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腎臓が悪いと骨粗しょう症になる? 腎臓と骨の意外な関係を医師が解説

 公開日:2023/07/04
腎臓が悪いと骨粗しょう症になる? 腎臓と骨の意外な関係を医師に聞く

最近よく聞くようになってきた慢性腎臓病(CKD)ですが、実は骨の強さにも影響することをご存知でしょうか。腎臓は、骨量の調節に重要なホルモン、カルシウムやリンの代謝に影響するビタミンにも関わっており、腎臓の機能が弱まると骨が脆くなりやすいようです。今回は、このような腎臓と骨との関わりについて、筑波大学附属病院腎臓内科の中島健太郎先生に伺いました。

中島 健太郎さん

著者
中島 健太郎(筑波大学附属病院 腎臓内科)

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茨城出身。秋田大学医学部医学科を卒業。その後茨城県で初期研修を行い、筑波大学腎臓内科に入局。県内各地で腎臓内科としての鋭意修行中。
山縣 邦弘さん

共著者
山縣 邦弘(筑波大学 医学医療系腎臓内科学教授)

プロフィールをもっと見る
1984年筑波大学医学専門学群(現・医学群医学類)卒業、筑波大学附属病院内科医員、同講師を経て2001年米国オレゴン大学にResearch Associateとして留学。2004年筑波大学大学院人間総合科学研究科助教授、2006年より現職。日本腎臓学会理事、日本腎臓リハビリテーション学会理事長。

腎臓と骨の関係を解説 脆くなる理由は“ミネラル”にあった

腎臓と骨の関係を解説 脆くなる理由は“ミネラル”にあった

編集部編集部

腎臓が悪いと骨が脆くなるというのは本当でしょうか?

中島 健太郎先生中島先生

はい、腎臓が悪いことで骨が脆くなりやすくなるといわれています。腎機能が低下することで、カルシウムやリンといったミネラルの調整能力が低下するためです。慢性腎臓病にともなう全身性のミネラル代謝異常が、骨や心臓、全身の血管に異常をきたすと考えられており、骨に対する影響として「腎性骨症」と表現されることがあります。

編集部編集部

ミネラルの代謝異常がどのように骨と関係するのでしょうか?

中島 健太郎先生中島先生

骨は身体のなかでカルシウム、リンを蓄える場所です。また、骨は新陳代謝として吸収と形成を繰り返すことによって骨の状態を維持しています。一方、腎臓はリンの排泄を行うとともに腸からのカルシウム吸収を調整するホルモンである「活性型ビタミンD」を作っています。腎機能が低下するとリンが身体の外に排泄されづらくなり、血中のリンが増加します。このリン排泄を調整する物質が活性型ビタミンDの生成を阻害するのですが、活性型ビタミンDが少なくなると腸におけるカルシウムの吸収が減り、血中のカルシウムが低下します。その結果、血中のカルシウム濃度を維持するために骨からカルシウムが漏れ出してしまうという状態を招くことになります。

編集部編集部

骨以外の場所にも影響があるのでしょうか?

中島 健太郎先生中島先生

慢性腎臓病により骨ミネラル障害が生じた結果、血管の壁を含めた様々なところで「異所性石灰沈着」を引き起こします。血中のリン濃度が上がり、カルシウムが骨から漏れ出した結果、本来骨を強くする働きをもつ「リン酸カルシウム」が異常な結晶をつくり、骨ではなく血管の壁に沈着し、血管の壁を石灰化させ炎症を起こします。このような血管壁上の炎症は、心筋梗塞や脳卒中といった疾患のリスクになります。実際に、透析患者の死因第2位(約20%)は心不全と報告されており、慢性腎臓病患者におけるミネラル代謝異常への対応は重要です。

骨粗しょう症とはどんな病気か どのくらい骨折しやすくなる?

骨粗しょう症とはどんな病気か どのくらい骨折しやすくなる?

編集部編集部

腎臓機能が低下することで骨が脆くなり、結果骨粗しょう症になってしまうということですか?

