高齢者の定義が“70歳”以上に!? 年金支給開始の引き上げの疑念も 内閣府で提案
2024年5月23日に開かれた経済財政諮問会議で「高齢者の定義を現在の65歳から5歳延ばすことを検討するべき」との提言がなされました。この内容について中路医師に伺いました。
監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
経済財政諮問会議での提言とは?
経済財政諮問会議でなされた提言について教えてください。
中路先生
経済財政諮問会議の民間メンバーの経団連の十倉雅和会長、経済同友会の新浪剛史代表幹事、経済学者の柳川範之氏、証券アナリストの中空麻奈氏が「身も心も満たされた誰もが活躍できる社会、ウェルビーイングの高い社会をいかにして実現するのか」というテーマで議論する中で出てきたものです。
民間メンバーからは「健康寿命が延びて就労意欲の高い65歳以上の人たちが増えているため、高齢者の定義を5歳延ばすことを検討すべき」との意見が出ました。そのうえで「全世代を対象としたリスキリングを推進して、意欲のある高齢者が活躍できる社会を作ることが重要」との提言がなされています。現在の高齢者の定義が65歳以上とされているので、高齢者の定義を5歳延ばすと70歳以上が高齢者ということになります。
このほかに、経済財政諮問会議で民間メンバーから「若者の待遇改善、女性・高齢者の労働参加促進をすることで、社会保障の持続に必要とされている実質1%の経済成長を確保すべき」とも強調されました。このために必要な政策を「新たな令和モデル」としてまとめるよう求めています。
岸田首相は、経済財政諮問会議の席で「誰もが活躍できるウェルビーイングの高い社会を実現しないといけない」と述べ、性別や年代を問わず希望する人が働き続けられるよう、リスキリング強化の方策を6月頃を目処に取りまとめる経済財政運営の基本指針「骨太の方針」に盛り込む考えを示しています。
提言に対する反応は?
経済財政諮問会議でなされた提言について、どのような反応が出ているのでしょうか?
中路先生
まず、社会保障行政の要となる厚生労働省からは、武見厚生労働大臣が今回の提言をめぐり「現在の年金制度は将来世代の負担を過重にしないよう、2004年の改正において保険料の上限を固定した上で、その範囲内で給付水準を調整するマクロ経済スライドをすでに導入している」と述べています。そのうえで「高齢者の定義にかかわらず、年金の支給開始の年齢の引き上げをおこなうことは考えていません」と、年金支給開始年齢の引き上げについては否定した形です。さらに、原則65歳以上で要介護認定を受けた人が利用する介護保険制度について「直ちにその範囲を見直すことは考えていません」とコメントしています。ただ、今回おこなわれた提言を巡る報道を受けたSNSの書き込みでは、年金支給開始年齢引き上げへの疑念の声が書き込まれていました。
経済財政諮問会議での提言への受け止めは?
経済財政諮問会議でなされた提言についての受け止めを教えてください。
中路先生
高齢者の年齢に関する定義は曖昧ですが、世界保健機関(WHO)は「65歳以上を高齢者」と定義しています。そのため、漠然と65歳で線引きする各種制度が多いのは事実です。一方、日本は海外と比べて長寿国であり、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」である健康寿命でも第1位です。したがって、今回の「高齢者の定義5歳引き上げ」の提言は、日本の実情に沿った提言として妥当であると考えます。ただし、あくまで元気な高齢者に日本の人口減少社会を支えてもらうための提言でもあり、逆に高齢者に無理な負担をかける提言であってはなりません。
まとめ
2024年5月23日に開かれた経済財政諮問会議で、高齢者の定義を現在の65歳から5歳延ばすことを検討するべきとの提言がなされました。今回の提言を受けて、武見厚生労働大臣は「年金支給年齢の引き上げや介護保険の範囲の変更は検討していない」とコメントしていますが、高齢者年齢の引き上げの提言は大きな波紋を呼んでいるようです。