「心不全」リスク、電子タバコで19%上昇「禁煙の道具として推奨できない」
電子タバコを使用している人は、使用したことがない人と比べて心不全を発症する可能性が有意に高いことが、ACC(米国心臓病学会)の年次学術集会で発表されました。この内容について甲斐沼医師に伺いました。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
研究グループが発表した内容とは?
今回、ACCが発表した内容について教えてください。
甲斐沼先生
今回紹介するのはACCの年次学術集会で発表されたもので、アメリカ・メリーランド州ボルチモアのメドスターヘルスらの研究グループは、NIH(アメリカ国立衛生研究所)の健康記録を用いて、17万5667人を45カ月追跡しました。追跡期間中、3242人が心不全を発症しました。
研究の結果、電子タバコを一度も使用したことがない人と比べて、電子タバコを使用したことがある人は心不全を発症する可能性が19%高いことが示されました。参加者の年齢、性別、喫煙状況が電子タバコと心不全の関係を変化させるといったことは示されませんでした。心不全の種類別でみると、電子タバコの使用に関連するリスクの増加は、各拍動の間に血液が適切に満たされなくなるHFpEF(収縮機能が保たれた心不全)で有意に高くなりました。
研究グループは、「心不全におけるHFpEFの割合はここ数十年で増加しているため、このタイプの心不全の危険因子の決定と治療法の改善に焦点が当てられている」と指摘もしています。アメリカでは、10代と成人の約5~10%が電子タバコを使用しているという調査結果も出ているため、研究グループは「若い人々の間で電子タバコの使用の有病率を考慮すると、心臓の健康に電子タバコの潜在的な影響の追加調査の必要性がある」と述べています。また、「電子タバコは禁煙の道具としては勧められない」とも語っています。
心不全とは?
今回の研究テーマである心不全について教えてください。
甲斐沼先生
心不全は、心臓が悪いために息切れやむくみが起こり、それがだんだんと悪化して生命を縮める病気です。原因は人によって様々で、冠動脈が詰まってしまう心筋梗塞や狭心症、動脈硬化や塩分の摂り過ぎなどによる高血圧などが考えられています。ほかにも、弁膜症、心筋症、不整脈など、様々な疾患が原因で心不全を発症します。
心不全になると心臓から十分な血液を送り出せなくなるため、必要な酸素や栄養が届かずに、息切れが出たり、疲れやすくなったりします。腎臓に流れる血液も少なくなるので、尿の量が減ることでむくんだり、体重が1週間で2~3kg増加したりすることもあります。また、体の中で血の巡りが滞る「うっ血」という状態が進むと、腹部膨満や、「起坐呼吸」という呼吸が苦しくて横になって眠れないような状態になることもあります。
息切れや足のむくみは心不全の初期症状なので、こうした症状を感じたときには、専門の医療機関を受診も検討してください。日本では、毎年約1万人ずつ心不全の患者数が増加しており、心不全の約半数は、狭心症や心筋梗塞が原因となっているため要注意です。
研究グループが発表した内容への受け止めは?
研究グループが発表した内容についての受け止めを教えてください。
甲斐沼先生
これまでにも、電子タバコを吸う習慣に伴う心臓病の発症リスクの増加や、肺病変に関連するいくつかの健康的な弊害を引き起こす可能性があると指摘されていました。ACCが発表した新たな研究結果によると、ニコチンを含む電子タバコ(※)を人生のいずれかの時点で使用した人は、未使用者と比べて心不全を発症する可能性が19%程度高かったということであり、電子タバコの長期使用は体内の血管の機能を著しく損なうリスクがあることを提言しています。
電子タバコの歴史自体は、紙巻きタバコと比較してまだ浅く、心臓など臓器への長期的な影響は十分に研究されていませんが、今回の研究を通じて、電子タバコを長期的に使用すれば、心臓病を発症するリスクを増加させる可能性があると判明しました。今後は、電子タバコを使用している人と使用しない人を対象にして、心臓圧や心拍数の変化、血管の収縮運動や運動の耐用性などの観点から比較検討する研究がさらに深層的に進むことが期待されます。
※日本では「ニコチンを含む電子タバコ」の販売は法律で禁止されています。タバコ葉やタバコ葉の加工品を電気で加熱し、それによって発生した蒸気を吸入する製品は「加熱式タバコ」です。
まとめ
電子タバコを使用している人は、使用したことがない人と比べて心不全を発症する可能性が有意に高いことが、ACCの年次学術集会で明らかにされました。日本でも心不全の患者数は増加しているため、今回の研究は注目を集めそうです。