増加する「心不全」の初期症状と見逃されやすいサインとは? 治療法も医師が解説

高齢化に伴い、現在日本では心不全の患者数が増加しています。心不全で大切なのは、初期に適切な治療を行い、悪化させないように気を付けること。心不全の初期症状やサインにはどのようなものがあるのか、ハートメディカルクリニックGeN横浜綱島の源河先生に詳しく聞きました。

監修医師:
源河 朝広(ハートメディカルクリニックGeN横浜綱島)
目次 -INDEX-
心不全とはなにか?

編集部
心不全の患者さんは本当に多いのですか?
源河先生
ここ数年、心不全は世界的に患者が急増しており、日本循環器学会や欧州心不全学会(ESC)などでは、「心不全パンデミック」と呼ばれる深刻な問題とされています。日本でも高齢化や生活習慣病の影響で、推定100万人以上が心不全を抱えていると報告があります。
編集部
そんなに多いのですね。
源河先生
はい。日本における死因別死亡率を見てみると、年々、心疾患による死亡率が増加しており、2022年には14.8%と、がん(24.6%)に次いで多くなっています。心疾患の中でも心不全は5年生存率が50%と予後が不良な疾患であることが知られています。
編集部
心不全とは、どんな状態のことをいうのですか?
源河先生
心不全とは、心臓が全身に十分な血液を送り出す力が弱くなった状態です。これにより、息切れやむくみなどが起こりやすくなります。たとえば、歩くだけでドキドキしたり、横になったときに呼吸が苦しくなったりすることもあります。日本循環器学会の定義では、こうした症状が慢性的に続き、生活に支障が出るものを指しています。収縮の弱さだけでなく、心臓がうまく拡張できない場合にも起こることがあり、原因やタイプによって治療法も異なります。
編集部
心不全の原因はなんですか?
源河先生
心不全は、高血圧や糖尿病などの生活習慣病、狭心症・心筋梗塞などの動脈硬化性疾患、心臓の弁の異常、心筋症、不整脈などが原因で起こります。特に、高血圧や糖尿病などの生活習慣病による血管への負担が大きな要因とされています。これらの病気が長期間続くと、心臓が血液を送り出す力を徐々に失い、結果として心不全の症状が出てきます。大切なのは、心臓が弱る前に、こうした原因に対処すること。まずは高血圧や糖尿病の管理を徹底することが、心不全を防ぐ大きなカギとなります。
心不全の初期症状とは?

編集部
心不全になると、どんな初期症状が出るのですか?
源河先生
代表的な症状は、運動時や階段昇降時に息切れする、足がむくむ、疲れやすいなどです。横になると息苦しくなる「起坐呼吸」(横になると息苦しく感じ、上半身を起こすと症状が弱まる状態)が見られる場合もあります。早期発見のためには、日々の体調変化に注意することが必要です。特に高齢者は息切れを「歳のせい」と思いがちですが、少しでも「おかしいな」と思ったら受診することが大切です。
編集部
心不全はどうやって見つけるのですか?
源河先生
検査では心エコー(超音波検査)や血液検査(BNPやpro-BNP)を用いて、心臓の動きや負担の程度を評価します。症状はなくても健診やほかの病気の治療中に行った検査などで異常が見つかることも珍しくありません。
編集部
どうやって心不全と診断されるのですか?
源河先生
症状や身体所見をもとに、心エコーや胸部X線、血液検査、心電図などを組み合わせて総合的に診断します。日本循環器学会のガイドラインでも、こうした複数の検査を合わせて心臓の働きを評価することが推奨されています。特に心エコーは体への負担がほとんどなく簡便にできる検査で、心臓のポンプ機能や弁の状態を詳細にチェックし、血液検査の値と照らし合わせて病態を把握します。これにより、原因や重症度を特定し、患者さんに適した治療方針を立てることが可能になります。
編集部
無症状でも治療の必要があるのですか?
源河先生
心不全は症状がなくても、心臓が弱り始めている段階で早期治療を行うことが推奨されています。たとえば、収縮機能が低下しているものの、症状が出ていない患者さんに、ACE阻害薬(血圧を下げる薬)やβ遮断薬(高血圧、狭心症、頻脈性不整脈などを改善する薬)を投与すると心臓の悪化を防ぎ、将来の入院や突然死を減らすということが、世界的な大規模研究で示されています。
編集部
症状が出ていないうちに治療を始めることが大事なのですね。
源河先生
はい。世界の主要ガイドラインでも、心臓内で心不全と関係する変化が見られるようになったら無症状でも治療を開始し、心臓のリモデリング(変形)を抑えることが重要とされています。こうした早期介入によって、将来的な症状の出現や重症化を大きく遅らせ、無症状のまま日常生活を送れる可能性が高まるのです。
心不全に対する治療法

