マグロなどの「不飽和脂肪酸が多い食品」を摂り過ぎるとどうなる?管理栄養士が解説!

不飽和脂肪酸の食品とは?メディカルドック監修医が一日の摂取量・効果・不足すると現れる症状・過剰摂取すると現れる症状・効率的な摂取方法などを解説します。

監修管理栄養士:
山口 恵里(管理栄養士)
目次 -INDEX-
「不飽和脂肪酸」とは?

脂肪酸は、構造により飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分けられます。不飽和脂肪酸は分子内に二重結合を持ち、二重結合の数により一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸に分類されます。
一価不飽和脂肪酸には、二重結合が1つだけあり、代表的なものはオレイン酸で植物油に多く含まれます。多価不飽和脂肪酸は二重結合を2つ以上持ち、魚や植物油に多く含まれます。二重結合の位置によりn-3系とn-6系に分けられ、EPAやDHA、α-リノレン酸、リノール酸、アラキドン酸などがあります。
リノール酸やα-リノレン酸は体内で合成できないため、食事から摂取する必要があり、「必須脂肪酸」と呼ばれます。
また、不飽和脂肪酸には構造の違いにより「シス型」と「トランス型」があります。自然な形で存在するのはシス型で、体によい脂質の多くがこれにあたります。一方、トランス型は油を加工する過程で人工的に生じ、マーガリンやショートニング、加工食品などに含まれます。牛や羊などの乳製品にも微量含まれます。
トランス脂肪酸は摂りすぎると、悪玉コレステロール(LDL)を増やし、善玉コレステロール(HDL)を減らすため、動脈硬化や心疾患のリスクを高めるとされています。健康維持のためには、摂取量をできるだけ控えることが望ましいとされています。
不飽和脂肪酸の一日の摂取量

日本人の食事摂取基準(2025)より
n-6系及びn-3系脂肪酸の目安量は1日当たりの摂取量で示されています。
※目安量とは一定の栄養状態を維持するのに十分な摂取量
男性 n-6系脂肪酸(g/日) 18~74歳 10g~12g
75歳以上 9g
n-3系脂肪酸(g/日) 18~49歳 2.2g
50歳以上 2.3g
女性 n-6系脂肪酸(g/日) 18~74歳 9g
75歳以上 8g
妊婦、授乳婦 9g
n-3系脂肪酸(g/日) 18~74歳 1.6g~2.0g
75歳以上 1.8g
妊婦、授乳婦 1.7g
不飽和脂肪酸の効果

血中コレステロールの低下
コレステロールは血液や筋肉など体内に広く存在します。血中コレステロールの値が高くなると酸化したコレステロールによって血管の通り道が狭くなります。不飽和脂肪酸は肝臓のコレステロール合成を抑制する働きがあり、血中のコレステロール値の上昇を抑えるとされています。
動脈硬化の予防
動脈硬化は動脈の壁が硬くなり十分に機能しなくなることをいいます。細胞の内側にコレステロールが蓄積され血管が狭くなる状態です。不飽和脂肪酸を含む大豆や魚類の摂取は血中コレステロールを低下させ、動脈硬化の発症を予防します。
認知症の予防
多価不飽和脂肪酸のドコサヘキサエン酸は脳のリン脂質の主要な構成成分であり、加齢によって脳内の量が減少することが知られています。高齢者は多価不飽和脂肪酸を補うことにより注意・作業記憶などの認知機能が維持される可能性が報告されています。
多価不飽和脂肪酸は加齢に伴う局所脳体積の減少を抑制し高齢者の脳の健康維持につながる可能性があります。
止血(生理活性物質の合成)
多価不飽和脂肪酸から合成される生理活性物質のトロンボキサンは血管収縮、血小板凝集促進、気管支収縮などの作用があり、血小板凝集は血栓を形成し止血を促進します。
心疾患
心疾患にはたくさんの種類がありますが食事に関わるものとして狭心症や心筋梗塞などがあります。動脈硬化が主な原因になりますが、血液の流れが悪くなると発症リスクが高くなります。
飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸におきかえることでコレステロールが減少し血管の流れが良くなり心疾患が減少したという研究報告があります。
不飽和脂肪酸の多い食品

魚
マグロやサバ、イワシはn-3系不飽和脂肪酸のエイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸を多く含みます。
アボカド
森のバターといわれるアボカドは一価不飽和脂肪酸のオレイン酸を多く含みます。
植物油
オリーブオイルやなたね油には一価不飽和脂肪酸のオレイン酸を多く含み、
ゴマ油やコーン油には多価不飽和脂肪酸のリノール酸を含みます。
大豆
「畑の肉」といわれる大豆はたんぱく質が主成分になります。
脂質も多く含まれており、その80%は不飽和脂肪酸のリノール酸やリノレン酸、オレイン酸です。
ナッツ
アーモンドやヘーゼルナッツは一価不飽和脂肪酸のオレイン酸を多く含み、
くるみにはn-3系脂肪酸のα-リノレン酸が多く含まれます。
不飽和脂肪酸が不足すると現れる症状

皮膚炎
日常的に目標量の摂取が可能であり、欠乏症は通常ありませんが、n-3系脂肪酸は、生体内で合成できず不足すると鱗状皮膚炎、出血性皮膚炎、結節性皮膚炎など皮膚炎が発症することがあります。
成長障害
通常の生活では不足することは希ですが、多価不飽和脂肪酸のリノール酸とα-リノレン酸の摂取量が少ない場合、成長障害が起こることもあります。
多価不飽和脂肪酸のリノール酸とα-リノレン酸は必須脂肪酸といい、生体内で合成することができないため意識的に摂取することが必要になります。
発達の遅れ
妊娠中、必須脂肪酸は胎児の脳や神経系の発育に関与するとされており、十分な摂取が推奨されます。
出生後も乳児は消化・吸収機能が未熟なため、必須脂肪酸が不足しないよう乳児用調整乳にはこれらが配合されています。
不飽和脂肪酸を過剰摂取すると現れる症状

