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「ネフローゼ症候群」を発症すると現れる症状・原因はご存知ですか?医師が監修!

 更新日:2023/03/27
「ネフローゼ症候群」を発症すると現れる症状・原因はご存知ですか?医師が監修!

「最近足の浮腫が酷い気がする」という人は、もしかしたらネフローゼ症候群かもしれません。

ネフローゼ症候群とは糸球体の炎症でタンパクが漏れ出し、浮腫や体重増加などが出現する病気です。初期症状に気づきにくく、健康診断で判明することもあります。

原因が明確な場合と不明な場合があり、治療が遅れてしまうと透析を導入しなければいけなくなるかもしれません。

本記事では、ネフローゼ症候群の病態・検査・診断・治療法などについて解説します。

甲斐沼 孟

監修医師
甲斐沼 孟(上場企業産業医)

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大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。

ネフローゼ症候群の原因や症状

足

ネフローゼ症候群とはどのような病気ですか?

ネフローゼ症候群とは血液中に含まれているアルブミンというタンパクが大量に尿中に漏れ、血液中のアルブミン濃度が下がることで低タンパク血症になり、全身の浮腫や様々な症状が発生する疾患です。
アルブミンは血管内に水を引き込み、血流を維持する大事な役割を持っています。血中アルブミン濃度が下がると、血管外へ水分が漏れて溜まってしまうことにより、足・顔を中心として肺・心臓・腹部・陰嚢にも水が溜まります。
血液中にアルブミンが漏れ出るのは、腎臓にある糸球体が炎症を起こしたことが原因です。糸球体とは小さな穴が網目状に空いている微細な血管でできた組織で、ふるいのような役割を持ちます。
本来であれば穴を通過できないアルブミンが、糸球体の炎症によって穴を通過してしまい、尿となって排泄されます。糸球体が炎症を起こす原因は不明です。また低タンパク血症は血液中のコレステロールを増やすだけでなく、腎不全・感染症・心筋梗塞や脳梗塞のような血栓症を合併する危険もあります。

一次性ネフローゼ症候群の原因は?

一次性ネフローゼ症候群とは腎臓に主に原因で、指定難病の1つです。一次性ネフローゼ症候群には、微小変化型ネフローゼ症候群膜性腎症巣状分節性糸球体硬化症膜性増殖性糸球体腎炎があります。
微小変化型ネフローゼ症候群とは、腎生検をしても糸球体に障害がない、もしくは少しだけ変化が認められるものをいいます。特徴は若年者に多く発症も急激です。ステロイド治療で効果は期待できますが、ステロイドの投与量を減らすと約半数の人に再発がみられます。
膜性腎症というのは、ふるいの役割をする糸球体に抗体ができることで糸球体の構造を変化させ、本来通過できないアルブミンが通過し尿に排出されてしまう腎症です。約75%の人が原発性、約25%の人が二次で、二次性は感染症・悪性腫瘍・薬剤性・膠原病などが原因になります。
原発性は20年で約40%の人が慢性腎不全になるというデータがあり、特にタンパク尿が多い人は腎機能が低下しやすいといわれています。巣状分節性糸球体硬化症は腎生検で部分的な硬化が認められる疾患で、ステロイド治療を行っても効果が乏しい難治性ネフローゼ症候群の代表疾患です。
この疾患は原発性と逆流性腎症による続発性に分類されます。膜性増殖性糸球体腎炎は血尿を伴い、糸球体が分かれた葉っぱのようにみえる比較的稀な腎炎です。約10%は原発性で小児から若年者にみられることが多く、残り約90%は二次性です。二次性の代表的な原因はC型肝炎・溶連菌・MRSAなどの感染症で、ほかにも膠原病やリンパ腫などに合併して発症することもあります。

二次性ネフローゼ症候群の原因は?

