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突然死の恐れもある「肥大型心筋症」をご存じですか? 放置するとどうなる?【医師解説】

 公開日:2025/03/10
突然死リスクもある「肥大型心筋症」の初期症状とは? 放置するとどうなる?【医師解説】

肥大型心筋症は、心臓を構成する筋肉が過度に厚くなる疾患です。決して珍しい疾患ではなく、日本でも比較的多く見られますが、突然死のリスクがあることはあまり知られていないかもしれません。どんな疾患なのか、ハートメディカルクリニックGeN横浜綱島の源河先生にメディカルドック編集部が詳しく聞きました。

源河 朝広

監修医師
源河 朝広(ハートメディカルクリニックGeN横浜綱島)

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東海大学医学部在籍6年次にニューヨーク医科大学へ公式留学。東海大学医学部卒業。沖縄県立中部病院ハワイ大学臨床研修プログラム修了。沖縄県立宮古病院内科勤務、東海大学大学院医学研究科修了、医学博士号取得、東海大学医学部循環器内科講師(本院、大磯病院、東京病院、八王子病院の各付属病院に勤務)、恵寿総合病院心臓血管センターセンター長、済生会川口総合病院循環器内科部長、横浜旭中央総合病院循環器内科部長などを経て現職。医学博士、日本内科学会認定医 、日本循環器学会専門医。

肥大型心筋症とは?

肥大型心筋症とは?

編集部編集部

肥大型心筋症とはなんですか?

源河 朝広先生源河先生

遺伝的な原因などにより、心臓を構成する筋肉が過度に厚くなる疾患のことをいいます。世界では約500人に1人が発症すると考えられており、日本でも珍しい疾患ではありません。厚くなった心筋が、心臓から血液を送り出す働きを妨げることで、心不全や不整脈、まれに突然死を引き起こします。特に左心室の壁が極端に厚くなることが多く、家族内での遺伝性が注目される疾患です。

編集部編集部

心臓肥大と肥大型心筋症はどう違うのでしょうか?

源河 朝広先生源河先生

「心臓肥大」は、高血圧や激しい運動を長く続けることで、心臓の壁が厚くなった状態を総称する言葉です。一方、肥大型心筋症は主に遺伝的な要因によって心臓の筋肉(特に左心室)が病的に厚くなり、血液の流れがスムーズにいかなくなる疾患のこと。レントゲン検査などで「心臓肥大」と言われても、必ずしも肥大型心筋症とは限りません。確定診断には、心エコー(超音波)や心臓MRIを使って、心臓の壁の厚みや血液の通り道がどれくらい狭くなっているかを調べることが必要です。

編集部編集部

肥大型心筋症の原因は何ですか?

源河 朝広先生源河先生

肥大型心筋症は遺伝性が指摘されており、親から子へ受け継がれる場合が多いとされています。ただし、家族にまったく罹患者がいない“散発例”もあり、原因遺伝子がはっきりしないケースも存在します。遺伝子が変化していると、心臓を動かすタンパク質の働きが異常をきたし、筋肉の繊維が過度に発達して厚くなると考えられます。なお、高血圧などの生活習慣病でも心臓が肥大しますが、肥大型心筋症のように壁の一部分が極端に厚くなるタイプとは区別されます。

編集部編集部

どのような検査を受ければ正確に診断できますか?

源河 朝広先生源河先生

診断にはまず、心エコー検査が基本となります。これによって、心臓の壁がどれくらい厚くなっているか、血液の流れがスムーズかを手軽に確認できます。さらに心電図やホルター心電図(24時間心電図)を用い、脈の乱れが起こっていないかを調べます。そのほか、心臓MRIは心臓の構造をより細かく映し出せるため、壁の厚みや線維化(筋肉が硬くなる現象)の程度を把握しやすい利点があります。症状が強い方や手術を検討している方などは、心臓カテーテル検査を行って、心臓内部の圧力や冠動脈(心臓の筋肉に血液を送っている血管)の状態を詳しく調べることもあります。家族性が疑われる場合は、遺伝子検査で原因遺伝子の有無を確認する場合もあります。

肥大型心筋症の初期症状とは? 放置するとどうなる?

肥大型心筋症の初期症状とは? 放置するとどうなる?像

編集部編集部

肥大型心筋症の初期症状はどのようなものですか?

