山西先生
真野さんは、以前きこえの調子が悪いことがあったと伺っています。どのような症状がいつから始まりましたか?
真野さん
ちょうど19歳になった頃のことです。当時は歌の仕事をメインにやっていました。CD発売の野外イベントで、イヤーモニターをつけて歌っていたんですが、音響トラブルで「バンッ」という音が1回なった時があって、その時はびっくりしたんですけど「今はステージに集中しなきゃ」と思い、そのままステージを終えました。その次の日か2日後ぐらいから耳の聞こえづらさと、耳鳴りを感じ始めました。
山西先生
なるほど。すぐに受診はされましたか?
真野さん
その日は、まあ大丈夫かとどこかで思ってしまって、すぐにマネージャーさんに言えず仕事もつまっていたので、受診はしませんでした。ただ、日が経つにつれ、どんどん会話がしづらくなって、ラッパのような耳鳴りもあったので、限界を感じて病院に行って検査をしたら左耳の低い音が全然聞こえなくなっていて、そこで先生から突発性難聴と診断を受けました。
山西先生
耳鳴りを感じたのは左耳だけですか?
真野さん
はい、左耳だけです。
山西先生
めまいはありましたか?
真野さん
めまいはなかったんですが、耳がふさがっている感じと、平衡感覚が取りづらい感じはしました。その時は早く治した方が良いと言われて、1週間入院してステロイドの点滴治療をしました。
山西先生
大きな音を聞いた後に聞こえが落ちる状態は、音響外傷といいます。例えばクラブやコンサートで大きな音を聞いた時に、その日の夜ぐらいから耳鳴りが止まらないような状態や耳がこもるような感覚を生じることがあります。音響外傷は多くの場合、聞こえの検査をすると4000ヘルツという少し高めの音域が下がっていることが多いですね。そのため、真野さんの話しを伺った限りでは、「バンッ」という音が今回の耳の異常の原因かどうかは不確実ですね。耳の聞こえにくさを感じたのは今回が初めてですか?
真野さん
耳に関しては、中耳炎にもなったこともないので初めてですね。
山西先生
点滴で症状は改善しましたか?
真野さん
その後もライブの仕事はあったので、怖さはありましたが、1カ月くらいで通常の状態に戻りました。
山西先生
今回初めて症状が出現し、低音域が下がったということであれば、低音障害型感音性難聴という可能性もありますね。当時はストレスや疲れ、睡眠不足などは感じていましたか?
真野さん
そうですね。アイドルとしてデビューできて、「これから1、2年が勝負だよ」って言われていて、もちろんプレッシャーを感じていました。ほぼ休みもなかったのですが、頑張りたいという気持ちもあって、とにかくがむしゃらだったと思います。少し具合が悪くても、やらなきゃと思っていたので、もっと早く自分の体と向き合わなきゃいけなかったんだなと思います。
山西先生
ただ幸い良かったのは、症状が出てすぐに受診をされたことですね。受診されたのは、3日目ぐらいでしたか?
真野さん
そうだったと思います。
山西先生
その後、真野さんの耳の調子はいかがですか?
真野さん
その後しばらくは、異常もなく普通に仕事もやっていたのですが、2年前の秋頃から、また左耳に違和感があります。
山西先生
どのような症状がありましたか?
真野さん
その日は休みの日で、車に乗って山を越えながら遠出をしていました。その帰り道から耳が詰まって水の中にいるような感覚を覚えました。その時は気圧の問題かなと勝手に判断して、とりあえず家に帰って温かいものを飲んだり、眠ったりしたら治るかなと思ったんですが、良くならなくて……
山西先生
受診はすぐされましたか?
真野さん
当時私はスペインで生活をしていたので、言葉の問題もあり病院へすぐに行けず、1週間程様子をみてしまいました。そしたらどんどんキーンという高い耳鳴りがするようになり、外に出るのもしんどくなったので、やっと病院に行きました。
山西先生
その医師はなんと言っていましたか?
真野さん
耳鼻科の先生に見て頂いたら、少し聞こえは落ちているけど、耳の中は綺麗だし、鼻づまりもあるから鼻炎からくるものだねって言われて、鼻炎用の薬を処方されました。
山西先生
症状は改善しましたか?
真野さん
2、3日試したんですが全然良くならなくて、日本に帰りました。
山西先生
それはやはり左側の耳でしたか?
真野さん
はい、左耳ですね。
山西先生
高い山に登ったり、飛行機に乗って気圧の変化を受けたりすると、中耳炎を起こすことがあります。その場合は航空性中耳炎という診断がつきますが、耳の痛みも伴うことが多いですね。痛みはありましたか?
真野さん
痛みはなかったですね。
山西先生
スペインで受診した医師が鼓膜を診て、問題がなかったということであれば、航空性中耳炎の可能性も低いと思いますね。鼻炎が影響をして、耳に問題をもたらすことはあるのですが、鼻炎薬では症状は良くならなかったため、日本に戻って耳鼻科を受診したのですね?
真野さん
はい。19歳の時に受診した先生に診てもらいました。
山西先生
その時、医師には何と言われましたか?
真野さん
同じ耳が2回突発性難聴になることはないと言われました。ただ、聴力が落ちているのは確かで、今回は聴力検査で高音がほとんど聞こえない状態になっていたので、2日に1回通院しながら、点滴治療をしました。その後、飲み薬も2週間使用したのですが、治療を開始するまでに発症から2週間経ってしまっていたので、正直症状はほぼ変わらず今も回復はしていないです。
山西先生
今度の聞こえは初回と違って、高い音が下がっていたんですね。めまいや耳鳴りはありましたか?
真野さん
めまいは少しありました。それよりも耳鳴りのストレスが大きかったですね。
山西先生
一般的に高音が下がる状態は、年齢の変化が大きいとされています。年齢と言うと、びっくりされるかもしれませんが、早い人では30代から高音領域の聞こえが下がり始めると言われています。ほかの音域は下がっていましたか?
真野さん
少し下がりましたが、治療していくうちに高音以外は右耳と一緒くらいまで戻りました。
山西先生
聞こえがおかしいなと感じたら、1〜2週間以内に受診することが望ましいです。真野さんが診断を受けた突発性難聴という病気は特にきっかけなどはなく、例えば朝起きたら耳が聞こえないとか、仕事中に急に聞こえが悪くなったりします。音域は低音だけではなく、全体的に落ちることが多く、人によってはめまいを引き起こす場合があります。罹患率は10万人に30人程度で、男女差はなく、50〜60代の中高年層に多いと言われています。早い段階で治療すれば、6割ぐらいは改善もしくは治癒するとされていますが、治療開始までに時間を要すると、症状が治らなかったり、めまいや耳のこもり感、耳鳴りなどの後遺症が残ったりする場合もあります。そのため、耳に違和感を覚えたら、できるだけ早く受診することが重要です。