 更新日:2023/01/10

アメリカのノースウェスタン大学の研究グループは、プラスチックのボトルなどに使われているフタル酸エステルと呼ばれる化学物質が子宮筋腫の発症を促す可能性があると発表しました。この研究結果は、2022年11月14日に「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」に掲載されました。この研究報告について郷医師に伺います。


郷 正憲

監修医師
郷 正憲(徳島赤十字病院)

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徳島赤十字病院勤務。著書は「看護師と研修医のための全身管理の本」。日本麻酔科学会専門医、日本救急医学会ICLSコースディレクター、JB-POT。

研究グループが発表した内容とは?

今回アメリカのノースウェスタン大学の研究グループが発表した内容について教えてください。

郷正憲医師郷先生

今回紹介する研究は、ノースウェスタン大学のグループによるもので、2022年11月14日にPNAS = Proceedings of the National Academy of Scienceに研究結果が掲載されましたものです。研究グループが子宮筋腫を持つ712人の女性の筋腫から採取した細胞を調べたところ、症状を伴う子宮筋腫がある女性ではMEHHPという成分の尿中の濃度が高くなっていることを発見しました。このMEHHPは、プラスチックのボトルなどに使われているフタル酸エステル類の一種であるDEHPの主な代謝物のことです。研究グループはMEHHPの尿中濃度が、子宮筋腫の診断を受けるリスクと関連することを明らかにしました。そして、29人の女性患者の筋腫から採取した細胞を尿中から検出されたのと同じ濃度のMEHHPを添加して培養すると、細胞生存率が高くなり、アポトーシスが減ることが確認されました。今回の成果について研究グループは、「MEHHPへの曝露が子宮筋腫の増殖の高リスク因子であることを突き止め、環境由来のフタル酸への曝露が子宮筋腫の病態に影響を与えるメカニズムを明らかにして新規の薬剤開発につながる可能性がある」としています。

子宮筋腫とは?

子宮筋腫とはどのような疾患で、どのような治療が行われるのか教えてください。

郷正憲医師郷先生

今回の研究対象となった子宮筋腫は、子宮の平滑筋という筋肉にできる良性の腫瘍です。比較的若い女性から閉経後まで幅広い年代に見られる疾患です。発生する場所によって、漿膜下筋腫、筋層内筋腫、粘膜下筋腫に分類されます。場合によっては出血や壊死、石灰化、水腫様などの変性が起きていることもあります。主な症状としては、過多月経、過長月経、月経痛、腹部腫瘤触知、貧血などがありますが、子宮筋腫が大きくなると周囲の臓器を圧迫してしまい、排尿トラブルや腰痛、不妊や流産・早産の原因にもなることがあります。こうした症状は筋腫が発生した場所や大きさ、個数などで変わります。治療方法は、薬物による方法と手術があります。薬物地治療は、卵巣の女性ホルモンの量を抑えて筋腫を縮小させる偽閉経療法と、筋腫による症状を緩和するのを目的とした対処療法の2パターンがあります。手術は、術後に妊娠を希望するかで異なる方法がとられますので、担当の医師と相談しながら手術方法を検討する必要があります。

発表内容への受け止めは?

今回アメリカのノースウェスタン大学の研究グループが発表した内容についての受け止めを教えてください。

郷正憲医師郷先生

長らく子宮筋腫が発生する原因ははっきりとは分かっていませんでした。これまでには女性ホルモンが筋腫に関与している可能性は示唆されていましたが、それもすでに発生した筋腫の増大縮小に関わるものだけで、新しく筋腫ができる原因についてはよくわかっていなかったのです。今回のこの研究結果は原因を突き止めるとっかかりになる研究かもしれないとして、注目されています。ただし、この研究結果をすぐに鵜呑みにするのは危険であると考えます。というのは、当該化学物質が尿中で多く検出されたと言う事と、子宮筋腫が多いという統計学的関係は認められるものの、直接的にどのように影響しているかは分からず、偶然化学物質が多い人に何らかの要因が起こりやすく、それによって筋腫ができやすいという可能性もあるためです。そのため、さらなる研究が待たれます。

まとめ

アメリカのノースウェスタン大学の研究グループが、プラスチックのボトルなどに使われているフタル酸エステルと呼ばれる化学物質が子宮筋腫の発症を促す可能性があると発表したことが今回の研究発表でわかりました。日本産婦人科学会によると子宮筋腫は30歳以上の女性の20~30%の女性に見られるということで、今回の研究がさらに進むことが期待されます。

原著論文はこちら
https://pmc.carenet.com/?pmid=36375056

この記事の監修医師