源河 朝広先生源河先生

多くの患者さんが無症状、あるいはわずかな症状を示すだけであり、たまたま検診で心電図検査やレントゲン検査を受けたときに、「脈が乱れている」「心臓が大きくなっている」などと異常を指摘され、肥大型心筋症の発見につながったというケースが大半です。

編集部編集部

症状が出ないことが多いのですね。

源河 朝広先生源河先生

はい、症状が出るとすれば息切れ、呼吸困難、動悸など心不全と同様のものが見られます。ただし、肥大型心筋症は、血液の出口が狭くなる「閉塞性」と、狭くならずに肥大が中心となる「非閉塞性」に分かれ、閉塞性の方が症状が強く出やすい特徴があります。こうした区別が、治療方針や日常生活での注意点に大きく影響するため、専門的な検査と診断が欠かせません。

編集部編集部

症状がひどくなると、どうなるのですか?

源河 朝広先生源河先生

症状がひどい場合には失神したり、心不全を起こしたりすることがあります。

編集部編集部

症状がない段階でも危険な状態になることはありますか?

源河 朝広先生源河先生

肥大型心筋症は、初期に自覚症状がない場合でも、心臓が厚くなる速度や不整脈のリスクが高まるため、突然症状が出現する可能性があります。なかでも閉塞性タイプでは、心臓の出口部分が狭まるため、体を動かしたときや水分不足のときなどに血行障害が顕在化しやすく、激しい動悸やめまい、最悪の場合は失神を起こすこともあります。また、若年者でも激しい運動の最中に突然死に至ることがあり、無症状だからといって安全とは言えません。

編集部編集部

運動制限は必要でしょうか?

源河 朝広先生源河先生

肥大型心筋症の患者さんにとって、運動は心臓に負担をかけすぎないよう注意する必要があります。特に閉塞性タイプで、血液の出口が狭くなっている方は、激しいスポーツや瞬発力を必要とする運動によって急激に心拍数が上昇し、血液供給が追いつかず、失神や重篤な不整脈を起こすリスクがあります。

編集部編集部

すると、運動は控えた方が良いのですか?

源河 朝広先生源河先生

いいえ、必ずしもそうとは限りません。まったく運動しないと体力が低下し、かえって心臓に負担がかかる場合もあります。したがって、主治医や専門医の指導のもと、ウォーキングや軽めの筋力トレーニングなど、心拍数を急激に上げない範囲で定期的な運動を行うことが推奨されます。

編集部編集部

放置した場合、どのような合併症やリスクがありますか?

源河 朝広先生源河先生

肥大型心筋症を放置すると、心臓の壁の肥大が進行し、血液の出口が狭くなる閉塞性タイプでは、失神や胸の痛み、息切れなどの症状が悪化する可能性があります。さらに、心臓の拍動が不規則になる不整脈が生じれば、脳梗塞の原因となる血栓ができやすくなったり、命に関わる重篤な心室性不整脈を引き起こすリスクも高まったりします。とくに若い方でも突然死が報告されており、無症状だからといって安心はできません。

編集部編集部

放置は危険なのですね。

源河 朝広先生源河先生

はい。進行すると心臓のポンプ機能が低下し、いわゆる心不全の状態になり、日常生活で動くことさえ困難になる可能性もあります。したがって、症状がなくても検査と経過観察を続けることが重要です。

肥大型心筋症の治療法

肥大型心筋症の治療法

編集部編集部

治療はどのような種類がありますか?

源河 朝広先生源河先生

治療法は、患者さんの病状や閉塞の程度によって異なります。薬物療法では、心拍数や血圧を下げて心臓の負担を軽くするβ遮断薬やカルシウム拮抗薬がよく使われます。また、抗不整脈薬であるジソピラミドやシベンゾリンも使われることがあります。閉塞が強く、症状が重い場合は、外科手術で厚くなった心筋を切除する「心筋切除術」や、カテーテルでアルコールを注入して局所的に心筋を壊す「経皮的中隔心筋焼灼術」を行うことがあります。

編集部編集部

薬物療法ではどのような薬が使われますか?

