「子宮肉腫が転移しやすい部位」はご存知ですか?転移後の生存率も解説!
近年では子宮頸がんワクチンが開発されたことにより、女性特有のがんに注目が集まりやすくなってきました。
しかし女性特有のがんにはさまざまな種類があり、なかには希少性が高く、現在も研究の進展が待ち望まれているがんもあります。
そのひとつが子宮肉腫です。
この記事では、子宮肉腫の特徴・よく似た名前の病気との違い・検査・治療法・転移などについて解説します。
ぜひ最後までご覧ください。
監修医師:
馬場 敦志(宮の沢スマイルレディースクリニック)
目次 -INDEX-
子宮肉腫とは?
まず、子宮肉腫とは一体どのような病気なのかを知ることが大切です。子宮肉腫の特徴・好発年齢・ほかのがんとの違いを解説します。
子宮に発症する希少がん
子宮肉腫は、子宮の筋肉などにできる悪性腫瘍です。発症率が極めて低い希少がんのひとつであり、発症するのは1万人に5人程度とされています。多くの子宮肉腫は子宮の本体と呼べる子宮体部に発生します。
子宮肉腫にはいくつかの種類があり、平滑筋肉腫や子宮内膜間質肉腫などに分類が可能です。子宮内膜間質肉腫は、さらに低異型度子宮内膜間質肉腫と高異型度子宮内膜間質肉腫に細分化されます。
子宮肉腫は全体的な発症数が少ないため、一般の産婦人科では診断や治療が難しい病気です。もしも子宮肉腫が疑われる場合は、住んでいる地域に婦人科腫瘍を扱っている医師がいるかどうかを調べ、できるだけ早く受診してください。該当する医療機関が近隣にない場合はセカンドオピニオンを受けたり、病理診断を受け付けてくれる病院を探したりなどして対処しましょう。
好発年齢
平滑筋肉腫は50〜55歳前後、子宮内膜間質肉腫は40代に発生しやすいとされています。また、高異型度子宮内膜間質肉腫は閉経後、子宮癌肉腫は60歳以降に好発する傾向があります。さらに、年代を問わず子宮筋腫と診断されたことがある人も注意が必要です。
子宮筋腫は子宮にできる良性腫瘍であり、閉経後に小さくなることも多いため、経過観察とされるケースが多々あります。筋腫が大きくなっている場合は、子宮肉腫の可能性も考慮したほうがよいでしょう。長年に渡って経過観察している方の場合は、あらためて検査を受ける・手術について相談しておくことも対策となります。
自覚症状がない病気は多々ありますので、ほかの病気の早期発見にもつながるでしょう。
子宮体がんとの違い
子宮肉腫は子宮体がんの一種と考えられていますが、両者の鑑別は難しいといわざるをえません。いずれも検診での発見が困難であり、検診による患者さんへの負担が大きく、ほぼ同じ初期症状が出るためです。
大きく異なるのは予後です。子宮体がんは比較的予後は良好ですが、子宮肉腫については予後不良となるケースも珍しくありません。
子宮肉腫の転移について
多くのがんでは、進行するにしたがって周辺のリンパ節や臓器に転移します。子宮肉腫も同様です。
転移を起こしやすい疾患
子宮肉腫のうち、子宮内膜間質肉腫はリンパ節に転移しやすいとされています。子宮平滑筋肉腫は肺や肝臓に転移しやすいとされる一方、リンパ節に転移する割合は低いとされます。
しかし、全体の症例が少ないため、今後は異なる数字が出てくるかもしれません。
主な転移部位
子宮肉腫の転移は、大きく二つのパターンに分けられます。ひとつはリンパ節転移です。ステージIIIC期にみられるもので、子宮周辺のリンパ節に転移します。
もうひとつは、ステージIVB期でみられる血行性転移です。こちらはがん細胞が血流に乗って離れた場所に転移するもので、肺や肝臓などが転移先となります。
子宮肉腫の検査・治療法
子宮肉腫は発生頻度が低く進行が早いがんです。そのため、治療経験のある医師や医療機関での治療が不可欠となります。実際に行われる検査や治療法について、あらかじめ知っておきましょう。
検査方法
子宮肉腫と子宮にできるほかのがんを鑑別するためには、超音波検査やMRI検査が必要となります。病巣が子宮の表面からはわかりにくいことが多いためです。
より正確に鑑別するため、血液検査や針生検などを併用することもあります。近年ではAIを用いた術前MRI画像診断システムが開発され、より正確な術前診断やAIによる自動診断などへの発展が期待されています。
また、宮城県に設置されたナノテラスという次世代放射光施設が医療や創薬の研究開発にも活用される予定です。放射光は太陽光の10億倍というとても強い光のことで、これでものを照らすと今まで見えなかった部分も見えることがあります。そのため、放射光技術が子宮肉腫をはじめとした希少がんの検査・治療に応用されれば、よい影響を受けられる可能性があります。
治療は手術による摘出が効果的
子宮肉腫に効果的な治療法と考えられているのが、手術による摘出です。原則として子宮と両側の卵巣および卵管を摘出します。状況によっては、リンパ節の摘出も行います。
また、子宮筋腫を摘出した後に、病理検査によって子宮肉腫だと判明する場合も少なくありません。この二つの病気を手術前に鑑別することは極めて難しいためです。