原因は、代謝性疾患・膠原病・悪性腫瘍・感染症・アレルギー・非ステロイド系抗炎症薬など様々です。二次性ネフローゼ症候群を引き起こす代表的な疾患は糖尿病全身性エリテマトーデス・特定のウイルス感染症です。
二次性ネフローゼ症候群には糖尿病性腎症ループス腎炎アミロイドーシス紫斑病性腎炎などがあります。糖尿病性腎症とは、糖尿病の代表的な合併症である腎症・網膜症・末梢神経障害のうちの1つで、糖尿病発症後10〜15年以上経過して発症することが多いです。
また血液透析導入となる原因疾患の1位でもあり、血糖コントロールや食事管理が非常に重要です。ループス腎炎とは自己免疫疾患である全身性エリテマトーデスに合併して発症する腎炎で、糸球体に様々な障害を及ぼし腎機能を低下させます。
治療はステロイド投与と免疫抑制剤投与を複合的に行いますが、治療効果が乏しく進行性の腎不全をきたしてしまうと透析や腎移植などが必要になる場合もあります。アミロイドーシスはタンパク質が凝縮してアミロイドになり、臓器に付着することで発症する難病の1つです。限局性と全身性があり、全身性の場合は治療が遅れると死に至ることもあります。
紫斑病性腎炎とは血管性紫斑病の症状の1つであり、糸球体にIgAが沈着することで発症します。予後は比較的良好ですが、経過観察を中断すると再発したり腎炎の進行を見逃したりする可能性があるので、注意が必要です。

ネフローゼ症候群の症状について教えてください。

ネフローゼ症候群の代表的な症状は浮腫タンパク尿(尿の泡立ち)低タンパク血症易感染凝固能亢進です。
自覚症状が乏しく、健康診断の尿検査で発覚することもあります。浮腫は長時間の立ち作業やデスクワークなどでも出ますが、ネフローゼ症候群の場合は下腿前面(弁慶の泣き所)を10秒ほど押してへこみが持続するほどの浮腫が出ます。尿の泡立ちが必ずしもタンパク尿とは限りませんが、タンパク尿は尿の泡立ちがみられることが多いです。
浮腫が全身に広がり悪化すると急激な体重増加だけでなく、肺(胸腔内)や腹部(腹腔内)に水が溜まることで苦しさ・食欲低下・腹痛・陰嚢水腫などもみられます。腎機能が低下し、血液量が増えると高血圧・肺水腫・心不全を引き起こす可能性もあります。

ネフローゼ症候群の検査や治療方法

検尿カップ

どのような検査が行われますか?

一次性ネフローゼ症候群の場合、失われたタンパクの量を測定する方法として24時間にわたって尿を採取する方法が有効です。しかし1日かけて尿を集めるのは困難なので、1回の尿検査で老廃物の濃度に対するタンパク濃度の比を確認することで、失われたタンパク量を推定できます。
さらに血液検査や尿検査のほかの項目を確認し脂肪円柱などネフローゼ症候群の特徴が出ていないか調べます。原因は様々なので、腎臓超音波検査や直接腎臓に針を刺し組織を採取して調べる腎生検は、病型の確認・診断に有効です。
二次性ネフローゼ症候群の場合は膠原病・血管炎・アレルギー性疾患で発症することもあり、薬物も含めて特定できる原因がないか探ります。尿検査や血液検査によって、背景にある病気を特定できる場合もあるので、過去に罹患した感染症・自己抗体について調べます。超音波検査やCT検査・内視鏡検査も悪性疾患の探索を行うのに有効です。

ネフローゼ症候群はどのように診断されますか?

ネフローゼ症候群の診断基準は、以下の通りです。

  • タンパク尿:3.5g/日以上が持続する・随時尿で尿タンパク/尿クレアチニン比が3.5g/gCr以上もこれに準ずる
  • 低アルブミン血症:血清アルブミン値3.0g/dL以下
  • 浮腫
  • 脂質異常症(高コレステロール血症)

上記2点を同時に満たし、かつ明らかな原因疾患がないものは一次性ネフローゼ症候群の診断がつき、明らかな原因疾患がある場合は二次性ネフローゼ症候群の診断がつきます。
上記は成人の診断基準ですが、小児の診断基準は異なります。

  • 高度タンパク尿:夜間蓄尿で40mg/hr/m2以上又は早朝尿で尿タンパク/尿クレアチニン比が2.0g/gCr以上
  • 低アルブミン血症:血清アルブミン値2.5g/dL以下

