「ピロリ菌検査前に飲んではいけない薬」はご存知ですか?前日の注意点も医師が解説!

ピロリ菌検査前に飲んではいけない薬とは?Medical DOC監修医がピロリ菌検査前に飲んではいけない薬・前日の注意事項・検査でわかる病気などを解説します。

監修医師:
関口 雅則(医師)
目次 -INDEX-
ピロリ菌とは?
ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ菌)は、胃の粘膜に生息する細菌です。ピロリ菌はアルカリ性のアンモニアを作り出すことができるため、強い酸性を持つ胃酸の中でも生きることができます。
ピロリ菌は、慢性胃炎や胃・十二指腸潰瘍、胃がんなどさまざまな病気の原因となることがわかっています。
ピロリ菌は口から感染し、多くは乳幼児期に感染しやすいと考えられています。しかし、衛生環境の改善や親世代の感染率低下等によって、子供の感染率は低くなってきています。現状、日本人では特に50歳以上の人の感染率が高いとされています。
ピロリ菌検査とは?
ピロリ菌検査は、胃の中にピロリ菌がいるかどうかを調べる検査です。
以下の様なものがあります。
・尿素呼気検査
検査薬(13C-尿素)を服用し、服用前後の呼気、つまり吐いた息を集めて検査を行います。ピロリ菌に感染している場合、菌が持つウレアーゼという酵素で尿素がアンモニアに分解されます。すると13Cが二酸化炭素となり呼気中に多く放出されます。
一方で、感染していない場合にはほとんど検出されません。
・便中抗原検査
便の中にピロリ菌の抗原が含まれているかを調べる方法です。
・抗ヘリコバクター・ピロリ抗体検査(血清)
血液中のピロリ菌抗体を測定して感染を確認します。
・内視鏡検査
内視鏡検査には、迅速ウレアーゼ試験、鏡検法、培養法、拡散増幅法があります。
内視鏡で胃粘膜を生検し、感染状況を調べます。
ピロリ菌検査はどこでできるの?
ピロリ菌検査は、主に消化器内科や胃腸科で受けることができます。
この検査は感染しているかどうかのチェックや、ピロリ菌感染に対する治療後の効果判定の際に行われます。前者は健康診断や人間ドックのオプションでも検査可能です。後者は治療を行った医療機関などで行われます。
また、最近では自宅で簡単にできるピロリ菌検査キットもあります。しかし、陽性だった場合には必ず医療機関で精密検査を受けることが必要です。
ピロリ菌検査前に飲んではいけない薬
以下のような薬は、ピロリ菌検査前、特に尿素呼気検査の前に内服すると、偽陰性となる可能性があります。
プロトンポンプ阻害薬(PPI)
プロトンポンプ阻害薬(PPI)は、ピロリ菌の増殖を抑える(静菌作用)やウレアーゼ活性を抑制する作用があります。このために、尿素呼気試験で本当は陽性であるにも関わらず陰性と判定されてしまう(偽陰性)ことがあります。
PPIには以下のような薬があります。
・タケプロン(ランソプラゾール)
・パリエット(ラベプラゾール)
・オメプラール(オメプラゾール)
・ネキシウム(エソメプラゾール)
その他、迅速ウレアーゼ試験、血清ペプシノゲン検査にも影響が出る可能性があるので、検査実施前には休薬する必要があります。一方、便中抗原測定法、核酸増幅法、培養法、鏡検法、抗体検査は休薬せずに実施可能です。
カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)
カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)は、PPIとは別のメカニズムによって胃酸の分泌を抑え、ピロリ菌の除菌補助の効能効果で承認された薬です。
現在、P-CABとしてはボノプラザンフマル酸塩(タケキャブ)のみがあります。
ピロリ菌の除菌治療において、この薬は、胃のpHを上昇させてアルカリ性に傾かせることで、抗菌薬による除菌効果を高めています。
P-CABも、尿素呼気試験や迅速ウレアーゼ試験に影響を与える可能性があります。そのため、これらの検査実施前には休薬する必要があります。
抗生物質・抗菌薬
抗生剤は、細菌による感染症の治療に用いられます。以下のような抗生剤は、ピロリ菌に対する静菌作用があるため、尿素呼気検査が偽陰性になる可能性があります。
・サワシリン(アモキシシリン)
・クラリス(クラリスロマイシン)
