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「心不全」を悪化させる“9つの原因”はご存じですか? 水分・塩分制限が必要な理由も医師が解説!

 公開日:2025/02/17

心不全の患者は、水分や塩分を摂りすぎないよう注意されますが、一体なぜ気をつけなければいけないのでしょうか。今回は、心不全と水分や塩分が、どのように関係しているのかについて、「おくやまクリニック」の奥山先生に解説していただきました。

奥山 裕司

監修医師
奥山 裕司(おくやまクリニック)

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大阪大学医学部卒業。その後、大阪警察病院(現・大阪けいさつ病院)、大阪府立急性期・総合医療センター(現・大阪急性期・総合医療センター)、大阪大学医学部附属病院循環器内科准教授などを経て、2018年、大阪府和泉市に「おくやまクリニック」を開院。日本内科学会専門医、日本循環器学会専門医、日本不整脈心電学会専門医。

なぜ心不全患者は水分と塩分を制限する必要があるのか?

なぜ心不全患者は水分と塩分を制限する必要があるのか?

編集部編集部

心不全の患者は、水分や塩分の摂りすぎに注意した方がいいと聞きます。なぜですか?

奥山 裕司先生奥山先生

水分や塩分を摂りすぎると肺に負担がかかり、心不全が悪化するからです。心臓と肺は、密に関係しています。そもそも、心不全とは心臓のポンプ機能が低下して、全身へ十分な血液を送り出せない、あるいは送り出せているが“かなり無理をしている”状態を指します。心不全には心臓の収縮機能が落ちるタイプ拡張機能が落ちるタイプがあり、そのうち前者のタイプは弱ったバネをイメージするとわかりやすいと思います。

編集部編集部

もう少し詳しく教えてください。

奥山 裕司先生奥山先生

バネが強ければ、少し伸ばしただけでも力が出ますが、弱ってくると思い切りバネを引き伸ばさなければ力が出ません。これを心臓に置き換えると、心臓を大きく引き伸ばさないと全身へ血液が送れないということになります。心臓を大きく引き伸ばすには、血液など体内の液体成分を増やさなければいけません。つまり、心不全の心臓にとっては体内の水分が多ければ多いほど、心臓を大きく引き伸ばして多くの血液を送り出すことにつながるのです。

編集部編集部

それがなぜ、肺にとって負担になるのですか?

奥山 裕司先生奥山先生

肺は蜂の巣のような構造になっており、肺の静脈や動脈が蜂の巣の仕切りの部分を通っています。体内の血液の量が増えると、特に肺の静脈にかかる圧力が上がります。すると仕切りの部分に液体成分が漏れ出てきます。仕切りが水浸しのような状態になるわけです。蜂の巣の空洞の部分に入ってくる酸素と血管の距離が離れるため、酸素を取り込みにくくなります。また、肺は水分量が増え、しなやかに膨らみにくくなるので、息苦しく感じるようになります。結局、体内の水分量を必要以上に増やさないようにして、肺を水浸しにしないことが必要なのです。

編集部編集部

塩分の摂りすぎが体内の水分量を増やすのはなぜですか?

奥山 裕司先生奥山先生

食塩には水分を保持する作用があるため、塩分を摂りすぎると体内に水分量が増えます。体内の水分量が増えるということは血液量も増えるということであり、肺から左心房へ戻ってくる静脈の圧力も上昇します。そのため、先ほど説明したような仕組みで肺などに負担をかけるわけです。もちろん体内の水分量が減りすぎると、弱った心臓では全身が必要とする血液を送り出せなくなり、血圧低下や尿量減少、全身倦怠感などが発生してしまいます。

編集部編集部

水分の摂りすぎも、同じように血圧を上昇させるのですか?

奥山 裕司先生奥山先生

はい。水分を多く摂取すると体内の水分量が増えて、先ほどと同様に肺から心臓へ戻る静脈の血圧が上昇します。塩分をたくさん摂っていると、腎臓からの水分排泄も円滑におこなわれなくなるため、肺が水浸しになりやくなり、心不全を悪化させてしまうのです。

心不全を悪化させる原因

心不全を悪化させる原因

編集部編集部

一般に、心不全はどのような原因によって悪化するのですか?

奥山 裕司先生奥山先生

心不全が悪化する原因としては、主に以下のものが指摘されています。

  • 塩分や水分の摂りすぎ
  • 薬の飲み忘れや中断
  • 血圧の上昇
  • 過労
  • ストレス
  • 不眠
  • 感染症
  • 不整脈の悪化
  • 貧血

編集部編集部

様々なことが原因で心不全が悪化するのですね。

奥山 裕司先生奥山先生

はい。そのなかで気をつけてほしいことの1つが、水分や塩分の摂りすぎです。特に塩分を摂りすぎると体内に水分が必然的に蓄えられる状態になるため、塩分の過剰摂取には気をつけなければなりません。

編集部編集部

だいたい、どれくらいの量に抑えればいいのですか?

奥山 裕司先生奥山先生

制限する量はその人によって異なるので、詳しくはかかりつけ医にご相談ください。最低限の目安として、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年度版)」に記載されている1日の食塩摂取量の目標は、男性が7.5g未満、女性が6.5g未満です。ただし、高血圧の治療の一環としての目標は6g未満とされています。心不全の悪化予防のためには、個々のケースで異なるとは思いますが、体重を増やさないように塩分と水分を制限するというのが大原則になります。

編集部編集部

具体的に、1日6g未満とはどれくらいですか?

