「大腸がん」で使用する「抗がん剤の副作用」はご存知ですか?医師が徹底解説!


監修医師:
齋藤 雄佑(医師)
日本外科学会外科専門医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。
目次 -INDEX-
「大腸がんとは?
大腸がんは、近年日本において罹患率・死亡率ともに高いがんであり、多くの方が関心を寄せている疾患です。大腸がんの治療は、がんの進行度合い(ステージ)や患者さんの全身状態、がんの特性によって多岐にわたりますが、抗がん剤治療はその重要な選択肢の一つです。抗がん剤治療の目的は大腸がんの再発を抑えることや手術不可能な場合の生命予後の改善など、抗がん剤治療は非常に重要な役割を担います。大腸がんで使用する抗がん剤の種類
大腸がんの薬物療法は、がん細胞を直接攻撃する「殺細胞性抗がん薬」、がん細胞の増殖に関わる特定の分子を標的とする「分子標的治療薬」、そして免疫の力を利用してがんを攻撃する「免疫チェックポイント阻害薬」の大きく3つに分類されます。これらの薬剤は、がんの進行度合いや遺伝子検査の結果、患者さんの全身状態などを総合的に判断して選択されます。殺細胞性抗がん薬
殺細胞性抗がん薬は、増殖の速いがん細胞を直接死滅させることを目的とした薬剤です。大腸がんの治療では、主にフッ化ピリミジン系薬剤(5-FU、カペシタビン、S-1など)、オキサリプラチン、イリノテカン塩酸塩水和物などが用いられます。これらの薬剤は、単独で用いられることもありますが、複数の薬剤を組み合わせて治療効果を高める「多剤併用療法」として使用されることが多いです。例えば、FOLFOX療法やCAPOX療法は、フッ化ピリミジン系薬剤とオキサリプラチンを組み合わせた治療法であり、術後の補助化学療法や切除不能な進行・再発大腸がんの一次治療などで広く用いられています。また、イリノテカンを含むFOLFIRI療法も、治療レジメンの重要な選択肢の一つです。これらの薬剤は、がん細胞のDNA合成や細胞分裂を阻害することで、がんの増殖を抑制します。分子標的治療薬
分子標的治療薬は、がん細胞特有の分子(タンパク質や遺伝子)の働きをピンポイントで阻害することで、がんの増殖や転移を抑える薬剤です。この治療は、患者さんのがん組織の遺伝子検査を行い、特定の分子異常がある場合に選択されます。例えば、ベバシズマブ(BEV)、ラムシルマブ(RAM)、アフリベルセプトベータ(AFL)は、がん細胞に栄養を供給する血管の新生を阻害することで、がんの成長を抑える薬剤です。また、セツキシマブ(CET)やパニツムマブ(PANI)は、がん細胞の表面にあるEGFRという受容体の働きを阻害する薬剤に分類されます。さらに、レゴラフェニブ(REG)は、複数のキナーゼを阻害することで、がんの増殖や血管新生を抑制する薬剤です。HER2陽性の大腸がんに対しては、ペルツズマブ(PER)とトラスツズマブ(TRA)の併用療法が選択肢となります。HER2陽性大腸がんは全体の2~3%に認められ、抗EGFR抗体薬の効果が乏しい可能性があるため、この治療法は重要な意味を持ちます。免疫チェックポイント阻害薬
免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞が免疫細胞による攻撃から逃れる仕組みをブロックすることで、患者さん自身の免疫力を高めてがんを攻撃させる薬剤です。この治療法は、特定のがんの特性を持つ患者さんに特に有効とされています。 大腸がんにおいては、DNAミスマッチ修復機能欠損(MSI-H/dMMR)がある、または腫瘍遺伝子変異量が高い(TMB-H)と診断された切除不能大腸がんの患者さんに適用されます。日本人の大腸がんにおけるMSI-Hの頻度は約4%と報告されており、これらの患者さんでは、がん細胞の免疫原性が高いため、免疫チェックポイント阻害薬が非常に効果的です。大腸がんで使用する抗がん剤の副作用
