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慢性腎臓病「CKD」とはなにか 原因や治療法を医師が解説

 公開日:2023/06/20
慢性腎臓病「CKD」とはなにか 原因や治療法を医師が解説

CKDとはChronic Kidney Diseaseの略で、日本語では「慢性腎臓病」と言います。腎臓の病気は自覚症状がないまま進行するのがほとんどで、早期発見・早期治療開始を実現するために提唱された病名です。CKDは放置すれば腎機能はさらに低下して命や生活を脅かすこともある重大な病気ですが、あまり聞き慣れない方も多いのではないでしょうか。今回は「CKD」がどのような病気であるのか、診断や治療方法も含めて筑波大学附属病院腎臓内科の高柳ひかり先生に解説していただきました。

高柳 ひかりさん

著者
高柳 ひかり(筑波大学附属病院 腎臓内科)

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2017年筑波大学医学群医学類卒業。日立総合病院、茨城県立中央病院、水戸協同病院、茨城県西部メディカルセンターなどを経て2022年より筑波大学附属病院腎臓内科で勤務。
山縣 邦弘さん

共著者
山縣 邦弘(筑波大学 医学医療系腎臓内科学教授)

プロフィールをもっと見る
1984年筑波大学医学専門学群(現・医学群医学類)卒業、筑波大学附属病院内科医員、同講師を経て2001年米国オレゴン大学にResearch Associateとして留学。2004年筑波大学大学院人間総合科学研究科助教授、2006年より現職。日本腎臓学会理事、日本腎臓リハビリテーション学会理事長。

CKDとは無自覚のままで腎臓が悪化していく病気

CKDとは無自覚のままで腎臓が悪化していく病気

編集部編集部

最近、テレビや新聞で「CKD」という言葉をよく見かけます。CKDとはどのような病気でしょうか?

高柳 ひかり先生高柳先生

腎臓は主に体の中の老廃物を尿として体の外に排泄する働きを持つ臓器です。その他、体の水分量や血圧を調整する、血液中のミネラルや酸性・アルカリ性のバランスを整える、骨髄に赤血球を作るよう指令を伝えるホルモンを産生するなどの働きがあります。腎臓の機能が数か月から数十年の時間をかけて徐々に低下した状態、もしくは尿検査や画像検査などで指摘される腎臓の異常が3か月以上持続し、慢性的に続く状態を「慢性腎臓病」と呼びます。

編集部編集部

どのようなことがCKDの原因になるのでしょうか?

高柳 ひかり先生高柳先生

CKDの原因は多岐に渡ります。代表的なものとして、糖尿病や高血圧症などの生活習慣病を長期間、十分にコントロールしなかった影響で引き起こされる糖尿病性腎症腎硬化症糸球体腎炎ネフローゼ症候群といった腎臓固有の病気、多発性嚢胞腎(たはつせいのうほうじん)など遺伝性の病気、膠原病など全身性の病気、尿路結石などの泌尿器科の病気などが挙げられます。また、一部の痛み止めを長期間使い続ける、造影剤を使用する、すべての人が避けられない加齢による腎機能の低下なども原因となることがあります。

編集部編集部

どのような症状が出てくるのでしょうか?

高柳 ひかり先生高柳先生

CKDはかなり進行するまで自覚症状がないのが特徴です。ただし「ネフローゼ症候群」で高度のタンパク尿が続く場合には、下腿を中心にむくみがでる場合もありますが、多くの場合、初期には症状がなく、進行するに従って腎不全に伴う様々な症状が出現するようになります。そのため、CKDが初期に発見されるケースでは、尿検査や血液検査がきっかけに偶然発見されることがほとんどです。尿検査では血尿やタンパク尿、血液検査では腎臓の働きが低下したことを反映するクレアチニン値の上昇などが指摘されます。定期的な検診をうけることの重要性がここにあります。

早期発見は血液検査や尿検査で可能

早期発見は血液検査や尿検査で可能

編集部編集部

CKDの診断方法を教えて下さい。

高柳 ひかり先生高柳先生

CKDの診断は主に下記の2つです。

(1)尿検査や血液検査、画像検査、病理(腎臓の組織を顕微鏡で詳しくみる検査)で腎臓の異常が明らかである
(2)血清クレアチニン検査と年令、性別で算出する推算糸球体濾過量(eGFR:estimated Glomerular Filtration Rate)が60mL/分/1.73m2未満である

上記の(1)(2)のいずれか、または両方の結果が、3か月以上の間隔で継続していること、このような異常が慢性的に持続していればCKDと診断されます。

編集部編集部

検査ではどのようなことを確認するのですか?

