「心不全の治療法」とは?治療後の生活で気を付けるポイントや予防法も医師が解説!
心不全の治療法とは?Medical DOC監修医が心不全の治療法・治療薬・手術や何科へ受診すべきかなどを解説します。
監修医師:
丸山 潤(医師)
【保有資格】
医師/医学博士/日本救急医学会救急科専門医/日本集中治療医学会集中治療専門医/DMAT隊員/日本航空医療学会認定指導者(ドクターヘリの指導者資格)/JATECインストラクター/ICLSインストラクター
目次 -INDEX-
「心不全」とは?
心臓は全身に血液を送り出す、ポンプの役割をする臓器です。このポンプ機能がなんらかの原因で低下し、そのために息切れやむくみがおき、徐々に寿命を縮めるのが心不全という状態です。ポンプ機能が低下する主な原因は高血圧、心筋梗塞、不整脈、弁膜症や心筋炎です。近年では人口の高齢化にともない、これらの疾患の増加とともに心不全も増加し、全国で120万人の心不全患者がいると推定されています。心不全が急激か、または徐々におきたのかで急性心不全または慢性心不全とわけることができます。
急性心不全とは?
急性心不全は心臓の中の圧力がなんらかの理由で急激に上昇し、肺の多くが水浸しになる状態です。心臓の中の圧力が上昇する理由には、急激な心臓の機能低下や血圧の上昇があります。おもな症状は急な呼吸困難です。他には胸部圧迫感、動悸やピンク色の痰が出現することもあります。
慢性心不全とは?
慢性心不全は心臓のポンプ機能が低下することにより、内臓への血流が減少し、静脈の圧が徐々に高まる病気です。この結果、手足や顔のむくみ、体重の増加が出現します。また肺にも水がたまることにより、労作時や横になると悪化する息切れが出現します。高齢者のかたですと「なんとなく元気がない」という典型的ではない症状のこともあり、診断に注意が必要です。
心不全の治療法
心不全の治療はおもに薬の内服や点滴、カテーテルや心臓手術があります。
急性心不全の治療法
急性心不全はおもに総合病院の循環器内科への入院で治療をおこないます。酸素療法や必要に応じて人工呼吸器を使用して、呼吸を安定させます。また血管をひろげて心臓の負担を減らす血管拡張剤や、体に貯留した余分な水分を体外へ排出する利尿剤があります。
具体的な薬の一覧は次の通り
「血管拡張剤」
- ・ニトロール(一般名:硝酸イソソルビド)
- ・シグマート(一般名:ニコランジル)
- ・ハンプ(一般名:カルペリチド) 他
「利尿剤」
- ・ラシックス(一般名:フロセミド)
- ・サムスカ(一般名:トルバプタン)
- ・アルダクトン(一般名:スピロノラクトン) 他
があります。血圧が低い場合は昇圧剤の点滴や、それでも不十分であれば、足の付け根から心臓のポンプ機能を補助する機械を入れることもあります。入院期間は状態によりますが、通常は1-4週間程度です。入院中のADL(日常生活動作)低下を防ぐため、理学療法士が状態にあわせたリハビリをベッドサイドから早期に開始します。
慢性心不全の治療法
慢性心不全はおもに外来通院で治療をおこないます。総合病院の循環器内科もしくはかかりつけの内科医、いずれでも治療は可能です。薬物療法の主な目的は、拡大や肥大した心臓の筋肉の改善、またはそれ以上の悪化を防ぐことです。また、体に余分に貯留した水分を取り除くために、利尿剤を内服するのも有効です。慢性心不全の原因が心臓を栄養する血管の狭窄や閉塞、また不整脈であれば、カテーテル治療をすることで、心臓の機能回復が期待できます。体に貯留した余計な水分が増えすぎて歩行が困難となる、または酸素を吸わないと呼吸が苦しい状態であれば、入院が必要です。入院は地域の総合病院または循環器の専門病院が適切です。入院期間は状態にもよりますが、通常1-2週間で退院できます。
適切な有酸素運動や筋力トレーニングにより慢性心不全の症状や予後の改善が期待できるため、ウォーキングやサイクリングなどのリハビリも効果的です。
急性心不全の手術
急性心不全の手術は、術後の管理で他科の医師の協力や専門的な看護が必要のため、一般的には総合病院でおこなわれます。また、急性心不全の手術は緊急手術になることが多いため、患者の状態が安定していない中で行われる可能性が高いのが特徴です。
冠動脈バイパス手術
冠動脈バイパス手術は、心臓の血管が詰まったり狭窄することで血流が阻害される状態を改善するための手術です。心臓に必要な酸素や栄養を運ぶ冠動脈が狭窄すると、心筋梗塞などの重大な問題を引き起こすことがあるため、他の血管を使用して新しいルートを作り、血液の流れを改善します。
この手術は高度な技術が求められ、心臓血管外科医を含む専門的な医療チームによって行われます。冠動脈は大きく分けて3本あり、何本手術するかは血管ごとの狭窄の度合いやその時の患者の全身状態に応じて最適な治療法が選ばれます。また、術後のリハビリテーションも非常に重要で、質の高いリハビリを行うことが、退院後の生活の質の向上と長期的な健康の維持に寄与します。術後の通院も重要であり、薬の内服と定期的な採血やレントゲンの検査を行います。日常生活では適度な運動、バランスの良い減塩食と薬を飲み忘れないようにすることが大事です。
弁置換術
弁置換術は狭窄や逆流している心臓の弁を、生体弁または機械弁に置き換える手術です。手術が多く行われるのは大動脈弁と僧帽弁という弁です。弁が劣化する原因として高血圧、心筋梗塞や動脈硬化があります。
心臓移植術
