日本はなぜ検査数が少ない? 新型コロナ「PCR検査」の疑問を医師に聞く
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染者は世界60カ国以上の国と地域で9万人を超え、死者は3千人を超える規模となり、WHO(世界保健機関)は3月2日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行が「未知の領域」に突入したと発表しました。厚生労働省は2月28日に、近く新型コロナウイルスのPCR検査を保険適用とする方針を発表しましたが、そもそもPCR検査とはどのような検査なのでしょうか? また、日本の検査数は少なすぎるのではないかという声も各所で上がっています。そんなPCR検査についての疑問を、感染症専門医である堀野哲也医師に伺いました。
※この記事は、2020年3月3日時点の取材データをもとに作成しております。
監修医師:
堀野 哲也(感染症専門医/東京慈恵会医科大学附属病院感染症科 診療医長)
編集部
「PCR検査」とは、そもそも何をする検査なのですか?
堀野先生
PCRはPolymerase Chain Reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)の頭文字をとったもので、微量のDNA断片を増幅して検出する方法です。コロナウイルスはRNAウイルスですから、採取された検体に含まれるRNAをDNAに変換して増幅します。採取された検体の中に新型コロナウイルスのRNAが含まれていれば、増幅されて陽性となり、感染していることがわかります。検体の中に含まれていなければ何も増幅されないので陰性となります。
編集部
新型コロナウイルスにおけるPCR検査の精度はどのくらいでしょう?
堀野先生
実際に感染している人の何パーセントを陽性と判定できるかという指標を「感度」、感染していない人の何パーセントを陰性と判定できるかを「特異度」といいますが、現時点で新型コロナウイルス感染症におけるPCR検査の感度および特異度は明らかになっていません。咽頭(のど)から検体を採取するよりも鼻咽頭(インフルエンザのように鼻の奥から検体を採取する)の方が感度が良いことが報告されており、日本でも下気道(痰)あるいは鼻咽頭拭い液が推奨されています。
編集部
「陰性だったのに発症」とか「陰性になったのに再感染」などニュースになっていますが、これは検査精度の問題なのですか?
堀野先生
検査の精度よりも、鼻咽頭内のウイルス量の変化や提出された検体に付着した検体量などの影響を受けているのかもしれません。PCR検査を含むすべての検査で偽陽性(感染していないのに陽性と判定される)、偽陰性(感染しているのに陰性と判定される)があります。そのため、もともと感染はあったものの、最初の検査では陰性と判定されたのか、再感染したのかを判定することは難しいと思います。
編集部
日本は検査数が少なすぎると言われているが、どうしてなのでしょう?
堀野先生
詳しい事情はわかりませんが、各自治体が懸命に対応しても、それ以上の相談や依頼があるようです。検査に関しては国も方針を変えていくようですので、検査数は増加するのかもしれません。
編集部
それにしても、韓国などに比べ少なすぎる気がします。(韓国は2/27までに約6万7000件検査しているのに対し、日本は2/29まででクルーズ船を含めても約6200件と大幅に下回っている)
堀野先生
検査を行う上で重要なことの一つとして精度管理があります。偽陽性、偽陰性はどの検査にも起こり得ますが、その割合は一定であること、つまり正確性が保たれることが望まれます。
PCR検査は様々な分野で行われている検査ですが、今回初めて検査対象となるウイルスですから、それぞれの施設で検査が可能かどうかを判定することが慎重にならざるを得なかった可能性もあります。これは他国が慎重ではないということではありませんし、他国では新たに発売されたリアルタイムPCR法を測定原理とし、より短い時間で結果が得られる新型コロナウイルス感染症検出用キットを使用しているとの報道もあります。
その他の理由として、検査会社へ依頼するための検体の安全な搬送方法の確保や保険収載の問題などがあったのではないかと考えますが、いずれも推測であることをお含みおきください。
編集部
新型コロナウイルス感染症はPCR検査以外で判別することはできないのでしょうか?
堀野先生
発熱や咳、倦怠感などの症状に加え、レントゲンやCTの結果から疑うことは可能ですが、診断を確定するためにはウイルスの検出が必要です。現状では新型コロナウイルスの検出に使用されているのはPCR検査のみですが、LAMP法とよばれるPCR検査とは異なる検出方法の開発も始まっています。
編集部
LAMP法はPCR法と比較して検査精度や簡便さに違いはあるのでしょうか?
堀野先生
LAMP法はPCR法と比較して、DNAの合成や合成されたDNAの確認方法が異なり、検査結果が得られる時間が2~3時間短縮されます。新型コロナウイルスでの精度についてはこれからの検証になると思いますが、既にSARSコロナウイルスでも使用されており、実用性が期待されます。
編集部
クリニック規模でも、中には歯医者でもメニューにPCR検査と出しているところがあるが、そういうところで検査することはできるのでしょうか?
堀野先生
PCR検査はそれぞれ特定のDNAを増幅させるため、新型コロナウイルスを検出する方法と新型コロナウイルス以外の病原体などを検出させるための方法は異なります。そのため、PCR検査ができる施設であれば、新型コロナウイルスを検出できるというわけではありません。
編集部
どこの医療機関でも新型コロナウイルスの検査ができるようになる可能性はありますか?
堀野先生
インフルエンザなどの診断に使用されているイムノクロマト法と呼ばれる迅速診断キットがあれば可能ですが、キットが開発されて、その精度が検証されるにはまだ時間がかかると思います。
編集部
現状の政府の対策についてどう思いますか?
堀野先生
今後、今回行われている対策が検証され、次のアウトブレイクの際に活用される事になると思います。さまざまな批判的な意見が出ているようですが、今は自分自身や周囲の方を守ることに集中すべきだと思います。
編集部
現時点で、日本国民にできることは何でしょうか。
堀野先生
飛沫感染、接触感染によって感染することはわかっていますから、手指衛生と咳エチケットを徹底することが重要です。また、可能な限り人混みを避け、不要不急の会合などは控えた方が良いと思います。
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