「大動脈解離の後遺症」となる症状はご存知ですか?医師が徹底解説!
大動脈解離の後遺症にはどんな症状がある?Medical DOC監修医が大動脈解離の後遺症・原因・検査・治療法なども解説します。
監修医師:
小鷹 悠二(おだかクリニック)
目次 -INDEX-
「大動脈解離」とは?
大動脈は心臓から足まで血流を流す、体の中の最も太く、大きな血管です。その大動脈の壁は3層構造となっており、内膜・中幕・外膜からなります。
大動脈解離では、血管の壁(内膜)に様々な原因で亀裂が入ってしまうことで、血液が中膜に流れ込み、本来の血液の通り道(真腔)とは異なる血液が流れる空間(解離腔・偽腔と呼ばれます)が生じてしまった状態です。
解離腔は血流により広がりやすく、大動脈から分岐する脳やせき髄、心臓、腎臓、胃や腸などの臓器へ血流を送る血管が巻き込まれてしまうと、それらの臓器の障害を引き起こします。
大動脈解離は大きく2種類に分類され、心臓から近い血管の上行大動脈に解離が生じたスタンフォードA型と、上行大動脈に解離がないスタンフォードB型があります。
大動脈解離の後遺症となる症状
大動脈解離は病院到着前に半数が死亡するとされる、非常に危険な疾患です。
病院到着後、適切な治療(緊急手術など)が行われることで救命されることも近年では増えてきており、手術などでの死亡率は9%ほどまで低下してきています。
ただし、救命できたとしても、大動脈解離や手術などに伴う合併症・後遺症が残ることもあります。主な後遺症としては以下のようなものがあります。
脳血管障害
大動脈から枝分かれして脳へ向かう血管にまで解離が及んでしまうと、脳血流が低下し、脳梗塞を引き起こします。合併率は3‐7%とされており、手術での血管再建、治療後のリハビリが必要となります。症状の程度、どのくらい回復するかは脳へのダメージ次第ですが、リハビリなどにより徐々に手足の麻痺などの症状が改善し、日常生活に支障がなくなることもあれば、改善が乏しく、生活に大きな支障が出てしまうこともあります。
心臓の血流障害
解離が、大動脈の付け根の心臓の出口付近まで及んでしまうと、心臓に血流を送っている冠動脈の血流が低下してしまい、心筋梗塞などの心臓の血流障害を起こしてしまうことがあります。
手術などでの治療後も、心臓の機能に障害が残ってしまうと、心不全状態になり、薬物治療を継続する状態となることもあります。
脊髄の血流障害
大動脈から分岐する、神経の集まりである脊髄へ血流を送る血管が解離によって障害を受けると、脊髄の血流障害による損傷が生じます。特に頻度が多いのは脊髄下部の血流障害で、下半身不随などの重度の麻痺が出現することもあります。
回復については血流障害の範囲と程度によりますが、軽症であればリハビリで改善する場合もありますが、重度の障害の場合には回復しないこともあります。
腸管の血流障害
大動脈から枝分かれして、腹部の臓器に血流を送る血管が、解離によって障害を受けると生じます。合併率は2-7%とされ、発症すぐだけでなく、手術後に気づかれる・発症するケースもあります。腹痛や下血を生じ、緊急での処置が必要となることもあります。
腎臓の血流障害
腎臓への血管に解離が及んでしまうと、腎機能障害が出現・残ってしまうことがあります。
手術で血流が再開することで改善することもありますが、血流低下が広範囲・長時間だった場合には高度の腎障害が残ってしまうこともあります。
大動脈解離を発症する原因
大動脈解離は、高血圧や脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病や、喫煙、ストレスなどに伴う動脈硬化が主な原因となります。
それぞれの原因について、解説していきましょう。
生活習慣病(高血圧、脂質異常症、糖尿病)
これらの生活習慣病によって動脈硬化が進行することで、血管に亀裂が入りやすくなり、大動脈解離を発症しやすくなることが知られています。
塩分や脂質、糖分、カロリーの取りすぎを避け、バランスの良い食生活や適度な運動習慣を持つことで、これらの生活習慣病になりにくくなります。
また、もし生活習慣病になってしまった後も、生活改善と、適切な処方管理でコントロールをよくすることが重要です。
喫煙やストレス
喫煙は動脈硬化を進行させてしまい、大動脈解離などの血管の病気を発症しやすくなります。大動脈解離の患者では、喫煙歴があることが多いことは疫学研究でも報告されており、最近では本人だけでなく、副流煙でも起こりやすくなるとする報告もあります。
また、ストレスも血圧を上昇させることで大動脈解離などの血管の病気を発症しやすくすることが知られています。
禁煙、休養や睡眠をしっかりとってストレスを減らす生活をすることが大切です。