奥山 裕司先生奥山先生

食塩6gは、小さじすり切り1杯の分量です。醤油や味噌、干物、漬物など、日本人に馴染みが深い食品には多くの食塩が含まれています。また、麺類・パンなどは、加工の際に塩分が使用されてるため注意が必要です。

心不全の悪化を防ぐための減塩のコツ

心不全の悪化を防ぐための減塩のコツ

編集部編集部

減塩するためには、どのようなことを意識すればいいでしょうか?

奥山 裕司先生奥山先生

まず、外食やコンビニのお弁当などを多く利用している場合には食生活を改め、できるだけ自炊するようにしましょう。とはいえ、コンビニや市販のお弁当に頼らざるを得ない人もいると思います。その場合には、成分表示を確認する習慣をつけてみてください。最近のお弁当は、塩分の含有量がきちんと表示されているものも多いので、そうした数値を参考にするといいでしょう。

編集部編集部

外で食べ物を購入するときに、栄養素を意識することが重要なのですね。

奥山 裕司先生奥山先生

はい。例えば、ファミリーレストランのメニューにも塩分の表示があると思いますが、まず食べて味を感じてください。「これくらいの味付けだと、塩分はこれくらいなのか」と実感することで、だいたいの塩分量を感覚的に身につけることができるでしょう。

編集部編集部

そのほか、気をつけることはありますか?

奥山 裕司先生奥山先生

ソーセージ・ハム・練り物などの「加工食品」にも、多くの塩分が含まれています。また、パンや麺類などの主食に含まれる塩分も無視できません。こうした食品の過剰摂取にも気をつけましょう。

編集部編集部

普段の調理で塩分を減らすためには、どのようなことを工夫すればいいのでしょうか?

奥山 裕司先生奥山先生

調理の際、酸味や香辛料、出汁などを上手に活用すると、塩分が少なくても物足りないと感じにくいと思います。また、野菜や果物に含まれている「カリウム」は、体内に蓄積された塩分の排出を促す作用があります。こうした食品を多く摂るようにしましょう。

編集部編集部

日々の小さな積み重ねが大事なのですね。

奥山 裕司先生奥山先生

そのとおりです。患者さんには、「量は少なくてもいいので塩分のピリッときいた料理を1品、食卓に並べるといいですよ」ということをお話ししています。全てのおかずを薄味にしてしまうと、どうしても物足りなく感じてしまうでしょう。しかし、量は少なくても何か1品、味付けのしっかりしたものがあると食事全体の満足度が高まります。食事療法は毎日継続することが必要なので、我慢したり無理したりすることなく、続けられる方法を考えてみましょう。

編集部編集部

水分の摂取量については、どれくらいを目安にすればいいのでしょうか?

奥山 裕司先生奥山先生

心臓の状態にもよりますが、推奨されている飲水量は1日1.2〜1.5Lです。ただし、心不全の状態にもよるので医師に確認しておきましょう。また、心不全が重症の人など、心臓の機能が著しく低下している場合は、さらに厳密な制限が課される場合があります。

編集部編集部

水分の摂取量は、体調や季節によっても変わりそうです。

奥山 裕司先生奥山先生

たしかに、夏はどうしても発汗量が増えますし、反対に冬は減ります。そうした変化は生理的なものですが、まずは推奨される飲水量を飲んでみて、毎日の体重が大きく増えないかどうかを意識してみてください。もし体重が増えたら、自分にとっては飲水量が多いということなので、少し減らしてみましょう。

編集部編集部

体重を測ることも大事ですね。

奥山 裕司先生奥山先生

はい。一般的に、心不全は高齢者が多いのですが、その年代の患者さんには「体重が1週間で1kg増えたらそれは太っているのではなくて、水が溜まっているということです。早めに医療機関を受診してください」とお話ししています。このように、毎日自分の体調に気をつけるという意識が心不全のコントロールには必要です。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

奥山 裕司先生奥山先生

医療機関では、尿検査によって1日の塩分摂取量を推定することができます。心不全と診断された人は、定期的にその検査を受けながら塩分を摂りすぎていないか確認することをおすすめします。「自分では塩分摂取を減らしているつもりだけど、全然足りていなかった」とわかれば、もう少し努力が必要になりますし、反対に「頑張って塩分を制限したら、検査結果が改善していた」というようなら、ますますモチベーションが高まります。ときどき定量的な検査をしながら、心不全のコントロールに努めていただければと思います。

編集部まとめ

心不全は高齢者に多く発症する疾患で、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、次第に悪化していくのが一般的です。しかし、水分や塩分の摂取を制限することで、自力でコントロールできることもあります。また、病態が安定していても、定期的に医師の診察を受けることも大切です。人生100年時代、強くて元気な心臓をできるだけ長く維持するために、日常的にできることから始めてみましょう。

医院情報

おくやまクリニック

おくやまクリニック
所在地 〒594-0065 大阪府和泉市観音寺町657番6
アクセス JR「和泉府中駅」 バスで10分
診療科目 内科、循環器内科

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