中島 健太郎先生中島先生

その通りです。骨密度が低下している、脆くなっているため、ちょっとしたことで骨折をしてしまうようになります。この病気を「骨粗しょう症」といいます。

編集部編集部

特にどのような部分が骨折しやすいのでしょうか?

中島 健太郎先生中島先生

たとえば、尻餅をついたときに腰の骨が折れる「腰椎圧迫骨折」や、転んだ時に足の付け根の部分が折れる「大腿骨近位部骨折」が多いですね。こうした骨折は「脆弱性骨折」と呼ばれます。高齢の慢性腎臓病患者では骨ミネラル障害と同時に、骨粗しょう症を合併することが多く、脆弱性骨折を起こしやすいことがわかっています。

編集部編集部

慢性腎臓病患者では骨折をどのくらい起こしやすいのですか?

中島 健太郎先生中島先生

一般の人と比べて数倍以上と言われています。特に腎臓の機能が著しく低下した状態である血液透析患者では、一般の人と比べて男性では6.2倍、女性では4.9倍のリスクがあるといわれています。

腎機能・骨粗しょう症を予防するために必要なこと どんな検査を受けるといい?

腎機能・骨粗しょう症を予防するために必要なこと どんな検査を受けるといい?

編集部編集部

腎機能・骨粗しょう症を予防するためには、どんな検査を受ければいいのですか?

中島 健太郎先生中島先生

骨ミネラル障害に関わっている、カルシウムやリン、副甲状腺ホルモン、活性型ビタミンDの値は血液検査で調べることができます。腎機能が低下している方は定期的にこれらの値を確認しておくことが必要です。また、骨密度は胸部X線写真と同じように腰や太ももの骨に放射線をあてて骨のなかのミネラルの濃度をはかることで測定します。胸部レントゲン写真より少ない放射線被曝量で検査が可能です。

編集部編集部

骨密度は具体的にどれくらいあればいいのですか?

中島 健太郎先生中島先生

骨密度は加齢によって低下するため、骨密度が多い若年者と比較して、どれくらい低下しているかが重要です。その値は「若年成人比」と呼ばれ、若年者と比較してどれくらいの骨密度かを示しています。この値が70%を下回っていると骨粗しょう症と診断されます。また脆弱性骨折をおこしたことがある方は80%以下で診断される場合もあります。

編集部編集部

骨ミネラル障害の治療はあるのでしょうか?

中島 健太郎先生中島先生

CKD患者さんの骨ミネラル障害の初期の変化は、腎臓からリンが排泄されづらくなることから始まります。リンが蓄積されるため、リンの値を適切に管理することがとても大事です。食事によるリン摂取の制限も重要となります。薬にはカルシウムの吸収をよくするために活性型ビタミンDを補充するタイプやリンを身体の中に吸収させないようにするタイプ、また副甲状腺ホルモンを出させにくくするタイプや骨の形成を助けるタイプなど多くの種類の薬があります。飲み薬だけでなく注射薬もありますが、これらを組み合わせていく方法が行われています。また、骨折のきっかけとして最も多いのは転倒であり、転倒しないように、筋力、体力の維持を図ることが、骨折の予防には重要です。

編集部まとめ

腎臓は尿をつくるだけでなく体内でミネラルバランスの調整を行う臓器とのことでした。腎臓が悪くなるとミネラルの調整が上手にできなくなり、健康な骨を維持することができなくなります。そして骨が脆くなるとちょっとしたことで骨折を起こしてしまい、場合によっては歩けなくなってしまいます。それだけでなく、心臓や血管にも影響があり、生命にもかかわるとのことでした。そうしたことを防ぐために、腎臓が悪くなったら、一見関係のないようにみえる「骨」にも気にも気を配ることが重要だということでした。腎臓が悪いと言われたら、カルシウムやリンなどのミネラル、ホルモンの状態についても意識する必要があることを教えていただきました。

この記事の監修医師