抗がん剤治療はがんを攻撃する一方で、正常な細胞にも影響を及ぼすため、さまざまな副作用が現れる可能性があります。副作用の種類や程度は、使用する薬剤の種類、投与量、患者さんの体質などによって異なります。治療中は、担当医や看護師と密に連携を取り、症状が現れたらすぐに伝えることが大切です。血液毒性
多くの殺細胞性抗がん薬は、骨髄にある血液を作る細胞にも影響を及ぼし、白血球、赤血球、血小板の数が減少することがあります。例えば白血球減少(特に好中球減少)は免疫力が低下し、感染症にかかりやすくなるため、注意が必要です。発熱や喉の痛み、全身倦怠感などの症状が現れることがあります。そして、貧血は赤血球が減少し、息切れ、めまい、疲労感、顔色不良などの症状が現れます。さらに、血小板減少では血液を固める働きが低下し、鼻血、歯茎からの出血、皮下出血(あざ)などの症状が出やすいです。これらの血液毒性が定期的な血液検査で確認された場合には、必要に応じて休薬や減量、または好中球を増やすG-CSF製剤などの支持療法を行います。消化器症状(吐き気・嘔吐、下痢・便秘、口内炎、食欲不振)
抗がん剤は、消化管の粘膜細胞にも影響を与えるため、吐き気や嘔吐、下痢や便秘、口内炎、食欲不振といった消化器症状がよく見られます。吐き気・嘔吐はほとんどの抗がん剤で起こりえますが、現在は優れた制吐剤があるため、多くの場合はコントロール可能です。下痢・便秘は消化管の動きや機能が変化することで起こります。薬剤によって下痢が優勢な場合も、便秘が優勢な場合もあります。口内炎は口腔内の粘膜が炎症を起こし、痛みや飲食時の不快感が生じやすいです。食欲不振は吐き気や味覚の変化、全身倦怠感などから食欲が低下することもあります。これらの症状に対しては、制吐剤、止痢剤、整腸剤、口腔ケア、栄養補助食品などを用いて対応します。末梢神経障害
オキサリプラチンを使用する治療では、手足のしびれやピリピリ感、冷たいものに触れた時の異常な感覚などの末梢神経障害が特徴的に現れることがあります。この症状は、治療を続けることで蓄積され、治療終了後も長期にわたって残存する場合があるため、治療期間の調整や減量などの対策が検討されます。皮膚障害
抗EGFR抗体薬(セツキシマブ、パニツムマブなど)を使用する治療では、ニキビのような皮疹、皮膚の乾燥、爪の炎症(爪囲炎)などの皮膚障害がしばしば見られます。これらの症状は、患者さんのQOL(生活の質)に大きく影響するため、保湿剤の使用や皮膚科医との連携、必要に応じて薬剤の減量・休薬などが行われます。脱毛
イリノテカンを使用する治療では脱毛が発生することがあります。治療開始後、数週間程度で脱毛が始まります。髪以外の眉毛やひげ、体毛についても同様に脱毛が起こることも少なくありません。脱毛の期間としては、薬剤を使用している期間ですので、治療が終了すれば、少しずつ生えてきます。脱毛が気になる方は医療用のウィッグなどを活用が勧められます。抗がん剤以外の大腸がんの治療法
内視鏡治療
早期の大腸がん、特にリンパ節転移の可能性がほとんどなく、腫瘍が一括で切除できる大きさや部位にある場合には、内視鏡治療が選択されます。消化器内科や内視鏡専門医が担当します。スネアポリペクトミーは隆起型病変に用いられ、病巣の茎部にスネアをかけて高周波電流で切除する方法です。内視鏡的粘膜切除術(EMR)粘膜下層に生理食塩水などを局注して病巣を浮かせてからスネアで切除する方法で、表面型腫瘍や大きな無茎性病変に用いられます。内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)はEMRでは一括切除が難しい大きな腫瘍や早期がんに対して行われます。病変の周囲を切開し、粘膜下層を剥離することで腫瘍を一括で切除する技術的に難易度の高い手技です。ESDは、安全性と長期予後が外科手術と同等であり、腹部の手術創がないために患者さんのQOL面で優れています。小さなポリープ切除であれば日帰りや短期入院で済むことが多いですが、ESDのような大規模な内視鏡治療では、合併症のリスクを考慮して数日間の入院が必要です。手術治療