ネフローゼ症候群の治療方法を教えてください。

尿タンパクに対する治療法は副腎皮質ステロイドの投与です。内服薬か点滴投与を行いますが、点滴の場合は高用量のステロイドを3日間かけて投与するステロイドパルス療法を行います。
ステロイド投与で効果が乏しかったり、再発を繰り返したりする場合は免疫抑制剤・生物学的製剤・LDLアフェレーシスという治療を追加で行うこともあります。二次性ネフローゼ症候群の場合は、原因となる病気に対する治療が中心です。浮腫に対しては悪化しないよう塩分制限安静が必要になります。
しかしネフローゼ症候群の時は血液が固まりやすくなっているので、適度なマッサージ・軽い歩行が大事です。セルフケアでも浮腫が改善せず体重増加がみられる場合は、利尿剤を使用することがあります。
また血中アルブミン濃度が高度に下がったり、利尿剤を使用しても水が溜まったりしてしまう場合は、一時的に透析をしなければならない可能性もあります。ほかにも血栓予防のために抗凝固薬を使用したり、血圧を下げ、腎保護作用が期待できるレニンーアンジオテンシンーアルドステロン系阻害薬を使用したりすることもあり、ネフローゼ症候群の治療は腎機能を低下させないようにすることが非常に重要です。

ネフローゼ症候群の予後と注意点

医師

ネフローゼ症候群の経過について教えてください。

巣状分節性糸球体硬化症は4年半の観察にて完全寛解が約7割と微小変化型ネフローゼ症候群よりも予後は不良で、腎移植後は再発に注意が必要です。膜性腎症は巣状分節性糸球体硬化症と同じくらいの寛解率ですが、自然寛解する場合もあります。
原発性膜性腎症の再発率は25〜33%です。微小変化型ネフローゼ症候群は90%以上が初期治療にて寛解します。しかし高齢や急性腎不全の合併があると、寛解に対して影響が出る可能性があります。
しかしステロイド減量によって再発する確率も高く、長期で経過観察しなければなりません。またネフローゼ症候群で多い合併症は糖尿病・感染症ですが、比較的予後が良好な微小変化型ネフローゼ症候群が結核・ニューモシツチス肺炎・サイトメガロウイルス感染症などの日和見感染を発症し、大きな死因となっているため感染症予防や早期治療などが非常に重要です。

食事で注意すべき点はありますか?

食事で大きく注意しなければならないのは、タンパク質塩分です。普段の食事においてタンパク質は非常に重要ですが、高タンパク質食だと糸球体に負担がかかりすぎることで過剰濾過が生じてしまい、腎機能低下の原因となる可能性が指摘されています。
ステロイド治療に抵抗性がある難治性ネフローゼ症候群と微小変化型ネフローゼ症候群では、タンパク質制限量が少し異なります。微小変化型ネフローゼ症候群では0.6g/kg/日、難治性ネフローゼ症候群は0.3g/kg/日かもしくは状態によってさらに制限をかける場合もありますが、この摂取量を維持することが大切です。
塩分制限に関しては酷い浮腫が生じている場合、4g未満/日の塩分制限を行います。症状が改善されるようであれば6〜7g/日まで制限を緩和することもありますが、塩分を多く摂りすぎると高血圧にもつながるので、日頃から塩分の過剰摂取には注意しましょう。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

ネフローゼ症候群は明確な理由が不明なので、厳密に予防することが難しい疾患です。しかし糸球体の炎症によって発症していることは間違いないので、腎臓に負担をかけないようにすることが大切です。
ストレス疲労を溜め込みすぎず、塩分やタンパク質の摂取量を控えめにすることは腎臓の負担を減らすことにある程度の効果が期待できます。またロキソニンなどの鎮痛薬を飲みすぎないことも日常生活の注意点として重要です。
治療中の人はステロイド薬や免疫抑制剤を使用するため感染症にも注意しなければなりません。手洗い・うがいなどの感染予防だけでなく、予防接種を受けることも効果的です。肺炎球菌ワクチン・インフルエンザワクチンなどの不活化ワクチンの接種が特に推奨されています。
治療を続けて寛解した場合でもまた再発するリスクがあるため、定期的に検査・観察を続ける必要があります。薬剤の服用は継続しつつ、少しでも体調に異変を感じたらすぐに主治医へ報告しましょう。

編集部まとめ

看護師
ここまでネフローゼ症候群について解説しました。ネフローゼ症候群は初期症状に気づきにくく、健康診断で発覚することもあります。

普段よりも浮腫が酷く、尿の泡立ちや体重増加がある場合はネフローゼ症候群かもしれません。体調に異変を感じたら、腎臓内科もしくは泌尿器科へ受診してください。

また明確な原因が分からないため予防することも難しいですが、ストレス・疲労・塩分やタンパク質の過剰摂取は腎臓に負担をかけてしまいます。

腎臓への負担を減らすために、日頃から規則正しい生活を送るよう意識しましょう。

この記事の監修医師