「タバコの煙」で子どもの近視リスクが上昇、小児の受動喫煙に要注意
香港の香港中文大学の研究グループは「小児の受動喫煙への曝露量が多ければ多いほど近視の発症が早くなり、中等度~強度の近視に至るリスクの増加が明らかになった」と発表しました。この内容について郷医師に伺いました。
監修医師:
郷 正憲(徳島赤十字病院)
研究グループが発表した内容とは?
香港の香港中文大学の研究グループが発表した研究内容について教えてください。
郷先生
今回紹介するのは、香港の香港中文大学の研究グループがおこなった研究についてです。研究結果は「JAMA Network Open」に掲載されています。受動喫煙と小児の近視リスクについての関連性を示唆する報告がある一方、受動喫煙は遠視の増加をもたらすとの報告もあり、その影響については一貫したエビデンスが得られていませんでした。
研究グループは6~8歳の1万2630人を対象に調査をおこなったところ、32.4%の4092人が受動喫煙の曝露グループ、67.6%の8538人が非曝露グループでした。これらのグループの解析をおこなった結果、非曝露グループと比べて曝露グループでは近視屈折が有意に大きく、眼軸長(AL)は有意に伸長していました。また、家庭での喫煙本数1日10本を1単位とした場合、曝露量が1単位増えるごとに等価球面度数(SE)は有意に低下し、眼軸長も有意に伸長していたとのことです。受動喫煙曝露による中等度近視の罹患オッズ比は1.30で、強度近視の罹患オッズ比は2.64となり、いずれも有意な数字を示しました。
今回の結果について、研究グループは「小児の受動喫煙は屈折異常や眼軸長の増大、近視罹患率と関連するだけでなく、近視の早期発症や重症化とも関連することが確認された。受動喫煙は曝露される年齢が低ければ低いほど、近視罹患に与える影響は大きい」とコメントしています。
日本における小児の近視の現状は?
今回の研究では受動喫煙と小児の近眼についての関連が調査されましたが、日本における小児の近視の現状について教えてください。
郷先生
日本における小児の近視の頻度を調べた統計はないのですが、文部科学省の学校保健統計調査報告書では裸眼視力0.3未満の低視力者の割合が公表されています。裸眼視力0.3未満の低視力者の多くが近視もしくは近視性乱視と考えられます。報告書によると、1979年には小学生の2.7%、中学生の13.1%、高校生の26.3%という割合でしたが、2010年には小学生の7.6%、中学生の22.3%、高校生の25.9%と、小学生では3倍に、中学生では1.7倍に増加している結果が出ています。
発表内容への受け止めは?
香港の香港中文大学の研究グループが発表した今回の研究結果についての受け止めや今後の応用への期待感を教えてください。
郷先生
小児の近視は、様々な原因で起こると言われています。小児期に近視になった場合、成人と異なり、なかなか症状を言い出さないこともあり、近視がかなり進行してしまう子もいるため問題となっています。早期に介入をすることで近視の進行を抑え、将来の視力維持に有効な手立てを取れる場合が多いのです。
今回の研究結果では、「受動喫煙が近視のリスクである」ということがわかりました。もちろん受動喫煙だけで近視になる、あるいは受動喫煙を避ければ近視にならないということではありませんが、小児の近視対策の一助となることが期待されます。
小児の受動喫煙は呼吸器、神経系、心血管系などの発達に影響があることは既知の事実でしたが、近視のリスクにもなるということで、受動喫煙の対策が必要なのは間違いないでしょう。
まとめ
香港の香港中文大学の研究グループは、「小児の受動喫煙への曝露量が多ければ多いほど近視の発症が早くなり、中等度~強度近視に至るリスクの増加が明らかになった」と発表したことが今回のニュースでわかりました。喫煙による健康への影響は様々な観点から指摘されていますが、今回の研究発表を踏まえて、子どもの目の健康にも影響があることを念頭に置いた方がよさそうです。