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進行していく「腎臓病」、ステージごとの症状と治療方法を解説

 更新日:2023/03/27
進行していく腎臓病、ステージごとの症状と治療方法を解説

医学の世界では、病気の重症度を「ステージ」という言葉を使って表現します。例えば、がんの場合、ステージ1→2→3→4と重症になっていくのは耳慣れているでしょう。しかし「赤羽もり内科・腎臓内科」の森先生によると、腎臓病の重症度でも使われるステージは、ほかの病気と少し異なる見方が必要になるようです。一体どういうことなのか、詳しい解説をお願いしました。

森 維久郎医師

監修医師
森 維久郎(赤羽もり内科・腎臓内科 院長)

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三重大学医学部医学科卒業。主に救急医療や腎臓内科の診療を積んだ後の2020年、東京都北区に「赤羽もり内科・腎臓内科」を開院。生活習慣病に注力した看護師、管理栄養士、理学療法士とのチームワークで地域医療に貢献している。日本腎臓学会、日本透析医学会、日本腎臓リハビリテーション学会、日本禁煙学会、日本内科学会、日本糖尿病協会、日本腎臓病協会の各会員。

腎臓病は「現在 × 未来」2つの軸で評価する

腎臓病は「現在 × 未来」2つの軸で評価する

編集部編集部

腎臓病にも軽症や重症があるのでしょうか?

森 維久郎医師森先生

はい。下の図のように正常を緑として、「黄色→オレンジ→赤」の順に重症度が増していきます。「縦軸」は「eGFR」という血液検査の項目を示し、「横軸」は「尿タンパク」という尿検査の項目を示しています。少しイメージでお話をすると「eGFR」は、若くて健康な人の腎臓が100点満点とすると何点かを示し、言い換えると「現在の腎臓」の状態を示します。一方で「尿タンパク」は腎臓に負担がかかっているというSOSのようなサインの役割を果たし、言い換えると「未来の腎臓」の状態を示します。「現在」と「未来」を掛け合わせて評価をおこなうのが腎臓病における重症度の分け方です。

腎臓病における重症度

編集部編集部

つまり、腎臓病の重症度は「現在の状態」だけで判断しないということですか?

森 維久郎医師森先生

そのとおりです。実際に診療をしていても、「現在の腎臓」ばかりを気にしている患者さんが多く、「未来の腎臓」を気にしている患者さんが非常に少ないのです。例えば「eGFR」が70ml/min/1.73m2(60以上で正常)であっても「尿タンパク」が3+だった場合は、今後腎機能が悪くなっていく可能性があり、図における重症度のカラーもオレンジになっていますよね。腎臓は一度悪くなると改善しない臓器です。そのため、腎臓のSOSをなるべく早めに見つけて、悪くならないようにするのが一番大切なのです。

編集部編集部

でも、現状評価としてのeGFRにも意味はありますよね?

森 維久郎医師森先生

もちろんです。腎臓は尿として老廃物を体の外に出すだけでなく、体のミネラルやホルモンの調整など様々な役割を担っています。そのため、腎機能が低下すると全身に様々な障害が起きます。例えば、腎臓病の人は筋力の衰えが起きやすいと言われており、腎臓病のステージが進行すればするほどその傾向が強くなります。ご高齢で腎臓病の人は、筋力の衰えが起きないように、適正なカロリー摂取や運動療法をおこなう必要があります。また、腎臓病のステージによって治療方法が異なるので、「現在の腎臓」の状態を把握することも大切なことです。

腎臓病の治療内容は重症度で異なる

腎臓病の治療内容は重症度で異なる

編集部編集部

治療方法ですが、グラフのグリーンゾーンを「初期」とすると、どのような治療方法が考えられますか?

森 維久郎医師森先生

グリーンゾーンなら、そもそも正常のため問題ありません。イエローゾーンの治療については、腎臓病の原因となる高血圧や高血糖の対策や適正な体重コントロール、運動療法が中心になります。腎臓の治療で有名なタンパク質やカリウムを含む食材の厳しい制限は、この段階では不要だと個人的には考えています。ただし、お食事の塩分だけは控えるようにしてください。

編集部編集部

オレンジゾーン・レッドゾーンになった場合はいかがですか?

