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「BA.5」対応新ワクチン接種後に42歳女性が死亡「打ってすぐに体調が急変」

 更新日:2023/03/27
新型コロナワクチン接種後に女性が死亡 愛知県医師会が会見

11月5日、愛知県愛西市の集団接種会場で、4回目の新型コロナワクチンを受けた42歳の女性の容態が急変し、死亡が確認されました。このニュースについて郷医師に伺いました。

郷 正憲医師

監修医師
郷 正憲(医師)

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徳島赤十字病院勤務。著書は「看護師と研修医のための全身管理の本」。日本麻酔科学会専門医、ICLSコースディレクター、JB-POT。

今回のニュースの内容は?

BA.5型対応の新型コロナワクチン接種後に女性が亡くなったことについて教えてください。

郷 正憲医師郷先生

厚生労働省によると、亡くなった女性は10月5日午後2時18分頃、愛知県愛西市の集団接種会場で新型コロナウイルスワクチンの4回目接種を受けました。午後2時25分頃、女性に咳などの症状が現れて、処置室で医師や看護師が対応にあたったとのことです。女性は息苦しさを訴えて酸素投与を受けましたが、嘔吐の症状が現れて一時的に呼吸停止するなど容体が急変しました。医師が強いアレルギー反応「アナフィラキシー」の治療に用いるエピネフリンの投与を試みましたが、静脈のルートが確保できなかったとのことです。その後、女性は病院に搬送されましたが、接種から約1時間半後に死亡確認がされました。

愛知県医師会は今回の死亡事例について、11月17日に記者会見を開きました。会見では、ワクチンの接種後であることと最重症のアナフィラキシーの可能性が強く疑われたことから、「アナフィラキシーが疑われる場合は、診断に躊躇することなくアドレナリンの筋肉注射をすべきだった」との見解を公表しました。また、愛知県医師会の野田正治副会長は、「与えられていた時間は15~30秒ほどだった」と判断する猶予が少なかったことを示した上で、「酷ではあるが、打つべきだった」とアドレナリンの筋肉注射を打つべきだったとの見解を示しました。

愛知県医師会が示した接種体制の見直しポイントとは?

愛知県医師会の会見では、接種体制の見直しについても言及されました。この内容について教えてください。

郷 正憲医師郷先生

愛知県医師会によると、接種体制については次のような5つの観点を検討する必要があるとしています。

①まず、アナフィラキシーを疑う場合はアドレナリンを打つこと
②安価な医療用のアドレナリン製剤を用意しておくなど、必要な人に適量を筋肉注射できる体制を整えること
③接種前の備品確認を実施すること
④接種会場で容態が急変した際の指示系統を事前に確認しておくこと
⑤容態が急変した人が出た場合、作業を一時中止して緊急時対応をおこなうこと

今回の事例への受け止めは?

今回の42歳の女性の死亡事例の経緯を踏まえた上で、受け止めを教えてください。

郷 正憲医師郷先生

今回の急変に関してですが、たしかにアナフィラキシーも疑われる状況ではありました。しかし、接種後の15分以内の急変ということで、アナフィラキシーを一番に疑い対処をおこないながら、ほかの疾患も考慮していくことが求められました。アナフィラキシーを疑った場合には、確定とは至らずともすぐにアドレナリンを筋肉注射することが求められます。静脈投与を試みようとしたという判断は、アナフィラキシーの対応としては適切ではなかったと言えるでしょう。アナフィラキシーのときに静脈注射をおこなうこともありますが、用量の調整なども非常に難しいところですから、緊急時には避けた方が無難だと思われます。したがって、まずはアドレナリン筋肉注射をおこなった方がよかったのではないかと考えます。

ただし、今回の場合は皮膚に皮疹(ひしん)があったという情報がありません。アナフィラキシーは、皮膚症状と何らかの臓器異常を伴った場合にのみ診断を確定することができます。もし皮疹がなかったとしたら、アナフィラキシーとは確定できないのです。今回の場合は泡沫痰が多く分泌されていたなど皮膚以外の症状を考えると、急性心不全を発症して治療を必要とした可能性も考えられます。接種当日、女性が呼吸苦などの症状があったにもかかわらず、症状を申告せずにワクチン接種をしていたということも分かっていますから、元々あった心不全がワクチン接種後に急激に悪化したとも考えられるのです。その場合にはアドレナリンを最初から投与する必要はなく、静脈路を確保してから種々の薬剤を使用することが求められます。また、急性心不全で血圧低下や心停止に至った場合、アドレナリンを治療に使うことがありますが、この場合には筋肉注射ではあまり意味が無く、静脈注射が求められるのです。

しかし、繰り返しにはなりますが、アナフィラキシーを”疑った”時点でアドレナリンの筋肉注射をするべきでした。この点は、医療関係者としては重く受け止めなくてはならない教訓です。一方で、今回の状況からはアナフィラキシーではなかった可能性もあるため、アドレナリン筋肉注射をしても状態が悪くなった可能性もあります。少なくともワクチン接種は体調不良時には避けるなど、接種を受ける側も気をつけなければならないことがあるということも教訓だと受け止めるべきでしょう。

まとめ

11月5日、愛知県愛西市の集団接種会場で、4回目の新型コロナウイルスワクチンを接種した42歳の女性の容態が急変し、死亡が確認されたことが今回のニュースでわかりました。愛知県医師会は厚生労働省に提言を上げるなど、体制見直しに積極的に取り組んでいきたいという考えを示しています。

この記事の監修医師