「心不全」の初期症状はご存じですか? 日常生活でできる予防法も医師が解説!
加齢とともに発症率が増加する「心不全」。心不全を発症すると、心臓の機能が少しずつ下がり、5年生存率が大きく低下することがわかっています。しかし、心不全であっても日常生活を改善することで、心機能を維持することは可能です。一体、どのような点に気をつければいいのかについて、「いとう内科クリニック」の伊藤先生に解説していただきました。
監修医師:
伊藤 大輔(いとう内科クリニック)
心不全とは?
編集部
心不全とは、どのような疾患なのでしょうか?
伊藤先生
「心臓に何らかの異常が起こり、全身の臓器へ血液を十分に送り出すことができなくなった状態」のことを心不全と言います。心筋梗塞や心筋症、高血圧などの様々な要因によって、心臓に負担がかかった結果、最終的に死に至る病態のことを指します。
編集部
もう少し詳しく教えてください。
伊藤先生
わかりやすく言うと、心臓と各臓器の関係は、車のエンジンと車体の関係に似ています。心臓がエンジンで、臓器や筋力が車体です。車体が綺麗でも、エンジンの調子が悪ければ車は走ることができません。反対に、エンジンが良くても車体が悪ければ走れません。
編集部
心不全になると、どのような症状が出るのでしょうか?
伊藤先生
心不全が起きると息切れやむくみなど、様々な症状が表れます。なぜなら、心不全になると心臓から臓器へ十分な血液を送れなくなり、心臓はなんとか頑張って血流を維持しようとするからです。そうすると、心臓にますます負担がかかり、息切れやむくみなどの症状を全身に出現させます。そのため、心不全が疑われるときにはエンジン(心臓)に問題があるのか、それとも車体(臓器や筋力)に問題があるのか、正確に診察する必要があります。
編集部
なぜ、心不全が起きるのですか?
伊藤先生
心不全の原因は、「心臓の機能に原因がある場合」と「心臓の機能以外に原因がある場合」の2つに分けられます。心臓の機能に原因がある場合には、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患や心筋症、心臓弁膜症、不整脈などが挙げられます。その一方、心臓の機能以外に原因がある場合には、高血圧、貧血、腎臓病、甲状腺機能亢進症、過度のアルコール摂取などが原因として考えられます。
心不全に対する治療法
編集部
心不全を放置するとどうなるのですか?
伊藤先生
※日本循環器学会「『心不全の定義』記者発表について」
https://www.j-circ.or.jp/five_year/teigi.htm
編集部
心不全の治療は、どのようにおこなわれるのですか?
伊藤先生
心不全は生涯を通して、ずっと付き合う必要があります。急性期から慢性期と、病態には幅があり、急性期と慢性期では時期によって治療法が異なります。特に日常生活において重要なのは、慢性期に対する治療です。基本的に薬物療法をおこないながら、症状の軽減と予後の改善を目指します。
編集部
日常生活で注意すべきことはありますか?
伊藤先生
まずは自分の心臓の状態をよく理解し、心臓に負担をかけない生活を心がけることが大切です。医師の指示通り服薬をおこなうとともに、「体重が増えないようにする」「塩分や水分を摂りすぎないようにする」などに気をつけましょう。
編集部
肥満や水分・塩分の摂りすぎは、心臓に悪いのですね。
伊藤先生
はい。体重が増えればその分、心臓はたくさんの血液を全身に循環させる必要があるので、心臓に対する負荷は大きくなります。また、食塩を多く摂取すると体内の水分量も多くなり、結果的に体内を循環する血液量も増えて心臓に負担がかかります。
心不全の日常生活における注意点
編集部
ほかに注意すべきことはありますか?
伊藤先生
お酒の飲み過ぎにも注意しましょう。お酒を飲み過ぎると味覚が鈍るので、どうしても味が濃いものを食べてしまいがちです。すると塩分の摂取量が多くなり、体内の水分バランスが崩れてしまいます。その結果、血圧が上昇し、心臓への負担が増してしまいます。また、喫煙も血圧を上げたり、不整脈の原因になったりして、心不全を悪化させます。
編集部
運動はした方がいいのですか?
伊藤先生
症状が安定していれば、適度な運動は体の機能を改善する効果が期待できますし、肥満予防やストレス解消にも有効です。心臓リハビリのプログラムを提供している医療機関もあるので、そうしたサービスを活用してもいいと思います。ただし、過度な運動は症状を悪化させるので気をつけましょう。
編集部
そのほかに、気をつけた方がいいことはありますか?
伊藤先生
心不全を発症している人の中には、高血圧、糖尿病、慢性腎臓病、貧血、睡眠時無呼吸症候群などを併発しているケースも少なくありません。これらは心機能を低下させる原因にもなりますし、反対に、心不全がそれらの疾患を増悪させる原因にもなります。こうした併存疾患がある場合は、しっかり治療をおこなうようにしましょう。加えて、風邪や感染症にかかると心臓に負担がかかり、心不全の悪化につながるので、感染症予防も心がけてほしいです。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
伊藤先生
「心不全は怖い」と考えている人も多いと思います。しかし、上手に付き合うことによって健康的な生活をしている人もたくさんいます。心不全と上手に付き合っていくことが治療のカギになります。そのため、患者さんが主体となって心不全と向き合い、医師と一緒に頑張っていきしょう。あとは、毎日体重を量ることも大切です。心不全が悪化するとむくみなどにより、短期間で体重の増加がみられます。むくみや息切れなどは時間が経つにつれて慣れてしまい、あまり気にしなくなってしまいますが、体重は数値で示される変化として信頼できます。目安として、1週間で2kg以上体重が増えた場合には、早めに医師に相談しましょう。
編集部まとめ
「心不全パンデミック」とも呼ばれるほど、患者数の急増が危惧されている現在の日本。しかし、上手に病気と付き合っていくことで、普段と変わりない生活を送ることも可能とのことでした。「病気をコントロールするのは自分」という意志を持ち、主体的に病気と付き合っていくことを心がけましょう。
医院情報
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診療科目 | 内科、循環器内科 |