心筋症は心臓のポンプ機能が極度に低下した状態で、薬物療法に加えて補助循環や心臓移植が治療法としてあげられます。心臓移植は実施できる施設が非常に限られており、日本ではドナー不足のため、心臓移植を受けられる患者は限られています。
慢性心不全の手術
慢性心不全の手術は急性心不全と同じように、原因となる疾患で手術内容が決まります。原因となる疾患は急性心不全と基本的に同じで冠動脈バイパス術や弁置換術が多いですが、一部の弁膜症はカテーテルを使用した負担の少ない治療を選択することができます。
TAVI
カテーテルを足の付け根の動脈より心臓まで進め、硬くなった大動脈弁を置換する手術「TAVI(Transcatheter Aortic Valve Implantation)」という手術があります。TAVIは大動脈弁狭窄症という、加齢や動脈硬化により大動脈の弁の開閉が悪くなる病気に対する手術です。急性心不全の手術とは異なり、基本的に待機手術となります。このため術後の回復は緊急手術より良好ですが、開胸手術のためそれ相応の身体的負担はあります。急性心不全の手術後と同じように、術後の定期通院や検査、内服は必須です。
MitraClip
MitraClipとはカテーテルを足の付け根の静脈から心臓まですすめ、僧帽弁を修復する手術です。僧帽弁の閉じが悪くなることにより重度の血液の逆流がおきる僧帽弁逆流症におこなわれる治療で、開胸の心臓手術が難しい高齢者に対する手術です。手術は全身麻酔で、通常は施術後、数日間で退院できます。
「心不全の治療」についてよくある質問
ここまで心不全の治療などを紹介しました。ここでは「心不全の治療」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
高齢者の心不全の治療方法を教えて下さい。
丸山 潤(医師)
高齢者は心不全以外にも多くの病気を抱えていることが特徴のひとつです。代表的なものとして高血圧、糖尿病、貧血、腎不全や慢性肺疾患があります。そしてこれらの病気の多くが心不全を悪化させます。心不全に対する薬物療法、カテーテル治療や手術にくわえて、心不全以外の疾患に対する治療や管理にも気をつけるのが大事です。
また高齢者はサルコペニアとよばれる筋力低下や、元々の体力が低いフレイルという状態の方も多いため、栄養指導や運動療法もあわせて治療をする必要があります。
心不全の治療後に日常生活で気をつけるポイントや予防法はありますか?
丸山 潤(医師)
気をつけるべきポイントはいくつかあります。ひとつ目は、処方された薬をしっかりと内服することです。心不全に対する良い薬は数種類ありますが、当然ですが、きちんと毎日内服しないと効果がありません。ふたつ目は、塩分制限をした食事です。塩分を摂り過ぎると水分が体に溜まりやすくなり、心臓に負担をかけてしまいます。塩分は一日6g未満におさえることが必要です。禁煙や過度の飲酒は控えてください。また入浴で湯船につかるときは40度前後に調節し、10分以内の入浴を心がけましょう。
心不全の増悪(肺に水がたまり、息苦しくなる状態)を予防するポイントは適度な運動、うがいや手洗い、規則的な生活をこころがけ、感冒の予防につとめるのが大事です。またインフルエンザや肺炎球菌のワクチンも心不全の増悪の予防となります。
心不全は治るのでしょうか?
丸山 潤(医師)
一度心不全という病気になると、残念ながら完治はしません。心不全は薬の内服や食事、および運動療法を続けながら付き合っていく病気です。現在は心不全への効果が科学的に認められた薬が数種類あるため、心不全の予後は以前と比較するとかなり改善しています。
編集部まとめ
心不全は心臓から十分な血液が全身へと供給されないために臓器が血流不足におちいる、また静脈の圧が上がり、余分な水分が体に貯留する病気です。心不全の原因として頻度の高い病気は高血圧、冠動脈疾患、弁膜症、心筋症、不整脈などがあります。治療は大きく2種類あり、薬物療法とカテーテル治療や心臓手術の侵襲的な治療です。心不全は残念ながら完治はしない病気ですが、日常生活の注意点をしっかりと把握して、定期的な通院で上手につきあっていきましょう。
「心不全の治療」と関連する病気
「心不全の治療」と関連する病気は10個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
消化器科の病気
内分泌科の病気
- 甲状腺機能異常
数秒程度の息切れであれば様子見で改善することが多いですが、10分以上息切れが続く、冷や汗をともなう、症状が強いなどの場合には、何かしらの病気が隠れている可能性があります。心不全だけでなく、そのほかの疾患を含めて精査が必要です。そのため内科または夜間であれば救急外来を受診しましょう。
「心不全の治療」と関連する症状
「心不全の治療」と関連している、似ている症状は5個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 息がきれる
- 手足がむくむ
- 顔がむくむ
- 体重が増える
- 動悸がする
「息がきれる」「手足がむくむ」「動悸がする」の症状がある場合でも「肺塞栓
」「気胸」「慢性閉塞性肺疾患」「腎不全」「肝硬変」「甲状腺機能異常」などの疾患の可能性も考えられます。自然に改善しないむくみや、寝ているときに息切れなどの症状がある場合には、早めの医療機関への受診を検討しましょう。