摘出した肉腫・筋腫を比較した場合、見た目が非常によく似ていて、この二つの病気が極めて鑑別困難であることがわかります。術後に子宮肉腫だと判明した場合、再発防止のためにあらためてリンパ節や卵巣の摘出を提案することもあります。
子宮肉腫は全体の症例が少なく、研究も進みにくいため、標準治療が確立しているとはいい難い病気です。そのため、患者さんの意思や予後を総合的に考えたうえで、手術やその後の治療方法を決めていきます。
海外では日本と違う治療法の臨床試験も行われていますので、その進展も待ち望まれています。
その他の治療法
残念ながら、治療の選択肢は多くありません。ほかのがんに有効な治療法が子宮肉腫に対してはあまり効果がないこともままあるためです。若年層の低異型度子宮内膜間質肉腫の患者さんは、ホルモン療法を選択する場合もあります。
この点からも、より効果的な新薬の開発・新たな治療法の発見が期待されています。
子宮肉腫のステージ別生存率と転移後の生存率
子宮肉腫を含めたがん全般において、進行の度合いをステージといいます。子宮肉腫のステージごとの生存率はどのように変わるのでしょうか。
ステージ別生存率
子宮肉腫は発症数が少ないことによって治療方法の研究が進みにくく、それによって生存率も低い状態が続いています。厚生労働省の調査によると、I期~IV期までをまとめた50%生存期間は31ヵ月とされます。しかし、この数字は子宮筋腫と診断されて経過観察していた人が、摘出手術を受けた後に子宮肉腫だったことが判明するケースが多いことに影響をうけていると考えられます。
見つかりにくいということは、手術までの時間が長くなりやすく、その間に病気が進んでしまうためです。医療の発展によって肉腫と筋腫の早期鑑別方法が開発されれば、この数字は改善していくでしょう。
子宮摘出手術を受けた後は経過良好になる例もありますが、別の部位に転移し、再手術となる人もいます。
転移後の生存率
子宮肉腫を全摘出し、その後に肺などへの転移が発覚した場合、転移した部位も速やかな摘出が望まれます。個人差はありますが、再度手術をしたうえで薬物治療も行った場合、年単位で経過良好になる人もいます。
転移したり再手術を勧められたりしたからといって、重症化しているとは限りません。なので、そのような場合も前向きに治療を検討しましょう。
子宮肉腫の転移についてよくある質問
ここまで子宮肉腫の生存率・症状・治療法・早期発見などを紹介しました。ここでは「子宮肉腫の転移」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
肺に転移した場合の症状について教えてください。
馬場 敦志医師
子宮肉腫が肺に転移した場合、呼吸音や心音などに異常がみられないことが多く、発見しづらい傾向にあります。摘出手術を受けた後、肺に転移したとある患者さんの例では、日常生活でわかるような症状がみられませんでした。その方は血液検査・生化学検査・尿検査など、一般の産婦人科で行える検査でも異常なしとされていました。レントゲンで肺への転移が見つかった後、抗がん剤による治療が困難になったため、転移した肺がんの摘出手術を実施するにいたっています。
子宮摘出後に転移・再発する可能性はありますか?
馬場 敦志医師
可能性はゼロとはいえません。子宮肉腫の場合、第一選択肢として子宮の摘出手術を行いますが、卵巣や卵管などの付属器・周辺のリンパ節に関してはケースバイケースとなっています。子宮に加えてこれらの切除することが再発・転移防止策として有効なのかどうか、医学界で見解が分かれているためです。将来的な再発を防ぐために、付属器も摘出すると考える医師もいます。妊孕性にも関わりますので、手術を受ける際は、どこまでを摘出するか明確に意思表示しましょう。
編集部まとめ
この記事では、希少がんのひとつである子宮肉腫を解説しました。
発症例が少ないため、なかなか研究が進まない病気であることや、効果的な治療方法が手術のみということに不安を感じた方もいるかもしれません。
すでに子宮筋腫と診断されて経過観察をしている方は、定期的にかかりつけの婦人科で診察を受け、子宮肉腫に関する点も相談しておくとよいでしょう。
また、住んでいる地域に婦人科腫瘍を診てくれる医療機関があるかどうか調べておくことも対策となります。
正しい知識を得て、的確な行動ができるよう備えておきましょう。
子宮肉腫と関連する病気
「子宮肉腫」と関連する病気は3個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
同じ子宮にできるがんにもさまざまな種類があるため、精密検査で的確に鑑別し、治療を行わなければなりません。
子宮肉腫と関連する症状
「子宮肉腫」と関連している、似ている症状は6個程あります。
各症状・原因・治療法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
これらの症状は子宮肉腫特有のものではなく、ほかの病気でもみられます。長引く症状がある場合は、医療機関を受診してください。