遺伝(マルファン症候群など)
頻度は少ないですが、マルファン症候群などの、特殊な遺伝性の病気も大動脈解離の原因となることが知られています。マルファン症候群は、体の組織を構成する結合組織が弱くなってしまう遺伝性の病気で、全身の組織の弾力性が低下してしまい、血管の損傷・解離などが生じやすくなってしまいます。
大動脈解離の検査法
大動脈解離の診断には、主に画像検査が重要となります。
代表的な検査を紹介していきます。
胸部レントゲン検査
X線を照射し、胸の状態を評価する検査です。大動脈解離では、大動脈や縦隔(胸の中の、左右の肺に挟まれた領域)の拡大を認めることが多いです。
胸痛などの胸の症状では一般的に行われる検査であり、痛みもなく、被爆も少ない、一般的に多くの医療機関で実施される検査です。
心エコー検査
超音波を体に当てて、心臓の状態を評価する検査です。大動脈解離では、心臓の出口である大動脈の付け根の拡大や、大動脈弁の逆流、大動脈内で避けた血管の壁(フラップ)を確認できることもあります。
体に負担をかけず、救急外来でも迅速に実施できる検査であり、非常に有用な検査です。
造影CT検査
診断の確定のために欠かせない検査です。
血管を観察しやすくする造影剤という薬剤を使用し、全身を断層撮影することで、血管や臓器の状態を詳細に評価することができます。
大動脈解離の主な治療法
大動脈解離の治療は、心臓から近い血管の上行大動脈に解離が生じたスタンフォードA型と、上行大動脈に解離がないスタンフォードB型で違います。それぞれでどのような治療を行うか、解説します。
人工血管置換術
主にスタンフォードA型で実施されることが多いです。
解離を生じた血管を、人工血管と置き換える治療であり、一時的に心臓を止めて行う必要がある、かなり大きな手術になります。
スタンフォードB型解離でも、臓器や重要な血管への血流障害、血管の破裂が生じている場合には実施されることがあります。
ステントグラフト内挿術
ステントグラフトは、人工血管にばね状の金属の筒(ステント)を取り付けたものです。これを小さく圧縮した状態で、カテーテルという細い管に収納し、治療する部位の血管内で拡張させ、血管を内側から補強します。
人工血管置換術よりも体にかかる負担が少なく、スタンフォードB型解離で実施されることが多いです。
病変の部位によっては人工血管置換術と併用する、ハイブリッド手術が行われることもあります。
保存的治療
スタンフォードB型で、重要な血管への血流障害が生じていない場合には、厳重な降圧管理や薬物治療で、手術をしないで治療を行うこともあります。
保存的治療後、ステントグラフト内挿術を行うこともあります。
「大動脈解離の後遺症」についてよくある質問
ここまで大動脈解離の後遺症を紹介しました。ここでは「大動脈解離の後遺症」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
心筋梗塞が原因で脳に後遺症を引き起こすことはありますか?
小鷹 悠二 医師
大動脈解離によって、大動脈から脳へ枝分かれする血管の血流低下が生じてしまうと、脳梗塞を引き起こす可能性があります。
心筋梗塞の後遺症に疲れやすさはありますか?
小鷹 悠二 医師
大動脈解離は突然死の原因となることが多く、死亡率も高いきわめて高い疾患です。
運よく治療がうまくいったとしても、大きな手術・長期間の入院を必要とするため、体力が大きく低下してしまうことが多いです。
そういったことが原因で、疲れやすさを自覚しやすくなることがあり得ます。
編集部まとめ
大動脈解離がどのような病気で、どんな検査、治療を行うか、後遺症としてどのようなものがあるのかを解説しました。
この疾患は非常に危険な病気であるため、しっかり理解し、少しでも皆さんの健康につながればと思います。
「大動脈解離」と関連する病気
「大動脈解離」と関連する病気は6個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
脳神経科の病気
代表例を列挙しましたが、大動脈からは脳やせき髄、心臓、腎臓、胃や腸などの臓器へ血流を送る血管が分岐するため、全身の多くの病気が関連する可能性があります。
「大動脈解離」と関連する症状
「大動脈解離」と関連している、似ている症状は5個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 胸痛
- 背中の痛み
- 呼吸困難
- 失神
- 心肺停止
上記のような症状が急に出現した際には、大動脈解離を発症した可能性も否定できないため、早めに医療機関を受診することをお勧めします。