源河 朝広先生源河先生

薬物療法の中心となるのは、心臓の拍動を抑えて負担を軽くするβ遮断薬や血管、心筋を弛緩させるカルシウム拮抗薬です。β遮断薬は血圧を下げ、心拍数を抑えることで、血液の出口が狭い場合でも心臓のポンプ機能を安定させる効果があります。一方、カルシウム拮抗薬は心筋の固さを軽減して血流をスムーズにし、胸の痛みや息切れの改善が期待できます。ただし、薬によっては血圧が下がりすぎたり、脈が遅くなりすぎたりなどの副作用が起こることがあります。そのため、用量の調整や副作用のチェックを行いながら、定期的に専門医と相談していく必要があります。また、閉塞型には閉塞の度合いを軽くするために抗不整脈薬であるジソピラミドやシベンゾリンも使われることがあります。また、合併する不整脈の種類によってはほかの抗不整脈薬や血液をサラサラにする抗凝固薬を使う場合もあります。

編集部編集部

基本は薬物療法なのですね。

源河 朝広先生源河先生

はい。近年、心筋の収縮を調節する作用を持つ新しい薬のマバカムテン(Mavacamten)が開発され、閉塞性肥大型心筋症の患者さんに対して心室内の圧力差を軽減し、症状を改善する効果が期待されています。欧米および日本で行われた複数の臨床試験で有効性と安全性が報告されており、日本ではまだ未発売ですが、近い将来使用可能になることが期待されます。

編集部編集部

そのほかにはどのような治療法がありますか?

源河 朝広先生源河先生

不整脈による突然死のリスクが高い方には、電気ショックで致死性の不整脈を止める植え込み型除細動器(ICD)の装着を検討します。最適な治療法は専門医による総合的な評価で決まり、定期的に再評価して必要に応じて治療を追加・変更します。

編集部編集部

生活習慣で特に注意すべきことは何ですか?

源河 朝広先生源河先生

肥大型心筋症の方は、心臓に急激な負担をかけないよう、日常生活でいくつかのポイントに気をつける必要があります。まず、過度な飲酒や喫煙は血圧や心拍数を上昇させ、不整脈を誘発しやすくするので控えましょう。また、塩分の摂りすぎは高血圧を招き、心臓に余計な負担がかかるため、食事はできるだけ薄味を心がけます。水分不足も閉塞型を悪化させ、めまいや湿疹などを起こすことがあり、適度な水分補給を忘れないことが大切です。さらに、睡眠不足やストレスが重なると交感神経が活発になり、心拍数や血圧が上がりやすくなります。適度な運動やリラクゼーション法を取り入れ、ストレスを上手にコントロールすることが望ましいです。

編集部編集部

定期的な経過観察はどのくらいの頻度で必要ですか?

源河 朝広先生源河先生

肥大型心筋症は無症状の期間が長い場合でも、突然症状が現れたり、不整脈が生じたりするリスクがあり、定期的な受診が欠かせません。基本的には、少なくとも年に1回は心エコーや心電図、必要に応じてMRIなどの検査を行い、心臓の壁の厚みや血流状態、不整脈の有無を確認します。症状が出始めた方や、閉塞が強い方、不整脈を指摘された方は、より短い間隔で診察を受け、薬の調整や追加検査を行う場合があります。治療法を変更した直後や手術後などは、状態が落ち着くまで数週間から数か月おきに経過観察を行うこともあります。専門医の指示を守り、急な体調変化があれば早めに相談することで、合併症や突然死のリスクを抑え、長期にわたって安全に生活することが期待できます。

編集部編集部

最後に、メディカルドック読者へのメッセージがあれば。

源河 朝広先生源河先生

初めて「肥大型心筋症かもしれない」と感じた場合、まずは循環器内科を標榜している診療所やクリニックを探すのがおすすめです。そうしたクリニックでは、心エコーや心電図など基本的な検査設備が整っていることが多く、ある程度まで精密な評価が可能です。受診時には、これまでの健康診断結果や既往症の情報を持参するとスムーズです。特に高血圧や不整脈の既往がある方は、診察の際に医師にしっかり伝えましょう。インターネットや電話でクリニックの情報を確認し、「日本循環器学会が認定した循環器専門医」が在籍しているかどうかをチェックすると、より的確な初期診断が期待できます。早期の段階で検査を受け、必要に応じて大病院へ紹介してもらうことが、肥大型心筋症のリスクを適切に把握し、安全に治療を進めるための第一歩です。

編集部まとめ

肥大型心筋症は突然死の原因になることもあり、注意が必要な病態です。初期には無症状なことも多いので、検診で心雑音や心電図異常を指摘されたら必ず専門医を受診して、二次検査を受けるようにしましょう。

医院情報

ハートメディカルクリニックGeN 横浜綱島

ハートメディカルクリニックGeN 横浜綱島
所在地 〒223-0052 横浜市港北区綱島東4-3-17 アピタテラス横浜綱島2F
アクセス 東急東横線「綱島」駅より徒歩約10分
東急新横浜線「新綱島」駅より徒歩約10分
診療科目 循環器内科、糖尿病内科、内分泌内科

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