高柳 ひかり先生高柳先生

血液検査と尿検査を行い、血清クレアチニン値・タンパク尿の有無を確認します。そのほか、腎臓の異常は、人間ドックなどで実施される超音波検査やCT検査などで発見される場合もあります。

「治す」ことは簡単ではないからこそ、悪化の予防が大切

「治す」ことは簡単ではないからこそ、悪化の予防が大切

編集部編集部

CKDは治る病気なのでしょうか?

高柳 ひかり先生高柳先生

糸球体腎炎、ネフローゼなどでは精密検査などを実施し、正確な診断に基づいて治療が行われることで、腎機能が維持され、治癒する場合もあります。一方、加齢や生活習慣病に代表される高血圧、糖尿病、動脈硬化など、CKDの原因となる病気が治らないのと同様に、CKDそのものが治ることは難しいのです。しかし、CKDの原因のうち、加齢以外の生活習慣病については、生活習慣を改善することや、薬剤により血圧、血糖、脂質異常などを正常域にコントロールすることは可能です。上手にコントロールすることにより、CKDの治癒は無理でも、それ以上の悪化を防ぎ進行を止めることは可能です。

編集部編集部

CKDの治療方法を教えて下さい。

高柳 ひかり先生高柳先生

CKDの治療は、大きく以下の3つに分けられます。
(1)CKDの原因に対する治療
(2)腎機能を低下させる悪化因子に対する治療
(3)腎臓の機能低下によって生じる様々な症状や合併症に対する治療

編集部編集部

CKDの原因に対する治療とはどのようなものでしょうか?

高柳 ひかり先生高柳先生

たとえば「慢性糸球体腎炎」は、精密検査によって「IgA腎症」や「膜性腎症」と診断されることがあります。その場合、免疫抑制薬などを適切に使用して完治する場合があります。また、糖尿病性腎症や高血圧に伴う腎硬化症でも、適切な血糖コントロールと同時にタンパク尿を軽減させる薬剤を投与したり、塩分制限や降圧薬を服用したりすることによって、血圧をコントロールする治療が行われます。

編集部編集部

腎機能を低下させる悪化因子には、どのような治療をするのですか?

高柳 ひかり先生高柳先生

腎機能低下の悪化因子には、高血圧や高血糖、脂質異常症、高尿酸血症、肥満、便秘、尿路結石、喫煙など様々な悪化要因があります。生活習慣の改善でコントロールできるものは、適切な方向に是正すべきです。ただし、中高齢の方が食事療法などを実施するときは、適切な運動指導を組み合わせて実施しないと、栄養不良などを来す恐れもあり、適正な指導のもとに実施することが重要です。医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士等と相談の上、適切な生活習慣の改善を行うようにして下さい。

編集部編集部

腎臓の機能低下によって生じる様々な症状や合併症に対する治療とはどのようなものでしょうか?

高柳 ひかり先生高柳先生

この治療は多岐に渡ります。たとえば腎臓で作られる尿が減ると、体に水分がたまってむくみや息切れなどの症状を引き起こすため、適切な塩分・水分制限、尿の産生を促す薬(利尿薬)で治療します。その他、腎臓で排泄されるべきカリウムが体に溜まってしまうと「高カリウム血症」となる場合があります。高カリウム血症は危険な不整脈を引き起こすことで急死の原因となるため、カリウムを多く含む生野菜や果物、いも類などを減らすような食事指導を行ったり、カリウムを下げる飲み薬を服用したりします。

編集部編集部

CKDとほかの病気との関連はありますか?

高柳 ひかり先生高柳先生

CKDは、腎機能が低下して末期慢性腎不全に至る病気と考えられがちですが、それ以上に、心筋梗塞や心不全、脳卒中などの心臓血管病で死亡する患者さんが多く、糖尿病や高血圧などに比べ、心臓血管病発症の重要な危険因子であることが明らかになっています。また「心腎連関」といってCKDの進行とともに、心臓の収縮力が落ちることで心不全になる場合があります。また、その逆で心不全の方において心臓の機能が低下することによって腎臓に十分な血液を送ることができず結果として腎臓の働きが低下する場合もあります。さらにCKDでは骨粗しょう症など骨が弱くなることも知られています。

編集部まとめ

CKDは長い時間をかけて腎臓の働きが徐々に低下する病気で、高血圧症や糖尿病などが原因となります。進行すると透析療法や腎移植が必要になるばかりでなく、心臓や脳の病気を合併しやすくなるため、早期に発見して治療することが非常に重要です。また、生活習慣を見直すことが、CKDの発症や悪化の予防につながります。塩分の摂りすぎを控える、たばこをやめるなど、可能なところから取り入れていけるといいですね。

この記事の監修医師