森 維久郎医師森先生

オレンジゾーンも基本的には高血圧や高血糖の対策、適正な体重コントロール、運動療法、塩分コントロールが中心です。加えて、投薬も必要になってきます。先ほどお伝えしたように、腎機能が低下すると全身に至る障害が出るので、一つひとつ対応が必要になります。とくにレッドゾーンになると、よりその傾向が強まります。例えば、「カリウム」というミネラルは、人体に必要なミネラルの一種ですが、腎機能の悪化によってカリウムが体内にたまりすぎると、突然死を引き起こす心臓の不整脈になることがあります。予防策としてカリウムを排泄する薬を飲んだり、カリウムが多い食事を減らしたりする必要があります。「〇〇をした方が良い」という話ではなく個別の血液検査などのデータに応じた対応が必要です。

最終段階では腎臓の代替が必要

最終段階では腎臓の代替が必要

編集部編集部

そして、腎機能が低下すると、最後には人工透析や腎移植が必要になるということですね。

森 維久郎医師森先生

そのとおりです。「eGFR」が10ml/min/1.73m2程度になると、体の不要な毒素や水分を外に出すことができなくなります。そのため、人工的に体の不要な毒素や水分を外に出す治療が必要になり、その治療が人工透析や腎移植になります。最も多くおこなわれる治療が血液透析という方法です。血液透析は体の血液を取り出して特別な機械で濾過して、綺麗にして体に戻す治療です。一般的には1週間に3日、それぞれ3~4時間ほどの治療が必要になります。

編集部編集部

自宅でできる透析もあると聞いたことがあります。

森 維久郎医師森先生

はい。腹膜透析という方法と、血液透析を自宅でおこなう在宅血液透析という方法があります。腹膜透析は、「不要な水分や老廃物などのやり取りを、おなかに透析液を入れることでおこなう治療」です。一番のメリットは通院が月1~2回で済むことですが、自宅で毎日治療をおこなう必要があります。在宅血液透析は透析設備を自宅に設置して、自分の好きな時間に治療をおこなう治療です。例えば、毎日夕方に2時間確保して透析をするという形でおこなわれます。体の負担も少なく、近年注目されている透析方法です。

編集部編集部

一方の腎臓移植は、最終手段という気がします。

森 維久郎医師森先生

いいえ。腎移植はけっして最終手段ではなく、ドナーになる人が周りにいらっしゃれば最初から検討します。腎移植には生きている人から腎臓をもらう「生体腎移植」と亡くなった人から腎臓をもらう「献腎移植」の2つの方法があります。「生体腎移植」は3親等の家族でドナーになることが可能かの適性検査の結果、可能だった場合におこなうことができます。なお、「献腎移植」については、残念ながら10~15年待ちと言われています。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

森 維久郎医師森先生

「未来の腎臓」である「タンパク尿」に、ぜひ注目してください。腎臓は一度悪くなると改善しない臓器です。腎臓のSOSをなるべく早めに見つけて、悪くならないようにしましょう。また、腎臓病は腎臓だけでなく全身に意識を向けて治療をする必要があるということを、ぜひ知っていただきたいと思います。

編集部まとめ

まず、腎臓病の中身が多様であることに驚きました。その描写を「山岳MAP」に例えるとすると、その麓には「高血圧・糖尿病由来の要注意地域」が展開しています。もう少し傾斜を登ると「各種全身疾患地域」が、そして頂上付近には「人工透析地域」があるようです。これらの座標は、将来的にどの方向を進むのかで変わってきます。今は平地でも、その行く先に頂上が待っていないでしょうか。「未来のリスク評価」も忘れずに検討しておきましょう。

医院情報

赤羽もり内科・腎臓内科

赤羽もり内科・腎臓内科
所在地 〒115-0045 東京都北区赤羽2-4-5
アクセス JR「赤羽駅」 徒歩4分
診療科目 腎臓内科、糖尿病内科

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