体脂肪の蓄積
不飽和脂肪酸は健康によい脂質として知られていますが、過剰に摂取するとエネルギー過多となり、体脂肪の蓄積や脂質異常症の原因となることがあります。適切な量の摂取を心がけることが大切です。
冠動脈疾患
心臓のまわりには冠動脈という血管があり、この血管がつまったり細くなると狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患になります。トランス脂肪酸は飽和脂肪酸よりもLDLコレステロール/HDLコレステロール比を大きく上昇させるため、特に工業由来のトランス脂肪酸は冠動脈疾患になりやすいとされています。
認知症
不飽和結合が1つ以上のトランス型であるトランス脂肪酸は、不飽和脂肪酸を飽和脂肪酸に変えるときに副産物として生じます。
また、牛や羊などの半数動物では胃の中の微生物の働きによってトランス脂肪酸がつくられます。
トランス脂肪酸の一種であるエライジン酸の血中濃度が認知症と関連が認められています。
不飽和脂肪酸の効率的な摂取方法

不飽和脂肪酸
不飽和脂肪酸が多い食品
一価不飽和脂肪酸 ひまわり油 オリーブ油 サフラワー油
多価不飽和脂肪酸 あまに油 えごま油 サフラワー油
n-3系不飽和脂肪酸 まぐろ うなぎ さば
n-6系不飽和脂肪酸 サフラワー油 大豆油 くるみ
不飽和脂肪酸と一緒に摂取すると効果を下げる栄養素・食品
高温調理によって効果が下がります。
また、光にも弱く冷蔵庫で保管し早めに食べきることが大切になります。
n-3系の不飽和脂肪酸は特に酸化しやすく、料理の風味を損なうだけではなく酸化した油脂は胸焼けや吐き気嘔吐、中毒症状などを引き起こします。
不飽和脂肪酸の効果を高める摂取タイミング
摂取する時間帯については、n-3系脂肪酸は夕方よりも朝に摂取すると血液中および肝臓中のトリグリセリド(中性脂肪)低下作用が効果的という研究報告があります。
夜は体脂肪を溜め込むたんぱく質(ビーマルワン)の分泌が活性化します。エネルギー消費が落ちて太りやすくなるため、脂肪の摂取を控えます。
効果を高める摂取方法は、n-3系脂肪酸は熱に弱いため加熱せずにそのままドレッシングのように使うのがおすすめです。
また、酸化しやすく液体であるものが多いため魚は刺身や汁ごと食べられる味噌汁やスープがおすすめです。
「不飽和脂肪酸の食品」についてよくある質問

ここまで不飽和脂肪酸の食品などを紹介しました。ここでは「不飽和脂肪酸の食品」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。
不飽和脂肪酸のデメリットについて教えてください。
山口 恵里
脂質は、炭水化物、たんぱく質より1gあたり2倍以上のエネルギーをもつため、人はエネルギー蓄積物質として優先的に脂質を蓄積します。
体に良い影響が目立つ不飽和脂肪酸ですが、摂取量が多すぎると脂質異常症や高血圧、動脈硬化など健康を害してしまいます。
不飽和脂肪酸を多く含む魚について教えてください。
山口 恵里
エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)などのn-3系不飽和脂肪酸が多い魚で、スーパーで手に取りやすい(毎日の献立に取り入れやすい)と思う身近な魚をランキングにしてみました。
①くろまぐろ
天然 脂身 生 5.81g
背側と腹側の部分(トロ)にn-3系脂肪酸を多く含みます
②まさば
生 2.12g
青背の魚はn-3系脂肪酸が多く、日常的に食べると生活習慣病の予防にもなります
③まいわし
生 2.10g
血合い肉の割合が多く鉄も多く含みます
④かつお
春獲り 生 0.17g
秋獲り 生 1.57g
産卵期前の春より秋の方が脂が多いです
⑤しろさけ・べにざけ
生 0.92g
n-3系脂肪酸が多いですが塩ザケには塩分に気を付けましょう
※数値は可食部100g当たりのn-3系不飽和脂肪酸含有量
まとめ
最後に、不飽和脂肪酸の特徴を理解して選択してみるとより食事が楽しくなると思います。
摂取する方法やタイミングも意識して取り入れてみてください。
脂質はエネルギー生産に関わる大切な栄養素です。なかでも不飽和脂肪酸は体内で合成できないものもあり食事から摂取しなければなりません。摂取量が多すぎても肥満や生活習慣病になるため適量の摂取が大切になります。
不飽和脂肪酸は種類ごとに働きがあり、適切な量を摂取することが大切になります。
不足することは希ですが、皮膚や発達・成長に影響し、過剰摂取では肥満をはじめ生活習慣病や脳に影響します。
日々の食事で回数を気にしたり、量を細かく計ることは難しいですが、月・水・金曜日は魚の日と決めて3食のうち1食は魚を食べる、油をひくとき毎回同じスプーンを使って少しづつ量を減らすなど無理なく摂取することが健康に楽しく食べるコツになると思います。
「不飽和脂肪酸」と関連する病気
「不飽和脂肪酸」と関連する病気は6個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
血液・循環器の病気
- 心疾患
- 脂質異常
- 動脈硬化
神経系の病気
- 認知症
- 成長・発育
免疫系の病気
「不飽和脂肪酸」と関連する症状
「不飽和脂肪酸」と関連している、似ている症状は6個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。




