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「家族性大腸腺腫症」を発症すると現れる症状・原因はご存知ですか?医師が監修!

 更新日:2023/04/12
「家族性大腸腺腫症」を発症すると現れる症状・原因はご存知ですか?医師が監修!

家族性大腸腺腫症(かぞくせいだいちょうせんしゅしょう)とは、10~20代で大腸内にポリープができ始めて、年齢とともに徐々に増える病気です。

症状が進行すると100個以上のポリープになることもあり、放置しておくとがん化する恐ろしい病気です。発症は稀ですが、万が一かかった場合には早期の治療が求められます。

そこで本記事では、家族性大腸腺腫症がどのような病気なのかをご紹介します。症状・原因・診断・治療方法・生存率なども詳しく解説するので参考にしてください。

中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

プロフィールをもっと見る
1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

家族性大腸腺腫症とは

脇腹を殴られた男性

家族性大腸腺腫症はどのような病気でしょうか?

家族性大腸腺腫症は、大腸や直腸に100個以上もの前がん性のポリープが形成される病気です。常染色体優性遺伝疾患であり、発症した場合は10代の頃からポリープが形成されます。
そして治療を行わなければ、ほぼ全ての場合40歳までにポリープが大腸がんや直腸がんとなります。さらに、この病気を発症した方は、他の部位のがん・良性腫瘍・合併症の発症リスクが高いです。がんの発症部位としては、十二指腸・膵臓・甲状腺・脳・肝臓などが挙げられます。

どのような症状がみられますか?

この病気には初期症状がほとんどありません。しかし、ポリープの数が増していき悪化すると、次のような症状が現れるようになります。

  • 腹部の圧迫感
  • 下血や血便
  • 下痢
  • 貧血

症状の1つが腹部の圧迫感です。ポリープによって圧迫されることで異物感をおぼえます。また、下血や血便も主な症状です。下血とは突然肛門から出血が伴うことです。便に血が混じって血便となることもあります。
その他には下痢貧血になることもあり、それに伴って悪寒や発熱などの体調の悪化を招く可能性が高いです。また、大腸以外の随伴病変として、下記のような様々な病気が発生するリスクがあります。

  • 胃腺腫
  • デスモイド腫瘍
  • 頭蓋骨腫
  • 脳腫瘍
  • 甲状腺癌
  • 十二指癌

胃腺腫とは、胃の粘膜に発生する平坦な腫瘍です。デスモイド腫瘍とは、筋肉や脂肪などの軟部組織にできる腫瘍です。
さらに、頭蓋骨腫脳腫瘍の発生も考えられます。頭蓋骨腫は頭蓋骨底部に腫瘍が発生し、脳腫瘍は頭蓋骨内部に腫瘍ができる点が特徴です。
その他にも随伴病変の数は非常に多いため、家族性大腸腺腫症の症状だけでなく、それぞれの炊飯病変の治療も進める必要があります。

発症する原因を教えてください。

家族性大腸腺腫症を発症する原因は、APC遺伝子の胚細胞変異です。通常のAPC遺伝子は、腸内の細胞のがん化にブレーキを欠ける物質を作る役割を持っています。しかし、この遺伝子が生まれながらに変異しているため、ブレーキがかからず細胞ががん化してしまうのです。

原因遺伝子は特定されているのでしょうか?

この病気の原因遺伝子は、APC遺伝子です。この遺伝子が変異していることで家族性大腸腺腫症を発症します。
APC遺伝子変異は常染色体優性遺伝の形で遺伝するため、親が変異した遺伝子を持っている場合には、子供にも受け継がれる可能性があります。その確率は50%であり、必ずしもAPC遺伝子の変異を持って生まれるわけではありません。
実際に過去の症例を参考にしても、親から変異したAPC遺伝子を受け継いで発症したケースは7割程といわれています。そして、残りの3割は子供に新たにAPC遺伝子の変異が起きたケースとなります。
つまり、APC遺伝子に突然変異が起きて家族性大腸腺腫症を引き起こす場合もあるのです。

家族性大腸腺腫症の治療

説明する医師の手元

発症する割合を教えてください。

家族性大腸腺腫症の発症割合は、世界では8,000~10,000人に1人といわれており、日本では推定17,400人に1人と非常に少ないです。なお、発症率については、人種や地域によっても異なると考えられます。

家族性大腸腺腫症はどのように診断されるのでしょうか?

