抗インフル薬が新型コロナになぜ有効? 中国が正式採用の「アビガン」とは

公開日:2020/03/27  更新日:2020/04/30
新型コロナ治療に有効とされる抗インフル薬「アビガン」とは?

中国政府は3月17日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療に、富士フイルムホールディングスのグループ会社である富山化学が開発した抗インフルエンザ薬のアビガン(一般名:ファビピラビル)が有効であると発表しました。副作用などもみられず、今後は治療薬として正式採用するよう提言していくとしています。

そこで今回は、別のウイルスであるインフルエンザの治療薬がなぜ新型コロナウイルスに有効となるのか、また、承認済みで日本国内に200万人分もの備蓄があるにも関わらず、なぜ国内のインフルエンザ治療に投入されていなかったのかなど、「アビガン」に関する疑問を、感染症専門医の堀野先生にお伺いしました。

※この記事は、2020年3月25日時点の取材データをもとに作成しております。

堀野 哲也

監修医師
堀野 哲也(東京慈恵会医科大学附属病院感染症科 診療医長、日本感染症学会感染症専門医)

編集部編集部

富士フイルムが開発したという「アビガン」とは、どのような薬なのでしょうか?

堀野先生堀野先生

アビガンはもともと抗インフルエンザ薬として承認されている薬剤です。ウイルスは細菌と違い、自分自身で増殖できませんので、動物や人の細胞に侵入して増殖します。インフルエンザウイルスは「RNAウイルス」に分類され、RNAウイルスは自分自身を複製する際に、動物や人の細胞にはなくウイルス自身がもつ「RNA依存性RNAポリメラーゼ」という酵素を必要とします。アビガンはこの酵素の働きを阻害することによってインフルエンザウイルスの複製を抑制し、抗ウイルス作用を発揮します。

編集部編集部

なぜアビガンが新型コロナウイルスに効くのですか?

堀野先生堀野先生

インフルエンザウイルスのRNA依存性RNAポリメラーゼはPA、PB1、PB2という3つのサブユニットから形成されます。アビガンは、そのうちのPB1サブユニットの働きを阻害して抗ウイルス作用を発揮しますが、このPB1サブユニットはRNAウイルスに共通しており、同じRNAウイルスに属する新型コロナウイルスにも有効性が期待されております。

編集部編集部

他の抗インフルエンザ薬では効果がないのでしょうか?

堀野先生堀野先生

アビガンとその他の抗インフルエンザ薬は作用機序が違い、ノイラミニダーゼやキャップ依存性エンドヌクレアーゼを阻害してインフルエンザウイルスに対して効果を発揮する薬剤ですので、新型コロナウイルスには効果が期待できません。

編集部編集部

そもそもなぜ日本ではインフルエンザに使われていないのでしょう?

堀野先生堀野先生

季節性インフルエンザには既に使用されているタミフルやイナビルなど、様々な抗インフルエンザ薬が有効性を発揮しています。アビガンは鳥インフルエンザへの有効性も期待されており、他の抗インフルエンザ薬とは異なる作用ですから、他の抗インフルエンザ薬に耐性のあるインフルエンザウイルスが出現した際に使用できるように準備されていたようです。

編集部編集部

一方で副作用の強さも懸念されていますが、大丈夫なのでしょうか?

堀野先生堀野先生

アビガンは動物実験で催奇形性(さいきけいせい)が報告されていますので、妊婦に投与することはできません。また、投与後の副作用として肝障害や下痢などがあげられております。アビガンも厳格な臨床研究によって安全性が確認された薬剤ですが、副作用のない薬剤はありませんので、他の薬剤と同じように投与後も注意深く観察していかなければなりません。

編集部編集部

これまでHIV治療薬の「カレトラ」やエボラ出血熱治療薬の「レムデシビル」、マラリア治療薬の「クロロキン」、ぜんそく治療薬の「オルベスコ」、膵炎(すいえん)の治療薬「ナファモスタット」などが治療薬の候補として挙げられてきましたが、なぜ新薬でなく既存薬を使うのでしょうか?

堀野先生堀野先生

新たな薬剤は、1.細胞を用いた研究、2.動物を対象とした研究、3.人を対象とした研究という非常に長い過程を経て安全性と有効性が検証されます。しかし、今回の新型コロナウイルス感染症は流行病ですので、このような手順を踏むことはできません。なので、すでに他の疾患に使用され、安全性が確認されている薬剤の中で新型コロナウイルス感染症に有効な薬剤を探しているのだと思います。

編集部編集部

既存薬の有効性はどのように確認するのでしょうか?

堀野先生堀野先生

薬剤の有効性を証明するためには、投与した群と投与しなかった群で比較する方法や、すでに効果が証明された薬剤と比較する方法があります。ある研究でカレトラを投与された方と投与されなかった方を比較し、カレトラの有効性は認められなかったことが報告されましたが、この研究での全体の致死率が高かったことから、より早期にカレトラを投与する方法で検討する必要性も記載されています。また、他の研究でアビガンの投与がカレトラよりも肺病変の改善やウイルスの消失に有効だったことが報告されましたが、臨床的な改善については言及されておりません。現時点では、どの薬剤が最も有効なのか、また、どのような感染者を対象に、どのタイミングで投与すべきかということは、提案はあるものの証明されていないと思います。