編集部
治療にはどんな方法があるのですか?
源河先生
心不全の治療は、薬物療法が中心です。たとえば、血圧を下げたり心臓の負担を減らしたりする薬、余分な水分を体外に出す利尿薬、心臓保護作用のある薬などを組み合わせて使用します。特にβ遮断薬、レニン・アンジオテンシン系阻害薬、ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)、ARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)、MRA(非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)、SGLT2阻害薬は心不全の代表的な治療薬です。これらを使用することで心不全患者の予後を大幅に改善することが示されています。
編集部
重症の場合には?
源河先生
重症の場合は、ペースメーカーの一種である心臓再同期療法機器や心臓の拍動リズムを見守り、突然死を予防する除細動器を埋め込むことも検討されます。さらに進行したケースでは補助人工心臓や心臓移植が選択肢となることもあります。日本循環器学会や米国心臓協会(AHA)のガイドラインでは、患者さん一人ひとりの病状に合わせた最適な治療を行うことが重要とされています。
編集部
心不全は治りますか?
源河先生
心不全は“完全に元通り”になるというより、“うまく付き合っていく”病気です。とはいえ、今は薬やデバイスなどの治療がとても進歩しており、上手に管理すれば症状を抑え込むことが可能です。たとえば、以前は外出しづらかった方が、治療に取り組むことで散歩や買い物を楽しめるようになるケースもたくさんあります。「完治」でなくても「改善」を目指せますので前向きに取り組んでいきましょう。
編集部
普段の生活で気をつけることは何ですか?
源河先生
日常生活では、塩分を抑えたバランスの良い食事と適度な運動、そして体重管理が大切です。特に塩分は1日6g以下を目安とするのが一般的で、日本循環器学会のガイドラインでも推奨されています。毎日体重を測ることで、急な増加(たとえば1~2日で2kg以上)があれば早めに異常のサインに気づけます。また、ウォーキングやストレッチ、体操などの軽い運動でも続けると心臓の機能維持に役立ちます。ただし、無理な運動は逆効果となる可能性もあるため、医師と相談しながら進めましょう。こうした生活管理の積み重ねが再入院や重症化の予防につながります。
編集部
心不全が悪化しないようにするには、どうしたらいいですか?
源河先生
心不全が進行すると、呼吸困難やむくみが強まり、入退院を繰り返すことになりかねません。これを防ぐには、まずは処方された薬を正しく飲み続けることが大切です。少しでも息苦しさが増したり、体重が短期間で増えたりといったサインがあれば、早めに医療機関へ相談してください。日本を含む世界の主要学会でも、こうした「早期対応」が再入院率を下げるうえで重要と報告しています。受診や検査をこまめに行うことで、ご自身の心臓の状態を把握し、悪化する前に手を打つことが可能です。
編集部
家族や周りの人の協力はどれくらい大切なのですか?
源河先生
心不全は長期的にケアが必要な病気のため、家族や友人など周囲のサポートが非常に重要です。一緒に減塩の工夫をしたり、運動の付き合いをしてもらったり、症状が急に変化していないか見守ってもらったりすることで、治療を継続しやすくなります。日本循環器学会や米国心臓協会(AHA)の提言でも、多職種や家族との連携が再入院を減らし、生活の質を高めるとされています。家族や身近な方も病気の知識を共有することで、患者さんが一人で抱え込まずに安心して治療に臨めるようになります。
編集部
心不全治療の見通しはいかがですか?
源河先生
心不全の治療は年々進歩しており、新しい薬や機器が次々と開発されています。例えば、近年広く使われ始めたSGLT2阻害薬は心臓の負担を減らし、予後を改善する効果が期待されています。日本循環器学会でも、こうした新たな薬剤を積極的に取り入れることで重症化や再入院を防ぎ、元気な日常をなるべく長く続けることができるとしています。定期的な受診や生活管理を怠らず、疑問があればいつでも担当医に相談してください。
編集部
最後に、メディカルドック読者へのメッセージがあれば。
源河先生
心不全は薬物治療が確立しており、きちんと病態をコントロールできれば、問題なく日常生活を送ることが可能です。そのため検診で心臓の異常を指摘されたら、自覚症状がなくても必ず専門医の診察を受けましょう。また、糖尿病や高血圧は心不全の大きなリスクとなります。それらの持病がある人は、診察と心臓のチェックを定期的に受け、日頃から健康を意識することが大切。特に、糖尿病や高血圧などの生活習慣病は、40代以降から増え始めるのでこの年代の方は注意してください。
編集部まとめ
心不全は完治を目指すというよりも、長く上手に付き合っていくことが必要な病態です。人生100年時代を生き生きと生き抜くためにも、若いうちから心臓の健康に気を配り、「おかしいな」と思うことがあれば早めに医師の診察を受けましょう。
医院情報
所在地 | 〒223-0052 横浜市港北区綱島東4-3-17 アピタテラス横浜綱島2F |
アクセス | 東急東横線「綱島」駅より徒歩約10分 東急新横浜線「新綱島」駅より徒歩約10分 |
診療科目 | 循環器内科、糖尿病内科、内分泌内科 |