この病気の診断は、次のような検査方法をもとに行われます。

  • 大腸内視鏡検査
  • 遺伝学的検査
  • 家族歴の調査

主な検査内容の1つが、大腸内視鏡検査です。この病気の大きな特徴として、大腸内に大量のポリープが発生する症状があるため、大腸内視鏡検査を行えば家族歴を問わず家族性大腸腺腫症と診断できます。
しかし、まだ発症していない子供や兄弟に変異したAPC遺伝子が受け継がれているかを確認するためには、遺伝学的検査家族歴の調査が有用です。
遺伝学的検査では、血液を採取して遺伝子を抽出して調べます。同時に家族歴も調べて、発症している家族や兄弟の変異している遺伝子と、抽出した遺伝子を見比べることでこの病気を発症しているかどうかが確認できます。これらの検査を組み合わせて早期発見ができれば、大腸がんの予防にも取り組めるでしょう。
ただし家族性大腸腺腫症にかかっている場合でも、変異したAPC遺伝子を確認できない場合もあります。検査の意味や検査結果がどのように家族に影響するかなどを考え、医師とも相談しながら検査を受けましょう。

治療方法を教えてください。

家族性大腸腺腫症の治療方法は、次の通りです。

  • 大腸全摘除術
  • 予防的大腸切除術
  • 定期検査
  • 最も一般的な治療方法は、大腸全摘出術です。家族性大腸腺腫症を発症している方は、大腸がんをこれ以上増やさないため、大腸を全摘出することでリスクを大幅に下げます。
    しかし10代などの若い方で変異したAPC遺伝子を受け継いでいると判明している場合には、すぐに全摘出術を行うわけではなく、まずは定期的な大腸内視鏡検査によってポリープの経過観察を行います。そして、大腸がんになる前のポリープや大腸を予防的に切除して、大腸がんへの進行を防ぐ方法が一般的です。
    さらに罹患リスクのある子供の場合は、出生時から定期検査を行うことで、ポリープや大腸がんを監視を行いながら適切な治療を組み合わせて進めます。

家族性大腸腺腫症の生存率

病室のカーテンと窓外の景色

生存率は低いのでしょうか?

早期に大腸全摘除術を行った場合、家族性大腸腺腫症の生存率は高いと考えられています。完全にポリープの発生リスクをなくせるためです。
しかし、治療を受けない場合やすでに大腸がんになっている場合は、生存率は大幅に低くなる可能性があります。大腸がんが進行すると共に、他の臓器への転移なども起きているためです。
一般的な大腸がんが発生するケースよりも、がん化するスピードが早いので、早期発見できるように定期的な検査を受けましょう。

家族性大腸腺腫症と診断された場合に注意することを教えてください。

家族性大腸腺腫症と診断された場合には、次のような点に注意しましょう。

  • 適切な治療を受ける
  • 定期検査を受ける
  • 家族も遺伝学的検査を受ける

まずはご自分の身体のために適切な治療を受ける点が注意すべきポイントです。医師から提案される治療を受けることは、生存率を高める効果的な方法です。
例えばポリープの数が多く、ある程度進行している状態であれば、一般的には大腸全摘除術などが提案されます。若い方でポリープが少ないようであれば、ポリープを定期的に観察しながら、がんにならないように予防的な手術が提案されるでしょう。それぞれの状態に合わせて提案された適切な治療を受けることが大切です。
また、定期検査を受けることも注意すべきポイントです。手術の有無にかかわらず、ポリープの再発やがん化を監視するために、治療後は定期検査を受けましょう。定期検査を行っていれば、ポリープの発生やがん化した際にも早期発見できる可能性が高いです。早期の治療で悪化のリスクを防げるため、必ず定期検査を受けましょう。
そして、家族も遺伝学的検査を受ける点も注意点に挙げられます。ご自分に家族性大腸腺腫症が発症したら、家族全員にも同じ病気の発症リスクがあると考えられます。誰が発症しているかを早期発見して、早めに予防対策を行えれば生存率も高められるため、必ず家族も遺伝学的検査を受けましょう。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

家族性大腸腺腫症は、非常にまれな病気です。しかし発症した場合は、若い年齢でも大腸内に大量のポリープができてしまい、徐々にがん化してしまいます。一般的な大腸がんよりもがん化のスピードは早いため、早期発見が非常に大切です。
また、この病気の原因は遺伝子の変異であり、変異した遺伝子は受け継がれる可能性があります。ご自分が発症した場合には家族の中にも発症者がいる可能性があるため、すぐに検査を受けましょう。

編集部まとめ

診察する男性医師
家族性大腸腺腫症は、10代から大腸内に大量のポリープができてしまい、その後がん化する可能性のある病気です。

40代になると、ほぼ100%がん化するといわれているため、決して放置してはいけません。家族の病歴で、万が一この病気がある場合にはすぐに検査と治療を受けましょう。

家族性大腸腺腫症は、医師との連携を取りながらの検査や治療が非常に重要です。十分に病気のリスクや注意点を把握して、医師と相談しながら治療を進めましょう。

この記事の監修医師