・クラビット(レボフロキサシン)など
防御因子増強薬
防御因子増強薬は、胃粘膜などの防御因子を増強することで、胃腸の粘膜を保護・強化・修復する薬です。胃潰瘍の治療などに使われます。以下の薬剤は、ピロリ菌のウレアーゼ活性抑制作用や、ピロリ菌に対する静菌作用があるため、尿素呼気検査が偽陰性になる可能性があります。
・ガストローム(エカベドナトリウム)
・ウルグート(ベネキサート)
・ソロン(ソファルコン)など
抗トリコモナス薬
抗トリコモナス薬は、原虫であるトリコモナスに対する薬です。この一つであるフラジール(メトロ二ダゾール)も、ピロリ菌除菌に用いられます。しかし、この薬の服用中や投与終了直後には、尿素呼気試験の判定結果が偽陰性になる可能性があります。そのため、尿素呼気試験による除菌判定を行う場合には、投与終了後4週間以降の時点で行うことが望ましいとされています。
ピロリ菌検査前日の注意事項
ピロリ菌検査にはさまざまなものがあります。それぞれ、前日の注意事項があります。
胃潰瘍などの治療薬には避けるべきものがある
胃酸抑制剤のPPI(プロトンポンプ阻害薬)や抗生剤などには注意が必要です。これらにはピロリ菌に対する静菌作用や抗ウレアーゼ活性があります。そのため、こうした薬剤の服用中や中止直後では偽陰性となる可能性があります。詳しくは主治医に相談すると良いでしょう。
トウモロコシやパイナップル、豚・鶏肉、卵の食べ過ぎは避ける
前日の食事内容について、ほとんど制限はありません。しかし、トウモロコシやパイナップル、豚・鶏肉、卵は、13Cを多く含んでいます。そのため、尿素呼気試験の前にこれらを食べすぎると、測定値に影響を及ぼす可能性があります。過度に食べることは避けましょう。
前日の夕食は21時ごろまでに済ませる
内視鏡検査によるピロリ菌検査を行う場合、特に胃の内部に食べ物などが残っていないようにする必要があります。そのため、検査が午前中の場合、前日の夕食は21時ごろまでに済ませるようにしましょう。検査が午後の場合には、朝食はとっても構いませんが昼食は抜く様にします。詳細な時間などは、検査を行う医療機関の指示を守るようにしましょう。
前日21時以降の飲酒は控える
尿素呼気試験を受ける際には、前日21時以降はアルコール飲料を飲まないようにしましょう。アルコールは尿素呼気検査のみならず、採血の結果などにも影響を与える可能性があります。そのため、検査前日の夜の飲酒は避けるように指示している医療機関が多いと考えられます。
検査の前にはタバコを吸わない
尿素呼気試験の場合、タバコにも注意が必要です。前日から控える必要は必ずしもないかもしれませんが、尿素呼気試験をする際には、喫煙後には30分以上空けて行う必要があります。
ピロリ菌検査でわかる病気・疾患は?
ここではMedical DOC監修医がピロリ菌検査でわかる病気・疾患について解説します。
胃がん
胃がんは、胃の粘膜から発生する悪性腫瘍(がん)のことです。ピロリ菌感染や喫煙、高塩分食が胃がん発生のリスクと報告されています。
胃の痛みや違和感、不快感、胸やけ、吐き気、食欲の低下などが代表的な症状です。しかし、早期の段階では無症状の場合も多いです。進行すると、体重減少や食事の際のつかえといった症状も現れることがあります。
胃がんの治療は、がんの進行度や患者の体力などによって決定されます。早期の段階では内視鏡的治療が、やや進行した状態で手術できる場合には胃切除が行われます。さらに、がんが進行した段階での手術の術前には化学療法が追加されることもあります。遠くの臓器に転移があるなど手術できない場合には化学療法が選択されます。
日本では、現在40歳以上の方に1年に1回胃部X線検査、いわゆるバリウム検査での胃がん検診が推奨されています。対象者の方は胃がん検診を受けるようにし、気になる症状がある場合には消化器内科を受診しましょう。早期発見が治療の成功率を高める鍵になります。
胃・十二指腸潰瘍
胃・十二指腸潰瘍は、胃や十二指腸の粘膜が傷つき、潰瘍、つまり深いところまで及ぶ組織の欠損が生じてしまう状態のことです。
みぞおちのあたりの痛みや、ひどい場合には出血が起こり吐血や下血を引き起こすこともあります。
ピロリ菌感染と非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)と抗血栓剤(血液を固まりにくくする薬)が大きなリスク因子となります。
