目次 -INDEX-

  1. Medical DOCTOP
  2. 歯科TOP
  3. コラム(歯科)
  4. 「妊娠中にちゃんと歯磨きをしないと早産する可能性がある」これって本当!?

「妊娠中にちゃんと歯磨きをしないと早産する可能性がある」これって本当!?

 更新日:2023/03/27

口の中の衛生環境と胎児の生育環境には、何か因果関係があるのでしょうか。出産後なら、お母さんのむし歯菌などが子どもにうつってしまうということもあり得るかもしれません。しかし、今回は子宮の中の胎児が対象です。また、妊娠中に歯科健診を受けても構わないのかという点も気になります。そこで、妊娠中のデンタルケアについて「つくばデンタルクリニック」の渡邉先生を取材しました。

渡邉直子先生

監修歯科医師
渡邉 直子(つくばデンタルクリニック 院長)

プロフィールをもっと見る

東京歯科大学卒業。2019年、茨城県つくば市に「つくばデンタルクリニック」を開院。「患者の声」を大切にしたインフォームドコンセントに注力している。日本歯周病学会専門医、日本糖尿病協会認定登録歯科医、厚生労働省認定歯科医師臨床研修指導医。

歯周病原細菌が早産に関係する?

歯周病原細菌が早産に関係する?

編集部編集部

妊娠中のデンタルケアが早産に影響するって本当ですか?

渡邉直子先生渡邉先生

意外かもしれませんが、そのようですね。「妊婦さんの歯周病と早産」に有意な関係のあることが、国内外の複数の研究によって示されています。歯周病の妊婦さんの方が、歯周病にかかっていない妊婦さんより、5~7倍ほど早産しやすいそうです。※

※参考:日本臨床歯周病学会「歯周病と妊娠」
http://www.jacp.net/pdf/leaflet/leaflet_04.pdf

編集部編集部

早産の原因の多くは「感染」と聞きます。

渡邉直子先生渡邉先生

はい。早産の原因の第1位は、感染による子宮の炎症です。そして、歯周ポケットという歯と歯肉の間の溝で増殖した歯周病原細菌が血液を通じて子宮内に入り込むことは考えられます。ですから、歯周病になったら、歯肉の疾患だけに着目せず、子宮が炎症を起こしている可能性もみておく必要があるでしょう。

編集部編集部

歯周病菌による子宮の炎症が影響するのは、早産だけですか?

渡邉直子先生渡邉先生

いいえ。胎児の発育不全・発育異常による「流産」の例も報告されています。また、歯周病に罹患(りかん)してしまうと、様々な病気を引き起こしてしまう可能性があるのです。早産・流産、生活習慣病や心筋梗塞などの循環器疾患リスクも上昇します。

妊娠中は歯周病リスクが高まる理由とは

妊娠中は歯周病リスクが高まる理由とは

編集部編集部

妊婦だから、歯周病にかかりやすいということはないですよね?

渡邉直子先生渡邉先生

いいえ。妊娠中は「ホルモンバランスの変化」によって、妊娠性歯肉炎になりやすいことがわかっています。歯肉炎は、歯周病の一歩手前の症状です。加えて、つわりなどによってブラッシングが十分にできない状態が続くと、歯周病菌やむし歯菌が繁殖してしまいます。

編集部編集部

むし歯と早産の関係はありますか?

渡邉直子先生渡邉先生

「妊婦さんのむし歯が早産と関連している」という研究は、今のところなされていません。歯に生じるむし歯に対して、歯周病は歯肉に起きますから、歯周病菌の方が血中に入り込みやすいと考えられています。ただし、むし歯の痛みによって満足なブラッシングができず、結果として歯周病にかかることは大いにあり得るでしょう。

編集部編集部

これらの菌は、どこからうつるのでしょうか?

渡邉直子先生渡邉先生

よく知られているのは口移しですが、それ以外にも歯磨き粉や食器の共有、箸を介した大皿での取り合いによっても菌はうつりますよ。同居人や家族などの誰かから菌をもらって、歯周病や虫歯に罹患する可能性があります。けっして、妊婦さんだけの注意事項ではないのです。

編集部編集部

こうした情報は、どこで入手すればいいのですか?

渡邉直子先生渡邉先生

ぜひ、産婦人科で開催している母親学級やかかりつけの歯科などに相談してください。

妊娠中でも歯科健診や治療は可能

妊娠中でも歯科健診や治療は可能

編集部編集部

今までの話を聞く限り、歯周病やむし歯にかからなければいい印象を受けました。

渡邉直子先生渡邉先生

たしかにそうなのですが、歯周病は自覚症状に乏しい病気です。自分で知らないうちに“かかっている”ということが大いにあり得ます。ぜひ、妊娠前から歯科医院で定期的なチェックをしていただきたいですね。

編集部編集部

妊娠していても歯科検診を受けていいのでしょうか?

渡邉直子先生渡邉先生

はい。産前・産後歯科検診があります。また、日本歯科医師会は、「つわりがおさまる4~5カ月頃に歯科健診を受けて、比較的体調の安定した妊娠中期に必要な歯科治療を済ませたい」としています。つわりには個人差がありますので、受診時期の工夫を各自でおこなってみてください。

編集部編集部

市販の歯磨き粉では不十分でしょうか?

渡邉直子先生渡邉先生

そんなことはありません。ブラッシングがしっかりできていれば、むしろ歯磨き粉は不要とも言えます。ぜひ、歯科医院で「プロによるブラッシングチェック」を受けてください。磨き残しや歯肉の炎症の程度、虫歯のチェックを受け、その人に合わせて通院する間隔を決めていきます。また、定期的に受診することでちょっとした変化や悪いところを早い段階で指摘してもらうことが重要です。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

渡邉直子先生渡邉先生

歯科治療は麻酔をすることが多いため「妊娠中は治療ができない」と思われがちですが、安定期を過ぎれば産婦人科の先生に相談し、問題なければ麻酔も可能です。妊娠中に痛みを我慢するのは母体にも赤ちゃんにも良いことではありません。まして、出産後は忙しくなり、ご自身に時間が取れなくなると思いますので、ぜひ歯科医師にご相談ください。

編集部まとめ

歯周病菌が子宮内に入ると、早産や流産のきっかけとなる炎症を起こしかねないとのことでした。ましてや、妊娠中のホルモン変化が歯周病リスクを高めるとのこと。意外だったのは、よくみかける「歯周病対策用の歯磨き粉」の評価でした。プロからしたら、歯磨き粉の成分よりも磨き方そのものを問うそうです。また、妊娠中に限らないことですが、定期健診でしっかりブラッシングをチェックしてもらってください。

医院情報

つくばデンタルクリニック

つくばデンタルクリニック
所在地 〒305-0044 茨城県つくば市並木3丁目10−6
アクセス つくばエクスプレス「つくば駅」からバスで20分
診療科目 歯科

この記事の監修歯科医師