大腸がんの治療の中心となるのが外科手術です。病巣を切除し、必要に応じて周囲のリンパ節も郭清します。手術ではリンパ節郭清といって、がんの壁深達度やリンパ節転移の有無に応じて、リンパ節をがんと同時に切除します。 腹腔鏡下手術は、小さな切開で手術を行う低侵襲な方法です。開腹手術と比較して、出血量の減少、術後疼痛軽減、術後腸管蠕動の早期回復、入院期間の短縮などの短期成績が優れていると報告されています。 ロボット支援手術は多関節で可動域の広い鉗子、手ぶれ防止機構、高解像度3次元画像下での精密な操作が特徴で、直腸がんにおいては開腹移行率や泌尿生殖機能障害の減少が期待されています。また、StageIV大腸がんでも、肝転移や肺転移など、遠隔転移巣が切除可能であれば、原発巣とともに切除を検討することが推奨されます。手術の規模や術後の回復状況によりますが、通常は数日から数週間の入院が必要です。術後の回復期間も考慮すると、社会生活への復帰には数週間から数ヶ月かかる場合があります。放射線療法
放射線療法は、高エネルギーのX線や粒子線を用いてがん細胞を破壊する治療法です。がんに対する治療の場合、病態に応じて放射線療法が使い分けられています。 補助放射線療法は、主に直腸がんの局所制御率の向上を目的として行われます。 術前照射は、腫瘍縮小や切除率の向上や肛門括約筋温存、術後照射は、局所再発高リスク群に対する再発抑制が期待されます。 緩和的放射線療法は切除不能な進行・再発大腸がんによる疼痛、出血、便通障害、骨転移、脳転移などの症状緩和を目的として行われます。 定位放射線治療は比較的小さな病変に高線量の放射線を集中して照射する治療法で、切除不能な肝転移や肺転移、脳転移、骨転移などに適用されることがあります。 粒子線治療は2022年4月から手術による根治が困難な局所再発大腸がんに対して保険適用となりました。重粒子線や陽子線を用いる治療で、高い線量集中性により周囲の正常組織への影響を抑えつつ、がん病巣に高線量を照射できる特徴があります。多くの場合、外来通院で治療が行われますが、患者さんの状態や治療内容によっては入院が必要となることもあります。治療期間は数日間から数週間にわたります。「大腸がんの抗がん剤」についてよくある質問
ここまで大腸がんの抗がん剤などを紹介しました。ここでは「大腸がんの抗がん剤」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。
大腸がんはステージいくつで抗がん剤治療を行うのでしょうか?
齋藤 雄佑 医師
大腸がんにおける抗がん剤治療の適応は、がんの進行度合い(ステージ)によって大きく異なります。StageII期の大腸がんでは、手術単独で治療されることが多いです。しかし、再発のリスクが高い特定の条件下では、術後補助化学療法が検討されます。StageIII期の大腸がんでは、手術後に再発を抑制し、予後を改善する目的で術後補助化学療法が強く推奨されます。治療期間は原則6ヶ月ですが、患者さんの状態や副作用のリスクに応じて短縮する場合もあるため、担当医に確認が必要です。StageIV期、すなわち遠隔臓器に転移がある大腸がんや、手術後に再発した大腸がんに対しては、全身薬物療法が治療の中心となります。これは、がんの進行を遅らせ、症状を緩和し、延命を目指すことが目的です。この場合も、患者さんの全身状態、がんの遺伝子変異の有無を詳しく検査し、最も適した薬剤が選択されます。このように、大腸がんの抗がん剤治療は、がんのステージや個々の患者さんの特性に応じて、最適な選択肢が提案されます。