治療は、胃酸分泌抑制薬であるPPIや防御因子増強薬などを組み合わせて行います。ピロリ菌感染が疑われる場合は、除菌治療も行います。出血がひどい場合には、内視鏡的止血術も行われます。
腹痛や背部痛、食欲低下、あるいは吐血、下血などの症状がみられる場合には、早めに消化器内科を受診しましょう。
慢性胃炎
慢性胃炎は、慢性的に胃の粘膜に炎症が起こった状態のことです。
みぞおちの痛みや、上腹部の不快感、吐き気などの上部消化器症状が現れます。一方で、無症状の場合もあります。
慢性胃炎の原因の大半はピロリ菌の感染だと考えられています。
その他には、非ステロイド性抗炎症薬や抗血栓剤による薬剤性胃炎や、肝硬変、腎不全などの病気に伴う慢性胃炎もあります。
ピロリ菌感染による慢性胃炎は胃がんの温床となる可能性があります。そのため、内視鏡検査などで慢性胃炎が指摘され、かつピロリ菌陽性と判定された場合には、除菌治療が必要です。
「ピロリ菌検査前に飲んではいけない薬」についてよくある質問
ここまでピロリ菌検査前に飲んではいけない薬などを紹介しました。ここでは「ピロリ菌検査前に飲んではいけない薬」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
ピロリ菌検査前にロキソニンを飲んでも大丈夫ですか?
関口 雅則 医師
ロキソニンは、一般的な痛み止め(NSAIDs)です。しかし、NSAIDsは胃粘膜を刺激し、検査前の胃の状態を悪化させる可能性があります。そのため、ピロリ菌検査前はできるだけ控えることをおすすめします。服用が必要な場合は、事前に医師へ相談してください。
ピロリ菌検査前に胃薬を飲んではいけないのでしょうか?
関口 雅則 医師
はい。胃薬(特にプロトンポンプ阻害薬(PPI)やカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB))はピロリ菌の活動を抑制します。そのため、尿素呼気試験などの結果に影響を与え、偽陰性となる可能性があります。これらの薬を服用中の場合、検査前2週間程度の休薬が必要です。必ず事前に医師と相談してください。
ピロリ菌除菌中に飲んではいけないものを教えてください。
関口 雅則 医師
ピロリ菌除菌中は、治療に使用される抗生物質や胃薬の効果を妨げる可能性がある以下のものを避けることが推奨されます。
・アルコール:抗生物質との相互作用により副作用が強くなる可能性があります。
・カフェイン飲料:胃粘膜を刺激し、症状を悪化させる可能性があります。
・強い香辛料を含む食べ物:胃への刺激を避けるため控えるとよいでしょう。
編集部まとめ ピロリ菌検査前に飲んではいけない薬は主治医にも相談しよう!
ピロリ菌検査の正確性を確保するためには、プロトンポンプ阻害薬(PPI)や抗生物質、防御因子増強薬など、検査結果に影響を与える薬の服用を控えることが重要です。
特に、尿素呼気試験を受ける場合には、薬の休薬期間を守ることが検査の精度を高める鍵となります。疑問がある場合は、必ず医師に相談し、適切な指示を受けて検査を受けるようにしましょう。
ピロリ菌に関する症状や検査結果について気になる場合は、消化器内科や胃腸科を受診してください。早期発見と適切な治療が、胃の健康を守る第一歩です。
「ピロリ菌検査」の異常で考えられる病気
「ピロリ菌検査」から医師が考えられる病気は14個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
消化器内科の病気
- ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎
- 胃・十二指腸潰瘍
- 胃がん
- 胃MALTリンパ腫
- 胃過形成性ポリープ
- 機能性ディスペプシア(ヘリコバクター・ピロリ関連ディスペプシア)
- 胃食道逆流症
- 胃びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)
- 直腸MALTリンパ腫
血液内科の病気
- 免疫性(特発性)血小板減少性紫斑病(ITP)
- 鉄欠乏性貧血
脳神経内科の病気
- パーキンソン症候群
- アルツハイマー病
内分泌内科の病気
ピロリ菌が関係していると考えられる病気には上記のようなものがあります。